31.琥珀色が導く未来
前回のあらすじ。
新たなメンバーが加入し、仲良くなるが
モヤモヤが晴れないので
元店長が相談に乗ってくれることになった。
コポコポと、お湯が沸く音がする。
豆を測り、ミルにガリガリかけてゆく音は、静かでどこか控えめだ。
いつも見てきた、こうとはまた違う。
一つ一つの動きに、無駄がない。
無気力そうな彼とは、とても結びつかない。
「そんなに見られたら、やりにくいですよー」
その言葉に、思わず顔を上げる。
窓の風のせいなのか、金色の長い髪が、なびいていた。
動作もあいまってとても綺麗にみえる。
「昔ねー、ここでコーヒーを飲んだお客さんに『悩みが解決した』なんて言われましてねー。それ以来、妻がここを『コーヒーの相談所』なんて呼び出したんですよ。バカですよねー、ただの偶然なのに」
琥珀色に染まったコーヒーが、揺れる。
どうぞ、とさし出された一杯を、ゆっくり口に入れる。
瞬間、驚いた。今までと全然、違うことに。
今までコーヒーは大体飲んできた、こうが作ったのだってそれなりに美味しかった。
けどこの味は、何にも形容しがたい。
ほろ苦い風味の中に、どこか甘さを感じられる。
ナッツのような香ばしさと、柑橘系の爽やかな後味。
初めて心から温かさを感じられて、とても安心できるような味だった。
「美味しい……こんなコーヒー、飲んだことないです」
「えーほんまでっかー? そっちはどーですー? 今回はちゃんと作れた方だと思いますけど」
「んー………67点。ママがいた頃の方が美味しかった」
「ohーテキビシー。少しは容赦ってものを覚えてくださいよー」
さっきまで寝ていた緑野君が、あくびまじりにいう。
67点ってことは、これよりまだ美味しかったのかな。
こうが憧れる理由、なんとなくわかる気がする。彼のコーヒーには、他の誰にもない唯一無二の味がする。
その暖かさや温もりが、僕の心を包んでくれるようで。自然と、話してしまうー
「……僕、実は好きな人がいるんです。真冬さん、なんですけど。ここに入ったのも、彼女が理由で」
「おー、青春してますねー。彼女とうまくいかない的なお悩みですかー?」
「いえ、割といい感じだったんです。名前で呼んでくれたり、前より話してくれるようにはなって……でも、振られちゃいました。好きな人がいるって」
思い出すだけで、胸が締め付けられるように痛い。
初めて恋をしたあの日から、僕はずっと突っ走ってきた。
彼女と釣り合う自分になりたい。ただ、それだけだったのにー
「いやぁ、全然きづかなかったなぁ。結構うまくいってたと思ったんですけど。でも、モヤモヤするんです。振られたことではない、違うことに」
「モヤモヤ、ねぇ」
「……つらそう、だったんです。振られた僕よりも、ずっと。彼女は僕と向き合おうとしてくれてた……でも、それってもし僕がいなければ、その人とうまくいっていたかもしれないってことかもしれなくて……それなら、最初から……!」
「好きにならなければよかった、そう言いたいの?」
その言葉に、あっと声が漏れる。
彼は肩をすくめながら、コーヒーをかき混ぜた。
「そう思う気持ちはわかります。だからって自分の好意を否定するのはよくないと思いますよー。ミーもかつてはそうでしたから」
「御領原さん、僕……」
「とはいえ好きな人がそんな顔してたら、諦めるに諦めきれないですよねー。真冬さんってそーゆーとこあるからなー」
「だったら、あかねが幸せにすればいいのに」
緑野君が、ポツリという。
隣をみてすぐ、彼と目が合った。
エメラルド色の瞳で、僕を吸い込むようにじっとみつめている。
まるで心をのぞかれてるようで、思わず声をかけずにはいられなかった。
「あの、緑野君……」
「純でいい」
「純、君はどうするの? 好きな人に、好きな人がいたら」
「ボク? 奪う」
予想外の答えに、思わずびっくりする。
それでも彼は、何か変なことを言った? とばかりに、まっすぐ見つめ返す。
「あかねは、その人が好きなんでしょ? なら、どうして自分のものにしないの? そっちにいかないで、ボクのそばにいてって」
「そ、それは……」
「ボク、ママに教わったよ。好きなものは、欲しい時に言わないとダメって。だから、ボクは奪う。好きな人には、ずっといてほしい。独り占めしたい。パパみたいに、後悔したくないから」
純粋な質問は、僕の心を見透かしてくる。
彼は嘘をついてない。目を見るだけで、それはわかる。
自分のものにするとか、独り占めしたいとか。その感情が僕にない、と言えば嘘になる。
でもそんなことをして、彼女は笑ってくれるだろうか。
仮に好きにさせたとして、それが彼女の幸せにつながるのだろうかーー
いや、そうじゃない。
「……だめだよ、そんなこと。絶対、だめだ!!」
思わず立ち上がらんばかりの勢いで否定して、自分でも驚く。
あまりの声の大きさのせいか、さすがの彼もびっくりしたように目をぱちぱちさせていた。
「あかね、どうしたの? ボク、悪いこと言った?」
「……ご、ごめん、そうじゃないよ。純君の気持ちも、わかる。でも、それって本当に幸せなのかなって」
「ほんとのしあわせ?」
「だって、彼女が好きなのは自分じゃないんだよ? これからまた頑張って、僕を好きになってくれたとしても、彼女から一番の幸せを奪ってしまったみたいに思えるんだ。彼女には笑顔でいてほしい……例え隣にいるのが僕じゃないとしても……彼女がずっと笑ってくれたら、それで……」
「なんだ、もう答え出てるじゃないですか」
その言葉に、ハッとする。胸のモヤモヤが、ゆっくりとほどけていくような、不思議な感覚。
そうか、僕が真冬さんを想う気持ちは、彼女を自分のものにしたいってことじゃない。
彼女が笑っていられるように、幸せでいてほしい。ただ、それだけだったんだ。
「それが、あかねの答えなんだね」
「純君……もしかして、気づかせるためにその意見を……?」
「ボクは自分の気持ちを言っただけ。そう思えるあかね、やっぱりすごい」
彼が、優しく告げる。
その笑みが、優しさが、僕の心をとけ動かす。
「自分の思いより、相手の幸せを願う。あなたも彼女と同じことを言うんですね。ほんと、お人好しがすぎるというかなんというか」
「御領原さん……いえ、藍さん。僕、真冬さんの恋を、叶えたい。お手伝い、してもらえませんか?」
「……仕方ないですねー。いいですよー、別に。けど、ミー一人では流石に限界がありますし……いっそのこと、みんなに聞いてみませんか? 色々」
「え、真冬さんだけじゃなく、ですか?」
「この店には色んなタイプが揃ってますからねー。彼らの本音を並べてみれば、何か見えてくるかもしれませんよー。ま、上手くいくかは知りませんけどー」
藍さんは、そう言って楽しそうに目を細める。
雲間から、光がさす。
新たな物語が始まるような、そんな予感がした。
(つづく!!)
おまけの小ネタ
藍「さて、もう遅いですし帰りましょっか。家まで送ってあげますよー」
明音「あ、ありがとうございます……それにしても、藍さんはすごいですね( *´꒳`*)もしかして、みんなにも相談に乗ってたんですか?」
藍「まさか。乗ったのは黄河さんだけですよ。まあ彼は、どうしたらミーみたいにかっこよくなれるかとか、どうしたら指先が器用になるかとか、くだらないことばかりでしたけど( '-' )」
明音「あはは……こ、こうらしい……(^^;)」
藍「そんなことより、真冬さんのどこが好きなんですか?」
明音「……Σ( ˙꒳˙ )」
藍「だってきになるじゃないですかー。あの那月さんより真冬さんって。やっぱ見た目? それとも性格?( -∀-)」
純「でた、パパの下世話好き。だめだよ、あかねいじめちゃ( ˙꒳˙乂)メッ」
藍「まあまあ、そういわず。話の中には自分に得られるものもあるかもしれませんよー?( ≖ᴗ≖)」
純「……確かに、きになる( ・ω・)。あかね、まず出会いから教えて(ㅅ´ ˘ `)」
明音「そ、そんな急に言われても無理だよ!?」
藍「さあ逃げられませんよー、相談料としてたぁっぷり聞かせてもらいますから」
明音「ひ、ひえぇ! だれか助けてぇぇ!!:( ;´꒳`;):」
結局、夜が更けるまで相談所は延長営業された。
この後、すっかり延長した。




