~ 13 ~
ブライトは薄暗い一室で目を覚ました。
身体を起こして周りを見たが何も無く、四方は石の壁で囲まれている。
通気孔はあるが窓がないため外が見えず今が昼なのか夜なのかが解らない。
部屋の四隅で蝋燭の火が揺らめいていた。
気分的にはかなり長い時間寝ていたような気がするのだが、何でこんな所で眠っていたのか皆目見当が付かない。
短髪の頭をかきながら記憶を手繰り寄せると、しばらくして一人の女性が脳裏に浮かんできた。
……そうだ! 黒髪の美女は何処に行ったんだ!?
考えて、ようやく思い出したこと。
それは日暮れ前に辿り着いた町のギルドで換金を済ませた後、どの店で飯にするかと考えながら歩いていると一人の女性に声をかけられたこと。
振り返って見れば、今まで出逢った女性の中でも五指に入るくらいの美女が立っていた。
波打つ黒い長髪に紅をさした艶っぽい唇。
豊かな胸にくびれた腰。
ロングスカートの両側に入れた深い切れ込みからは長い脚が垣間見えた。
思い出すだけでも思わず顔がにやけてしまう。
どうかしたのかと尋ねると彼女はオールトの街を目指していたが、その道中に路銀を使い果たしてしまい困り果てていたところで、丁度ギルドで換金を済ませ出てきた自分を見つけたので声をかけたとのこと。
女性が困っていたら助けるのは当然だが、それが美女となれば尚更断る理由がない。
食事を恵んでくれないかという懇願に快諾し二人で酒場へ向かった。
食事をとりながら酒を片手に談笑していると次第に酔いが回ってくる。
気分が良くなった俺は饒舌になり、数々の武勇伝を披露すると、彼女は興味深く話を聞いてくれた。
意気投合した俺たちは食事を終える頃には互いに高揚した気持ちを抑えられなくなっていた。
酒場の二階に借りた一室に案内し二人きりになったところで男を見せる時がきたと意気込んだが、彼女が先に俺を抱き寄せた。
その瞬間、柔らかな感触と甘い香りが全身を包み込み……
そこでぷっつりと記憶は途絶えた。
改めて考えて、ようやくある可能性に気がついた。
……まさか!
慌てて全身のポケットを弄ると案の定硬貨はもちろん、価値のない未使用の精霊石さえ見つけることができなかった。