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第20話:初喧嘩しちゃった!?

【SIDE:初音美結】


 地雷を踏む、と言う表現がある。

 誰にだって他人に触れられたくないものくらいあって。

 私は貴雅の過去という地雷を踏んでしまったらしい。

 

「……みゆ先輩、それ以上は踏み込むな。これ以上、俺は話すつもりはない」

 

 私に強い言葉で牽制する貴雅、そんな彼を今まで見たことなくて。

 

「た、貴雅?」

 

「好奇心旺盛な性格は知っているが、人を不愉快にさせてまで知りたいと思うか」

 

 冬の肌寒さ以上に彼に嫌われてしまった現実に身体が震える。

 私は彼を怒らせた、それだけが事実だ。

 どうして普段、温厚な貴雅が怒っているのか。

 その事件は今から数分前にさかのぼる。

 

 

 

 

 学校の食堂でいつものように食事をした後、中庭でジュースを飲みながら雑談する。

 天音ちゃんの事件解決後も私と貴雅の接点というのはテスト期間中なのでこの時間しかない。

 

「もうすぐテストだね。それが終わったらデートだ♪」

 

「……終わる前から余裕だな。みゆ先輩って頭はいい方なのか?」

 

「まぁね。こー見えても、勉強は得意なの」

 

 うちの学校は進学校、学力のレベルが高いので上位の成績に入るのはかなり厳しい。

 なんて言いつつも、私は中学の頃は学年トップも取れた事あるけど、今じゃ10以内に入るのが精一杯。

 上には上がいるわけで、もちろん現状でも大したものだと自負しているけどね。

 

「最近、天音と遊んでばかりいるから心配していたんだ」

 

「テスト期間中だからって勉強はおろそかにしてないよ。天音ちゃんと遊んでいる時間くらいはあるもの。貴雅はまだ1年生なんだからそんなに真剣に頑張らなくてもいいじゃん。もう少し、肩の力を抜けば?嫌でも3年になれば受験勉強で大変なんだし」

 

「その発言は余裕のある人間の台詞だな。俺はそこまで賢くもないし、余裕もない」

 

 これは小夜子経由で聞いたんだけど(情報源は絵美さん)、貴雅は目指している大学があるみたい、そこにいくために日々努力していると言うわけらしい。

 まぁ、テスト前に遊ぶ余裕がないのは当たり前だけど、どうにも彼には余裕がなさ過ぎる気がするの。

 成績が悪いわけじゃないのに、何かに焦っているようにさえ見えてしまう。

 

『……みゆちゃんがいれば貴雅兄様も“こちら”にい続けてくれるかもしれませんわ』

 

 そして、天音ちゃんが数日前に呟いた発言。

 その真意を確かめることはできなかったが、何かワケありな雰囲気はあった。

 こちらにい続けるという言葉、つまり彼はここからどこかに行く可能性があるという事。

 それが大学進学という意味ならば普通のことで特別な事じゃない。

 ただ、うちの学校だと地元にそれなりにレベルの高い大学があるので、卒業後はその大学に進学と言うケースが圧倒的に多い、割合的には6割ぐらいかな。

 もちろん、他の大学に進学や、さらに上のレベルの大学へ進学する子もいる。

 私は地元を離れる気がないので、このまま地元の大学に進学するつもりだ。

 貴雅は違うのかもしれない、うぅ、まだ先の話だけど気になるなぁ。

 直接、聞いてみようかな?

 んー、でも、答えてくれるかどうかは分からない。

 彼氏の事が気になるのは恋人として当然とはいえ、直接聞くのは難しい。

 

「……ねぇ、貴雅のお兄さんってどんな人なの?」

 

 直接聞くより前に情報収集として別の質問をする。

 それがまさかの“地雷”を踏むなんて思ってなかったんだ。

 

「俺の兄貴?また何でそんな質問をしてくるんだよ」

 

「え?あ、ほら、天音ちゃんからよく聞いてるし。いいお兄さんなんでしょ?」

 

 その質問に明らかに貴雅の表情が強張った気がする。

 後になって思えばそこで止めておけばよかったんだ。

 

「……そんな事は天音に直接聞けばいい」

 

 彼から珍しく素っ気無い答えが返ってきた。

 いつもと違う反応に私はさらに尋ねてしまう。

 

「貴雅から教えてくれてもいいじゃない?大学生のお兄さんでしょう。貴雅に似ているとか、そう言うの聞いてみたいだけなのにー。むぅっ。何か貴雅が冷たい」

 

「そんなの知ってどうする?滅多に家に帰ってこないからみゆ先輩が会う機会はない。それでなくても忙しい人だ」

 

「あ、別に会いたいわけじゃなくて。ただ、聞いてみただけで……」

 

 何だろう、お兄さんの事を尋ねただけなのに不機嫌気味。

 お兄さんが嫌いなのかな。

 ううん、別に天音ちゃんからそう言う話は聞いていないし。

 仕方ないので、そこでお兄さんに対しての追求をやめる。

 時計を見れば昼休憩が終わるまであと15分くらい。

 私は話題を変えようと他の話題を探す。

 そうだ……貴雅のお母さんの話も興味あるんだ。

 

「それにしても、貴雅のお母さんってすごく美人で綺麗な人だったね」

 

「……それ、もしかしてわざと言ってるのか?」

 

「ふみゅ?わざと?私、変な事言った?」

 

「いや、何でもない。俺の勘違いだ」

 

 さらに不機嫌度UPしちゃったご様子、何が悪いの?

 もしや家族ネタは話題にしない方がいいのかな?

 

「うちの母親は華道の先生なんだよ。何流って言ったのは忘れたが、本職だ。よくそれで仕事に出かけたりしている。暇な時には妹に教えているわけだ」

 

「へぇ、すごいんだ。そういえば……あれ?」

 

 私は何かに引っ掛かりを感じて言葉を止める。

 何だろう、私、この流れで何かマズイ物に気づいた気がする。

 

「どうした、みゆ先輩?そんなマヌケな顔をして」

 

「どんな顔しているっていうのよ。そうじゃなくて、うーん、何だっけ?」

 

 私は以前、彼女と出会った時の会話を思い出す。

 何かが気にかかる、抜けないトゲのように何か大事な事に引っかかってる。

 

『見た目の事でみゆ先輩に言われるのはどうかと思うが。見た目は若いがちゃんとした実母だ。まぁ、俺を生んだのが18才の頃だっていうからな。年もまだ若い』

 

 ……そうだよ、貴雅のお母さんって18才の時に貴雅を生んでるという事はもちろん、彼の兄はそれよりも前に生んでいるはず、それより前って……あー、これ、何か聞いちゃいけない話題な気がするにゃ。

 

「お、お兄さんとはいくつ歳が離れていたんだっけ?」

 

「俺より5つ上の21歳、大学3年生。これでいいか?」

 

 引っかかっていた謎は私にひとつの答えを与える。

 そうか、貴雅がお兄さんの事を話したくない理由ってこれかな。

 

「――もしかして、上のお兄さんとは血が繋がっていないの?」

 

 私のこの言葉がふたりの間に亀裂を生む。

 

「……違ったかな?」

 

「いや、その通りだ。俺の母は後妻だからな。兄貴とは異母兄弟という事になる。天音とは実兄妹だが、兄貴とは半分しか血の繋がりが無いな」

 

 淡々と静かに言う彼にこれ以上は“いけない”と言う気はしていた。

 こういう家族の話題に踏み込む事がいけないことくらい分かっていた。

 なのに私は好奇心を押えきれずに言葉を続けた。

 

「それって、貴雅があの家を出たがっているのと関係あるの……?」

 

 勝手な憶測だけど、私は貴雅のことを知りたい。

 

「俺がいつ、そんな事を言った?少なくともみゆ先輩の前で言った覚えはない」

 

「天音ちゃんから聞いたの。ここを離れるつもりなんでしょ?どうして?」

 

「……さぁ、そんな予定はないから答えようがないな」

 

 誤魔化されたとはっきり分かる。

 それは地雷のような触れてはいけないもの。

 

「何よ、私にだけは教えてくれてもいいじゃない。私は恋人だもの、知りたいと思う」

 

 私はよく周囲が見えていないと言われる、いつも真っ直ぐ前しか見ていない。

 その時、貴雅がどんな表情をしていたのか見ていなかった。

 

「……みゆ先輩、それ以上は踏み込むな。これ以上、俺は話すつもりはない」

 

 低い声で私を叱り付けるように貴雅は言う。

 

「た、貴雅?」

 

「好奇心旺盛な性格は知っているが、人を不愉快にさせてまで知りたいと思うか」

 

 彼は私に対して怒っていた。

 いつもは優しさに溢れる瞳に怒りの感情が込められていたの。

 感情的にではないけれど、その怒りに私はシュンッとしてしまう。

 

「ご、ごめんっ。私、変な事を……」

 

「休憩終了だ、俺は戻る。今日も放課後は絵美に勉強を教わるつもりだから。じゃぁな」

 

 彼は早口でまくし立てるように告げると身を翻してしまう。

 

「貴雅、待ってよ。わざとじゃないの、ホントにごめんっ」

 

 貴雅はいつも悪口は言っても優しくて、こんな態度は見せた事もなかった。

 私が悪い事をしても仕方ないなぁ、とか言って許してくれるのが常だった。

 

「……みゆ先輩、服を離してくれ」

 

 私は彼の制服のすそを掴んで引き止める。

 このまま別れたら、気まずい展開になりそうで必死だった。

 

「だったら、私の話も聞いてよ」

 

「また今度な。今は休憩終了、話なら次の機会にしてくれ」

 

「今じゃなきゃダメなのっ……あっ!?」

 

 彼が私の手を掴んで無理やり制服から離させた。

 元々、彼と私の身長差は約40センチ、大人と子供ぐらいある。

 私の抵抗なんて最初から意味がないのは分かってる。

 彼に掴まれた手、何だか知らない男の子みたいで怖かった。

 貴雅は何も言わずに手を離して振り向きもせずに歩き出す。

 

「……貴雅……ぅっ……」

 

 ど、どうしよう。

 これって喧嘩……だよね?

 初めて男の子とこんな険悪な雰囲気になってしまい、私はショックを隠しきれない。

 

「私のせいだ、私が余計な事を言ったから」

 

 貴雅に嫌われちゃったらどうしよう!?

 うぅ、これで破局とかしちゃうかも、とか嫌な事ばかり考えてしまう。

 あんな風に怒った貴雅を見たのは初めてだった。

 初喧嘩に私は戸惑いながらも、自分の事ばかり気にしている自分に気づく。

 

「そうだ、違うじゃない。私が彼を傷つけたんだ……」

 

 誰もいなくなった中庭に私は授業の始まるチャイムが鳴り響いても動けずにいた。

 自分のした何気ない行いが恋人を傷つけたと言う事実に泣きそうになっていたから。

 うぇーん、私のバカぁ……どうすればいいのぉ。

 

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