表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

第15話:恋のレッスン、始まります?

【SIDE:初音美結】


「私に恋を教えてください。お願いしますわ、美結先生!」

 

 貴雅の妹、天音ちゃんからの突然のお願い。

 それは私に恋愛指導をして欲しいというものだった。

 にゃー、まだ初恋途中なのに恋を誰かに教えるなんて想像外の出来事が発生した模様です。

 

「今までの非礼はおわびしますわ。ごめんなさい、美結先生。お気を悪くなさらないでくだいさいませ」

 

「それはいいけど。私が先生?ワンモアプリーズ?」

 

「美結先生。何度でも呼びます。私にとって貴方は先生ですわよ」

 

 人生で初めて先生なんて呼ばれたよぉ、めっちゃ嬉しい。

 先生と言う響きの余韻に浸りながら私は尋ねる。

 

「はぅ……嬉しい。はっ、でも、何で私が先生なの?」

 

「先ほどの美結先生の恋愛観に尊敬しました。今まで、何人もの男の子を好きになっても、お金持ちのお嬢様である私と庶民の彼らでは身分が違いすぎると勝手に諦めていましたの。“かもしれない”で諦めた恋、全てその通りです」

 

 あれ、身分というよりも性格に問題があったんじゃ……?

 しかも、自分でお嬢様って言いますか、いや事実なんだけどね。

 天音ちゃんには私にぐいっと距離を縮めて迫る。

 

「でも、そんなの関係なかったのですわ。美結先生みたいなお子様的な外見な女性でもちゃんと恋をできる、様々な苦労を経て愛を手に入れる事ができる。私はそんな貴方の苦労も知らずに失礼な事を言いました」

 

 ……お子様って、現在進行中で失礼発言中なんですが?

 

「貴雅兄様は見た目ではなく、美結先生の心に惹かれた。そういう事ですわね」

 

「まぁ、そういう事かな?」

 

「私は身分違いの恋を挑戦すらしていなかった。今、好きな人は本当に好きだと思える相手なんです。何としても結ばれたい、でも、私には誰か相談できるような人間は全くと言っていいほどいませんの……」

 

 友達もいないって言ってたからそれは納得できるよ。

 天音ちゃんって友達ができなさそうなタイプだもん。

 

「今、私のような気品溢れる美女にはお友達は少ないでしょうと思いましたわね」

 

「……いや、そこまでは言っても、思ってもいない」

 

「確かに1番問題なのは私の性格だと自覚しています。私は他人とお話しているとどうしても、つい悪意を持って思った事を告げてしまう性質の悪いクセがあるのですわ」

 

「本当に悪いクセだと思うよ」

 

 悪意を持って、と言う辺り、自覚はホントにあるんだ。

 これが無自覚なら許せるわけじゃないけど、天音ちゃんって変わってるなぁ。

 外見は着物がよく似合う大和撫子なのに性格がコレだとギャップありすぎ。

 中身は毒舌&自意識過剰な我が侭お嬢様そのものだ。

 

「先生は私のどこが悪いと思いますか?」

 

「性格全般、例えるなら無自覚でも悪口を言ってそうな辺り」

 

「うぅ、その通りですわね。身に染みこんでしまった悪意の塊は意識した所で到底変える事などできないんです」

 

「……なんで、天音ちゃんって人の事をそんな風に悪く言うようになったの?」

 

 それなりの過去があるんじゃないかって思うんだ。

 お嬢様にはお嬢様なりの悩みとか、色々とありそうに見えたし。

 天音ちゃんは可愛い顔をきょとんとさせる。

 

「どうしてって、私は幼い頃から他人とは違いますの。生まれも育ちも才能も、他の人間よりも優れています。実際に私は自分より上に思える相手にまだ出会っていません。だから、無意識でも私は同年代の彼らを見下しているのですわ」

 

「めっちゃ、嫌な性格だね。本気で思うよ」

 

 彼女が周囲に敵を作りまくる理由はこれしかない。

 多分、学校でも今みたいにそれが“悪”でしかない事を理解していない。

 悪意ある、という意識はあるみたいだけど、それは彼女にとって些細なレベル。

 例えるなら、天音ちゃんにとっての悪意は“蚊に刺されたようなもの”、でも、現実に周囲の子達は“蜂に刺されたぐらい”の意識の差があるんだ。

 私がその辺の事をちょっと本気で(イラついたから)説教してみる。

 彼女はようやくその意識の差に気づいたらしく顔を青ざめさせていた。

 

「わ、私が美人で才能があるというだけなのに、周りの人間たちはそんなに心の狭い目で私を見ていたのですか。つまりは嫉妬、何て現実は残酷なのかしら」

 

「その時点でおかしいのっ!天音ちゃんは自分の事を過大評価しすぎ。確かにすごいかもしれないけど、自分の評価よりも他人の評価をもっと気にするべきだと思う。むしろ、少しは気にしなさい」

 

「美結先生は厳しい所を突きますわね。私、ホントに友達ひとりもいなくて、お嬢様はお嬢様らしくしてろって周りに言われていましたの。他人の評価なんてどうでもいいと目を瞑ってきました。それではダメなのですね」

 

 今度は瞳を潤ませてシュンッとうな垂れて語る天音ちゃん。

 彼女の性格が歪んでいるのは環境のせいでもあるのかな。

 この子はこの子なりに大変なんだ……でも、そんな自分を変えたいと思っている。

 

「天音ちゃんは恋をしたいんでしょう?」

 

「えぇ。私はこの嫌な性格を変えて本当の自分を取り戻したいんです。そして、好きな人に好きと言える“強さ”と“素直さ”を手にしたいんですわ。そのために恋をしてみたいと思っています」

 

 ホントに悪い子じゃない、ひとりの可愛い純粋な子供なんだ。

 天音ちゃんの期待する瞳が私に向けられる。

 ここまできたら私が何とかしてあげるしかないじゃない。

 

「いいよ、私が天音ちゃんの恋の先生になってあげる」

 

「本当ですか!?ありがとうございます、美結先生」

 

 私は彼女に抱きつかれてしまう。

 素直な彼女は結構可愛い……もったいないよ、普段からアレじゃ損してばかり。

 私はまだ恋の初心者、恋愛というスキルの意味じゃ貴雅から実践指導中。

 でもね、見た目は子供扱いされても、ちゃんと17年間生きてきているの。

 人生の先輩として天音ちゃんにアドバイスはできると思う。

 これからの彼女がどういう方向に向いて生きていくのか。

 私はそう言う意味での先生になってあげたい。

 

「恋は人を変えるの。人生を、自分自身を変えてしまう力があるの」

 

「……美結先生も変わりましたの?」

 

「もちろん。私は恋を知って、それまで体験した事のない幸せと出会えたから」

 

 1ヵ月前、貴雅に出会い、恋愛というモノを教えてもらった。

 ドキドキする高揚感、離れたくないと言う寂しさ、いつも傍にいたいと思う、離れたくないと願う、様々な感情は恋をして初めて知ったものばかり。

 天音ちゃんにもそれを体験して欲しいの。

 

「本物の恋をすれば天音ちゃんもきっと変われる。優しい自分に生まれ変われるよ」

 

「……先生は恋の話をする時、とても穏やかな瞳をしますのね」

 

「うん。恋は辛い事もある。それでも、恋愛の本質は幸せになる事だと思うの」

 

 天音ちゃんは私から離れると、丁寧にお辞儀をする。

 

「私は今まで、親しい人間もいなくて、こういう時、どうすればいいか分かりません。兄様達には甘えてばかりいましたし。しかし、美結先生は私をひとりの人間として見てくれています。本当に尊敬しますわ」

 

「尊敬とか先生とか、そういうのはやめよう?私はそんな立派な人間じゃないもの。私は天音ちゃんと仲良くなりだけ。対等になりたいのよ」

 

 彼女は私の言葉に驚いて、「え?」と呟く。

 

「仲良くなりたい?この私と?ど、どうしてですの?」

 

「貴雅に天音ちゃんの事を聞いた時からすごく興味を持っていたんだ。今日だってここに来るまでどんな子なんだろう?ってずっと考えたの。結果は少し違ったけれど、私は天音ちゃんとはこれからも仲良くしたいと思うんだ」

 

 だから、先生とか尊敬とか“上”からじゃなく“対等”でありたい。

 私の想いが通じたのか、天音ちゃんは私をどう呼ぶか悩み始める。

 

「そ、それでは、その……先生はやめておきます。どう呼べばいいんでしょう?」

 

「うーん。例えば、みゆさんとか?」

 

「……さん付けが似合わない人をそう呼ぶのは、いえ、何でもないですわ」

 

「めっちゃ不満そうだね?うぅ、いいよぉ。どーせ、私には似合わないだろうし。それじゃ、みゆちゃんは?私は“ちゃん”付けされることが多いし、外見的にも似合うでしょ?」

 

 悪口を控えるようにしてるのは分かるけど、嫌味をつい言ってしまうのはクセかな。

 天音ちゃんのこういう性格を変えるのは大変そうだ。

 

「そうですわね。それならいいです。似合いすぎですわ。それしかないと思えるくらいにぴったりだと思います」

 

「……そこまで言われると、逆に何か傷つくわ」

 

「す、すみません。自分でもまだ、人を否定しないでお話するのが大変なんです」

 

 まだまだだね、けれども、意識して直そうというのは大切な一歩だと思う。

 この子はこれから変われる、私が背中を押してあげれるはずだ。

 

「それじゃ、今から呼んでみてよ」

 

「何をですか、美結先生?」

 

「先生はダメだよ。ちゃんと私の名前を呼んでみて?」

 

 天音ちゃんは戸惑いつつも、深呼吸をひとつして初めて私をこう呼んだ。

 

「み、みゆちゃん……」

 

 顔を真っ赤にさせて言う天音ちゃん、白い肌だから余計に可愛く見える。

 そんなに照れることなのかな、と思っていたら理由はまた別の所にあったらしい。

 

「いやですわ、何か友達みたいですもの……恥ずかしいです」

 

「……友達じゃダメなの?私はもう天音ちゃんの友達のつもりなんだけどな」

 

 照れる彼女の顔を覗きこんで私は囁く。

 この子が素直になるきっかけを与えてあげる。

 

「私が……みゆちゃんのお友達、ですの?」

 

「何か意外そうな顔。私が天音ちゃんのお友達じゃダメなの?」

 

「い、いえ。全然、そんなことないですわ。大歓迎です……。お友達って口にしたのがあまりにも経験がなかったので。私みたいな女の子でもいいですの?」

 

「天音ちゃんがいいの。これから恋愛を中心に色んな事を教えてあげる。友達としてね」

 

 天音ちゃんは嬉しそうな顔をして「ありがとうございます」と微笑みを見せる。

 笑ったら、ホントに美人さんで可愛くて……大和撫子がそこにいる。

 

「……みゆちゃん。私のお友達としてよろしくおねがいします」

 

 初めて、この子が歳相応の子供に見えた瞬間だった。

 これからもっと楽しくなりそう……自分の恋愛も頑張らないとね。

 

 

 

 

 ちなみに、貴雅はどこで何をしていたかというと数分後――。

 

「ふたりとも言い争いをやめて、ティータイムにしないか?今、ケーキを買ってきたんだ。ほら、駅前の有名なお店があるだろ!あそこのケーキは美味いぞ。さぁ、喧嘩などせず仲良く食べようじゃないか!」

 

 と、明らかに緊張気味でケーキの箱を手にして部屋に再び入ってきた。

 ……逃亡者はご機嫌伺いに必死だったと見える。

 貴雅って何気に修羅場に弱いよね。

 その頃の私達はすっかり仲良しで、彼は「あれ?何で?」と唖然としていた。

 

「この数十分の間に何があったんだ、おふたりさん?」

 

 どうやら彼はまだ険悪な雰囲気だと思っていたらしい。

 ぶー、違うもん、私達は仲良しでお友達になったんだ。

 

「ふふっ、貴雅。それは、語れば少しだけ長いけど……」

 

「乙女の秘密ですから、貴雅兄様には教えてあげませんわ♪」

 

 顔を見合わせて「私たち、お友達だもんねーっ」と楽しく笑いあう私と天音ちゃん。

 状況を理解できていない貴雅だけが呆然とふたりを眺めて言いました。

 

「――あっ、俺、今回の出番、これだけですか?」

 

「そこの心配かよ、私の彼氏」

 

 そんなわけで私に可愛くて、少し素直じゃないお友達が出来ました。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ