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第1話:ラブレター救出作戦

【SIDE:倉敷貴雅】


 謎の美少女が書いたと思われるラブレター。

 それは風の悪戯で木に引っかかってしまった。

 少女は放っておいてと言っていたが中身が気になる。

 俺はホウキを一本、入手して手紙の落ちた中庭へと向かう事にした。

 

「えっと、あの廊下の場所からだとこの辺だと思うんだが……」

 

 俺が引っかかる木を探していると目の前に先ほどの少女の姿が見えた。

 

「うぅ~っ。あんなの届くわけないじゃんっ!」

 

 一生懸命背伸びしたり、跳ねてみたりとチャレンジしている。

 だが、身長の低い彼女では到底届かない場所に手紙はある。

 上手い具合に引っかかって多少の揺れでは落ちそうにない。

 

「……人に帰れといっておきながら、やっぱり気になっていたのか」

 

 自分の書いたラブレターを放置する恥ずかしさもあるのだろう。

 俺が同じ立場ならきっとそうしている。

 彼女は木の枝と睨めっこ状態だ。

 俺のようにホウキを使うというのは頭にないのか?

 しばらくすると彼女は振り向いて歩き出す。

 

「……ん、もう諦めるのか?」

 

 と思いきや、助走をつけて走り出した。

 垂直に見事なジャンプを決めて木に登る。

 

「ホントに猫みたいな女の子だな」

 

 身軽なのかひょいっと木に登る彼女。

 だが、そこで問題は起きていた。

 スカートの端が見事に枝に引っかかっている。

 真下からはパンツが見放題な状況。

 イチゴ柄パンツ……歳不相応な下着に俺は何とも言えない。

 見た目(外見が小学生)には合ってるので、よしとするべきなのか。

 

「う、うわぁ、どうしよう!?」

 

 そんな場面で彼女は俺に気づくのだ。

 せめてもう少し後で気づいて欲しかった、いろんな意味で。

 

「ば、バカッ!こっち見るな、下着を見るな、変態っ!!」

 

「見せ付けているのは誰だ?おい、右手を離したら落ちるぞ?」

 

「……うるさいっ。私は……あっ!?」

 

 言ってる傍から、片手を離してバランスを崩してしまう。

 パンツうんぬんと言ってる場合ではない。

 

「きゃーっ!?」

 

 そのまま彼女は俺の方へと木から落ちる。

 本当に世話のかかるお嬢ちゃんだ、しょうがない。

 地面を駆けて滑り込むように彼女の身体を受け止める。

 だが、想像しているよりも勢いのついた人間の身体を支えるのは難しい。

 

「ちっ、このままじゃ……」

 

 受け止めはしたが勢いを止めきれない。

 ホントにこの子と俺はさっきからこんなのばっかりだ。

 だが、相手は女の子、無傷で守ってやるのが男の子ってもんでしょ。

 俺は地面に身体をぶつけて少女の身体を衝撃から守る。

 

「ぐはっ……」

 

 ギリギリセーフとは言え、地面に打ちつけた背中が痛む。

 俺は彼女を抱え込んだまま倒れこんでしまう。

 かろうじて無事なのはいいんだが、少女の反応はない。

 俺は声をかけようとするが、その前に何やら手の平に不慣れな感触がある。

 

 ぽにゅんっ。

 

「……は?」

 

 予想外の感触に俺は驚きを隠せなかった。

 揉み、揉み、揉み……この手に感じる柔らかでボリュームのあるものは何だ?

 な、なんだ、これは……片手に収まりきらないこの膨らみは何なんだ!?

 

「……ぁっ……んんっ……」

 

 少女の甘い声に現実に引き戻される。

 ありえない、制服を着ていた見た目には分からなかった。

 だが、しかし、この手にある感触は紛れもなく本物……この華奢な身体に不似合いすぎる。

 そんなバカな、俺は幻でも見ているというのか?

  

「……って、いつまで人の胸を揉んでるのっ!変態ッ!!」

 

 少女は俺にヘッドバッドを食らわせる、後頭部が鼻に直撃して普通に痛い。

 

「痛いじゃないか。助けてあげた恩人に何たる仕打ちだ」

 

「うっさい!人の胸を揉みまくった変態なんか死んじゃえっ!」

 

 俺から逃げるように起き上がると彼女は自分の胸を隠すように押えた。

 

「うぅっ。誰にも触らせた事なんてないのに……」

 

 俺も起き上がると威嚇するようにこちらを睨みつける彼女(の胸)を見る。

 よく見れば確かにその膨らみは立派なものだ。

 しかし、その幼さ全開の体格に似合わないその魅惑の膨らみ。

 俺はハッとあの噂を思い出した。

 

「……なぁ、アンタってもしかして身長146センチ?」

 

「は?そうだけど、何よ?何で貴方が私の身長知ってるの?」

 

 不思議そうな顔をして答える彼女。

 間違いない、彼女だ……あの男子諸君の噂の存在。

 

 “コードネーム『146-86』”。

 

 身長146センチながらも、バストサイズ86センチというナイスなボディ、見事なアンバランスがその魅力を溢れさせている。

 コードネーム『146-86』というのは、噂していても女子に気づかれないためだ。

 学園男子が憧れてやまない“ロリ顔巨乳の美少女”が目の前にいる。

 というか、これで俺よりも1つ上の高校2年の先輩だという事が信じられない。

 

「もう、最悪……私、帰るから」

 

「ちょいと待って。ラブレターはいいのか?」

 

「あんなのどうでもいいしっ!私に近づくな、変態!!」

 

 警戒されている様子だ、不可抗力だというのに。

 

「……あんなのって、自分で書いたラブレターだろ?渡す相手もいたんじゃないか」

 

「ふんっ……」

 

 彼女は怒ったままこちらを睨みつける。

 だが、身長差のせいだろうか、全然迫力がない。

 むしろ、猫が必死に威嚇しているようで可愛い。

 

「貴方の名前と学年を答えなさい。早くっ!」

 

「何で?俺に興味でも持ったか?」

 

「えぇ。セクハラされたって風紀委員に訴えてやる」

 

「ひどっ!……って、おい。こらっ」

 

 いきなり俺の胸ポケットに入ってる学生手帳を奪われた。

 無理やり奪い返す事も出来ずに、彼女は俺の名前を読み上げる。

 

「1年2組、倉敷貴雅……変わった名前?」

 

「そう。たかまさって名前、結構カッコいいだろ?自分でも気に入ってるんだよ」

 

「どうでもいいし。はい、返す。名前は覚えた、仕返しは覚えておいて?」

 

「それはマジで勘弁してくれ。アンタを怒らせたのは謝るからさ」

 

 それにこっちは手を軽くすりむいて怪我してるんだ。

 落下を守ってあげたお礼くらい言ってもいいじゃん、いや、お礼はすでにもらったか。

 顔がにやけるの堪える俺に彼女は言う。

 

「どうせ、貴方も私の事なんて――しかないって思ってるくせに」

 

 小さく言葉にされた声、何を言ったのかは聞き取れなかった。

 寂しそうに何かを告げた彼女は今度こそ、俺の視界から姿を消した。

 

「さぁて、どうしますかね」

 

 とりあえず、俺は木に引っかかるラブレターを救出してやる事にする。

 ホウキで何度か木の枝を揺するとラブレターは俺の手元にひらりと落ちてきた。

 宛名も差出人もないラブレター。

 回収し終えたので、中身は後で見る事にしよう。

 

「……おい、貴雅!お前、こんな所にいたのか?」

 

 男の声に振り向くと呆れた顔をする翔馬の姿がそこにある。

 しまった、完全にアイツの事を忘れていた。

 

「携帯取りにどれだけかかってるんだと思ったら、ここの掃除かよ」

 

「先生に頼まれて断れなかった。すまん、メールでもすればよかったな」

 

「……ったく、しょうがないな。さっさと終わらせてゲーセンに行くぞ」

 

 適当に掃き終えて、俺はその場を誤魔化す事にする。

 ホウキを片付けた俺は翔馬にたずねる事にした。

 

「なぁ、噂の『146-86』って美少女。本名は何ていうんだ?」

 

「おっ、興味でも持ったか?ロリ顔巨乳だもんな。男なら興味は持つだろう」

 

「まぁな。で、先輩の名前を教えてくれ」

 

「初音美結(はつね みゆ)。“みゆ先輩”って呼ばれる事が多いぞ」

 

 みゆ先輩……?

 名前も可愛らしい、ぴったりな名前だな。

 

「胸のデカさも一流ながら、その容姿も可愛いっていうだけあって人気も高い。だが、気が強い性格らしくて、告白されても断る事しかしない。まさに難攻不落の要塞だ。あんな子に好かれたら幸せになれるだろうなぁ」

 

「……そんなものか」

 

 俺は彼女の去り際の表情を思い出していた。

 寂しそうな横顔を見せたあの子、ただ気が強いだけには見えない。

 

「貴雅も本人と会えばきっとその魅力が理解できるさ」

 

 実際にあってはいるんだけどね、しかも、胸の方も確認済みだ。

 などとは口に出していないので軽くはぐらかす。

 俺はこっそりとラブレターを鞄にしまい込んだ。

 これが本当にあの子が書いたものか、それは分からない。

 誰かにもらったものなら“返す”という名目でまた会えるのではないか。

 どちらにしろ、接点は残り続けている。

 そうだ、俺はすっかりと彼女の魅惑にハマりつつあった。

 もう1度会ってみたい、そう思っている。

 “コードネーム『146-86』”との出会いは俺の心を突き動かす。

 ……みゆ先輩、またお近づきになりたいものだな。

 

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