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第3話:恋人?いえ、他人です

【SIDE:倉敷貴雅】


 みゆ先輩に呼ばれて俺は彼女のクラスへと行く事にした。

 昼食を早めに終えて、2年の教室に入りこむ。

 ……他人のクラスってどうしてこんなにもいづらいのだろう。

 そう思いながらも扉を開ける。

 辺りを見渡すとみゆ先輩たちのグループが食事しているのはすぐに見つかる。

 

『何があっても私に合わせて』

 

 それが彼女の話では会ったが、何をするのやら。

 女の子たちの前へと俺が足を踏み出すと、みゆ先輩が俺の姿に気づく。

 

「貴雅っ!来てくれたんだ、嬉しいっ」

   

 見たことのない満面の笑みでの出迎えに俺は戸惑う。

 これは誰だ?

 本当にみゆ先輩なのか?

 俺が知る彼女は怒ってばかりの顔しか見ていない。

 笑顔は美少女らしく可愛いな。

 

「こんにちは、先輩。来て欲しいって言うから来ましたよ」

 

 みゆ先輩に敬語口調なんて嫌だが、話を合わせるためには仕方ない。

 彼女は俺の手をとると、女の子達の前へと連れてこられた。

 3人の女の子は俺を見るや否や、値踏みするようにじっくりと観察される。

 

「へぇ、この子が美結の恋人?顔はそれなりにいい感じじゃない?」

 

「そうねぇ。でも、男の子は顔だけじゃダメ。私達の美結は簡単に渡せない」

 

「……あの、俺は何で呼ばれたんでしょう?」

 

 彼女たちに問うより先にまず、みゆ先輩が俺の事を紹介する。

 

「彼が私の恋人になった倉敷貴雅。昨日、告白して付きあう事になったの」

 

「……は?」

 

 思わぬ発言に俺はポカンと口をあけてフリーズする。

 

「私達、恋人だよね。貴雅?」

 

 甘い声のみゆ先輩に違和感を抱きながら、

 

「恋人?いえ、他人で……ぐはっ」

 

 3人からは見えない位置で俺にひじ打ちをかましてきた先輩。

 腹にひじ打ちって普通に痛いんだけど、この人、鬼か。

 それに誰が、誰の恋人だって言った?

 俺がみゆ先輩の恋人ってどういう意味だ?

 

「私は小夜子(さよこ)っていうの。ねぇ、貴雅クン。本当に2人は付き合ってるの?私は美結がどこかで男の子を捕まえてきただけにしか思えないんだけど」

 

 しかも、思いっきりバレているし。

 よほど、普段から彼女には男が近づいていないんだろう。

 みゆ先輩はそれでも嘘を突き通すつもりらしい、流れは何となく読めた。

 彼氏でも連れてくるとでも見栄を張ったのか。

 話をあわせるしかないようだ、セクハラで捕まるのもごめんだからな。

 

「……本当ですよ。昨日、先輩に告白されたんです」

 

「嘘ついても意味ないよ?どうせ、この子に好きな人なんているわけないんだから。美結の初恋なんて信じてない」

 

 真ん中の女の子、小夜子先輩は焦った表情を見せるみゆ先輩に言った。

 

「違うっ。ホントに私達は交際してるんだってば」

 

「それなら、聞かせてもらいましょうか?貴雅クン、この子とどういう出会いをして惹かれたの?教えてもらえる?」

 

「それは私が……」

 

「美結には聞いてない。私は貴雅クンに質問してるのよ?」

 

 なるほど、意思疎通が出来ていないと悟るや、俺から攻めてくるか。

 正しい判断だと思う、ここで俺が分かりませんって言えばそれで終わりだ。

 みゆ先輩は俺にチワワのような愛らしい瞳でアイコンタクトを向けていた。

 『話を上手くあわせて』『了解ラジャー』……そんな感じでここは何とか乗り切るしかあるまい。

 ここまで来たら、共犯者でも運命共同体でも何でもしてみせる。

 

「先輩と俺が初めて出会ったのは数週間前です」

 

「最近なの?ま、この子が好きな子がいるって聞いたのが昨日だからそんなものか」

 

 って、昨日かよ……あのラブレター、まさか、昨日書いたばかりのものか。

 先輩の短絡的思考&行動から見て、状況が分かり始めてくる。

 

「……どういういきさつで出会ったのかしら?それが大事、答えてくれる?ねぇ、美結ちゃん?」

 

 小夜子先輩はまだ俺がすぐそこで捕まえられただけと思い込んでいるようだ。

 ……初めての出会いか、俺は昨日の事を思い出しながら語る。

 

「初めて先輩と出会った時、中庭の木に登ってましたね」

 

「え?木?木って学校の?」

 

「えぇ。木に登って降りれなくなったらしく、騒いでいた所で遭遇したんです」

 

「作り話にしてはありえなさすぎる。何で木登りなんかしてるわけ、美結?」

 

 俺の発言に彼女たちは「でも、この子ならありえるわ」と各々呟く。

 普通なら笑ってしまう事なのに、普段からホントに何してるんだろうね、この先輩は。

 チラリと横を見ると彼女は俺の発言がムッと来たのか言い返してくる。

 

「ち、違うもんっ!あれは木から降りられなかったんじゃない。貴雅が私のパンツを覗こうとして、慌ててただけよ。それで思わず手を離しちゃって……」

 

「俺の上に落ちてきたんですよ。まさか、上から女の子が落ちてくるなんて思いもしませんでした。まぁ、そんな感じで、俺と彼女は出会って、知り合いになりました」

 

 先輩達は俺との出会いが現実に起きた事だと何となく理解したようだ。

 それはみゆ先輩の言葉があまりにも自然に出てきた言葉だったからだろう。

 事実であるために、嘘はついていない。

 

「本当に以前からふたりは知り合いみたい。私、絶対にその辺で捕まえたと思ってた。おふたりさんは恋人なんだ?」

 

「そうだよっ。さっきからそう言ってるじゃん。私は貴雅が好きで告白したの。昨日、ようやくOKをもらえたんだ」

 

 できる事なら、みゆ先輩には黙っていて欲しい。

 そうやって考えもなしに余計な事を言うから、そこを突かれてしまうのだ。

 小夜子先輩はそれだけでは納得できないのか、更なる追及をしてくる。

 

「ようやく、ね?それまでは、ふたりが結ばれなかった理由は何かしら?今度はみゆに答えてもらいましょうか?さぁ、今すぐ教えてちょうだい。どうして?」

 

「え?あ、あぅ、それは……」

 

 思いつきで言ったんだ、すぐに適当な言葉が思い浮かぶわけがない。

 話をあわせろと言われたが、合わすべき相手が悪い場合にはどうすればいいのだろう。

 黙り込んでしまう先輩に3人の視線は疑惑へと変わる。

 

「何だ、やっぱり出任せ?美結に恋人なんているわけない」

 

「だよねぇ。見栄張らずに好きな子なんていないって言えばいいのに」

 

「……美結、やはり私たちに嘘をついたの?貴雅クンはただのお知り合い?」

 

「違うっ!ホントに私達は付き合って……いるんだから……」

 

 語尾の方が弱々しくなる、本当にその嘘を突き通したいのだろう。

 なぜ、そこまでして必死なのか、理由は分からない。

 だけど、俺は彼女にここで「嘘だった」と言われるのもマズイのだ。

 セクハラの件、何としてでも揉み消したい、いや、揉んだから事件なわけで。

 ……ふぅ、と深呼吸をひとつして俺は彼女たちに言いはなった。

 

「先輩の口からは言い辛いので俺から言わせてもらってもいいですか?俺には1週間前まで別の恋人がいたんです。でも、彼女にフラれてしまって落ち込んでいました。それで慰めてくれたのが……みゆ先輩だったんですよ」

 

 先に言っておく、失恋の件でこのロリ先輩に慰めてもらった覚えはない。

 だが、破局は事実、その沈黙も俺個人の事情ならば納得もいくはずだ。

 

「恋人にフラれたって……それは本当なの?あっ……」

 

 案の定、小夜子先輩は俺の言葉に苦笑いするような表情を見せる。

 

「その、悪かったね。それは確かに簡単に人に話せないわ。ちゃんとその辺の気遣いできるようになったのねぇ。えらい、えらい~っ。いい子ね、美結」

 

 小夜子先輩はみゆ先輩の頭を子供のように撫でている。

 むしろ、先輩が本物の子供の容姿なので違和感すらないが。

 

「慰めてるうちに恋愛感情が芽生えたって事か」

 

「実際にそういう恋愛ってあるんだ。美結なら他人の失恋を笑い飛ばすと思ってた」

 

 他の二人も納得してくれたみたいだ。

 先輩は危機を脱出できた安堵からか笑顔を見せる。

 

「ふたりが付き合ってるのは理解できたよ。疑って悪かったわ」

 

「別にいい。私にも恋する事くらいできるんだって分かってもらえればそれでいいの」

 

「……そっかぁ。ついに美結に恋人が出来たわけね。おめでとう」

 

 疑惑が晴れて、3人からみゆ先輩は祝福の言葉を向けられる。

 本当に仲のいい友人たちなのだろう。

 微笑ましく見守ってきた、そんな感じさえ見受けられる。

 

「でもさ、貴雅クンは美結でいいの?この子、すっごく我が侭だし、見た目子供だし」

 

「……そうそう。でも、胸だけ無駄に発育良すぎるんだよぅ」

 

「もうっ、余計な事を言わないでよっ!」

 

 まぁ、その辺の事情はよく知ってるつもりだ。

 見事な発育をなされております、はい。

 俺がチラッと胸部に視線を向けると先輩はにっこりと微笑んでる、こえぇ。

 

「どこを見てるのかな?んんっ?」

 

「先輩の顔を見てる。嬉しそうだなって……。俺をここに呼んだ理由、皆に紹介しておきたかったんですか」

 

「え?あ、うん。そんなところかな」

 

 素直に褒めたら、怒った姿は恥ずかしさに消えていく、そういうのに弱いのかもしれない。

 とにかく、これで一難は去ったようだな。

 

「それじゃ、俺はここで失礼します」

 

「……またね、貴雅。来てくれてありがとう」

 

 ここで終わってくれれば俺達はこのまま、さよならで終わるはずだ。

 セクハラ事件も水に流し、これからはただの知り合いの先輩後輩としての付き合いができる、そう思っていた。

 しかし、最後に小夜子先輩はここぞとばかりにこう言ってきたのだ。

 

「それじゃ、最後にキスしてみせてくれない?恋人なら出来るわよね、おふたりさん?」

 

 意地悪く笑う小夜子先輩にみゆ先輩は身体をビクっと強張らせ、俺はと言えば「お約束だな」と他人事のように流してしまいたいができずに、冷や汗を浮かべていた。

 ……さぁて、この最後の大ピンチ、どう乗り越えればいいのやら。

 

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