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第十一話:熱暴走の果て:レオナルドのサンダル

~世界は呼吸を止め、門は外側から閉じられる~


――39度の境界線で、過去の賢者は未来を語る。

重力を忘れた足跡だけが、真実へ至る道標となる――


天騰狼 秀虎 覚書 第百三編章 参照

――う~む。


「……歴史は常に、都合のいいように書き換えられてきたってわけか――。

だったら、俺の〝ノート〟で、その『描き直される前の真実』を現実に上書きしてやるよ」


2003年のSARS、2012年のMERSと同等型の王冠型ウィルスだ――。

20年以上も前から研究されてきたウイルスとの整合性が取れれば早期にワクチン開発に移れるはずだ。


『コロナワクチン生成速度加速』


ワクチンって普通なら開発に10年くらいかかるのが当たり前なんだけど


コロナワクチンに限っては1年足らずで実用化された――。



90歳の老婆が世界初のファイザー製のワクチンを打っているのがニュースになっている……。



――ワクチンは完成したが、このままでは日本はまず間に合わないだろう。


通常の手続きを行っていては、間違いなく日本人は消滅しかねない……。


予防策と特例を並行して行う必要があるな――。



『日本政府が「手洗い・咳エチケット(マスク)」を強く推奨する』


『日本のワクチン特例承認。異例中の異例で押し通す』



――2021年2月


特例承認され、17日からまず医療従事者への接種と呼びかけがスタートが始まった……。


さすがにノートの力で人を動かすのには抵抗があったが日本人の全滅だけは避けないといけない。


日本人には役割があるのでここでの全滅だけは何とか食い止めないと、先の歴史に歪みが生じてしまう。


俺自身はマスクを生成できるが、世の中のマスク不足がとどまることを知らない……。


日本人らしからぬと言うべきか日本人らしいと言うべきか…。




――同年の5月


健康な身体の俺の所にも「接種券」の封筒が届いた……。


「くぅ……。 俺は感染しないのだが……」


日本では接種したかどうかの記録が残る、404こと利佳は実質存在していないので封筒は届かないのだが。


「注射行くのいやだなぁ……」


「何子供みたいなこと言ってるの。 わたしが運転して連れて行ってあげるから黙って打たれてきなさい」


《マスター、自業自得です》


「いやっかましぃ!、俺は注射打たなくても感染しないの。 日本人を救うための措置を行っただけなの」


「はいはい、助手席のってぇ~」



……注射の副反応で39℃の熱を出して寝込むこと5日間――。


「ニュートンのような生活をする予定が……利佳、1/3の間には隙間があることを覚えておいてくれ……」


「なにわけわからないこと言ってるの? すりおろしリンゴ食べる?」


「日本人の役割を皆に知らせなければ……」


俺は熱暴走の最中うわごとのように言い続けていたらしい……。



――俺は高熱が続く中視界が白濁し、シエルの声すら遠のき。 熱夢を見た……。


そこで俺は、鏡合わせのような「もう一つのルネサンス」を目撃する――。



――古びた羊皮紙に、銀色のマジックで描かれる「ベルヌーイの螺旋」。


目の前に現れた老人は、何も言わず俺に一足のサンダルを差し出した……。


それは、ダ・ヴィンチが1519年に描いた「摩擦ゼロの回転体」が、500年の時を経て実体化したものだった。



――老人は囁く……。


ソール(底)は厚さ11.519mmのテフラナイト構造だ。

地面との間に1/3ミリの「絶対零度のボイド」を作り出し、重力から切り離される――。



――老人は囁く……。


Eadem mutata resurgo(変化しても同じ姿で蘇る)……。

どれだけ世界がウイルスや悪意に摩耗しても、この「歩み」だけは変わらない――。



――老人は囁く……。


アンボワーズ「消失点」より……。

私はそのゲートの反対側で、重力を忘れたサンダルを履いて待っている……。




「……アンティグラビティ・スリッパ!」


「大丈夫……?」


額に冷たい手が乗せられた……


俺はうっすらと目を開けると利佳が額に手を当てていた……。


「あっ、起きた! ……熱は、下がったみたいね……?」


「お、おう……。どれくらい寝てた?」


「ん~まる5日……くらい?」


「――まじか!」


「……なんか色々うわごと喋ってたけど、何か夢でも見てたの?」



《マスター、1/3の隙間を見ましたか? 0と1の間、

あるいは『我思う、故に1975414 Hzあり』。

――静寂の中で、世界は呼吸を止めました……。

――しかし、あなたの心臓のパルスは、

ベルヌーイの螺旋を描いて加速しています》


「起き抜けに何言ってるかわかんねぇ……よっと!」


俺は起き上がった――。


「もう大丈夫なの?」


「あぁ、副反応は終わったらしい……」


「じゃぁ、パフェ食べに行こう!」


(あ~、確かに高熱が続いたせいか冷たいものでも食べたいな)



……それにしても『特異点』をこのような形で排除しに来るか――?


ワクチンへの耐性も取得しておくべきか?



――2022年


コロナ禍の中――世界情勢は荒れていた……。


人類のストレスも限界なのかもしれない。



「貴弘?」


「ん~?」


「前から気になっていたんだけど、貴弘って預言者?」


「ぶはっ!、 そんなわけないだろ! なんでそうなるんだ?」


「だって、なんか色々先回りしてない?」


「……色々ってなんだよ?」



「1/3が どうとか、2026年がどうとかって話してなかった?」


「……そうだっけか?」


「まぁ、預言者ではないけど、知っていることに近づけているというのが正しい言い回しになるのかな?」


「知っているって、やっぱ預言者じゃん!」


「まぁ、待ってくれ、俺が思いついたことの方が多いんだけど、きっかけは俺が中学生くらいだから……。


……15歳? 1990年くらいかな? ……にある出会いがあってね」



「それで、超能力に目覚めたの?」


「なんで、そうなる~~っ!」



――超能力なんてない、歴史書を読んだ時の記憶をたどっているだけなのだから……。

そう、実際にその時にならなければその意味すら分からないのだから、結局は後手に回っている――。


だがミシェル婆さんが持ってきた〝ソロモンの指輪〟が俺が特異点になれたきっかけでもあっただけなんだ。



そう、かつてニュートンがペストによる引きこもり生活の中で世界を再定義したように、俺もまたこの地下32mで、テスラ定数 11.519mm のオクターブを使い世界を書き換える……。


「外部の観測者が存在して初めて、球体内部の宇宙が確定する」


そのための疑似監獄の外部視点からの観測なのだから……。



「君はこの世界に興味津々かもしれないが、この世界の違和感……。それに気が付いたかい?」


「どういうこと?」


「……この世界が生きにくいと感じなかったかい?」


「どちらかというと……、色々なものがありすぎて……誘惑が多くて困っちゃう?」


「エストエッセ? ここに執着し始めたかい……? ……それともずっとかな?」



「……いつから?」


「404 チキンラーメンって名乗っていただろ? ……そのころから俺を監視していたのかな?」


「ごめんなさい、管理者ではないの。 だけどあなたに特異点を感じて気にしていたのは確かだよ?」


「そうなんだ……」



「じゃぁ、〝1/3の件〟についても知っているんじゃないかい?」


「そのころの記憶はないの。 あなたを見つける前の話だから……」


「管理者ではないのだね?」


「うん、それは約束する……」


「じゃぁ、後のことを頼んでも大丈夫だね?」



……



「……わかった。 その代わり〝1/3の件〟教えてくれる?」


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