~ 12 ~
「そこまで解っていて自分で取り返そうとは考えなかったのか? あんたなら男の一人ぐらい簡単に誑し込めるだろう? こうやって誘い出し、相手の気を逸らしている間に喉元でも掻き切れば終わる話だ」
「私は単なる踊り子よ? そんな恐ろしいことできないわ」
「悪いがそうは見えないな。 睨み付けても平然としていて、双剣を大切にしている踊り子なんて今までに聞いたことがない。 おそらくあんたもハンターか何かだろう?」
珍しく口を噤んだ彼女にレイヴァンは質問の答えを得たが、彼女はおもむろに衣装の紐を解き始める。
躊躇いもなく上半身裸になろうとする彼女をレイヴァンが慌てて止めると、彼女は憂いに満ちた瞳で見つめてきた。
「信じてもらえないでしょうけど、私の左胸には悪魔の呪印と呼ばれる痣があるの。 この痣は悪魔の手であり、呪印を施した者に逆らおうとすると心臓を握りしめ苦しめる」
彼女の言葉を聞いたレイヴァンは、先日悪魔が言った言葉を思い出した。
右手に身に付けた指貫きの皮手袋を外し手の甲を見せると彼女は驚きの声を上げる。
「あなたも呪印を!?」
やはりこれは悪魔の呪印と言うのか。
彼女の反応にレイヴァンは納得するように頷いた。
「つまり、あんたに呪印を施したのはそのダグラスで、手出しができないということだな?」
フィーネは静かに頷いた。
「そうなるとダグラスってのは悪魔ということになる。 どんな悪魔だ?」
今度は静かに首を振った。
何も話さないことを考えると、呪いを恐れてのことであろうか。
レイヴァンはしばらく目を瞑り考え込んだ後、彼女の話を受けると回答をした。
腑に落ちない点は多々あるが、依頼に関係なく悪魔を生かしておく理由はない。
話がまとまったところで部屋を出ようと扉に手をかけると、突然彼女に呼び止められる。
「もう席に戻るの? 終えるのが早いと思われたら折角の色男が台無しよ?」
思わず天を仰いだ彼だったが彼女が続けた言葉には納得した。
「それに、あなたならこの町に来てから誰かに見られているような気配を感じていたんじゃない? 事を終えた二人が別々に出て来たら怪しまれるわ」
「たしかにこの町に入ってからは常に誰かの視線を感じていた。 ダグラスの手の者なのか?」
「それは言えないわ」
彼女は再び妖艶な笑みを浮かべるとレイヴァンの腕を取ってから扉を開ける。
「期待しているわよ」
わざとらしく片目を瞑り愛嬌を振り撒く彼女にレイヴァンは小さく息を吐いた。