第10話:ファースト・デート
【SIDE:倉敷貴雅】
「――貴雅は私を子ども扱いし過ぎよ」
いつものようにみゆ先輩は大きな胸を無意識に強調しながら腕を組む。
何やら、俺に対して不満があるようだ。
「子供扱い、ね?」
目の前にいる美少女の容姿を見つめて、他に何を言えばいいのやら。
俺の恋人はロリ顔巨乳の美少女、男子諸君からのコードネームは『146-86』。
その名の通り、146センチという小柄な身長に不似合いな86センチのバストを持つ、魅惑のプロポーション。
このスタイルのギャップに背徳感さえなければ……いや、可愛いのでそれほど大きな問題はないのだが。
「みゆ先輩、それは妥当なことだと思うぞ」
「どうしてよ?私のどこが子供なの?」
「童顔な顔と体型という見た目だろ。あとはその子供っぽい性格も問題だな。大人には絶対に見えない」
そうなんだ、彼女は本当に中身まで容姿相応な幼さが残る。
みゆ先輩は恋をまだ知らない。
例えるなら、彼女はつぼみ、どんな花を咲かせるのかが楽しみではある。
だが、俺に対して不満なのか、むぅっと唸る。
「貴雅が私を子ども扱いするのってひどくない?私、こう見えても17歳なんだよ」
「そう、“こう見えても”17歳だよな」
「ムカつくっ!貴雅には愛が足りてない」
今度は拗ねてしまう、そういう所が子供らしいと言っている。
だが、性格を込みでみゆ先輩の魅力だと思うんだ。
これで歳相応に振る舞って見ろ、違和感ありまくりだ。
「先輩はそのままでいてくれ。ちっちゃくても俺は気にしない」
「性格の話であって、見た目の話はしていないのっ!うぅ、私が気にしている事を……貴雅って本当に意地悪だ。好きな子いじめってやつ?仕方ないなぁ」
「どこのガキだよ。俺はそんなのとっくに卒業している」
俺はどこぞのロリ先輩とは違うんだよ。
からかうのを楽しんでいる俺にみゆ先輩はこれならどうだとばかりに抱きついてくる。
魅惑のふくらみ、密着する事でその破壊力は倍増する。
「……だったら、私が大人だっていう証拠を見せてあげる」
みゆ先輩は恥じらいの表情を浮かべながらも、俺の耳元に甘い一言を囁くのだった。
「――私、もう子供じゃないよ。大人だってこと……確認してみる?」
彼女を年上と認めたくない理由は外見や内面、みゆ先輩の存在自体にある。
だが、もうひとつ……こんなお子様先輩に年上の魅力なんてものを感じたら負けだと思うんだよ、いや、マジで。
大きな瞳を潤ませて、俺に顔を迫らせてきやがる。
「ふふっ、貴雅だって男の子だもん」
「……負けるもんか、俺は……ま、負けない」
俺の頬を小さな手で撫で回すみゆ先輩。
くっ、こんなお子様に反応したら男として負けだ。
必死に感情を抑えこむ俺に先輩は立場逆転とばかりに。
「――さぁ、始めよ。私が大人だってこと、証明してあげるわ」
そして、みゆ先輩は自分の衣服に手をかけ、露出したのは白い肌――。
緊張感と何とも言えない高揚感に身動きがとれない。
待て、俺が悪かったから早まるなぁ!?
……。
「ぐはっ。めっちゃ、いてぇ……」
俺はベッドから転げ落ちて、目が覚めた。
カーテンから差し込む太陽の日差し、ひんやりとした室温に現実を感じ取る。
「……夢、か。そうだよな、夢で当然だ。あんなのありえない。最悪だ、俺としたことがお子様相手に欲情しかけるとは何たる屈辱。俺があのロリッ娘に女を感じるとは……はぁ」
夢でよかったと思いっきり溜息を吐いて、俺は身体を起こした。
どうやら変な夢を見ていたらしい。
やけに先輩が魅力的に見えたわけだ。
あれが俺の願望と言うのだろうか、冗談きついぜ。
さすがに彼女に女を望んだりしたら俺は犯罪者だよ、全く……。
俺と彼女にどれだけ体格の差があると思う?
小学生に手を出したらいかんでしょ……。
自己嫌悪に頭を抱えながら、時計を見て時間を確認する。
現在の時刻、『AM11:00』……11時?
「ちょっと待て、今日は約束の時間って何時だ?」
急いで枕元においてある携帯電話でメールを見返す。
昨日の夜に俺に届いた一通のメールの中身。
『明日の11時半に駅前で待ち合わせ。デートの約束、忘れないでよね』
……そうだ、今日はみゆ先輩との初デートの約束をさせられていた。
前回の元カノ事件で危機感を抱いたらしい。
『私とデートしてよ、貴雅。私の方がいいに決まってるもん!』
まぁ、恋人である以上デートもありだろう。
だが、行き先が遊園地とは……いや、悪いとは言わんが似合いすぎだろ。
とりあえず、駅前に集合と言う話になったのだが、急いで準備しなければ間に合わない。
「ったく、ロリ先輩が妙な事をしに夢に出てくるから」
俺は夢で見た身体のラインを思い出し、更なる自己嫌悪に襲われる。
やべぇ、俺、知らない間に変な方向に向いてないよな?
「……俺にロリッ娘属性はないはずなんだが」
年上趣味な俺としてはアレは好みから大きく外れている。
「やれやれ、冗談は夢の中だけにしておいてくれよ、俺」
肩をすくめて自分の考えを否定すると、俺は着替え始める事にした。
時間ギリギリに駅についた俺はみゆ先輩にさっそく怒られる。
「おそーい。デートの待ち合わせで女の子を待たせちゃダメ!!」
「時間に間に合ったんだからいいだろう」
「せっかく、『待った?』『ううん、今来た所よ』ってしようと思ったけど、1時間も待たされたら言う気もなくなったわ」
「約束の1時間前に来たみゆ先輩が悪い。そこまで責任は持てない」
しかもそんな定番、実際にやるやついないだろうに。
「で、何で1時間前に来たんだよ?時間を間違えたのか」
「違うもんっ。は、初めてのデートだから緊張して……」
なるほど、俺も似たような経験あるから分かる。
どうすればいいのか分からなくて、困って、時間より早く来ちゃったりしたっけ。
俺は微笑すると、先輩は馬鹿にされたと勘違いしたらしく、
「むっ、何よ。そんなに笑わなくてもいいでしょ」
「まぁ、気を楽にしてくれよ。俺相手に緊張するのもおかしな話だろ」
「……貴雅だから緊張するんじゃない、バカっ」
小さな声で何かを囁いた彼女、照れてますなぁ。
俺はその着ている洋服に何気なく目が行く、想像してたより普通の服装だ。
ピンク色のダウンコートを着ている先輩に俺は言う。
「みゆ先輩の私服ってゴスロリ系とかだと思ってた」
「は?私がロリータファッションなんて着るわけないし」
「そうか?よく似合うと思うぞ。甘ロリ系とか着せたらやばいね」
絶対に傍に近づきたくないけどな、似合いすぎて、ヤバい方向に行きそうで怖い。
みゆ先輩の冷たい眼差し、何やら考え込むと俺にビシッと指を突きつける。
「うぅっ。今日は私のことを子ども扱いするのは禁止!いいわね?」
「……善処しましょう」
思わず、夢の出来事を思い出して、少しの罪悪感から俺は素直に答える。
さぁて、この初デート、どうなることやら……。
地元の駅から電車に揺られて数十分、そこには海をテーマにしたテーマパークがある。
そこは夏は大いに賑わうのだが、冬は水をテーマにしているだけに人気は少ない。
とはいえ、俺も子供の頃から何度も来ている場所だ。
遊園地としてアトラクションもそれなりに楽しめるし、恋人とのデートには悪くない。
「まさか男の子とこの遊園地に来る日が来るなんて……」
みゆ先輩は嬉しそうに呟くと子供みたいにはしゃぎだす。
辺りは想像通り、子供を連れた家族連れは少なく、男女のカップルが目立つ。
さすがにこの寒さ、無邪気に遊びたい気持ちにはなれんよ。
「どこから回る?どこに行く?うわぁ、なんだか悩んじゃうなぁ」
……いたよ、無邪気に遊ぼうとしている先輩がここにいた。
パンフレットを手に、どこに行きたいか検討している様子。
「とりえあず、寒いから野外系はパスの方向で」
「そんなの遊園地に来た意味ないでしょ!あ、それじゃ、これはどう?」
「……マイナスの世界を体験、ってなぜに真冬に氷の世界を体験せねばならない」
室内型のアトラクションで気温マイナス何十度って世界を味わえるらしい。
「文句言わずについてくる。今日は思いっきり楽しむんだから覚悟してよ?」
みゆ先輩が主動のデートだ、ホント、どうなるんだか……。
俺は「分かったよ」と頷くと可愛らしい手を俺に差し出してくる。
「何してるんだ、先輩。お手の練習か?はい、お手」
「違うっ!誰がワンちゃんだ。私は犬じゃなーい。手を繋いで欲しいのに決まってるでしょう」
「寒いくせに手袋してないから。しょうがないな」
手を繋げば恋人らしいとでも思ってるんだろう。
この箱入り娘さんは可愛らしい。
「えへへっ。温かいね……。それじゃ、行こうよ」
手を繋いだだけで笑顔になる、そういう先輩の純粋な所は嫌いじゃない。
「まずはマイナスの世界を体験しにレッツゴー」
「いや、外も十分寒いから。わざわざ寒い所に行くのはどうか、と」
俺は別に北極にも南極にも興味はないし、ペンギンさんに会いたいワケじゃないのだ。
だが、先輩は俺を引き連れて進んでいく。
……ホントにしょうがないな、今日はとことん付き合うと決めることにしよう。
「今日は楽しいデートになるといいなぁ」
「それはみゆ先輩次第だろ?」
「えぇー。貴雅次第だよ。私は恋愛初心者だもの。私を楽しませてね?」
既にその時点で年上のお姉さんらしさはないわけだが、それもみゆ先輩も魅力ですか。
ついに始まる初デート、いい思い出になればそれでいい。
……だが、ひとつだけ問題があるのを言わせて欲しい。
どこからどう見ても、俺と先輩のふたりは仲のいい“兄妹”です、恋人には見えないのは仕方ない。
お兄ちゃん、可愛い妹とのデートを楽しむことにしますか。