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第31話:意地悪な彼氏

【SIDDE:初音美結】


 私の恋人は誰にだって自慢できる男の子、それが貴雅だ。

 めっちゃ優しくて、カッコよくて、背も高くて……。

 年下なのに生意気な感じとか、時々、意地悪する所を含めても、私にとってすごく相性がいいので、よく合う相手だと思う。

 私の初恋、彼を初めて好きになったときからずっと私の心を支配する存在。

 強く思えば思うほど、強く意識すれするほど、私は貴雅が大好きになる。

 恋を知らなかった私に恋を教えてくれた。

 人を愛するのって、とても大変なの。

 相手の何気ない態度で傷ついたり、些細な言葉で嬉しくも悲しくもなる。

 

「……だから、大好きだよ。貴雅」

 

「説明する気がないなら、帰れ。ロリ先輩」

 

「ひどっ。彼女に向かって言う台詞じゃないよぉ」

 

 冷たい言葉と一緒に私は彼にジッと睨まれてしまう。

 今日は12月31日、世間で言う大みそか。

 私はこのお正月は貴雅の家でお世話になることになっていたの。

 事の次第は私の両親がお正月を海外で過ごすとか言い出したことから始まる。

 当初の予定では私を含めていたんだけど、私は飛行機が超がつくくらいに苦手で、もちろんパス、参加を拒否した。

 

「子供じゃないんだから、ひとりで留守番くらいできる。ふたりは楽しんできて」

 

 と言ったら、あっさり両親は海外旅行の予定を組んでたのが数週間前の話。

 うちの両親の仲の良さは見ているとベッタリすぎて辛いの。

 ラブバカップルを結婚してもずっと続けていられるのはすごいけど。

 それで、今年のお正月はひとりのはずだったんだけど、それを天音ちゃんに話したら、美琴さんに話が通って、数日間、ここでお世話になることになったの。

 

「女の子のひとり暮らしって物騒でしょう、それにひとりじゃ寂しいんじゃないかって……。そんな感じで今日から3日間だけ、お世話になるね」

 

「そんな大事な話はまず彼氏の俺に伝えてくれよ」

 

 あれ、何だか自分だけ聞かされてなかったことに不満な様子。

 

「ごめんなさーい。えへへっ」

 

 笑って誤魔化すと彼は仕方ないなと言った感じで、

 

「まぁ、いいや。それにしても、母さんも天音もすっかりみゆ先輩と仲良しになって……。人に好かれるという才能に満ち溢れているな」

 

 それって褒められているのかにゃ?

 


  

 

 私は天音ちゃんの部屋に行くと、彼女は私に1枚の紙を差し出した。

 

「どうしたの、天音ちゃん?」

 

「実は恋文というものを書いてみましたの」

 

「恋文ってまた古風な物言いだね。あの小林君に出すの?」

 

 天音ちゃんの好きな男の子は以前の小学校潜入事件で会ったことがある。

 向こうは彼女に気があるし、天音ちゃんの気持ち次第のはず。

 

「小林君のおかげで私はクラスに馴染むことができました。私が彼を好きなのは美優ちゃんも知っていますでしょう。しかし、その告白を急がなければいけない理由ができましたの。だって、あの人に他の好きな人が出来たみたいです」

 

「なんでそう思うの?」

 

「私の中にある女の勘というものがそう告げています」

 

 いや、乙女の勘っていうか、ふたりが仲良くなってからまだ数週間も経ってない。

 

「……本当のところはどうなの?」

 

「冬休み、彼のサッカー部に応援に行ったらなぜか応援する女の子が増えていました。その前の試合でハットトリックとか言う一試合に3回ゴールを決めたらしいんです。それから小林君のファンが増えたみたいで……」

 

 そもそも、彼の女性関係をそんなに知らない気がするの。

 ファンが多いからすぐにモテるとは限らないし。

 まぁ、彼女がすぐにでも行動を起こすというならその方がいい。

 

「で、正月明けにでも手紙を出すつもり?」

 

「ホントは年賀状に書いて送るのもありかなと思いましたが、家族の方に読まれるのは恥ずかしいのでやめました」

 

 新年早々、子供にラブ年賀状なんて送られてきたら普通にびっくりするでしょう。

 それは普通にやめて正解だよ。

 

「というわけで、みゆちゃんに私の恋文のお手伝いを頼みたいのです」

 

「別にいいよ。私にできることならやってあげる。私も貴雅を落としたのはラブレターだったからね!結果的にはだけど」

 

 ラブレターを書かなければ私と貴雅が恋に落ちることもなく、恋人にはなれなかった。

 運命っていうのはホントにあるんだって。

 

「みゆちゃんの経験を当てにしています」

 

 されても困るとは言えずに私はうなずく。

 私だって彼女に協力してあげたいもの。

 大事なお友達だからこそ、力になってあげたいと思う。

 それにしても、どういう文章を書いたんだろ。

 

「天音ちゃん、読ませてもらってもいい?」

 

「はい。ぜひ、率直な感想をくれたら嬉しいです」

 

 私は手紙に目を通す、綺麗な達筆で書かれた文字。

 その中身は……過去の私が書いた手紙と大きく違った。

 

『小林君、私はあなたを愛しています。友達もおらず、一人だった私に優しくしてくれた貴方。私の世界を広げてくれた。感謝してもしきれない思いでいっぱいですの。私は生まれもよく、どこか他人を見下すクセがありました。そのせいで、周囲の人間からは距離を置かれてしまうことも多々あり、しかし、それを悲しいと思うこともなくこれまで生きてきました。けれど、貴方と出会い、私は一人の寂しさを改めて思い知らされたのです。小林君が話しかけてくれることは嬉しく、楽しくて仕方がありません。人間と言うのは孤独を知り、そして、強くも弱くもなるものなのですね。私はあなたと会えない時間がさびしくて、辛いです。今までは他人の事なんて気にもしなかった私をこんな思いにさせたのは貴方が初めてです。私はきっと貴方がいないとダメになってしまう、そんな弱さを手にしてしまいました』

 

 ……ちゃんとした本音が書かれたラブレターでした。

 私の作り物のラブレターとは違いすぎる。

 

「天音ちゃん、私に教えることはもうないよ」

 

「……ホントですか?さすが私の恋の先生ですね。みゆちゃんのおかげです」

 

 実のところ、私は何もしていない気がするの。

 むしろ、とっくに私なんて超えちゃってるよ、ふみゅーん。

 でも、ホントに彼女は変わったと思う。

 以前の天音ちゃんなら他人にこんな風に本音を語ることもなく。

 自分に素直になれるって素敵なことだと思う。

 

「これで小林君は私と交際してくれるでしょうか?」

 

「それは彼の気持ち次第だけど、きっと大丈夫だよ」

 

 私から見る限り、大丈夫そうに思えた。

 このふたりは相性もいいし、うまくいくに違いない。

 

「とりあえず、少しだけ修正してみよっか」

 

「そうですね、言葉の言い回しとかはわかりやすい方がいいですか?」

 

 可愛いなぁ、天音ちゃん。

 ちゃんと小学生らしくなり、恋に一喜一憂するような可愛さをもつようになった。

 彼にストレートに気持ちを告げる、彼女は弱さと強さを手に入れたんだ。

 私はどうなんだろう。

 貴雅との恋愛で強くなったり、弱くなったりしたかなぁ。

 なんて言うか、私と彼の場合はそういうのとは違う気がする。

 

「恋は単純に見えて難しいんだねぇ」

 

 私は手紙を書きなおす天音ちゃんを見ながら微笑する。

 いい恋をして、女の子は成長するんだよ。

 

 

 

 

「ふにゃ~っ」

 

 私はその夜に彼氏にいじめられていました。

 

「ホントにこのロリ先輩はやることが半端ないな」

 

「ひょっとひたじょーだんなのにぃ(ちょっとした冗談なのに)」

 

 私の頬をつねる貴雅は少しだけムッとしている。

 そりゃ、今回は私も悪かったんだけども。

 今、彼の部屋はとても女の子っぽくなっている。

 ファンシーグッズに囲まれた小学生くらいの女の子の部屋だ。

 

「ったく、何で人の部屋に勝手に侵入して可愛いぬいぐるみなんて並べてるんだ?これは天音の部屋から持ってきたやつだろ。しかも、カーテンとか布団の毛布まで可愛いのに揃えてどうするつもりだったんだ?」

 

「ふぇ、ちょっとした冗談だよ。サプライズってやつ?」

 

「何がサプライズなんだか。ちゃんと元に戻すの手伝え」

 

 彼が昼間留守の間に忍び込んで部屋を改造しただけなのに。

 だって、この部屋ってザ・男の部屋と言う感じでシンプルすぎるんだもん。

 ちょっとぐらい可愛くしたっていいじゃない。

 

「……お、怒ってる?」

 

「こんなことぐらいで怒りはしない」

 

「だよね、だよね?貴雅って意地悪だけど超優しいから」

 

 彼は「何だよ、それは?」とあきれた声で言う。

 いい彼氏だよ、貴雅は本当にいい人だ。

 私は貴雅に抱きつくと彼は私の身体を受けとめてくれる。

 

「今度は何だ?先輩ちっさいからまた放り投げるぞ」

 

「甘えたい年頃なだけだよぅ」

 

 幸せな気持ち、私は彼にキスをねだる。

 

「んむぅっ……」

 

 恋をしても私は基本的に甘えてばかりの私の性格は変わらない。

 

「もっとぎゅってして」

 

「……ここで断るってありか?」

 

「それってどんな放置プレイ。いいじゃん、抱きしめてくれるくらいっ」

 

「騒ぐな、分かったよ。ホント、どちらが年上か分からないな」

 

 そう言いながらも甘えさせてくれるから貴雅は好き。

 私は彼の腕に抱かれながら言う。

 

「今年はいろいろって言葉じゃ片付けられないくらいの出来事がたくさんあったね」

 

「……そうだな。高校に入学して、いきなり美人の先輩に告白されて、付き合い始めた」

 

「それ、私じゃないよね?絵美さんのことでしょっ!」

 

「思い出せって言ったのはそちらだろ。俺にとってはそちらの方が先なんだよ」

 

 それはそうかもしれないけど、聞きたくないよぅ。

 ムスッとする私の頬を彼は触れてくる。

 

「冗談だよ、冗談。絵美のことがあった後に、とんでもないロリ先輩に出会った」

 

「とんでもないもないって表現しなくてもいいじゃない」

 

「いや、俺の人生でみゆ先輩ほどある意味すごい人はいないぞ」

 

「だ~か~ら、もっと褒めてよ。私を褒めなさい」

 

 私に意地悪な貴雅、こんな風にされても私は嫌だと思う気持ちすら起きない。

 すっかりと私の心は貴雅に支配されているんだ。

 

「……みゆ先輩みたいな可愛い彼女ができて、毎日が楽しいよ。俺の生活は今年の最後の1ヵ月で激変したよ。ホントにすごいって思える。これって運命?」

 

「にゃー。素直に言われると照れる」

 

 私も数か月前にはこんな風に男の子の前で甘えるなんて想像もしてなかった。

 

「もうすぐ新年だ。初詣にでもいくか?」

 

「うんっ。天音ちゃんも連れて行こうよ」

 

 まもなく今年は終わって新しい年が始まる。

 来年もいい年になればいいのにね。

 

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