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第29話:愛を叫べばいいじゃない

【SIDE:倉敷貴雅】


 ロリ先輩が俺の前から逃走して、必死に探してみれば我が家にいたと言う罠。

 ……俺の2時間を返してくれと強く言いたい。

 携帯電話にかけても出なくて、心配したんだぞ。

 彼女は去り際に俺に言った言葉が耳から離れずにいた。

 好きと言ってくれない事が不安なんだ、と。

 俺が言えずにいた、その好きという言葉ひとつが彼女を不安にさせていた。

 その事実は俺にショックを与えたんだ。

 自分で思っている以上にみゆ先輩に惹かれている自分がいる。

 彼女の泣き顔は見たくないし、寂しさや辛さなどなく、いつもの笑顔でいて欲しい。

 そのために俺は何をすればいいのだろう。

 どうすればあのヒマワリのような明るい笑顔を見続ける事ができるのか。

 彼女を探しながら俺は何度も自問自答を繰り返す。

 俺がすべきこと、したいこと。

 そして、それがどんな未来を作り上げていくものなのか。

 それは何も難しい事なんてない。

 俺の財布の中に入れている1枚の写真。

 以前、小夜子さんがくれたあのみゆ先輩の笑顔の写真。

 あの屈託のない笑顔が俺を突き動かすんだ。

 

「認めるしかない。俺がみゆ先輩を好きだってこと」

 

 どれくらいの時間が経ったか、繁華街を探し回ったがみゆ先輩の姿はない。

 俺は仕方なく今日は家に帰る事にした。

 夜にでも電話をして、ちゃんとした話し合いをしよう。

 そう決めて、家に帰った俺は信じられない光景を目にするのだ。

 我が家の玄関にどこかのロリ先輩が履いていた靴がある。

 

「――こういう事かよ。あのロリッ娘め」

 

 呆れと嘆き、ふたつの感情が入り混じる溜息をつく。

 まさか我が家にいるとは……そうか、妹の天音に会いにきていたんだ。

 前回の喧嘩と同じ結果に俺はただ苦笑いをするしかない。

 天音の部屋にいたみゆ先輩を連れ出した俺は自室に入る。

 彼女は落ち着かない様子で、ベッドに座りながら俺の部屋のものを眺めている。

 眺めて面白いものは見える範囲には置いていない。

 だが、彼女は出しっぱなしにしていた一冊の写真集に目が向く。

 

「あっ、エッチっぽい本を見つけた。グラビア写真集……?」

 

「ロリ先輩。男の趣味の本に触っちゃいけないって学校で習わなかったか?」

 

「そんなの習わないよ。むぅっ、貴雅もこういう可愛い子が好きなの?」

 

「まぁ、男なら誰だって可愛い子が好きだな」

 

 やれやれ……落ち着かないのは俺も同じか。

 恋人を自室に連れ込む、その行為に俺は前回の自己嫌悪を思い出した。

 この可愛らしい恋人は無自覚で俺を誘ってくるから困る。

 ……手の届く範囲でふたりっきりっていうシチュは考え物だ、うん。

 俺だって高校1年、16歳の思春期真っ盛りの男なわけで。

 俺は余計な雑念を消し、自分を落ち着かせようと話を切りだす。

 

「そんな事はどうでもいい。で、まずは何から話すとしようか」

 

「私が知りたいのはふたつ。貴雅は幼馴染の華奈をどう思っているの?」

 

「アイツは昔から付き合いだけは長いけど、異性として意識しあったこともない。その意味で気にしているのなら、さっきも言ったが、気にするな」

 

 華奈は美人だが、性格に多少の難がある。

 彼女も俺を男としては見ていない、ただの幼馴染でそれ以上はない。

 

「……天音ちゃんから聞いたの。華奈って子がどういう子なのか。今まで何人もの女の子を不幸にしてきたんでしょう?自分が人の中心にいないとムカつくタイプで、そのためには容赦なく相手を蹴落とすんだって」

 

「おいおい、さすがにそれはないだろう。天音はずっと華奈が苦手だから過剰に言ってると思うぞ。確かに華奈は中学の頃に問題のある行動を起こしたのは事実だ。しかし、それには理由があるんだ。アイツなりのな」

 

 俺はみゆ先輩に俺の知る限りの情報を話す。

 華奈が中学の頃、仲間はずれにされる程度のいじめを受けていた。

 理由は彼女がその女子グループの中心にいた女の子の彼氏と仲がよかったという、嫉妬的な理由のせいだ。

 華奈が自分から行動したのではなく、相手の男が一方的に恋人ではなく華奈に惹かれていたのが真実らしい。

 だが、どちらにしてもその少女の怒りを買ってしまい、華奈は孤立してしまったのだ。

 彼女は辛くて、寂しい想いをさせられた。

 その内にくすぶる怒りはやがて大きな事件を引き起こす。

 

「……中学3年の春だったかな。華奈はその女の子に対して、陰湿な仕返しを始めた。彼女に対する悪意のある噂を流したりしていたよ。どっちもどっちな状況ではあるんだが、結果的に華奈はその女子に勝った。自然に彼女の周囲には人が集まるようになったんだ。元から人気のある女の子であったからな」

 

 負けた少女は恋人とも破局し、元から信頼もなかったのか、友達も失った……これもまた自業自得、としか言えない。

 反対に華奈は皆の中心的存在に戻り、今も明るい笑みを見せている。

 

「他に人気な女の子がいれば蹴落とすって話は?」

 

「自分を守る事以外で彼女はそういう行動をした所は見ていない。その中学の1件だけだ。何かと彼女に否定的な連中は悪い噂を流しているようだが」

 

 実際はちょっとナルシスト系な女の子だ、それ以上でもそれ以下でもない。

 今もそう言う事をしているようには思えない。

 

「――騙されているんじゃないの?貴雅は裏の顔を知らないから」

 

 ぶつぶつとみゆ先輩は何か言う。

 華奈に対して何だか敵対意識を抱いている様子。

 何かふたりの間であったんだろうか、あの短い時間で……。

 女の子って男には分からない事もあるから難しいぜ。

 

「ん?何か言ったか?小声で聞こえにくかった」

 

「何でもないっ。貴雅が彼女に幼馴染以上の感情を抱いていないのは分かった」

 

「そりゃ、よかった。誤解されるのだけは避けたかったからな」

 

 みゆ先輩はどうやら独占欲が強いタイプだ。

 俺の周囲にいる女の子に可愛く嫉妬する。

 付き合いが長くなり、そういう性格的なものにも気づき始めた。

 まだお互いに知らない事だらけなのは間違いないけど、理解しあうのは大切だと思う。

 先輩は俺を小動物のような小さな瞳で見つめてくる。

 

「もうひとつ、知りたい。……それは貴雅の気持ちだよ」

 

 そう言うや否や、彼女は小さな手で俺の手を握り締めてくる。

 触れ合う温もり、間近に香る香水は彼女のお気に入りの花の匂いか。

 

「私はまだ1度も貴雅の気持ちを聞いていないよ」

 

 遊園地デートの時、彼女は俺に好きだと言った。

 俺はいまだに彼女に答えを出していない。

 その答えがなければ俺達は本当の意味で恋人にはなれない。

 恋人ごっこから本当の恋人になるためのステップアップが必要だ。

 ……そのためにすべきことはただひとつ。

 俺がみゆ先輩に自分の気持ちを伝えて、意思を確認しあう事。

 繁華街で探し回った時にはすぐにでも言おうとしていた。

 しかし、実際にこの子を前にしたら言うべき言葉が出てこない。

 ちくしょう、柄にもなく緊張しているってか。

 相手はロリ先輩、見た目は子供、中身も子供、体の一部だけが大人の女の子なのに。

 下手に緊張なんてするなよ、俺。

 ……なんて、さすがにこればかりは緊張するだろう。

 断られる事とか、そういう悩みじゃない。

 俺が彼女を“好き”というのはこれまで以上に関係を深めるという事だ。

 俺達の関係は間違いなく変わる、今までは恋を教えるための交際だった。

 

「私は知りたい。今の貴雅の心の全て、それが知りたいの」

 

 ゆっくりと彼女は俺に身を委ねるように抱きついてくる。

 身長差40センチの恋。

 傍から見れば小学生と大人が付き合っているようにも見える。

 よくて兄妹、恋人には見られる事は多分ないだろう。

 しかし、大事なのは他人からどう見えるかではない。

 俺がみゆ先輩をどう思うか、それが大事なのは百も承知だ。

 

「俺達の出会いはある意味、運命的だと思わないか。宛先もないラブレターを拾ったのが始まりで、気がつけば周囲に恋人宣言していて、いつのまにか恋を知るための交際を始めていた。そして、みゆ先輩は俺の事を好きになっていたんだ」

 

「だって、貴雅は優しいもん。男の子として、私は貴雅が好き……」

 

「恋のこの字も知らなかった先輩が、俺との付き合いを通して恋愛を知った。初めは俺もただ放っておけない気持ちだけだった。それが気がつかない間にある感情に変わっていくんだ」

 

 そうだ、何て面倒で放っておけない女の子なんだろう、と常に感じていた。

 胸が大きくて可愛くて、子供っぽい性格で、我が侭言ってばかりで。

 喧嘩しても、空気読まずに家に来て、家族と和んでいた時はその神経の図太さに呆れた。

 だけど、1度も俺はみゆ先輩の事を嫌いになったことがない。

 出会ってからの1ヵ月、意識させられっぱなしだった。

 

「……俺も好きだよ、みゆ先輩。意識させられた時点で俺の負けだ」

 

「ホントに?ホントのホント?嘘つかない?」

 

「こんな場面で嘘をつく気はない。ん、みゆ先輩?」

 

 彼女は嬉しそうに照れる姿を見せると唇をこちらに突き上げてくる。

 

「キスしよう、ようやく“恋人”になれた記念のキス。私はずっと貴雅から好きって言ってもらえる日が来るのを待っていたの。振り向かせる自信がなかったわけじゃないけど、中々、言ってくれなくて辛かったんだ。だから、キスして?」

 

 桃色に染まる頬と濡れた唇、俺は想いをこめてその唇を奪う。

 

「――愛の証が欲しいの、んぅっ」

 

 恋を教えるはずが恋を教えられていたのは自分かもしれない。

 どんなに体が小柄で、見た目がロリッ娘でも、みゆ先輩はやはり年上の女性だ。

 俺よりも1年だけ早く生まれて、1年だけ長く生きている。

 

「大好き~っ、貴雅。私達、やっと本物の恋人になれたんだねっ!」

 

 甘い言葉と一緒に俺の好きな笑顔を浮かべるみゆ先輩。

 あまりの可愛さと愛しさに今度は俺の意思で彼女と唇を重ねあう。

 犯罪的な魅力を持つ乙女、みゆ先輩との恋愛はまだ始まったばかり……。

 

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