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第6話:恋人になってください

【SIDE:倉敷貴雅】


「貴雅。お願いがあるの……私の恋人になってくださいっ!」

 

 初冬の屋上に響くのは年上のみゆ先輩からの告白。

 ホントにこの女の子は自分で自分を追い込むのが好きらしい。

 俺は大きく息を吐きながら答える。

 

「……その提案は断る」

 

「即答なんてひどいっ」

 

「ひどくなんかない。アンタ、自分が何を言ってるのか分かってるか?恋人だぞ?」

 

「分かってるわよ。でも、ここまできたらしょうがない。嘘を本当にしちゃうしかないじゃない。私の恋人になってくれればノ~プロブレムよ!」

 

 何が問題なしなのかを問いただしたい。

 ホントに恋人になってしまえば、全校生徒へ嘘をつく罪悪感もなくなる。

 俺は寒さなど忘れるように身体が熱くなる。

 

「いいか、恋人っていうのは恋をしてなきゃ意味ないんだよ」

 

「それなら、私が貴雅に恋をすればいいじゃない?」

 

「どこからその根拠のない自信がくる?恋をしたことのないお子様のくせに」

 

 あまりにも突拍子もない展開に俺は頭を抱える。

 この先輩、恋って意味を分かっているんだろうか?

 

「いいじゃん。私の恋人になってよぅ」

 

 そんなチワワのような愛らしい顔で見つめてもダメだ。

 

「恋人っていうのはそんな単純なものじゃない」

 

「何でそんなに拒むのよ?私、可愛いってよく言われるし、文句ないでしょ?」

 

 俺の服のすそを引っ張ってもダメだ、伸びるからやめてくれ。

 みゆ先輩は可愛いがその性格には難が多すぎる。

 さて、このロリ先輩の暴走をどうやって止めればいい?

 

「大体、みゆ先輩は俺が恋人でいいのか?まだ会って数回、しかも後輩だぞ?」

 

「え?いいよ?だって、貴雅って優しいし、頼りになるもん」

 

 しれっと言う先輩、汚れを知らない純粋な瞳をしやがる。

 この子、絶対に目を離したら悪い野郎に狙われるな。

 

「ダメだ、そんな簡単に恋人っていうのはなれるものではないし、なるものじゃない。先輩はもっと自分の事を考えてくれ。俺はアンタが心配だ」

 

「心配?私の事を心配してくれるなら私の恋人になって?」

 

「なりません。人の話をよく聞いてたか?」

 

 まったくもって話は平行線、この先輩は恋人になると言う意味を理解しているのだろうか。

 

「恋人になってくれないの?私じゃ嫌?ダメ?」

 

 むぅっと唇を尖らせる仕草を見せる先輩。

 

「何で俺なんだ?先輩、本気で恋人を見つけるなら……」

 

「何でって、まず貴雅は私の事情を知ってる。しかも、すでに皆に告知済み。さらにいえば……貴雅はそうして、私の事をよく考えてくれる。普通の子なら、私と恋人になれるって言えば喜ぶだけ。でも、貴雅は私のことを本気で考えてくれた。迷惑かけて、困らせて、そんな私でも優しくしてくれる。だからよ」

 

 ただ、俺が放っておけない性質なだけだ。

 誰にでも優しい、そんな大層な人間ではない。

 

「……私は貴雅をすごく信頼しているの。ホントに恋人になっても良いって思う」

 

 この子には基本的に迷うとか悩みとかってないのだろう。

 いつも自分の感情や想いのままに真っ直ぐ行動している。

 

「みゆ先輩、俺はやっぱり、アンタの恋人にはなれない」

 

「……っ……」

 

 先輩は黙り込むかと思いきや、俺に抱きついてきやがった。

 

「ああっ、もうっ!!いいから私の恋人になれっ!」

 

「今度は命令かよ!?」

 

 俺の態度に業を煮やしたか、キレだしたぞ。

 本当に子供だ、はぁ……世話が焼ける。

 

「そうよ、命令するわ。私の恋人になりなさい。いい?私達はもう学園中に恋人だって宣言しちゃったの!もう、戻れないのよ、私達はっ!!」

 

「……戻れなくしたのはアンタだろ、みゆ先輩」

 

「今さら後に引けないこの状況、私達が恋人になれなければどちらも嘘つきになってしまうわ。それでいいとホントに思うの?私たちが恋人になるしか道はないのよ」

 

「……だから、後に引けなくて大嘘をついたのもみゆ先輩のせいだろ」

 

 そうだ、あの全校生徒への恋人宣言さえなければ何とかなったんだ。

 俺だって昼間に命の危機を感じるし、今さらどうにもできない。

 まさに自業自得、俺は巻き込まれてばかりの可哀想な被害者だ。

 

「うぅ~っ。恋人になろうよ、貴雅」

 

 先輩は“B-86”の胸をめいいっぱい押し付けてくる。

 多分、意識してないのだろうが、その感触は柔らかくて反論する気がうせる。

 これが彼女の唯一にして最強の武器か。

 なんて、魅了されている場合ではない。

 

「……ねぇ、貴雅。貴方は前に恋人がいたんでしょう」

 

「あぁ、いたよ。愛し合っていたと思っていたら、呆気なく捨てられたけどな」

 

「でも、恋をした経験はある。私は恋って何かを知りたいの。人を好きになるっていうを貴雅に教えて欲しい。きっと、私は貴雅と付き合えば好きになれる気する」

 

 俺は別にみゆ先輩に好きになってもらいたいわけではない。

 そりゃ、気になる相手と言われればそうかもしれないが。

 

「……俺で良いのか?恋人になるってことは色々とあるわけだ。恋人を演じるつもりはないし、それなりに覚悟してくれないと困る、遊びじゃないんだ。そこのところは考えておいてくれよ?」

 

「もちろん、私も頑張る……え?私の恋人になってくれるの?」

 

 先輩の身体を離すとその可愛らしい顔をこちらにあげる。

 幼い顔立ちだが、女の子としての魅力は満ちている。

 好みの問題ではあるが、美少女である事に文句はない。

 

「好きになるために付き合うなんて順序が逆だとは思うが、みゆ先輩と俺が交際しているという情報が学園全体に流れてしまったのも事実だ。なんていうか、先輩って放っておけないんだよな」

 

 色々と言いたい事はあるが、ここで彼女を見捨てるのも後味悪い。

 先輩から目を離すとろくな事になりそうにない。

 俺にできるのはこの子に恋を教えて、誰かを好きになってもらうだけだ。

 それが本当に俺を好きになるか、他人を好きになるかは別として。

 

「えへへっ。それじゃ、今日から私達は恋人同士だね」

 

「そういうことになるな」

 

「んーっ」

 

 なぜか、いきなり俺に背を伸ばして顔を近づけるみゆ先輩。

 俺は突然、その頭を押さえつける。

 

「……って、何するつもりだ、先輩」

 

「え?恋人だからキスするんでしょ?」

 

「あのなぁ、キスにもタイミングってものがあるんだ。先輩、これだけは先に言っておく。キスはアンタが俺を好きになったときしかするな。その辺、よく考えて行動してくれ」

 

「私が好きになったとき以外……。やっぱり、貴雅は優しいっ」

 

 いや、これは優しさではなく、俺自身の保身と言ってもいい。

 だって、このロリ少女、手を出したら犯罪的なんだよ。

 すでに今でも何ともいえぬ背徳感が……俺、早まったかも。

 

「それじゃ、今日は一緒に帰ろうよ」

 

「一緒に帰るのか、妥当な案だ。採用しよう」

 

「その言い方、恋人らしくない。そうだ、手を繋ぐのは恋人としてOK?」

   

「……そのくらいなら、別にかまわない」

 

 手を繋ぐなんて、中学生の恋愛かよ……。

 いや、それくらいから全てをはじめないとダメなようだ。

 

「私、男の子と手を繋ぐなんて小学校以来かも」

 

「そうかい。……それにしても、小さな手だな」

 

 女の子らしいと言うか、本当に子供のような手をしている。

 僅かに指先が触れる程度で、彼女はビクッと反応する。

 

「貴雅の手は大きいよ。男の子って女の子とは全然違うんだ」

 

 俺の手を不思議そうに握ったり、離したりしている。

 何がそんなに興味深いのやら、それは分からないが。

 

「さぁて、帰りますか」

 

 みゆ先輩が俺の恋人……本当に人の関係って言うのは不思議だな。

 数日前に出会った時はただの気が強い先輩ってだけだったのに。

 まさか、『146-86』が俺の恋人になるなんて思いもしなかった。

 

「……ふふっ、なんかドキドキ、わくわく♪」

 

 俺の手をしっかりと握り締めて、彼女は嬉しそうだ。

 横に並びながら放課後の学園の校舎をゆっくりと歩く。

 

「先輩って、初恋もまだしてないんだっけ?」

 

「そう、こうビビッと意識する相手がいないの」

 

「幼稚園とか小学校で気になる子ぐらいいなかったのか?」

 

「いない~っ。私って男の子とか本気で縁がないの。1人っ子だし、幼馴染も女の子ばかり、見事に男の子と関わらない人生送ってきたんだ。こんな風に男の子と色んな話をするのも貴雅が初めてなんだよ」

 

 それなのに、彼女は男に抵抗感があるというわけでもない。

 本当にただ、男の子と縁がなかっただけに見える。

 恋に興味もあって、普通に男に出会えてさえいれば恋人も出来ていたはずだ。

 

 ……ちょい待て、それが俺ってわけなのか?

 

「貴雅が私の最初の好きな人になればいいなぁ」

 

「……それは俺も先輩を好きにならないといけないんだが」

 

「そうだよ。貴雅も私を好きになるように頑張って。早く相思相愛になって本物の恋人らしくなろう。キスってどういうの?気持ちいい?どんな感じ?経験者でしょ、教えてよ?」

 

 俺はみゆ先輩にこれから色んな事を教えていかなくてはいけないようだ。

 その過程で好きになって、恋に落ちるのならばそれもひとつの恋愛の形じゃないか。

 繋ぎあった手と手、触れ合う指先。

 寒さなんて忘れてしまうくらいに温かく感じる。

 

「私、絶対に貴雅に恋をするよ?覚悟していてね?」

 

 俺は静かに「分かったよ」と頷いて見せた。

 このロリッ娘先輩に出会えた事が、俺にとっても恋の始まりなのかもしれない。

 なぜなら、これから先、俺がみゆ先輩の事を好きになってしまう予感があったから。

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