第三話:隙間を埋めるべく「七」を当てはめた虚実
――得たものもにも失ったものにも価値を見出すことなかれ
自惚れなければ、自分を知りえる――
アヌルス・アヌス 叙情詩 第十二編章 二十八節より
ミシェル婆さんからもらったメモ帳の切れ端をポケットからガサゴソと取り出して見比べる……。
05、09、19、23、25、29、31 か……。
(……まぁ、わかっていたけどね)
と強がってみたが、ガタガタとマウスを握る手の震えが止まらない……。
「当選している!!!、しかも1等10億円!!」
(どうしよう……)
「当選金を受け取るには、みずほ銀行に行かないとだよな?」
(みずほ銀行ってこの辺にあったか?)
俺は眉間にしわを寄せて、宝くじが当たった人間とは程遠い顔をしていた……。
「こんな時はネットマップで検索~っと……」
「札幌……にしかねぇ~~~!」
「……まじかぁ」
北海道の夏らしくないニュースを見ていた俺は、札幌まで出かけなければならないことにげっそりした……。
「当たりくじ交換にし行くのめんどくせぇ!」
「しかしお金がなければ就職できぬ……。就職できねば結婚できぬ……」
いたしかたあるまい、熱変動耐性だけでは不安だが……。
「熱中症対策とかして出かけるか?」
「でも……電車乗ると……、他の人に会うから嫌だなぁ……」
(ん?……)
「心身ともに健康になっているはずだよな?」
気持ちの問題か? なんだこの変な感じ……。
「そだ! 親父に車を借りて行こう!」
車の中なら他人に合う心配もないし、クーラーついてるから涼しいしで一石二鳥である……。
「さすが俺、頭の回転は人並みだ」
――東京で仕事をしていた頃、横浜のフリマで購入した銀色の縁のレイバンのサングラスをかけて出発することにした。
あの頃は、恐怖? 何それ、おいしいの? と言わんばかりな行動力があったことを思い出す……。
「おい、にぃ~ちゃん、あの有名なレイバンのミラーサングラスだよぉ、普通に買ったら2万はくだらねぇよぉ、今日でフリマも最後だし、こんないい商品は直ぐに売り切れるよぉ?」
……当時でもレイバンで1,000円という格安、ミラーの反射部分の真ん中に傷が付いているのでサングラスの中央にゴミが付いているようで微妙に見づらい……。
……決して騙されて購入したわけではない。
「まぁ、見づらさよりも見ため!」
20年ぶりにかけたほどのお気に入りのサングラスだ……。
……決して存在を忘れていたわけではない。
――カーナビを見ながら意気揚々と札幌周辺に入る……。
「札幌って道路事情が多すぎて走るのむずいんだよな……」
片側通行、車の多さ、人の群れ、碁盤の目のような道路構造、カーナビ見ていても迷うし情報量が多すぎて運転していても信号や飛び出してくる車や人、路駐している車。
見るところが多すぎてカーナビを見ている暇もないことにうんざりしながらも目的のみずほ銀行にたどり着く……。
「駐車場がねぇ~っ」
電車を選択すべきだったか、とも思ったが、そこは最新型のカーナビ搭載の車。
近くのパーキングを探す……。
近くの「P」のマークは今日に限って……。
かどうかはわからないがどこも満車になっている。
毎日通っているわけではないので、今日にかかわらずいつも満車なのかもしれない……。
「なんでだぁ~~!」
――車の運転にかなり疲れていた俺はどこでもいいから車を止めたかった。
仕方なく近くに何か店などがないかをカーナビで探す。
……少し離れてはいるがヨドバシカメラに目が留まる。
「おぉそうだ。今日の計画は、大金を入手したらヨドバシで PCのパーツでも見て回ることにしよう!」
銀行での些事を終えたら、PCパーツを物色しようとにんまりする。
青々とまぶしい空に、光に反射する車やポイ捨てされた空き缶……。
視力が回復しすぎたのか? 人までまぶしく見える……。
――ヨドバシカメラの駐車場そばを通った時、ふと昔の彼女のことを思いだした……。
毎日のようにこの近くを通って彼女に会いに行っていた……。
「別れた原因?」
「それは、当時の俺が子供だったから……」
と今は思っている……。
(俺も彼女もモテていた……。美男美女の仲良しカップル……)
――だったと自画自賛……?
だが、男と女の違いなのか、男目線の俺は無防備でちやほやされる彼女を見ていられなかった……。
ただの嫉妬心……。
それは当時でもわかっていた、が――。
それでも彼女の孤独を埋めるために毎日のように彼女に会いに行っていた……。
――そんなある日のことである。
深夜バイトが終わってから、いつものように彼女の部屋に合鍵で入ってみると服が散乱していているが、彼女の姿がない……。
「あれ~? どこいった?」
服をたたみながら、彼女の帰りを待った――。
――レースのカーテンから白々と明かりが入り込み、朝になったと気づかされる……。
(どうやら彼女が帰ってきた……)
「おかえり……、どこかいってたの?」
あくまで冷静になろうと努力しながら、何でもないふりをして絞り出した言葉だった……。
彼女が言うには、男友達と海に行っていたらしい……。
……何もないことは信じていたが、俺の頭は嫉妬で押しつぶされてしまった――。
「……」
俺の脳みそはどこに行ったのかわからない――。
気が付いたら彼女のマンションを飛び出していた……。
バタンッ! と勢いよく車の扉を閉めて、そのまま走り去ろうとエンジンをかける。
バタンッ! 彼女が追ってきて助手席に乗りながら、泣いていた……。
何かを言っているのか全く理解できない。俺の脳みそはどこかに行ってしまったらしい……。
耳を澄ませても何を言っているのか全く聞き取れなかった……。
(分かっている、ただの嫉妬だ冷静になれ……)
バタンッ! だが俺はそのまま車を置き捨てて、札幌駅まで走っていた……。
俺の脳みそはどこかに行ってしまったらしい……。
――中学生時代は陸上部だった俺は100m11秒で走ることができた。
高校時代はラグビー部。
その俊足を生かして一年生でありながらレギュラーとして活躍していた……。
(……これが走馬灯というやつか?)
札幌駅まで走りながらいろんなことを思い出す……。
――俺がラグビーを始めたきっかけはマネージャーが唯一男性の部活だったからだ……。
当時付き合っていた彼女を大切にしたくて、女子マネージャーがいない部活に入ろうと思っての選択である。
ラグビー部は、インフルエンザにかかったことが原因でしばらく高校自体を休んでいたんだ……。
だがその後、しばらくぶりに高校に行ったときに、俺がラグビーを止めるという噂が部内でなぜかもちきりになっていた……。
俺自身は、筋トレもゲームも楽しい時期だったので全くそんなつもりはなかったが、そんなこんなで部活をしていてもなぜか居づらい雰囲気になっていた。なぜか同じ部活の連中がそっけなくなっていたんだ……。
……中学時代に付き合っていた彼女とは別れていたので、ラグビーを続ける理由も特になく、思い切って部活を止めた……。
その後は酷いありさまだったよ……。
先輩に絡まれるは、同じ部活だった奴等の態度が急変したりしてね。
(一体なにがあったんだよ、お前らに……)
皆の態度の急変の原因には、全く思い当たらなかった……。




