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「ねぇ、レイヴァン? 相手をしてくれたらメフィストフェレスに関する情報を提供してあげる」
彼女が突然紡いだ言葉にレイヴァンは表情を変えた。
「フィーネと言ったな、あんた何者だ? どうして俺の名と奴のことを知っている?」
相手を射抜くように鋭く睨んでも彼女はまったく怯まなかった。
「とっても良い表情をするのね。 その鋭い視線、ゾクゾクするわ」
「とぼけないでもらおうか。 俺は女だろうと容赦しない」
席に座ったまま腰の剣に手をかける動作を見せると、彼女はその手を上から押さえ込み抜剣を許さない。
普通の踊り子が咄嗟にできるような行動ではなかった。
「続きを知りたいなら相手をしてくれるかしら?」
「断る」
「強情な人。 それならとっておきの話をしましょうか? ……お友達の命を預かっているわ」
彼女の一言にレイヴァンは思わず目を見開いた。
「勘ぐったわけではないわよ。 あなたのお友達の名前はブライト・ベルク。 ロディニア国出身の旅人で、昔は騎士団の一兵卒だったとか。 あなたのことも彼に聞いたの」
思わず頭を掻くと彼女は口角を釣り上げる。
「私、あなたみたいな男が好みだけど、彼みたいに扱いやすい男も好きよ」
「ブライトは無事なんだろうな?」
「それは二人きりになってから」
レイヴァンは心の中で舌打ちするとリルとマリアンを見た。
二人は心配そうにこちらを見つめている。
「こいつらの身の安全は保証してもらえるのだろうな?」
「店内の男たちに手を出さないように言うわ。 皆、私のお願いは何でも聞いてくれるの」
彼女の言葉を聞いてレイヴァンはひとつ息をつく。
どうやらここは彼女に従うのが賢明なようだ。
言うことを聞くということは、ここで騒ぎを起こしたら店内の客全員を敵にまわすことになると暗に言ったようなもの。
厄介ごとは御免だ。
「解った、相手になろう」
「その気になってくれて嬉しいわ」
立ち上がるレイヴァンに対し連れの二人が慌てて呼び止める。
「悪いがしばらく食事を続けていてくれ」
「ご主人様、リルは複雑な心境です」
「私は信じたくありません」
二人は当然そういう意見になるだろうな。
しかし誰よりそう言いたいのは自分だった。
レイヴァンは敢えて口にはせず踊り子の彼女に導かれるまま店の奥へと足を進めた。