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第21話:貴雅の秘密

【SIDE:初音美結】


 貴雅と喧嘩しちゃった私は放課後になるとすぐに天音ちゃんと会う。

 彼女の部屋で私は事情を説明して落ち込んでいた。

 

「うぇーん。私はバカだよぉ」

 

「ホントにバ……いえ、みゆちゃんは少し考えが甘いだけですわ」

 

「今、バカって認めた?天音ちゃんも私をバカだって言った。うわぁーん」

 

「ご、ごめんなさい。悪気はありませんの。落ち着いてください」

 

 大粒の涙を浮かべる私は自分のした事の責任を強く感じる。

 私は彼の事を考えずに、ただの好奇心で貴雅を傷つけてしまった。

 彼には彼の悩みがあるのだと理解してあげられず。

 私は子供だ、普段から皆に言われる通り、外見だけじゃなく中身もお子様だ。

 

「えぐっ……貴雅に嫌われちゃった。破局しちゃうかもぉ」

 

「貴雅兄様はそんな事ぐらいでみゆちゃんを嫌いになったりしませんわ。大丈夫です。多分」

 

「でも、怒ったもん。私に今まで見せた事がない顔で怒っていたの」

 

 私は彼に叱られた事が辛い、彼を傷つけた事実が辛い。

 

「普段、貴雅兄様は温厚で嫌な顔はしても、怒ることなんてよほどの事じゃない限りありませんわね。私も1度だけしか怒られたことがありません」

 

「私も口が悪くて、意地悪はされるけども怒られたことなんてなかった。いつも甘えてばかりいて。貴雅の事、ちゃんと理解してあげられなかった」

 

 彼氏との初めての喧嘩、どう仲直りしていいかも分からない。

 ただでさえ、私はまだ貴雅にちゃんと好きになってもらえていない。

 ……もうダメかもしれないにゃー。

 

「ほら、みゆちゃん。泣き止んでください。これから帰ってくる兄様に謝ればいいじゃないですか。きっと許してくれます」

 

「……本当にそう思う、天音ちゃん?」

 

「えぇ。私の時も時間が経てば許してくれましたもの。兄様は優しい人ですから、ちゃんとお話すれば許してくれるはずですわ。私も微力ながらお手伝いします。そうだ、まずは何か飲み物でも飲みましょう」

 

 天音ちゃんは廊下にいたお手伝いさんに何かを告げると戻ってくる。

 こういうのを見るとお金持ちのお屋敷って感じがする。

 

「ふわぁ、ああいう使用人って本当にいるんだね」

 

「普段は両親がいませんもの。家の中の掃除や食事のお世話、いつも助かります」

 

「そうなんだ。天音ちゃんも貴雅も大変だ。あっ、そうだ。天音ちゃん。上のお兄さんの話って聞いてもいいかな?」

 

 私が貴雅と喧嘩する原因にもなった家族構成のお話。

 何か微妙な関係そうなので聞くのは躊躇いがあるけれど、中途半端な情報だったから喧嘩にもなっちゃったわけで。

 私は今、貴雅の事がちゃんと知りたいの。

 

「私のお兄様は光里(みつり)と言います。光里お兄様はお父様の前のお母様の子供、つまり私とは異母兄妹になりますの。とても優秀な人なので、将来は倉敷家の跡取りとして、この家を継ぐ……はずでした」

 

「はずだった?何かあったの?」

 

「えぇ。しかし、光里お兄様は本家のお嬢様と親しき仲で、そちらの方と結婚されるかもしれない。そうなれば、倉敷家の跡取りは貴雅兄様になるんです。それがどうにも彼らの問題みたいで」

 

 こういうお金持ちの家の問題は複雑だと一般人の私でも推測できる。

 

「そっかぁ。それで、前に言っていた貴雅がこの家から出たがっているという話は?」

 

 これが問題、ちゃんと事実の裏取りが出来ていなかったから問題だったの。

 天音ちゃんは寂しそうに語ろうとする。

 

「あれはですね……」

 

「――天音、貴雅さんがこの家を出たがっているというのは本当?」

 

 突然、ふすまの向こうから聞こえた声。

 開けて部屋に入ってきたのは綺麗な女の人、貴雅のお母さんだ。

 相変わらずお若い容姿、見た目で言えば20代前半に普通に見える。

 

「あっ、お母様?どうして?」

 

「ふふっ。貴雅さんの恋人さんが来ているというからぜひちゃんとしたお話がしたくて来てみたの。そうしたら、何だかおかしな話をしているじゃない」

 

 彼女は私達の前にお茶を置いてくれる。

 使用人さんの代わりに持ってきてくれたようだ。

 

「お茶とお菓子……ありがとうございます」

 

「こうして会うのは2度目ね。貴方のお名前は初音さんだったかしら?」

 

「はい、初音美結といいます。2年生で貴雅の先輩です」

 

「私は美琴(みこと)と言うの。それにしても可愛らしい恋人さん。あの子も意外に隅に置けないわね」

 

 美琴さんは天音ちゃんに「お友達なの?」と尋ねた。

 

「そうですわよ、お母様。私とみゆちゃんは親友なんです。貴雅兄様が紹介してくれた時からお世話になっていますの」

 

「美結さん。天音は人付き合いが苦手な子です。これからも仲良くしてあげてください」

 

「分かりました。あ、あの……貴雅の事、聞いてもいいでしょうか?」

 

 私はここぞとばかりに美琴さんに質問をして見る事にした。

 大事な事は直接聞いてみないと始まらない。

 

「私も気になるわ。貴雅さんがこの家を出たがっているというのはどういう事なのか」

 

 私たちはこれまでの経緯を説明してみる。

 私としては詳しくは知らないので天音ちゃんからの情報が頼りなんだけど。

 美琴さんは情報を整理して私にも分かるように説明してくれる。

 

「そうね、まずは私達の事から話しましょうか。私は元々倉敷の人間なの。旦那とは従兄妹同士だったのよ。幼い頃から仲良くしていたんだけど、私が中学に上がる前に旦那は以前から交際していた女の人と結婚したの」

 

「従兄妹。美琴さんはその前から好きだったんですか?」

 

「えぇ、淡い初恋。年上の優しいお兄さんだったから。でも、光里君が生まれて少ししてから奥さんが事故で亡くなられたの。私が高校生に入ってちょうど美結さんぐらいの歳よ。その頃、私は高校に通うためにこの家でお世話になっていた。実家に戻ってきた彼と光里君のお世話をしたのがきっかけで私の恋も再び目覚めたの」

 

 奥さんを亡くされた貴雅のお父さんはお兄さんと一緒にこの家に戻ってきた。

 初めは従兄妹同士で中々、恋愛感情に気づいてもらえずに大変だったらしい。

 美琴さんとしては前妻の事もあるから、精神的にも大変だったろうな。

 それでも、彼女の努力も実り、彼に認めてもらえるようになった。

 

「貴雅さんが生まれたのは高校を卒業してすぐの事。その時に私は旦那と結婚したの。確かに家庭事情は複雑よ。それでも、家族の仲は非常にいいと思うわ。子供達の事は天音の方が詳しいでしょう」

 

「私から見ても光里お兄様と貴雅兄様もいい関係ですわよ?」

 

「でも、貴雅はお兄さんのお話はしたくなさそうでした」

 

「そこが、彼がこの家を出たがってる事に関わっているみたいね」

 

 私は美琴さんが入れてくれたお茶を飲む。

 緑茶は普段からあまり飲まないけど美味しい。

 貴雅がどうしてお兄さんの話をしたくなかったのか、その理由は一体何なの?

 天音ちゃんは家を出たがっているという話の詳細を話し出す。

 

「貴雅兄様は以前から倉敷の家を好きじゃないみたいですの。自分はこの倉敷家にふさわしくないって昔に言っていましたから。彼は“こちら”の世界を否定する事も多いですし、性格的にもあわないんでしょう」

 

「……彼なりに血筋を気にしているみたいだけど、気にする事なんて何もないわ。ちゃんと彼は倉敷の人間。親族だって反対する人間もいない」

 

 美琴さんは「それはあの子だって理解しているはず」と首をかしげる。

 

「それ以外の理由ではないんでしょうか?」

 

「それ以外?例えばどのような理由があると美結さんは思う?」

 

「貴雅にはこの倉敷の家を継ぐという以外になりたい夢があったりとか」

 

 家柄というモノに縛られたくない、未来を自分で決めたい。

 貴雅にはそういう何か事情があるように私は考える。

 

「私にはその発想はありませんでした。兄様はてっきりこの家が嫌いなだけだと……。そうですわね。こちらが勝手に決め付けるのはよくありませんわ。真実は兄様の心ですもの」

 

「美結さんの言う通り、貴雅さんにも何か事情があるのかもしれない。でも、普段からあの子は私達にそのような話をしないもの。だけど、彼が出て行くつもりならば寂しいわね」

 

 ……うーん、貴雅って何を考えているのか分からない。

 しっかりしているので色々と考えてはいるんだろうけどなぁ。

 

「私の方から聞いてみます。こういう話って家族よりも他人の方が話やすいと思いますから……。すみません、他人なのにこんな事を聞いてしまって」

 

「いいのよ。貴方は貴雅さんと交際している。気になる事もあって当然だもの。私もそうだけど、好きな人の事を知りたいと思うのは当たり前の事でしょう。特に付き合い始めなら、なおさらね」

 

 美琴さんは気さくな人のようで、結構話しやすい。

 物分りもいい人で、私としてはホッと一安心できる事でもある。

 貴雅の事、やっぱり、彼本人に聞いてみよう。

 そうじゃなければ、私達はこのままダメになりそうな気がするの。

 

「次は美結さんと貴雅さんの交際について聞かせてもらえないかしら?」

 

「え?私と貴雅の、ですか?」

 

「そう。貴雅さんが女の子を家に連れてきたのは初めてだったもの」

 

 子供の恋愛に興味があるのは母親として当然なのかも。

 ちょっと嬉しそうな美琴さんに天音ちゃんはすかさず言う。

 

「お母様、初めてではありません。兄様の前の恋人は性格が悪い女の人でした」

 

「あら、そうなの?あの子もそれなりに恋愛していたのねぇ。全然、そんな事を話してくれないんだもの。つまらないわ」

 

 ……思いっ切り拗ねてるよ、美琴さん。

 そんなわけで私は彼女に貴雅との出会いからこれまでの事を話をする。

 照れくさいけど、美琴さんは興味深そうに貴雅の事を聞いていた。

 何ていうか、貴雅の優しさはきっと優しい家族に囲まれて育ったからだと思うんだ。

 私たちが雑談に華を咲かせていたら、結構な時間になっていた。

 

「……もうこんな時間。そうですわ、美結ちゃん。今日はうちに泊まっていきません?ねぇ、お母様、いいでしょう?」

 

「ふふっ。天音はよほど美結さんの事が好きなのね」

 

 時計を見ればそれなりの時間、まだ貴雅は帰ってきていない。

 天音ちゃんの誘いは嬉しいけど……。

 

「私は親に連絡さえすればいいんですけど。でも、いいんでしょうか?」

 

「もちろん、歓迎するわ。美結さんはとても素直な子、気に入ったもの」

 

 そんなわけで、私は今日はお泊まりすることになりました。

 天音ちゃんはこっそり、「兄様と仲直りできるといいですわね」と耳打ちしてくれる。

 貴雅と早く仲直りしたい……できるといいなぁ。

 

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