第18話:恋は経験、いざ勝負!
【SIDE:初音美結】
なぜか小学校に侵入するという任務を終えた私は天音ちゃんに報告する。
まずは小学校の制服を着替えるために再び自宅に戻った。
今日は華道のお稽古があると言っていたので、ちょうどいい時間になっていた。
「ん、みゆ先輩?またうちの妹にようか?」
ちょうど彼女の家の玄関前で貴雅に会う。
制服姿という事は今、学校から帰ってきたんだ。
「貴雅~っ!」
久しぶりだからつい嬉しくて私は抱きついた。
最近はテスト勉強で中々会えなかったんだよね。
大好きな恋人の温もりにへこんでいた気持ちがちょっと回復。
「……相変わらずだな、みゆ先輩」
「むぅ、恋人に対して冷たい反応。ハッ、まさか私の知らない間に元カノとの距離を縮めていたりして?私を捨てないで」
元恋人と図書室でふたりっきりというシチュエーション。
恋人の浮気を疑いたくないけど複雑な心境です。
「人聞きの悪い事を言うんじゃない。絵美とは普通に教えてもらってるだけだ。心配するな。で、我が家に来たのは俺に用事じゃないんだろ?」
「天音ちゃんに会いに来たの。でも、貴雅にも会いたかった」
「ありがと。そういや、天音の様子がどうもおかしいんだが何かあったのか?」
貴雅は妹の恋に気づいていないみたい。
天音ちゃんの秘密でもあるので私は隠し通す事にした。
「……ひ・み・つ♪」
「俺に秘密なんてみゆ先輩のクセに生意気だ」
むにーっと軽く私の頬を引っ張って貴雅は笑う。
「にゃ、にゃにをするのよ~っ」
「ほら、さっさと素直に喋ったらどうだ?」
「うぅ、天音ちゃんとの約束だから話したくないの」
それには仕方ないと諦めたのか彼は私の頬から手を離す。
「なるほど。みゆ先輩、俺は彼女が他人にもっと心を開いて欲しいと思っている。みゆ先輩と友達になってから少しずつ変わっていると思うんだ」
「任せて。ちゃんと責任もって私が天音ちゃんを支えてあげる」
貴雅は「みゆ先輩に感謝する日が来るとは……」と褒めているだかよく分からない。
「貴雅はいつも一言が余計なの!私だってやる時はやるんだよ」
「……信頼しているけどな。なぁ、みゆ先輩。今度の日曜日は予定あるか?」
「ふみゅ?別にないけど、って……次の日曜日はクリスマスイブじゃん」
そういえば、期末テストが終われば楽しい冬休み。
そして、迫るのは恋愛イベントのクリスマスイブだった。
今年は彼氏ができて初めてのクリスマスだからめっちゃ楽しみ~。
「も、もしかしてデートのお誘い?」
「そうだ。恋人同士だし、何も用事がないなら一緒に過ごすか?」
「もちろんっ。楽しみにしてるからね。やったぁ!」
貴雅って私の事を子ども扱いばかりして全然恋人として接してくれていないけど、こういう所の優しさは大好き。
クリスマスデートの約束に私は気分をよくする。
「それじゃ、予定の方はこちらで立てておくよ。みゆ先輩も何だか分からないが、天音の事を頼むぞ。そろそろ、華道の稽古の時間も終わりのはずだ。ついてきてくれ」
貴雅はそう言うと家の中へと案内してくれる。
相変わらず大きなお屋敷、通されたのはいつもと違う客間、静かな室内で部屋から一人の女性が出てくる。
「あら?貴雅さん、女の子連れとは珍しいですわね?」
「紹介するよ。一応、これが俺の恋人。こう見えてもひとつ年上の先輩だ」
「そうなの。可愛らしい女の子ですね。お嬢さんのお名前は?」
女性に尋ねられたので私は「初めまして、初音美結と言います」と挨拶する。
綺麗な女の人だけど、天音ちゃんの華道の先生かな、それともお姉さん?
「そう。初音さんと言うの。貴雅さんをよろしくお願いしますわ」
美しい笑みと書いて“美笑”と読みたくなる微笑みを見せると、彼女は廊下を歩いてく。
うわぁ、物腰の柔らかい上品な美人さんだったな。
「……誰?天音ちゃんの先生?結構、若くて美人な先生だね」
「いや、あれは俺の母親。天音に華道を教えているのは母さんなんだ」
「へぇ、貴雅のお母さんだったんだぁ……って、貴雅のお母さん!?見た目的にどう見てもお姉さんにしか見えなかったんだけど?もの凄く若くない?あれでホントに人妻なんだ?」
子供がいるなんて思えない容姿だったのでびっくり、普通にお姉さんだと思っていた。
天音ちゃんに似ている気がしたから、貴雅は父親似なのかも。
「見た目の事でみゆ先輩に言われるのはどうかと思うが。見た目は若いがちゃんとした実母だ。まぁ、俺を生んだのが18才の頃だっていうからな。年もまだ十分に若いはずだ」
……18歳の時って、若いなぁ……あれ、何か引っかかる?
「……そうなんだ。びっくりした。あっ、それなら私もちゃんと挨拶しておけばよかった。どうしよう、私、自己紹介もちゃんとしてないよ。せっかくのアピールチャンスがぁ」
「名前だけで十分だろ。その辺は俺が説明しておくしきにするな」
あぅ、こういう第一印象って結構大事だと思うんだけどなぁ、残念……。
部屋のふすまを開けると中には着物を着て、生け花をする天音ちゃんがいる。
黙っていれば気品溢れるお嬢様。
こういう仕草や行いがすごく様になっている。
「天音、みゆ先輩が来てくれたぞ。俺は部屋に戻るからあとはよろしく」
「はい、貴雅兄様。みゆちゃん、来てくれて嬉しいですわ」
貴雅が部屋から出て行くのを確認して私は結果を報告する。
「頑張って小学校で色々と聞いてきたよ」
「本当ですの!?さすが私の親友のみゆちゃん、ありがとうございます」
私の手を握り、嬉しそうな顔で言う天音ちゃん。
その顔を曇らせるかもしないと思うと気が重い。
「……で、どうでした?川相君は私の事をどう言ってました?」
「えっと……それは……」
私が言いよどむと彼女は苦笑いを浮かべながら、
「その反応はあまりよくなかったみたいですわね。いいんです、私の評価は自分でも大体把握しているつもりですもの。どうせ、皆さんから『あのお嬢様は生意気だから嫌い』とかそんな程度の反応だったんでしょう」
「天音ちゃん……」
「そんな顔をしないでください。私が普段からちゃんとしていないのが悪いんです」
そう言いながらもやはり客観的な事実にはショックのようだ。
顔を俯かせてしまう天音ちゃん。
私は思い出したように小林君の話をしてみる。
「でも、ちゃんと天音ちゃんの事を理解してくれている子もいたよ。ほら、小林君って男の子がいたでしょう。あの子とも話したんだけど、天音ちゃんの事を……」
「小林君なんてどうでもいいんです。私が気になるのは川相君だけですもの」
小林君、残念……いい子なのに天音ちゃんには眼中にもないらしい。
絶対、あの軟派男より小林君の方がいいはずなのに。
「……私、決めましたわ。明日、勝負してみます」
「え?告白しちゃうの?」
「ダメならダメで諦めが付きますわ。私、今まで告白もした事がありません。けれど、逃げてばかりいたくない。自分の思いにけじめをつけてあげたいんですの」
この数日で天音ちゃんは自分の中でそれなりの変化があったみたい。
「……明日の告白、みゆちゃんも付き添ってくれませんか?」
「また小学校に潜入?あれはもう嫌なの」
「お願いしますっ。天音ちゃんだけが頼りなんです」
潤んだ瞳で私を見つめてくる彼女のお願いだけは断れない。
意気込みを見せる天音ちゃん、恋は経験、いざ勝負!
翌日の放課後、私は再び小学校の制服を着て、校舎内にいた。
「――私はただ駆け抜けるだけ……!」
またまたどこかの人の名台詞風に私は覚悟を決めて小学校に突入。
ここまできたら恥は我慢です。
天音ちゃんは緊張した面持ちながら、川相を呼び出すことに成功したらしい。
「……みゆちゃんは初めて告白した時、どうでしたか?」
「緊張したし、受け入れてもらえるかどうかすごく不安だった」
「ですわよね。私も不安ですの。でも、ダメとか考えるより、まず行動しておきたい。私は恋に挑戦してみたいんですわ」
今日の天音ちゃんはすごく前向きだ。
冬の寒さに負けないように身体を震わせながら、私は少し離れた場所で待機。
ここで影に潜みながら私はふたりの会話を聞く事にする。
すぐに川相が来ると天音ちゃんは顔を赤らめる。
あんな男のどこがいいのか、絶対、付き合えても痛めを見るに違いない。
「倉敷みたいなお嬢様に呼ばれるとは驚いたよ」
「……川相君にお話があって呼びましたの」
「ちょうどいい、俺も倉敷に聞きたいことがあったんだ」
「私にお話が?それでは、そちらから先にどうぞ」
天音ちゃんは緊張からか告白を後回しにするみたい。
川相は私たちの予想していなかった言葉を告げる。
「昨日、学校をうろついていた美少女って倉敷の友達?この学校の子じゃないよな?」
「え?あ、あぁ。みゆちゃんですね、彼女は私の友人ですわ。本当は違う学校の子ですの。昨日はワケあって、この学校に遊びに来ていただけですわ」
「……実は昨日あの子と会って話をしてたんだけど、俺、かなり気に入ったんだよ。倉敷の知り合いって言うのなら紹介してくれないか?ぜひ、もう1度会いたいんだ」
あのおバカっ、天音ちゃんに何という事を!!
川相の言葉に彼女は状況を把握できていない様子。
「え、え?それはもしかして、川相君はみゆちゃんが好きという事ですの?」
「気になるってだけだ。可愛い子だし、結構気が強い。俺の好みって気の強い子なんだよ。俺の周りにいる連中って、ちやほやされるだけで、はっきり言って恋愛対象にならない。俺にはっきりモノを言える子が好きなんだ」
「……っ……!」
――告白する前に、その恋が終わってしまう。
まさかアイツが私に好意を抱く結末は完全な予想外。
「みゆちゃんには付き合ってる男の子がいますわ」
「それっぽいな。昨日のあの態度を見れば何となく分かる。でも、もう1度会いたい。人を好きになるのってこういう気持ちなのかもしれないな」
こいつが少しだけ真面目なのは分かったけど、気づかぬうちに天音ちゃんをグサリと傷つけているのは許せない。
静まり返る中庭、やがて、天音ちゃんはにっこりと微笑を浮かべた。
「……みゆちゃん、お呼びですわよ」
彼女は私の方を向いて、私を呼び出してくる。
こんな事になるなんて思いもしていなくて、私は出て行こうか迷う。
「来てください。川相君が話をしたいそうですの」
「天音ちゃん……」
「何だ、今日も来ていたんだ。また会えたな、みゆ」
私が出て行くと川相は嬉しそうな顔をする、呼び捨てにするなバカ男。
それよりも、私は1番やってはいけない事をしてしまった気がした。
彼女の恋を応援しておきながら、彼女の恋を潰してしまうなんて。
「あ、あのね、天音ちゃん」
「……私はお邪魔ですわね。あとは任せますわよ、みゆちゃん」
「今から説明すればまだ間にあうって」
「いいえ。もういいんです、これが結果と言う事ですもの。明らかな答えでしょう」
そう言って私の横を過ぎ去る天音ちゃん。
告白は無意味だと悟り、涙ぐんでいたその横顔に私は振り向いて止めようとする。
「――天音ちゃんっ!」
だけど、走って逃げてしまう彼女を追いかける事はできなかった。
どうしよう、私……天音ちゃんを傷つけちゃったよぉ。
私は目の前のニヤけたバカ男を睨みつける。
とりあえず、こいつだけはお姉さんが粛清してやんよっ!!