~ 15 ~
「黒髪の美女!」
部屋に入ってきたのは思い出していた彼女その人だった。
薄暗い部屋に突如として響く声に驚いたのか彼女は鋭く視線をこちらに向けた後、すぐに意外そうな表情を浮かべる。
「丸一日眠り続ける強力な睡眠薬だったのに…… 結構タフなのね」
「睡眠薬? ……ってことは、やっぱり金目的で俺を誘ったんだな? 綺麗な顔しているのに、やることがセコいんじゃないか?」
珍しく厳しい表情を見せるブライト。
たくましく鍛え上げた身体と相まって、かなりの凄みを持つが彼女は何事でもないように即答する。
「金目的だなんて失礼ね。 そんな理由で近づいた訳じゃないわ」
「じゃあ、何が目的で俺に近づいたんだよ」
「もちろん、あなたの身体が目的に決まってるじゃない」
扉を閉めてゆっくりと近づいてくる美女にブライトは息を飲んだ。
「身体ってこては、やっぱり、それは……」
「人質ってこと」
彼の邪な妄想は彼女に一蹴された。
「なるほど、人質ね…… って、人質!? 何で俺がいきなり人質にされないといけないんだ!」
「あなたを人質にしてレイヴァンを利用したいからよ。 彼について調べさせてもらったんだけど、彼って一筋縄では利用できない雰囲気なんだもの。 だから手っ取り早く済ませるためには弱みを握るしかないと考えたわけ」
「調べたって言ってもこの町には初めて訪れたんだけどな。 レイヴァンだって同じなはずだ」
「私の仲間がオールトの街でたまたま彼を見つけてね。 そこから、ずっとあなたたちを見張っていたのよ。 この町に来るまでは気がつかなかったみたいだけど」
「そんなことまでしているなんて、いったい君は何者なんだ? 単なる遊女や娼婦って訳ではなさそうだな」
「私は単なる旅の踊り子よ。 表向きはね」
彼女はブライトの目の前に立つと得意の笑みを浮かべる。
表向きと言っている時点で明らかに踊り子ではない。
ただ自ら暴露するあたりに懐疑的になる。
「じゃあ、裏向きには何なんだ? レイヴァンを調べているってことは、どこかの国の斥候か?」
「それは秘密よ」
「秘密ね…… なら、ここへは何をしに来たんだ? レイヴァンが悪魔退治に成功したから俺を解放しに来てくれたのか?」
「残念だけど彼に会ったのは、ほんの少し前。 悪魔退治とはちょっと違うけど、ある依頼を出したばかりよ。 今はあなたの様子を見にきただけ」
「なんだ、まだ始まったばかりなのかよ…… これは、しばらく大人しくしているしかないか」
話を聞いたブライトはその場に座り込んだ。