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第33話:大事な家族として

【SIDE:初音美結】


 お正月は貴雅の家で過ごさせてもらってる。

 1月2日の今日は貴雅のお兄さんが帰ってくるんだって。

 どんな人なんだろう、天音ちゃんは朝からものすごく嬉しそうだ。

 

「お兄さんってそんなにいい人なの?」

 

「はい。光里お兄様はとても優しくて、素晴らしい人ですわ。ただ、好きな人の事になると周りが見えなくなってしまうところが唯一の欠点ですけれど」

 

「好きな人ってお兄さんの幼馴染の人なんでしょう?」

 

「倉敷家の本家である白銀家の令嬢です。本家はここから数十分離れた場所にあるんですよ。子供の頃からその人にもよく遊んでもらいました」

 

 それにしても、本家とかってすごいなぁ。

 私の家は普通の家だもん。

 そう言う世界と関係がないから余計に不思議な世界に思える。

 

「お嬢様って大変そう。実際はどう?」

 

「別にみゆちゃんが思うほど、大変ではないと思います。ただ、少しだけ育ちの意味では面倒なところもありますわよね。私も庶民で生まれたらと思ったりしますもの」

 

 それを贅沢というのかは別として、生まれの違いってやっぱりあるものなんだなぁ。

 天音ちゃんの他人との距離の置き方とか特別視とか分かる気がする。

 

「みゆちゃんは兄妹はいませんの?」

 

「いないよ。ひとりっ子だし、従姉のお姉ちゃんに懐いていたけど、それぐらいかな」

 

 そして今は貴雅が私には兄のような存在に思えたり。

 ……年下なんだけど、年上に思えてしまう事が多々ある。

 

「お兄ちゃん、か……」

 

 私にもそういう相手がいればよかったなぁ。

 何だか羨ましく感じているんだ。

 

「そろそろ、お兄様が帰ってくる時間です」

 

 やがて、玄関の方で誰かが入ってくる音がする。

 

「ただいま」

 

 その声に天音ちゃんはすぐに玄関へと向かう。

 私もそれについていくと、そこにいたのは優しそうな印象を抱く男の人。

 この人が天音ちゃんのお兄さん?

 

「天音、ただいま。元気な様子だね」

 

「はいっ。私は元気です。あけましておめでとうございます、お兄様っ」

 

 彼に抱きついて甘える天音ちゃん。

 ホントに仲のいい兄妹なんだって見ているだけで分かる。

 

「いつまでこちらにいられるんですの?」

 

「僕は明々後日までこちらにいるつもりだ。また大学があるから……。おや、そちらの子は?天音のお友達かい?」

 

 天音ちゃんは私を彼に紹介してくれる。

 

「私の親友で貴雅兄様の恋人である、みゆちゃんです」

 

「はじめまして、初音美結です」

 

「あぁ、キミが……そうか、貴雅の恋人さんだったのか。ずいぶんと可愛らしいお嬢さんだね。確か高校生だったっけ?初めまして、貴雅と天音の兄の倉敷光里だ」

 

 優しいお兄さんというイメージそのままな彼。

 

「みゆちゃんはこう見えても貴雅兄様より年上の17歳なんです。世界の不思議ですよ」

 

 だから、その紹介の仕方はどうなの。

 ……別に慣れてるからいいけどね。

 

「こら、天音。そういうことを言ってはいけない」

 

「ふわぁ、ごめんなさい」

 

 ……あの毒舌大好き天音ちゃんが素直に謝るなんて。

 そこにびっくりしてしまった。

 本当にお兄さんが好きなんだなぁ。

 

「天音、貴雅はどうしているんだ?」

 

「兄様なら部屋にいますよ?呼んできましょうか」

 

「……いや、それより美結さん。少し話を聞かせてもらってもいいかな?」

 

「私ですか?私はいいですけど」

 

 私はなぜか光里さんに呼ばれて彼の部屋を訪れることになる。

 綺麗に整頓された部屋、そこも貴雅が言っていたように改築で和室ではなく洋風な内装になっている。

 

「キミに会ったらぜひ聞いておきたい事があったんだ」

 

 彼は以前から私の事を聞いてたみたい。

 話がしたいなんて、何のことだろう?

 

「美結さん。貴雅の事でキミに話があるんだ」

 

「貴雅の?彼のことで、何か?」

 

「貴雅と交際してまだ1ヵ月くらいだと聞いているんだけど、ずいぶんと天音が懐いているそうじゃないか。あの子は少し他人と距離を置く子だが、その彼女が信頼する相手だと聞いている。そんなキミだからこそ頼みたい事がある」

 

 光里さんは私に穏やかな口調で言うんだ。

 それは兄として弟を心配する姿だった。

 

「彼の支えになってあげて欲しい。あの子はああ見えても打たれ弱くてね。昔からそうなんだ。強がって、一人で何でもしようとするが、本当は甘えたりしたいはずなんだよ。きっと貴雅もキミになら心を預ける事が出来ると思う」

 

「……貴雅のこと、心配しているんですか?」

 

「まぁ、つい先日、ちょいと揉めごとあったんだ。まだ見ぬ先の事だが、その事で彼に将来の不安とかを感じさせてしまったのではないかと思ってるんだよ」

 

 その揉めごとと言うのは先日の私と貴雅が喧嘩した時の話だ。

 倉敷の家を継ぐとかどうとか、そういうお話。

 貴雅が家を出て行くつもりなのか、彼はどう思ってるんだろう?

 

「大丈夫ですよ。貴雅も子供じゃない、自分で考えて答えを出す。それを見守るのも家族なんだと私は思います」

 

「貴雅は初音さんだからこそ心を許しているようだね。昔から人を信じたりするのが苦手な子だったんだが……」

 

「それは初耳です。そんなに違ったんですか?」

 

「今でこそ、大きい身体をしているが、小学校まではクラスでも前の方の背の小さな男の子だったんだ。そのせいか、よくからかわれたりしていたようで、人を信じるとかそう言う事をしなかった子ではあったよ。性格も少し人に臆病なところもあった」

 

 初めて知る貴雅の子供の頃の話。

 今とは違う彼……背も小さかったんだ。

 でも、今は普通だよね?

 デカくなったら心に余裕もできたのかな。

 

「彼を変えているのは初音さんかもしれないな」

  

「え?私ですか?そんなことないですよ、いつも貴雅に甘えているばかりです。私は彼と出会えてよかったと思っています。私の知らない事をたくさん教えてくれた。その恩返し、今の私にはまだできていませんよ」

 

 初恋を教えてもらったり、恋人ごっこにつき合わせたりと困らせてばかりいた。

 私は貴雅に何かをしてあげられたとは思えない。

 

「いや、これは確信を持って言える。キミの事は天音からよくかかってくる電話でよく話を聞いていた。不思議な魅力を持っている女の子だ、と。彼女も問題を抱えていたが話を聞けばずいぶんとそれも解消しているそうだ」

 

「天音ちゃんは自分で頑張ったんです。私はそれをお手伝いしただけで」

 

 小学校潜入事件など、身をもって協力しましたです。

 だけど、私はサポートだけで後は天音ちゃんの努力の結果だ。

 

「人に影響力を与えると言うのも一つの才能だと僕は考えるよ。初音さんにはその力があるんだ。それが自分が気付いていない所であってもね」

 

 どうなのかな、よく昔から誰とでも親しくなれる才能があるとか親に言われた事はある。

 自分では普通にしているだけなんだけどなぁ。

 

「……みゆ先輩は確かに変な力を持ってるぜ」

 

「貴雅?どうして、ここに?」

 

 部屋の扉をこっそり開けて貴雅は声をかけてきた。

 

「あのなぁ、この部屋の隣は俺の部屋だっての。隣からみゆ先輩の声が聞こえてくりゃ、気になるだろう。兄貴、この先輩、何か妙なことでも言っていたか?」

 

「いや、変なことではない。それで貴雅はどういう力を彼女に感じているんだ?」

 

「ある意味、これも才能なんだろうな。人の心に入り込んでくるっていうか、親しみやすさっていうべきか。この子の馴染みやすさは驚くべきものだな。俺や天音みたいな人間にもあっさりと踏み込んできたんできたんだ」

 

 あのぅ、私は褒められているの……?

 きょとんとする私に静かに光里さんは頷いた。

 

「そして、貴雅は彼女を好きになったわけか。どうにも昔からお前は人に触れてほしいのに、触れてと言えない子だからな。向こうから触れてくれる子には弱いらしい。気になる相手を常に意識させられたんだろう?」

 

「違うってば。俺がロリ先輩になびいたのは……な、なんだよ?」

 

 私は彼の物言いに唇を尖らせて拗ねるように言うんだ。

 

「私の事、意識しまくったから好きになったって前に言ったのに」

 

「ぐっ、そんなこと言ったっけ?あぁ、悪かったよ。確かに俺がみゆ先輩に惚れたのは兄貴の言うとおりだ。兄貴は何でもお見通しかい」

 

 肩をすくめる彼、お兄さんとはホントに仲のいい様子だ。

 

「初音さん、貴雅は素直ではないがその本質を理解してあげてくれ」

 

「はいっ。私は貴雅の事を分かってるから大丈夫ですよ……むにゅっ!?」

 

 私の頬を横から引っ張る貴雅。

 伸びる、私の可愛い頬が伸びりゅう~っ。

 

「調子に乗るな、先輩。俺の事を分かってる?言ってくれるじゃないか」

 

「貴雅。照れるのはいいが、暴力はいけないよ」

 

「ひょうだ、ひょうだっ!もーりょく、ひゃんたいっ(そうだ、そうだ!暴力、反対っ)」

 

 貴雅は軽く私たちから視線をそらしている。

 ほんのりと頬が赤い気がする、貴雅って照れる顔が可愛いんだよね。

 

「ひゅなおじゃにゃいなぁ(素直じゃないなぁ)。……うにゃっ」

 

 彼は引っ張るのをやめて私の頭をそっと撫でてくる。

 意地悪なのに優しい私の大好きな彼氏。

 

「ったく、こんな子供みたいな子なんだけど、好きになってしまったんだよなぁ」

 

「恋とはそういうものさ。気づいた想いは止められない。いい恋をしているようだ」

 

 お兄さんにそう言われて、貴雅は苦笑いしている。

 大事な家族、“血”の繋がりではなく“絆”という物が本当の繋がりなのかもしれない。

 

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