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43.トリート・オア・パニック

前回までのあらすじ。

純が文化祭にて橙子の想いを明かし、

見事結ばれた。

満月が、空に輝いている。

自分の格好を鏡越しに見ながら、慣れない見た目に目が泳いでしまう。


「これでよしっと……はい、動いていいよ」


吸血鬼風の衣装を着た真冬ちゃんが、くすりと笑う。

その姿に僕は、満面の笑みでありがとうと返した。

月日が経つのは早いもので、文化祭から二週間が経った。

今日はハロウィン。みんなで仮装して、夜の営業をすることになったのです!


「すごいね、真冬ちゃん! 今の僕、すごく警官っぽい!」


「那月に色々仕込まれたからね。で、そっちの海賊さんはどう?」


「はーー、髪型一つでこうも変わるもんか、すげーな……こんなことできるなんて、お前やっぱ女子なんだな」


「それ、どういう意味?」


隣にいた彼をたしなめるように、真冬ちゃんは化粧品を片付けていく。

こうは海賊の衣装だ。フェイスペイントや、腕のフックまで再現されていて、とても迫力がある。

僕もおもちゃとはいえ、腰に下げた手錠や拳銃が歩くたびにカチャカチャ鳴るから、正直落ち着かないなぁ。


「みんなさぁん、できました? あらあら、二人とも可愛い〜!」


そんな中、控え室からでてきた、橙子ちゃんがやってくる。

彼女の衣装はイメージぴったりの天使。元の可愛さも相まって、この中で一番違和感がないように見える。

その後ろには、王子様の格好をした純君もきていて……


「みんなー、みてみて〜ボク、王子様だよ〜どう? 似合う?」


「あー似合う似合う。にしてもお前、やっぱそれにしたのか。動物系の方がいいって那月達に言われてなかったか?」


「だーめ。ボクはとーこの王子様だから」


「ほんと、この子何言っても聞かないんですよ。それよりぃ、写真撮りません? せっかくみんな仮装してますし!」


「みんなで、ねぇ……前の君だったら、蜜柑蜜柑って、自撮りで自分しかあげなかったのに?」


「純ちゃんも、あなた達も、橙子橙子ってうるさいじゃない。それに……私をちゃんと見てくれるって言われたら、猫被る必要ないと思うのは当然でしょ」


真冬ちゃんの言葉に、照れているのかぷいっと視線を外す。

あの文化祭以降、彼女の態度が変わった気がする。

前までは客にも、僕たちにも可愛いアピールをしていたのに。

ちゃんと届いてるんだなぁ、純君の想いは。


「それに私、素でも可愛いんで❤︎ この中でいぃっちばん可愛いと思いません?」


ただ、素になったことで、元々刺々しかったものに、磨きがかかったみたいだけど……


「スイーツ、ちょうど出来上がったよ〜! あれ、みんなもうできてる! すごぉ〜い!」


「そろそろ開店ですよー。おや、思いの外お似合いで」


魔女の格好をした那月ちゃんと、旅人風の格好をした藍さんがやってくる。

ここまで仮装が揃うと、圧巻だ。みんな妙に似合ってる。

ハロウィンってすごいな。普通の日だったのに、一気に別世界にきたような……


「これでもかってほど統一性ないですねー。ミーの復帰祝いに、たくさん用意した甲斐があったってことですかねー」


「まあ、俺たちだからな!! ってん? 師匠、今なんて……?」


「えー? ハロウィン万歳って」


「んなこといってねぇだろ!」


「あー、聞こえてましたー? いやー、なんというか。そろそろ本格的に復帰しようかなって」


「ええええええ!!?」


みんなの声が、重なる。

彼は2年前に奥さんを亡くしている。以来、コーヒーを作ることができなくなっていた。

リハビリということで、気が向いた時にしかコーヒーを作ってくれなかった。

提供していたのも常連さんとか、限られた人のみ。

それがまさか、こんなことになろうとは!


「え、ほんとに復帰するの!? ちょっと前までぼーっとするか、休憩室でゲームしてたあの店長が!!?」


「どういう風の吹き回し? 君、店に来ても僕達に茶々しかいれてこなかったよね?」


「私は嬉しいけど……本当に大丈夫なんですかぁ? 正直あの頃と比べたら、全然ほど遠いですけど」


「パパのコーヒー、まだ70点」


「ちょっとーみんなしてミーの扱いひどくなーい? っていっても、店長はやりませんけどねー。あくまでもサポート的なやつで。さ、そうと分かったらさっさと持ち場に戻ってくださーい」



その後、ハロウィン本番は、難なく上手くいった。

那月ちゃんがメニューを考案したおかげで、売り上げも上々。

しかも、藍さんの復帰というだけでもとにかくお店が盛り上がってー


「……ああ、これ。懐かしいね、かつての味だ……よく、戻ってきてくれたね」


「やめてくださいよー、城さーん。これでも従業員にはボロクソ言われて、完全復帰ってわけじゃないんですからー」


「そうかな? 二年前と同じ、とは言い難いがマスターらしい味だ。どうして、またここに?」


「……別に。気が向いただけですよ」


彼が淹れるコーヒーは、まだ、あの頃にはほど遠い。

それでも一口飲んだ時、最初に飲んだ頃とは違うように思えた。

きっと彼なりに、一歩進んでいる。

それが僕は嬉しくて仕方ない。

よし、僕も頑張らないと!! 


「おまたせしました〜……あっ」


そんな時だった。

着慣れない格好のせいなのか、床の段差にひっかかってしまう。

もうだめだ、思わず目を瞑るとー


「明音っ!!!」


中身がぶちまけられる音と、カップが床に叩きつけられる音が響く。

恐る恐る目を開けると、こうが僕を庇うように目の前に立ちはだかっていたのだ!」


「っぶねー……大丈夫か、明音」


「え、う、うん……ってこうっ、腕!! コーヒーかかっちゃってる!」


「あ?」


さっきまで持っていたコーヒーが、彼の衣装にかかっている。

どうしよう、僕のせいだ。僕のせいで、こうが怪我をしてしまった。

何か、何かしないと……えっと、えっと……


「あー、どうりで熱いと思ったら……まあ、落ち着け、これくらい大丈夫だから」


「で、でも!!」


「俺はお前が無事なら、それでいいんだよ」


そう言いながら、僕の頭をくしゃりと撫でる。

まるで、言わなくてもわかってる、とでもいうように。

洗ってくると言ってはけてゆくその背中に、僕は何も言えなくてー


「今の聞きました? お前が無事ならそれで、ですって。かぁっこいい〜」


「橙子ちゃん、茶化さないの。にしても、こう君、すごいね……近くにいたとはいえ、咄嗟に庇うなんて……」


なんだろう、この感じ。

心臓が、自分のものじゃないようにバクバクしている。

指先が嫌な感じに震えて止まらない。

寸前まで、転びそうだったから?

それとも、僕のせいでこうを傷つけてしまったから?

考えれば考えるほど、頭がぐるぐるする……


「あかね、大丈夫?? ぼーっとしてる?」


「えっ、あっ、ごめん。考え事してて」


「心配しなくても、黄河は大丈夫だよ。今はこっちをなんとかしないと。お騒がせしてすみません、みなさん。気にせず、ゆっくりお過ごしください」


真冬ちゃんが、お客さんに声をかける。

結局、答えは出ないまま、僕は片付けに没頭することしかできなかった……


(つづく!!)

おまけの小ネタ。

ハロウィン、開店前にて。


橙子「あなたのハートを狙い撃ち❤︎ エンジェル橙子ちゃんが、あなたを導いちゃいますよぉ〜❤︎(^_-)-☆」


藍「おおー(*’ω’ノノ゛☆パチパチ」


黄河「……何やってんすか師匠( ・᷄-・᷅ )」


藍「いやー、せっかくの仮装じゃないですかー。生かさなきゃ勿体無いと思って、それっぽいセリフを作ってきたんですよー」


真冬「また随分くだらないことを……ていうか君、普段とあんまり変わらなくない?ε-(´-`*)」


橙子「え〜そう?(・ε・` )ま、これも練習だと思って、みなさんもやってみてくださいっ」


明音「え? えっと……あ、あなたを逮捕します!!( • ̀ω•́ )✧ これでいいのかな?」


純「おーあかね警察っぽーい。じゃあボクも……君だけを愛している。好きだよ、橙子(`・ω・´)キリッ」


橙子「……っ、い、いちいち私に言わなくていいのよ!ヽ(`Д´,,)」


藍「はいじゃんじゃんいくよー、次那月さーん」


那月「えー、どれどれ……。え、これ魔女いわなくない?」


藍「これも接客の一環ですよー?」


那月「えー……あなたに、魔法……かけちゃうぞ?(,,> <,,)」


真冬「………( '-' )」


那月「なんかこれ、めちゃ恥ずかしいんだけど!(∩ω∩〃)」


真冬「なんで隠すの? せっかくいい肌してるのに。君……おいしそうだね。血、吸わせてくれる?」


那月「!!!?⁄(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)⁄ ま、真冬!!?」


真冬「…………店長、殴っていい?(^_^ꐦ)」


藍「えーめちゃくちゃ吸血鬼っぽいのにー? はい、最後。黄河さーん?」


黄河「仕方ねぇなぁったく……んんっ(咳払い)

野郎ども!! 出航だ!! この船の宝は全部俺のもんだぁ!!o(`・ω´・+o) ドヤァ…!

どーだ? なかなか海賊っぽいだろ( ・´ー・`)」


橙子「やだぁ、なんかこわぁい」


純「こーが、絵本に出てくる鬼さんみたい。とーこ守らなきゃε-(`・ω・´)フンッ」


那月「なんだろう。こう君がいうと、海賊っていうより悪役っぽい……( ̄▽ ̄;)」


真冬「君、狼男とかそっちの方が似合うんじゃない?」


黄河「てめぇらまとめてぶっつぶすぞ( '-' )」


この後、接客に役立てました。

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