35.あなたの幸せが、私の幸せ
前回のあらすじ。
恋愛相談をした結果、何やらうまくいきそうなので
那月の誕生会をすることになった。
店内がどこか浮ついている。
お客さんが出たり入ったりを繰り返し、どこか忙しさを感じさせる。
そんな中、僕は1人休憩室で作業をしていた。
「これをこうして……こうすれば……よし、できましたっ!」
折り紙で作った輪っかを、全面に広げてみせる。
聖明音です。今日は記念すべき、那月さんの誕生日です!!
現在、飾り付け作り真っ最中で、店の勤務の裏でさまざまなことを準備しています。
幸いにも那月さんは午後からの出勤で、サプライズですることになった。
だから準備するのは今が最適なんだけど……
「あーちゃーん? お客さん増えてきたので、そろそろ……やだ、何その飾り付け、可愛くなぁい〜」
そんな中、蜜柑ちゃんが厳しい声をあげながらやってくる。
こうや真冬さんが嫌がってるにも関わらず、彼女のあだ名呼びは相変わらずだ。
本人曰く、その方が可愛いらしいけど……ニックネームで呼ばれることがない僕にとっても、あまり慣れないなぁ。
「そ、そう? ちょっとは良くできた気がするんだけど……」
「輪っかを続けるだけじゃ、なーんも可愛くないでしょ? もぉ、貸して」
ほぼ強引にはさみと折り紙を手に取る。
僕よりも小さな手で、黙々と切ってゆく。
手慣れた様子で切られてゆくのは、星の形でー
「ほらっ、こっちの方が可愛い❤︎」
「おお〜! すごい! さすがですねっ!」
「あとは、風船もあった方がいいかなぁ? あっ、お花飾るのも可愛いかも❤︎」
「とーこ、こーがが呼んでる」
「あらやだ、忘れてたわ。まだ時間はあるし、あとでやりましょ。純ちゃぁん、任せましたよ❤︎」
「任せて、がんばる」
呼んできた純君と交代する形で、フロアに入る。
思ったより賑わっていた店は、なんとか回っていた。
スイーツ担当の那月さんがいない代わりに、今日は厨房のほとんどを真冬さんが回している。
しかもその裏で、ケーキ作りもやっている。本当は、そっちを手伝いたかったんだけど……
「なんとか落ち着いたか……明音、わりぃが皿の片付け頼むわ」
「うん、わかった! ついでに、真冬さんの様子見てきていい?」
「好きにしろ。あんまり時間かけすぎんなよ」
こうの言葉を受け、急足で皿を洗い場へ持って行く。
厨房を覗くと、真冬さんがいた。
真剣に、まっすぐな目でケーキを作っている。
真っ白に塗られて行く生クリームは、とても綺麗で。飾られて行くスイーツは、どれもキラキラしていてー
「………何みてるの」
はっ、しまった。また見惚れて……
「すみません、なんか見入っちゃって。美味しそうなケーキですね」
「那月、甘いものには目がないからね」
「確か、閉店後にするんですよね? 緊張するなぁ、僕サプライズ初めてなんですよ〜うまく隠せるかなぁ」
「ああみえて那月は鈍いから、意外にバレなさそうだけどね。……本当に、やるの?」
その言葉に、僕は彼女を見る。
今日の誕生会の最後、真冬さんは那月さんに想いを伝える運びだ。
もちろんみんなにそのことは言ってないので、二人だけにするように僕が気を向ける作戦になっている。
もっとも全部藍さんの差し金だけど……
それでも彼女はやはり不安なのだろう。
生クリームを持つ手が震えてるし、顔つきも暗い。
好きって気持ちを、誰にも言わないままずっと隠していたんだ。そりゃあ、不安だよなぁ……
「大丈夫です。真冬さんの気持ちは、ちゃんと伝わります」
「いいきるね。どこにそんな根拠があるんだか」
「僕、みてきましたから。二人のことを、たくさん。だから、大丈夫です」
彼女の瞳に向き合うよう、まっすぐ見つめる。
その目に感化されたのか、彼女ははぁっとため息をつく。
「もしダメだったら、その時は僕がいます!! いくらでも慰めます! 苦しい気持ちを、僕も一緒に背負いますから! いつでも、頼りにしてくださいっ」
「……頼もしいね。ま、僕なりに頑張ってみる」
真冬さんが、少し笑う。
その笑みが嬉しくて、だけどどこか苦しくて、僕は笑いかけた。
誕生会は、予定通り行われた。
遅れてきた那月さんにバレることなく、自然に。何事もなく。
作った飾り付けで店を飾り付けして、料理をみんなで食べて喋って。
お店全員でお金を出して買った、スイーツの食事券をプレゼントして。
那月さんは、終始浮ついていた。
嬉しそうに笑って、いつも通りみんなと話して。
この楽しい時間が続けばいいと、心から願った。
「那月、ちょっといい?」
そんな中、真冬さんが彼女を呼ぶ。
真剣な顔だ、その瞳にはまっすぐ那月さんを捉えている。
一瞬、僕と視線を交わし、うんと頷きあってー
「そういえば! この前城さんが、蜜柑ちゃんと純君のこと褒めてたよ! 可愛らしい後輩ができたねって」
「でっしょぉ? 蜜柑ちゃん、やればできる子ですから❤︎」
「男が寄ってたかってくるのがうぜーけどな」
「ボクも人気。みんなからよしよしされる」
「てめーはそもそも働け」
みんなの注意が向かないように、話題をあえて広げる。
二人がいないことに、気づかれないように。
どれくらい、時間が経ったのだろう。
ジュースやお酒がなくなってることに気づいた僕は、補充をしようと厨房にいてー
「明音」
声が、する。
そこには、真冬さんがいた。
僕と目が合うと、彼女はふっと笑いかける。
その隣には、少し頬を赤らめた那月さんがいて、えへへと困ったように笑っていて。
二人の手は、しっかりと握りしめられていて。
「ありがとう」
その一言で、空気で、何もかもわかった。
ああ、うまくいったんだと。
思えば、初めてのことばかりだった。
彼女に惹かれて、アタックして、告白して、振られて。
彼女の笑顔がみたくて、ここまで走ってきた。
だからなのかな。全然、悲しくない。むしろ、すっきりしている。
ちくりと胸を刺す痛みと、温かいものが胸を満たしていくような、不思議な感覚。
これでよかったんだ。何もかも。
「なんだお前ら、どこ行ってたんだ?」
「ちょっとね。だいぶ飲んだね、君」
「あー、ケーキ全然ないじゃん! 純君、食べ過ぎ〜」
「だってここにあるんだもん。あかねー、まだー?」
「蜜柑、喉乾いたぁ〜ジュースちょぉだぁい」
みんなが、僕を呼んでいる。
僕には、ここが、アルカンシエルがある。
みんながいるから、きっと前に進める。
前に進もう、少しずつ。
「うん、今行く!!」
また新たな始まりへ進むように、僕はみんなの元へもどる。
楽しい誕生会はその後、夜がふけるまでずっと、ずっと続いていたー
(つづく!!)
おまけの小ネタ案
誕生会より少し前の話ー
那月「お疲れ様でーす。あれ? 今日はやけに飾り付けが豪華だな……なんかイベントあったっけ?( 'ω')」
純「あ、なつき〜、おたお」
明音「純君! まだだよ!!\(; ºωº \ Ξ / ºωº ;)/ななな那月さん! 今ホールが回ってなくて!! 接客、頼んでもいいですか?!ヾ(・ω・`;)ノ」
那月「いい、けど……そんなにお客さんいなかったような……」
黄河「おい明音、クラッカーはどこに……うおっ、那月!?( ゜Д゜)来るのはえーな!?」
那月「え、そう? こう君、そのクラッカーどうしたの?」
黄河「あ? あーーこれは、その、あれだ。飛び込みでバースデー予約が入ったんだよ」
那月「それなら早く言ってくれれば手伝いに来たのに〜。てかこのプレート『なつき』って書いてる! へぇ、同じ名前なんだ〜。奇遇だねぇ( ´꒳`)」
純「同じ名前も何も、本人……( ˙ч˙ )」
明音「ななな那月さん!! 10番テーブルの方が呼んでますよ!いかなくちゃあああ!!((´ºㅁº`;;)))
那月:「ええっ!? そんな急ぎ!?Σ( ˙꒳˙ )わ、わかった、行ってくるね!」
ε=ε=ε=ヾ(*。>ω<)ノ……
橙子「改めて思いますけど、この店、本当隠し事向かないですよねぇ〜╮(•́ω•̀)╭」
真冬「あれでバレないのも不思議だけねε-(´-`*) 君も、隠す気ある?」
純「もごもご(゜〰゜)」
黄河「ほんっとお前明音を困らせることしかしねーな。しばらく黙っとけ( ・᷄-・᷅ )」
バレバレすぎるこのメンツ。




