46.秘めたる思いを星空に透かして
前回のあらすじ。
藍が当てた一泊二日の温泉旅行に行き、
みんなで紅葉狩りした。
「はぁ………気持ちいいなぁ」
湯船の湯気が、空気中にただよう。
あれから数時間。現在、旅館の温泉に浸かっている。
石造りの温泉は、男女別で広く作られている。
遅い時間のせいなのか、僕以外人はいない。
向こう側で、楽しそうな声が聞こえる。
真冬ちゃん達、だろうか。
部屋も男女で分かれてしまったから、いつ入るのかは聞いてなかったけど。
「あーあー、つまんないなーー。なんでお風呂もお部屋も、とーこがいないのー」
湯船をぶくぶくさせながら、純君が頬を膨らます。
男湯とかかれたこの場にいるのは彼と、藍さんだけだ。
部屋もお風呂も別という状況に、どうやら純君は納得すらしてないようで……
「ねー、パパ。僕とーこのとこいきたい」
「行けるわけないでしょー、捕まりたいんですかーあなたは」
「じゃあこの壁の穴開けて見える様にするのは?」
「どこからそんな発想でてくるんですかー、まったく。誰ですかー、こんな風に育てたのはー……ってミーか」
「あはは……でも、よかったですよね。お店も、みんなのことも、うまくいって」
空の星が、近く感じる。
晴天だった影響なのか、すごくはっきり見える気がする。
確か、カシオペア座……だったっけ。こんなに綺麗な星を見るのは久しぶりだなぁ。
あとで、携帯で撮ろう。お母さん達にも見せてあげたいな、綺麗な場所だよって。
それからー……
「……こうも、来ればよかったのに」
思わず呟いてしまった独り言は、湯船の中に消える。
星空を見てると、なんだか懐かしい。
大学の頃、こうの課題が終わらなくて、よく遅い時間まで一緒に残ってたの思い出す。
先にお酒が飲みたい、なんて言ってたけど、こんなに綺麗だったなら無理にでも連れてくればよかったかな、なんて……
「そーいやなんでこなかったんですかねー、黄河さん」
びっくりした反動で、お湯が揺れる。
彼のことを考えていただけで、口には出していないはず。
それでも藍さんはわかっているとばかりに湯船の縁に腰掛け、長い髪をかき上げながら、深いため息をついてみせた。
「せっかくミーが当てたってのに、一人になりたいなんて薄情だと思いません? まあ彼らしいですけどー」
「あはは……こうにも、こうなりの事情があるんだと……大学時代のゼミ旅行も、そんな感じでしたし」
「まー、あの人面倒臭いですからねー。夜になるといっつも思いだしますよ。入社当初なんて、定時過ぎてるのに、なかなか帰らしてくれなくて困るのなんの」
そういえば、藍さんはこうが店に入った頃から知ってるんだっけ。
こうの不器用さは、今でも健在だ。制服のボタンすらつけるのに苦労するし、料理に手をつけようとすると真冬ちゃんに全力で止められている。
それなのにコーヒーだけは、違う。
同一人物か疑ってしまうほど見違えるようで、力量だって藍さんと同じくらいだ。
そんな彼が、今は僕と同じ職場で働いてる。あの頃は考えもしなかったなぁ。
「……そういえば、藍さんは知ってますか? なんでこうが、この店に働くようになったか。藍さんのコーヒーがすごかったから、とか?」
「ミーのコーヒーがすごい、ねぇ……聞いてないんだ、理由」
その言葉に、思わずえ? と声が漏れてしまう。
それでも彼は答えず、先に湯船から出てしまいー
「そろそろ上がりましょっか。風呂上がったら、みんなで集まりたいって那月さんが話してましたし、早く行った方がいいですよー」
藍さんは先をゆく。
そんな彼を追いかける様に、僕は湯船を後にした。
「でねぇ、真冬ったら! 歩道側を率先して歩くの!! やばくない!? すごくない!?」
「えぇ〜、ふゆにゃんってばかぁっこいい〜❤︎」
「茶化さないでよ。那月だって、所構わず手繋いでくるじゃん」
「それは真冬がさぁ……あっ、明音君。お疲れ〜、先始めてるよ〜」
頬を赤くした那月ちゃんが、手を振る。
いらっしゃい、とでもいうように真冬ちゃんがコンビニで買ったサワー缶を片手で上げてくれた。
お風呂から上がってすぐ、僕は女子部屋にやってきた。
と言っても、実はものすごく緊張している。
旅館といっても、女子の部屋だ。
お風呂上がりに、浴衣、いつもと違う髪型。どこをみていいのかわからなくて……
「なんだ明音、今来たのか。遅かったな」
そんな僕とは対照的な彼が、ビールを片手で飲む。
無論、こうである。
テーブルの上には、すでに空になった缶がいくつか転がっている。相当、早く一人で始めたかったんだろうか。
まるで自分の部屋のようにくつろいでおり、椅子に陣取ってさえいる。
この差はなんだろう……
「あ、とーこ〜浴衣だ〜可愛い〜」
少し遅れて、純君が部屋に入ってくる。
慣れたように橙子ちゃんに飛びつくと、彼女は少し嫌がりながらも、彼を受け入れてみせた。
「あら純ちゃん。店長さんは一緒じゃないの?」
「みんなとより一人で飲みたいんだって」
「あはは、店長さんらしいね。こう君も入ってくればいいのに、温泉すごく気持ちよかったよ?」
「あー、後でな。つーか那月、俺らには言わなかったくせに、人前でいちゃいちゃしてんのか?」
「まさか、そんなしてないよ〜。今のは家の中とか、近所の話で……ほら、うちら家隣だし」
「うっわ、リア充アピールしやがった。うっぜ」
「その言い方やめてくれる? 店内でやってるそこの二人よりはマシでしょ」
「ちょっとぉ、私が悪いみたいな言い方やめてくれますぅ? ほとんど純ちゃんのせいなんですけどぉ」
「だってとーこが可愛いんだもん。仕方なくない?」
みんなが、わちゃわちゃ話している。
それを僕は、サワーを片手に笑って聞いていた。
関係性が変わった影響か、どこかみんな楽しそうに笑っている。
やっぱり、恋をするっていいな。
「そういえば、ふと思い出したんですけどぉ。私がお店に閉店を促しに来た時……こうちゃん、お面かぶって、偽名名乗ってましたよね? あれ、なんだったんですか?」
そんな中、会話の話題がこうになっていることに気づく。
気付かぬうちに、身を乗り出してしまっていた。
「あー、あったね〜。明音君が入ってすぐの頃、だっけ。身バレしたくないからって」
「まあ、どうみてもバレバレだったけどね。名前は確か……宇賀あまみ、だっけ」
「えぇ〜何それぇ、こうちゃん面白ぉい」
「余計なこと言うんじゃねぇよお前ら。橙子も笑うな」
「だって君、他の友達には話してたんでしょ? 明音が優しいからって、言ってない方が問題だと思うけど」
その言葉に、温泉で言われた藍さんの言葉が甦る。
実際、彼のここに入った明確な理由は、聞いたことがない。
師匠と慕ってるし、藍さんのコーヒーに感銘を受けたとばかり思っていたけど。
自分に自信が持てるようになってから話そうと思っていた、彼はかつてそう言っていた。
けれど彼の周りで知らなかったのは、僕だけ。演奏会にきていた友達も、みんな知ってる風だったし……
「あー、わかったよ、話す、話すから。とりあえず先に風呂ってくるわ」
「あれぇ? 逃げるんですかぁ?」
「調子こいてると減給すんぞクソ橙子。お前ら、飲み過ぎんなよ? あと、明音に変な質問したら、ただじゃおかねぇからな」
「はいはい、もう心配症だなぁ」
こうは風呂場に向かうべく、椅子から立ち上がる。
すれ違う直前、ふと目があったかと思うと、彼は僕も耳元で小さく囁いてー
「明音、明日少し話がある」
その言葉に、なぜかドキッとする。
なぜ僕にだけ言ったのかわからず、思わず顔を上げる。
部屋をさる彼は、こちらを振り返らない。
その横顔はいつにも増して真剣で、何かを決意したような、そんな顔に見えたー
(つづく!!)
おまけの小ネタ。
黄河「そういやお前ら、妙に来るの遅かったな。風呂で何してたんだ?」
明音「あー……それは、純君を止めるのに必死で……(^^;)」
那月「そういえば、明音君すごい疲れてるじゃん。純君ってば何したの?」
純「なつき達ばかりとーこと一緒なの、ずるいなーって思って。たるを並べて、女湯覗こうとした✌︎︎︎⸜(*˙꒳˙*)⸝✌︎」
橙子「あああなた! さらっと何してるんですか!!」
純「でもあかねがダメっていうから。二人より先に上がって、女湯はいろーとしたよ。ほら、ボクって可愛いから、女の子でも通じない?(´。✪ω✪。`)」
真冬「通じるわけないでしょ( ・᷄-・᷅ ) 君、とんでもない思考持ってるよね」
純「そもそもこういうお風呂回って、女の子の方がよくない? ボク達じゃなくて、もっととーこに……ブツブツ」
真冬「……急に饒舌になったんだけど。彼はなんの話してるの?」
黄河「言わされてるんじゃね? せっかくのマスコットポジションが台無しだぞー」
物語上仕方ないんだもの。by作者




