~ 11 ~
案内された部屋に入ったレイヴァンは首を傾げた。
どう見ても単なる倉庫。
室内には食器棚や酒樽が所狭しと並べられているだけで、事を成すような場所ではない。
「困惑しているみたいね。 私は夜伽に誘ったつもりはないのだけど、もしかしてあなたは本当に事に及ぶつもりだったのかしら? それだったら喜んで相手になるわよ」
妖艶な笑みを浮かべて距離を詰めてくる彼女を手の平を突き出して制止させた。
「何故こんな所に連れ込んだのか説明してもらおうか」
鋭い視線に呼応するかのように彼女の瞳が再び妖しく光る。
「ここに案内したのは他の人に話を聞かれたくないから」
「聞かれたくない話だと?」
「オールトの悪魔事件で活躍したあなたに頼みたいことがあるの」
「素性の解らないあんたの依頼を快諾するとでも?」
「受けなければ友達を殺すわ」
表情を一切変えず何とも恐ろしい事を言う踊り子だ。
だが、その瞳が本気であることを物語っている。
ブライトの居場所、安否が解らない今は下手な回答は避けるべき。
「内容は?」
「ダグラスって人から私の大切な物を取り返して、殺して欲しいの」
「殺して欲しいとは穏やかではないな。 そのダグラスと言うのは何者だ?」
「大陸を股に掛ける武器商人よ。 でも裏では曰く付きの物や人を売りさばいて暗躍している闇商人。 彼は私が大切にしている一対の双剣を奪った」
「なるほど。 それを取り返せばブライトを返してもらえるわけだ」
「お礼にメフィストフェレスの情報を提供する。 決して悪い話では無いでしょう?」
「確かに。 それでダグラスは今何処に?」
「今は隣町で奴隷の売買に精を出しているわ」
「やけに詳しく知っているのだな」
「職業上、いろいろな人から話を聞けるからね」