~ 9 ~
「一杯ご馳走していただける?」
席に着いた彼女が笑みを浮かべてレイヴァンに問いかけると、彼は快諾して店で一番上物の葡萄酒を店員に頼んだ。
「気前が良いのね」
「素晴らしい踊りを見せてくれたからな」
「あら嬉しい。 ほとんど見てくれていなかったから、気に入ってもらえなかったと心配していたのよ」
「まさか。 踊りに詳しいわけではないが、間違いなく今までで一番美しい踊りだったさ。 ただ、その衣装は少々目のやり場に困るかな」
「皆が喜んでくれるこの衣装が仇になるなんて考えてもみなかったわ」
「だったら明日以降の参考にしてくれ。 それにしても、あれだけ激しく動いていて良く隅にいる俺が見えていたな」
「良い男は見逃さないの」
俺が良い男ねぇ……
レイヴァンは心の中で苦笑しつつ、届いた酒を彼女に差し出した。
「それで? 俺に声をかけたのは踊りを見なかった理由を聞きたかったからか?」
「もちろん違うわよ」
短く否定する彼女は酒を一口飲んだ後、酒杯をテーブルに置いてレイヴァンに身体を寄せると、しなやかな手でそっと膝に触れた。
「今夜は空いているの?」
甘い声で誘う彼女にレイヴァンは一層苦笑した。
リルを連れるようになってから誘われることは無くなったと思っていたのだがな。
「生憎、女には困っていなくてね」
レイヴァンが向かいに座る二人に視線を向けると彼女もつられて視線を移す。
そこには明らかに敵意をむき出しにしたリルと心配そうに見つめるマリアンがいた。
「小娘と修道女なんて変わった趣味ね」
「リルは小娘じゃないです!」
笑いが止まらないレイヴァンに対し踊り子の彼女は誘うことを止めない。
更に身体を寄せると豊かな胸をレイヴァンの腕に押し付ける。
「こんな子供より私を相手にした方が何倍も楽しいわよ?」
「その点については否定はしないが、あんたは俺の相手をするには美しすぎる。 悪いが他を当たってくれ」
「そんな風に言われたら普通は諦めるのでしょうけど、生憎私は諦めが悪くて。 余計にあなたに興味が沸いてきたわ」
「悪いが何度誘っても俺は靡かない」
「私が誘って断った男はいないの」
「諦めることだな」
「それはどうかしら」
不適な笑みを浮かべる彼女の瞳は妖しく光っていた。