CASE2:Natsuki Shidou
ずっと、そばにいた。 幼馴染として、親友として。
彼女を支えたい。
ただ、それだけだったのに。
その純粋だった想いは、いつしか、
違う気持ちへ変わってゆく……
これは、そんな彼女の話。
そして、彼女が歩む「これから」の物語―
*那月 side*
「隣に引っ越してきた真冬ちゃんよ。那月、仲良くしてあげてね〜」
小さい頃に見た彼女の第一印象は、まるでお人形さんみたいだと思った。
プラチナのように綺麗な髪色、切れ長の目が、どこか警戒しているようにうちを見つめている。
「うち、那月!! 真冬ちゃん、一緒に遊ぼ!!」
そんな彼女と仲良くなりたくて、うちはめちゃくちゃ彼女を連れ出した。
どこに行くにも、真冬の手を引いて連れ回したっけ。
公園、学校、おじちゃんがやってるお店……
おとなしくて控えめな子だったけど、うちといる時だけは笑ってくれたり、話してくれたりした。
賑やかなうちの両親や弟とも、真冬は仲良くしてくれて。
うちにとってそれが、たまらなく嬉しかった。
「那月、今日サックス持ってきたけど……聞いてく?」
そんな真冬が吹く、サックスが好きだった。
音色が、吹く姿が。それに何より、楽しそうにサックスの話をする真冬の横顔が、好きだった。
だからやめると聞いたときは、驚いた。
あんなに素敵なのに、どうしてって。
あの時の真冬は、みていて耐えられなかった。
つらそうで、苦しそうで。
一人に、できなかった。
アルカンシエルで一緒に働き始めたのも、それが理由だ。
彼女のそばにいたい、それだけの理由で。
そんな時に、現れた。
彼女の凍った心を、溶かしてくれる人がー
「青天目さんだって、好きだったんですよね? サックスを吹くこと。その気持ちに、嘘はつかないでほしいんです」
明音君は、本当にすごい。好きって気持ちを、真正面に真冬へ向けてくれる。
こんな人、うちの知る中で見たことない。
きっとそれは彼女も同じで、いつからか彼を見る目が少し変わったことくらい、隣にいてすぐにわかった。
やめたサックスを始めるきっかけをくれたのも、彼女が自分の本当の気持ちを誤魔化すのをやめたのも、全部、全部。
いつのまにか、羨ましくて仕方なかった。
真冬を幸せにしたい、そう思っていたはずなのに。
彼や店長に言われて、初めて気づいた。
明音君を応援してきたうち自身が、自分が真冬を好きだと言う皮肉に。
他の誰でもない。明音君でもない。
うちが、いたかったんだ。彼女のそばに。
真冬の全てを、支えてあげたいって。
そのためには、彼女を遠ざけなきゃいけないこと。無理にでも誰か別の男の子と付き合って、真冬への想いを無理やり断ち切って、二人に幸せにねって笑わなきゃって。
そう、思ってたのに……
「……那月、本当にいいの? 僕と付き合うってこと、色々大変だと思うけど」
真冬がいう。
繋ぐ手が震えている。きっとこれまで、どれだけ苦労したのかがわかる。
彼女が好きだったのは、明音君じゃない。
……うちだったんだ。
しかも、ずっとずっと遠い昔から。
彼女なりに、苦しんでたんだ。そのことにうちは、全然気づくことができなかった。
……ほんと、うち最低だな。
「わかったんだよね、うち……真冬のそばにいたいのはうち自身なんだって。……明音君に合わせる顔がないけどね」
「……謝らないで。それをいうなら僕もそうだよ。明音を利用するような形になって……彼にはたくさん苦労をかけたね、お互い」
「ほんと、明音君すごいよねー。真冬だけじゃなく、うちの背中まで押すんだもん。お礼、しないとなぁ」
「……それなら、一つ考えがある。それには、黄河達の目を盗まないといけないけど……」
「大丈夫、それくらいやるよ。明音君にはうちも感謝してるもん」
真冬が、笑う。
やっぱりこの笑顔が好きだ。ずっと隣でみてきた、彼女の笑顔が。
「あーー、誕生日までお祝いしてもらっちゃってるのに、こんな幸せでいいのかなぁ……せめてお礼、考えさせてよ! 考えがあるって言ってたけど、何す……」
「那月」
真冬がうちを呼ぶ。
振り返った瞬間、柔らかな感触が熱を持って重なった。
ふっと笑うその顔は、いつも見てきた真冬とは違う顔でー
「……言っとくけど、僕結構溜まってるから。これからは容赦しないと思う。よろしくね、那月」
真冬が意地悪そうに、笑う。
ああもう、敵わないな。彼女には。
「もう、少しは遠慮してよね。うちだって、付き合うの初めてなんだから」
二つの手が、重なる。
初めて見る彼女の顔に、これから何が起こるのかの不安よりも、幸せの方がうちの心を満たしていたー
(本編へ À suivre : La suite……)
*ケース話は、おまけはありません*




