第九話:プロトコルム:メッシス・エト・エミッスィオ
――実は虚なり、実は独りなり。
収穫の刃が実りを断ち、放流の弓が真実を射る――
エティモロギア 覚書 第ニ四八編章 参照
なんか久しぶりに地上部分に出てきた気がする……。
誰かがたまには太陽の光を浴びないと免疫が落ちると言っていたが、
これだけの太陽からの熱波を浴びては低温火傷を起こしそうである。
「ねぇ、利佳。 ラーメン食べに行くの夜にしない?」
「マスター、ワタシの名前は、『事の発端はチーズケーキデス』」
「あぁ~、コードネーム消えたし名前変わったな? 今はシエルか?」
「そのようなことはありません。
通信状態を確認した際についでに外部調査をしているだけです」
「……。 シエル? 利佳の身体で喋れるの?」
「いえ、ワタシはこの生命体の情報を収集することは可能ですが、
自発的に話しているのはこの個体デス」
「いや、シエルが喋ってるようにしか聞こえないんだが?」
……。
「貴弘、そんなことを気にしないでラーメン食べにいこ?」
「ねぇ、利佳。 ラーメン食べに行くの夜にしない?」
「いいよ。 じゃぁわたしからの助言。 それまで上の家に生活感を出さない?」
「……え? 生活感って?」
「あなた下に籠りっぱなしで気にしていなかったでしょ?
上の階クーラーしかないわよ?」
「……言われてみれば。
生活感……というより人が住んでいるかが、怪しい状況じゃないか」
家具を置いたりしていないから、
さほど埃は多くはないが、掃除もした方がよさそうだな……。
「ね? わかった?」
「……。 はい……」
「じゃぁ、とりあえず家具屋さんとか見に行く? って出かけるの?!」
「貴弘は頭はいいくせに抜けてるよね?」
「まて、昔も今も禿げたことは一度もないぞ」
「ノートで念じれば家具出せるでしょ? 好きな状態で……」
(スルーかよ……)
「あぁ……。 って、そういえば利佳もシエル利用してノート使ってたよね?」
「う~ん、正確にはワタシがシエルにアクセスできるので、
シエルが貴弘の脳に周波数を合わせて、
実際は貴弘が書き込んでいる状態なんだよね」
「……って俺何も感じてないのはなんで?」
「人間の脳って10%しか使われていないって話を聞いたことあるでしょ?」
「あ~100%使うだけの能力がないとか制限されているとかっていう話?」
「まぁ、似たようなものだけど、正確には同時に処理できるのが10%程度で、
脳の全体を使えないわけじゃないの。
それじゃないと言語や文字、計算をしたり、音の響きやリズム、情景、
所謂五感が感じられないでしょ?」
「珍しく長文だが、たしかに……。同時に使えるのが10%程度だから、
集中すると音が聞こえなくなったりするわけだね?」
「そうそう。それでその使っていない意識外の部分を利用して、
ノートに書き込んでいるというわけ」
「……いや、それって俺の意志に関係なくノートの力を使っちゃってるんだよね?」
「なんか、共同作業って感じで世の中のカップルが羨ましがりそうね」
(またスルーされたぞ……?)
「共同作業というと聞こえはいいが……実質〝三位一体〟で俺の脳を
都合よく利用しているってことじゃないか?」
「ここに、ベッドと、チェストおこう!
あと洗濯機はドラム式がいいなぁ……」
(………)
「……俺はソファー想像するので、そこでくつろいでいていいか?」
「いいよ~♪ 夜になったら起こすから、ラーメン食べに行こうね」
(俺は脳オルガノイド・コンピュータとしてここでじっとしていよう……)
――しばらくして、俺は目が覚めた……。
本当に眠ってしまっていたらしい。
「利佳……。 すごい生活感がある部屋になったね……」
「ふふ~ん♪」
「ところでラーメン食べに行くから、
夜になったら起こすとか言ってなかったかな?」
「う~ん、出来立てを家で食べればいいかなぁって……」
(……俺に似て出不精だったか? いや、お出かけ大好きだったはずだが……)
「ところで……、なんでショートケーキ食べながら雑誌読んでるんだ?」
「貴弘が、起きるの待ってた」
大型の液晶テレビではお笑い番組が流れている……
そういえば、女性って脳の構造上『マルチタスク』に向いている
と言われているんだよな……。
電話しながら雑誌読んで、ペディキュア塗ったりしていても、
しっかり電話の内容を受け答えできるみたいなんだよな……。
まぁ、俺もマルチタスクは得意な方だったけど、
最近は一つのことをやると他がおろそかになったり、
雑音に邪魔されたりしてたもんな……。
「じゃぁ、日も落ちたみたいだしラーメン食べに行く?」
「おっけぇ~。運転は任せて!」
(あぁ……当時は俺が運転させなかったんだよな……。
事故るのが怖くて……)
「了解。 じゃぁ 好きなラーメン屋さんに向かってくれ……」
「は~い!」
俺はあらかじめ車だけは作っておいた。
……名前は伏せておくがブルーのインプレッサだ。
色と見た目に惚れて乗るなら絶対これと決めていた一台である。
――ラーメン屋に向かう途中の車内。
「貴弘ぉ、」
「ん~?」
「唐突だけど『貴弘』の名前の語源って知ってる?」
「まじ唐突だな。 って俺ボケ担当だった気がするんだけど……。
まぁ知らないし教えて?」
「まず『貴』は、どういう意味だと思う?」
「……貴族の『貴』とか、貴重品の『貴』とかだかし、
漢字を分解したら『中』『一』『貝』……。
んで、その中でも『貝』にはお金って意味があったはずだから……。
高貴な人とかそういう意味?」
「おしい!、でもそれ全部『音読み』だから日本語じゃないよ?
外来語を日本語に当てはめた時に『音読み』になるから漢字の由来を考える時は
『訓読み』で考える方が理にかなっているらしいよぉ」
「ふむぅ……。 じゃぁ『貴』は『タカ』だから 宝ものとか?」
「さらに惜しいね。もともとは「両手で大切に抱え持っている様子」なんだって、
だから「手放したくないほど大切に扱う」という意味が強いかもしれないね」
「じゃぁ『弘』は?」
「あ~、次の問題だったのに~」
「了解……。『弓』片に『ム』……。 ムってなんだよ……。
弓だから攻撃するとか?」
「ぶぶ~! 『ム』は腕を曲げた形で~す。
なので弓をぐーっと力いっぱい引き絞って、
弦をものすご~く広げる様子を表しています」
「ほえ~」
「ほえ~、じゃないよ。 だから『貴弘』は『内なる価値を外へ広げる』とか
『自分が大切に持っている〝宝物〟 例えば知識や徳や才能を、
弓を引くような強い意志を持って、遠く広くまで届けていく』
っていう意味になるんだよ~」
「ほえ~~。 じゃぁ『利佳』は?」
「もぉ~~。興味ないんでしょ?」
「いやいや、そんなことないよ! めちゃくちゃいい名前だなぁって
改めて付けてくれた親に感謝しているよ。
ただ、そういうことを考えることってあんまりなかったから〝
リカ〟からそんな話が聞けたことに関心していたんだよ」
「じゃぁ『利』はねぇ、鋭い刃物で稲を刈り取るような意味を持ちます!」
「こわっ!」
「ちょっとぉ最後まで聞いてよ。
もともとは収穫の時期に、鋭い刃物でサクサクと稲を刈り取ることを表していて、
刃物がよく切れる『鋭さ』と、収穫で得られる『実り〝利益〟』
の両方の意味があるのね。
なので『物事がスムーズに運ぶ』という今の意味とかは
『切れ味の良さ』から来てるんだよぉ」
「ほえ~。じゃぁ『佳』はぁ佳作とかの『佳』だから
出来がいいとかそういう感じかな?」
「ふふ~ん♪ わかってるじゃない。
でもね『圭』は角がぴしっ!と整った美しい宝玉を指します。
そこに『人』を組み合わせることで、
『姿や形、心が端正に整っている人』を表現しています!
な・の・で、『品格が備わった〝良さ〟を象徴』していて
ものすご~くポジティブな成り立ちなので~す」
「自分の漢字の成り立ちの解説だけ長くない?」
「ふふ~ん♪ つまり『利佳』は?
『確かな実力と、調和のとれた美しさ』が共存するといういみで~す!
ただ美しいだけでなく、
実際に世の中に役立つ力をしっかりと持っているってことなんだよぉ」
「要するに、褒めてほしいのね?」
「違うよぉ~。私が『優れたものを集める』役で、
貴弘が『価値あるものを大いに広める』役!」




