ふわふわ女子大生コンビの野球観戦記
「やったぁ~!優勝だぁ~!」
私の名前は東名貴子、大学生でプロ野球チーム『サタンズ』のファンだ!優勝を決めた試合を親友の宮内鶴って女の子と観戦に来てる。
「お鶴~、あたしゃ感無量だよぉ~」
「そういやお前がファンになってから初の優勝だったな」
サタンズはしばらく低迷期に入ってたけど一昨年就任した高梨監督が三年で優勝を目指すって言葉通り有言実行したんだよぉ~!一年目で三位で去年は優勝チームを最後まで追い詰めての二位で今年は去年優勝のセカンドプリンスとのデッドヒートを制して····やりましたぁ~!
「····ぁああああ!」
「心の声全部漏れてんぞ」
「鶴ちゃんは落ち着きすぎだよ~」
「私は球場観戦に重きを置いてるから」
「ケッ!ザコカスが調子に乗んなやボケ!」
「頭弱そうなニワカガキは球場来んといて~」
「何だ!お前ら!?」
「負け惜しみだ、一々気にすんな」
今日の対戦相手の関西を拠点にするカイザースはサタンズアンチが多い、東京に本拠地を持ち親会社の豊富な資金力で良い選手を補強するかららしい。アンチはサタンズをザコンズという蔑称で呼んでおり私達ファンの事はザコカス呼ばわりだ。
「強くするためにお金使って何が悪いんだよ~!それに移籍は選手の権利だろー!?」
「まぁ理屈はそうでも割り切れない物ってのがあるんよ、それにカイザースさん今日負けて自力Aクラス消滅したからイライラするのも無理無いよ」
最後少しモヤモヤしたしたがその日は夜のスポーツニュースを全て録画し選手達のビールかけを炭酸飲料を飲みながら眺めた。
翌日も鶴とバイト終わりにナイター観戦だ、消化試合でも満員御礼だ!
「結構ズラッとスタメン変わったね?」
「流石に主力は二日酔いだし、ESがあるからね」
ES····エキサイティングステージと呼ばれるシーズン終了後に行われるジャパンシリーズ出場をかけたプレーオフだ。
サタンズが所属するバスターリーグともう一つのプラチナリーグのシーズン上位3チームがそれぞれ戦い勝ち抜いたチーム同士でジャパンシリーズを戦う。
「ES····苦労して優勝したのに何で敗者復活戦みたいな事するの?」
「儲かるから、優勝チームが決まった後もES出場争いで盛り上がるしね」
「シーズンとは別にサッカーみたいにカップ戦すれば良いじゃん····」
「普通に二軍の若手出して終わりでしょ、レギュラーシーズンが選手の年俸査定の場なんだからやる気無いと思うよ」
「両リーグの同じ順位同士が戦って順位決定戦とか····」
「それこそやる意味無いでしょ。ES黎明期はシーズン勝率1位でも負ければ優勝とは認められなかったからね、今はリーグ優勝は歴史に刻まれるだけ全然良いよ」
結局鶴の言葉に何一つ言い返せずにその日の試合は負けて終わった。鶴ちゃんはサタンズファンだけど球場でのグルメとか他チームのファンとの触れ合いとかそう方に楽しみを見出だしてる人だから····一歩引いた目で見てる感はある。
そしてリーグ戦全日程が終了しサタンズは複数のタイトルホルダーを輩出した。特に甲子園を沸かせたけどプロ入り後は同期や大学社会人に行った同世代に先を行かれていた能條が首位打者を初めて受賞したのは胸熱だ。
ただ不気味なのは広島に本拠地を持つセカンドプリンスのエース三門····最多勝で先発完投型の選手が受賞する狭山賞の候補筆頭だ。
短期決戦は絶対的エースがいる方が勢い付くからなぁ····だから嫌なんだよ····ポストシーズンなんかさぁ。
翌日バイト終わりに鶴ちゃんに相談する事にしたが····
「心配ないでしょ。エース三門と二番手ウィリアルドはファーストラウンドで投げるし3戦目まで縺れれば三番手も使わざるえない、ファイナルはウチが表ローテで広島は裏ローテ····しかも全試合ホームで勝てない方が恥ずかしいよ」
「そうなのかな····?」
「それにファースト広島でやった後に東京まで来なきゃだから疲労も半端ないよ、3位のカイザースなら更にね」
「そう言われると·····」
「とりあえずウチが初戦取ればほぼ決まり、さて!明日落とせない講義だから寝るよ!」
明日の講義に備えて鶴ちゃんは眠りについたけど····一つ気がかりなのは中4日でエース三門が登板してくるかも知れないということ。王手をかけたとしてもそこを落とせば相手に勢いついちゃわない?あ~!去年一昨年はファーストラウンドなんてストレートで負けてたからESファイナルなんて殆ど知らなかったんだよ~!去年は受験勉強もあったしさ。
そしてデーゲームで始まったESファーストラウンド、セカンドプリンスの三門とカイザースのエース城戸の投げ合いは三門に軍配が上がりセカンドプリンスが初戦を取ると二戦目は乱打戦になったけどセカンドプリンスが勝利しストレートでファイナルに駒を進めた。
カイザースは自力ES無くなった後も勝ち続け横浜シーバスを引きずり下ろして逆転ES出場決めたけどここまでかぁ····本音としてはお前らの方が相性良いんだから勝っとけよ!
そして迎えたファイナルラウンド初戦はサタンズのエース椎野とセカンドプリンスの裏エース矢間との緊迫した投げ合いだったけど最後満塁での押し出しでサタンズがサヨナラ勝利した!
「やったー!まずは1勝!でもあと3勝かぁ····遠いよ····」
「あと2勝ちで終わりだよ。優勝チームには1勝のアドバンテージがある、あっちは4連勝ペースで行かなきゃいけないけどウチは2勝の星勘定で良い」
「えっ!?そうなの?····それでも不安だな····4連勝されたら終わりじゃん····」
「そりゃここから4連敗するようなチームは仮に特例で出れたとしてもジャパンシリーズで4タテでボコボコにされるだろうよ、くだらねぇ事言ってねぇで帰るぞ」
アドバンテージ1勝で足りるワケ無いじゃん!シーズンの価値ってたかが1勝程度ですまされるの?ふざけんなよ!偉い奴ら!
翌日も左のエースのライルが完封し最多安打賞の3番芦田がタイムリーで取った1点を守り抜き勝利した。ただ打線湿り過ぎじゃない?この2試合でたった2点って····しかも明日やっぱり中4日で三門だし打てる気がしないよ····
嫌な予感が的中し三門の完璧なピッチングに鼓舞されたセカンドプリンス打線は大爆発しメジャー帰りでシーズン12勝の長内をノックアウトしサタンズは大敗した。
「わぁ~!ヤバいよ!ヤバいよ!」
「ESファイナル三戦目はファーストで使ったエースが出てくるから優勝チームの勝率は低かったりする」
「そんな呑気に言ってんじゃ無いよ!」
ただ悪夢は終わらない。四戦目も相手の二番手ウィリアルドに手も足も出ずに敗れ五戦目は新人王を取った大卒ルーキー可畑が大炎上してボロ負け····リリーフも勝ちパターン以外は全部ボコボコ打たれてる····椎野とライルは完投だし····
「鶴ちゃん!どーすんのさ!?何時までそんな余裕ぶるの!?」
「これでやっと五分ってトコだからなぁ、負けたら後が無いから必死にやるとあと一つ勝たなければならないでは全然違うから広島も明日は難しい試合になるでしょ」
「そう言って余裕ムードかましてたらこれだよ!あと一つ勝つが出来てないのウチの方じゃん!何で優勝したのにこんな想いしなきゃならないの!?メディアもSNSもセカンドプリンスの逆転突破ムードだしさ!辞めちまえよ!こんな制度!」
「落ち着け貴子····悔しいのは皆同じだ、すいません連れが煩くて····」
「私達が生まれる前は消化試合で客が入らずどのチームも経営的にキツかったんだ、だから球団数を減らして1リーグ制に球界の上層部がしようとしてたけど選手達が反対し戦って今の2リーグ制を勝ち取ったんだよ」
「····」
「だから優勝が決まった後も客が入るようにプレーオフ制度を整えたんだ、確かに理不尽な面もあるけど先人達の努力があった事だけは覚えといてくれ」
「でも····負けちゃう····」
「負けねーよ。明日はエース神様仏様椎野様だぞ、ちなみに球界再編の時に先頭切って戦ったのがウチの高梨監督な」
鶴ちゃんに帰りに慰めのラーメンを奢って貰い帰路についた。ネットで球界再編を調べたら高梨監督の現役時代イケメン過ぎるだろ!セカンドプリンスの志釜監督も大阪正院高校のチームメイトで球界再編で一緒に先陣切って戦ったんだ····しかもこっちもイケメン····
そして最終戦は月曜のナイターのためバイトを早めのシフトにして貰い夕方には球場に着いた。
「緊張で朝起きれなくて眠いよぉ····」
「朝は起きなさい、居眠りに厳しい山本教授なら終わってたぞお前」
「大丈夫····だよね?」
「全試合ホームで1勝のアドバンテージ、相手は疲弊してる絶対有利な外国から見たら茶番に近いプレーオフに勝てないんならジャパンシリーズなんか出る資格無いよ」
確かに冷静になってみると私がチャレンジャーの立場ならふざけんなって言いたくなるほどに優勝チームが有利だ。そんな逆境をひっくり返せるチームの方が情けない優勝チームよりもリーグ代表として良い試合をしてくれそう。その情けない優勝チームになってくれるなよサタンズ。
そして告げられるプレイボール。やっぱり椎野は凄い、バシバシ三振を取って行くしセカンドプリンス打線も明らかに昨日までの勢いが無い。相手の先発の鈴木も好投するが5回に眠ってた主砲のラインハルトがツーベースヒット、そして首位打者の能條がタイムリーを放ち先制し続く6回には伏兵の寺田がソロホームランを放ち2点差とする。そして1点は返されるもセットアッパー喜多山が8回を3人で締め9回クローザーのウィルヘルムがランナーを背負いながらも最後をゲッツーで打ち取りゲームセット!サタンズのジャパンシリーズ進出が決まった!
「やったぁああああ!神様!仏様!椎野様!文句言ってごめんなさい!高梨さん!」
「久々に面白いESだったね、案外ここで苦戦しといた方がジャパンシリーズで勝てたりするんだよ」
その後ヒーローインタビューで椎野様が日本一になる事を宣言し球場は歓喜に沸くのであった。
「勝ったから言うけどES見直したわ、リーグ戦の積み重ねの力も大事だけど絶対に勝たなきゃいけない試合を勝ちきる力も大事だよね」
「それが合わさって強いチームだよ、ES負けてもリーグ制覇は残るけどやっぱ優勝したからにはジャパンシリーズ出ないと寂しいからね」
その夜は鶴ちゃんとESを含むバスターリーグの完全制覇の祝勝会を盛大に行った。
そして幕を開けたジャパンシリーズだったがプラチナリーグのスタンピーツをサタンズがまさかの4連勝で下して日本一となった。ジャパンシリーズにピークを合わせていたのか打線が大爆発だったなぁ。高梨さんが胴上げされ今年の全日程が終了した。シリーズMVPはまさかの寺田だった。
「日本一!やっぱり嬉しいねぇ!今夜は盛大に祝うぞ!」
「明日は日曜だから遊びに行こうか」
「えっ!?行く行く!」
こうして私のサタンズファンとして初の優勝シーズンは幕を閉じた。翌日からはストーブリーグの情報収集と過去問の為に先輩への媚び媚びタイムが始まったのであった。
終わり~
お読みいただきありがとございます!
常々思うのですよ、野球のポストシーズンの下剋上でリーグ優勝の価値が薄れる問題って普通に優勝チームが勝てば良いだけじゃね?と。
そもそも優勝チームが勝つように出来てるしポストシーズンの調整に失敗したチームが日本シリーズ行くよりはまだ下剋上チームの方が面白い試合を見れると思います。




