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第17話:ロリ先輩の本領発揮

【SIDE:初音美結】


 私は天音ちゃんの恋を本格的に応援する事にした。

 私は彼女の恋愛を教える先生なの。

 最近はほぼ毎日、彼女の家に行き友人として仲を深めている。

 親しくなってからは毒舌っぷりも影を潜め、天音ちゃんは可愛らしい一面を見せてくれる。

 天音ちゃんは常に家では着物を着ているみたい。

 昔からの習慣らしいけど、礼儀作法もしっかりしている本物のお嬢様だ。

 私は彼女の部屋でいつものように雑談を交わす。

 今日の話題は貴雅のこと、正確に言えばこの倉敷家についての事だ。

 

「……でも、前に貴雅に聞いたら倉敷って普通の家と変わらないって」

 

「貴雅兄様は以前からこの倉敷という家柄があまり好きではないみたいですの。実際は大財閥の分家でちゃんとした家柄ですもの。この辺り一帯はお金持ちの家が集まってますが、その中でもトップクラスですわ」

 

「へぇ、倉敷って本当にすごいんだねぇ」

 

 やっぱり、これだけのお屋敷を持つだけの家ということ。

 なぜか貴雅は家のことについて触れられたくないらしい。

 お金持ちだって事も気にしていたみたいだし。

 それに比べて、天音ちゃんは本当に我が侭好き放題で育てられたお嬢様。

 自分の家柄もしっかり自慢、ステータスとして誇りを持ってる。

 

「そうだ。そろそろ、天音ちゃんの恋の話を聞かせてよ。相手はどんな子なの?」

 

 まずはどういう子が好きなのか尋ねてみる。

 

「相手は同じクラスメイトの男の子ですわ。川相英信(かわい ひでのぶ)というカッコいい子なんですの。ほら、写真もありますわよ。この人が私の好きな相手ですの」

 

 彼女が机の引き出しから取り出したのは数枚の写真だった。

 サッカーボールを蹴る男の子、女の子にモテそうな子だ。

 

「この子が天音ちゃんの恋の相手なんだ?」

 

「えぇ。以前にクラス対抗でサッカーの試合をしている彼の姿を見て一目惚れしましたの。クラスの女子からも人気があるみたいですわね。とても男らしい子ですのよ」

 

 小学生ながらも、しっかりとした顔つき、これは将来有望かも。

 

「あれ?隣の子は?」

 

 私が気になったのはその隣に写る別の男の子。

 カメラ目線というか、明らかにこちらを見て写っている。

 写真を撮っていた天音ちゃんを見ていたのだろうか。

 

「あぁ、その子は小林周介(こばやし しゅうすけ)。私の隣の席の男の子ですの。彼も優しくて気配りできる良い子ですけど、川相君と比べて見劣りしますわ。ふたりとも地元のサッカー部に所属しています」

 

 そーかなぁ、私的にはこちらの子の方が天音ちゃんに合いそうな気がする。

 外見で決め付けるのも何だけど、私は川相と言う男の子が好きにはなれない。

 小学生のくせに、いかにも、女の子慣れしてそうで軟派な嫌な感じを受けた。

 その分、こっちの子はピュアそうだし。

 

「……で、川相君の評価はどうなの?ちゃんと聞いた?」

 

 彼女は自分の事を嫌い、勝手に好きじゃないと決め付けていた。

 その辺の改善指導、というわけでさっそく自分の事を聞いてみるように行っておいたんだけど、天音ちゃんは顔を赤く染めてしまう。

 

「む、無理ですわ。私にはやはり無理でした」

 

「何で?聞いてみないと始まらないじゃない」

 

「だって、そんなの……自分が相手に興味があるなんて伝える事は告白と同じくらいに緊張しますもの。すぐにはできませんわよ。話しかけるのすら、大変ですのに」

 

 別に付き合いたいですっ、という言い方だけじゃなくても知る方法はあると思う。

 「私のこと、どう思う?」くらいじゃ告白とは別物だと思うけど。

 好きな相手に話しかける事すら緊張してしまうのかもしれない。

 そうか、私ってその辺のことも考えてあげて教えてあげないといけないんだ。

 ……うぅ、何だか恋愛初心者の私に大変なミッションだよ。

 これが恋愛のベテランなら色々と教えてあげられるんだけど、私も異性に対してそれほど親しくした経験もない。

 

「私はみゆちゃんにお願いがありますの」

 

「お願いって何なの?私にできることがあるのなら協力するけど」

 

「実は……明日の放課後は彼が小学校のグラウンドでサッカーの練習をしていますの。そこで、あの、私の事を聞いてきてくれませんか?」

 

「……えっと、私が?」

 

 いきなり小学校に侵入しろって言われて呆然としてしまう。

 世間一般からロリ系と呼ばれる私でもそれは無理でしょう。

 

「さすがに小学校は無理だってば。バレたらどうするの」

 

「みゆちゃんなら大丈夫です。見た目的にも違和感ありませんもの」

 

 現役小学生に違和感ないって言われる事に胸が痛む。

 私ってそんなに童顔なのかな、ぐすんっ。

 

「ダメですか、みゆちゃん……?」

 

 天音ちゃんは大きな瞳を潤ませながら私に助けを求めてくる。

 はぅぅ……ど、どうしよう!?

 

 

 

 

 翌日、私は放課後1度家に帰ってから小学校の前に立っていた。

 放課後とはいえ小学校はまだ残ってる生徒で賑わっている。

 子供達の声が響く中で私は緊張した面持ちで校門を通り抜ける。

 

「――小学校よ!私は帰ってきたわっ!!」

 

 誰かの名台詞に私は意気込んでいた。

 再びこの場所に足を踏み入れる事になるとは人生っておかしなものね。

 卒業以来、5年ぶりにこの場所に戻ってくることがあるなんて想像もしていなかった。

 さらに堂々と入るために仕方なく5年前に着ていた小学校の制服を着るなんて。

 

「……制服のサイズが胸以外ぴったりというのがムカつく」

 

 胸の辺りだけが成長しているせいでかなり上着がキツイ。

 それなのに他は全然余裕で着れたと言う罠。

 身長は当時からどれだけ成長していないの、と、そこにショックを受ける。

 早くミッションをクリアしてここから逃げ出したい。

 昨日、結局私は雨で濡れた子猫のようにすがる天音ちゃんのお願いを断りきれなかったの。

 ターゲットの川相君は運動場でサッカー部の練習をしているらしい。

 私はすぐに聞き込みを開始する事にした。

 ここまで来たら、やるだけの事はやるしかない。

 こんなところ、知り合いに見られたら恥ずかしさで死ぬ。

 

「……え、そこにいるのって美結さん?」

 

 と、思っていた矢先に私はとある知り合いから声をかけられてしまった。

 

「ふにゃ!?眞理(まり)ちゃん?」

 

 小夜子の妹の眞理ちゃん(小学5年生)と偶然にも遭遇してしまう。

 

「どうしてここに?しかも、その格好は……?」

 

「これには深い事情があるの!お願いだから小夜子には内緒にしておいて」

 

 もしも小夜子に知られたらとんでもなく恥ずかしい。

 私は事情を説明すると彼女は納得してくれたみたいだ。

 

「ふーん。そういう事なら案内してあげる。美結さんも困ってるみたいだし」

 

「ありがとうっ。眞理ちゃんはお姉ちゃんと違って優しいよねぇ」

 

「まぁ、小夜子姉さんは個性が強い人だから美結さんも苦労してるでしょ。あ、サッカー部の子に話しかけたいならこっち側から行った方がいいよ」

 

 というわけで、私は心強い味方を得て一緒に聞き込みを開始。

 先輩である天音ちゃんの事は眞理ちゃんも知ってるみたい。

 

「学内で噂のお嬢様だよ。めっちゃくちゃすごい豪邸に住んでいるんだって。しかも、性格も傲慢でお嬢様っぽくてあまり評判はよくないなぁ。私は会った事ないからよく分かんない」

 

「やっぱり、そうなんだ。アレでも可愛い所はあるんだけどね」

 

 あの子が人前で素直になるのって結構大変なのかもしれない。

 彼女のように見かけだけで色々と決められてしまう子には特にね。

 実際に天音ちゃんはお嬢様っぽい我が侭な性格なのでフォローしにくい。

 

「川相って男の子はサッカー部のエースで評判いいよ。うちのクラスでも気になる子もいるし。6年生の女の子だと、もっと好きな子も多いんじゃないかな」

 

 眞理ちゃんの言う通り、運動場には彼目当ての女の子が応援している。

 

「……話しかけてみる?」

 

「それが出来る状況ならいいけど、今は無理そう。私は他の子にも天音ちゃんの評判を聞いてくるね。眞理ちゃんも手伝って。あ、そこの女の子、ちょっといいかな?」

 

 今は練習中で声をかけられないので、私は周囲の子から聞き出す事にした。

 誰一人私を同年代と疑う事もないのが悲しいけど、みんなからの情報は聞けた。

 

「天音?あぁ、お嬢様。あの子、嫌い。はっきり言って他人を見下しすぎてるもの」

 

「私も嫌い。人に対して悪口しか言わないし、彼女と普通に話したことなんてない」

 

 というように女子からはすこぶる評判が悪いようだ。

 男子からも聞いてみると「外見に騙される」とか「さすがにアレだけ我が侭な女子だと付き合いきれない」とか同じように否定的な意見が返ってくる。

 

「本当に天音さんって嫌われてるんだ」

 

「素直になれないだけなの。本当はいい子なんだよ」

 

「美結さんもそればっかり。フォローしづらくなってきたんでしょ」

 

 眞理ちゃんは苦笑いを浮かべていた。

 うぅ、このまま否定的な意見で終わっちゃうのかな?

 サッカー部の練習が休憩に差し掛かったので私はターゲットの川相君を探してみる。

 女の子達に囲まれていて、私が話しかける余裕はなさそうだ。

 いいご身分ですこと、ホントに嫌なタイプだなぁ。

 私は仕方なく他の子に話しかけようとすると、どこかで見かけた子がいた。

 

「あの子って確か……?」

 

 そうだ、天音ちゃんの写真で見た男の子、名前は小林君だっけ?

 私は彼にも話を聞いてみる事にする。

 

「え?倉敷さんのことをどう思うかって?」

 

「そう。今、色んな子に聞いてるんだけど、キミはどう思う?」

 

「……ぼ、僕は可愛い子だと思っているよ。話してみると意外に話しやすくて、イメージと全然違う。周りは彼女を悪く言う子が多いのは確かだけどね。何ていうか、人前で無理に他人を拒絶しているみたいな所もある」

 

 いた、天音ちゃんに対して好意的な印象を抱いている男の子。

 

「小林君って、天音ちゃんのことが気になるの?」

 

「き、気になるっていうのはあくまでクラスメイトとしてだけで、別に好意の対象と言うわけじゃないんだ。本当だってば」

 

 慌てて否定する彼に私は確信を抱く。

 この子、きっと天音ちゃんのことが好きなんだ。

 だから、あの時の写真のカメラ目線に納得する。

 彼は天音ちゃんを見ていたんだ、うわぁ……どうしよう。

 ここで彼女の好きな人があの川相だなんて言えない。

 

「……これからも天音ちゃんと仲良くしてあげて。彼女は今、変わろうとしているの」

 

 私の言葉に彼は静かに頷いた。

 ホントに見た目どおりの子だったな……あの子をすきになれば天音ちゃんだっていいはずなのに。

 天音ちゃんも彼を好きになればよかったのに。

 

「あれ、そう言えばキミってどこのクラスの子?見かけた事ないんだけど?」

 

「ふわっ!?えっと……私は……」

 

 いけない、私の正体がバレる前に撤退しないと。

 私が逃げようと後ろに下がろうとすると、誰かにぶつかってしまう。

 

「おやぁ、小林。何だよ、可愛い子じゃん。お前のファンか?」

 

 私にぶつかり、声をかけてきたのはターゲットの川相だった。

 チャンス到来、でも、彼はあからさまに私の胸を見つめて言う。

 

「……なぁ、アンタの名前は?俺、一目見て気に入ったんだけど」

 

「私のことより、貴方にひとつ質問があるわ。倉敷天音をどう思う?」

 

「あのお嬢様か?外見は綺麗だけど、話した事もほとんどない。綺麗な女の子は好きだけど、アレはどうかな。あの子を落とすくらいなら、俺は別の子を狙うよ。なぁ、それよりも俺はアンタの方が興味があるんだ」

 

 川相は私の身体にいきなり触れてくる。

 ちっ、この軟派な男、私を口説きに来たな。

 

「そう、私に興味があるの?なら、私の事を少しだけ教えてあげるわ」

 

 私は肩に触れてきたその手を振り払うと言い放った。

 

「私、お子様って嫌い。私が興味を持つのはもっと大人な男なの」

 

 唖然とする彼、天音ちゃんも厄介なのを好きになったなぁ。

 雰囲気が悪くなる前にこの場を去ることにしよう。

 

「美結さん、そろそろ行こうよ」

 

 ちょうど眞理ちゃんが声をかけて助けてくれた事もあり、その場を離れる事ができた。

 年下相手に反応するほど私は見た目通りのお子様じゃないもん。

 

「ありがとう、眞理ちゃん。助かったわ」

 

「うん。でも、彼相手にビシッと言える美結さんもカッコよかったよ」

 

「そりゃ、さすがにお子様相手だからねぇ」

 

 お姉さんを相手にするには彼はまだ子供ってことだ。

 一応、任務は終了したけど、結果はあまりよくない。

 これを天音ちゃんに伝えるって言うのは酷かもしれない。

 

「本当に大変なのはこれからなのかも」

 

 私は小学校の校門でふと懐かしい在学時を思い出す。

 あの頃の私は恋なんてしていなかった……人生、少しだけ損してたかもね。

 

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