30.重なれ、7つの個性
前回のあらすじ。
新たに蜜柑と純が
アルカンシエルの仲間に加わった。
「ふふ〜ん、どうです? この制服! まさしく看板娘の蜜柑にぴったりですね♪」
ふわっとしたフリルの裾が、くるくる回る。
浮かべた笑顔は、照明に映えてなんとも可憐にみえる。
喫茶店の制服を身にまとった彼女はなんとも可愛らしく、真冬さんと那月さんとは違う魅力があるように感じた。
夏の終わりを感じるこの頃、僕たちの店には新たな仲間が加わりました。
財前さんと緑野君だ。
「サイズあって良かったです。これからよろしくお願いします。財前さん」
「えー、かたぁい。私の方が年下なんだし、タメでいいですよぉ。それにぃ、せっかくなんだから下の名前で呼んでほしいな〜み、か、んって♪」
うう、やっぱりそうくるか……
年下だし、さすがに後輩になるから、蜜柑ちゃん、って呼んだ方がいいのかな?
なんか、すごく恥ずかしいな……
「えーっと、それじゃあ二人とも仕事内容を教えるね」
「大丈夫でぇす。ここにはよく来ますし、それに、あなたたちに教わることなんてありませんし♪」
「そ、そうなんだ……じゃあ緑野君に……っていっても、ここがお家だから必要ないのか」
「んーそうなんだけど、ボク、働かないよ? みせーねんだからダメだって。だから、この店のマスコットになるね」
「……どいつもこいつも、この店なめてんのか?」
僕と二人の会話を聞いていたこうが、敵意丸出しでこちらを向く。
いくら仲間になるって言われても、前まで敵だった人達なわけだしなあ。
そう簡単に受け入れるわけ……
「はーいみなさーん、ご注目ー。突然ですがここで、アルカンシエルクイズ大会を開催しまーす」
御領原さんの声と、パチンと両手をたたく音が響く。
あまりの突拍子ない発言に、思わず目をパチパチさせてしまった。
「だってさー、険悪なままじゃお店にも悪い影響がでちゃうでしょー? こーゆー時はゲームでもして、親睦を深めるのが一番なんですよ」
「……わかるような、わからないような……」
「てことで、今からプチゲームをしまーす。ミーが今からてきとーに店に関するクイズを出しますので、勝った方が好きなあだ名をつけてそれで呼ぶ、というのはどーですか?」
状況がよくわからないが、どうやら彼なりにこの場をよくしようと思っているらしい。
それを受けたこうは、分かりやすく闘志を燃やすように奮起した。
「上等じゃねぇか。いいぜ、やってやる!!! この際だ、呼ばれるのが恥ずかしいくらい変なあだ名つけてやる!!」
「その言葉、そぉっくりそのまま返してあげます❤︎」
「じゃあいきまーす、ミーが開発した最初で最後のメニューはなんでしょーか」
まさかのいなかったときのことを問題に出され、思わず詰まってしまう。
上級者すぎてついていけないのは、僕だけではないようで、真冬さん達も肩をすくめている。
それなのに彼女はいともかんたんに答えてしまってー
「あはっ、それなら簡単じゃなぁい。そんなの、超ブラックコーヒー、に決まってるじゃないですかぁ」
彼女の見事な回答に正解音が鳴る。
思いもよらない正解に、こうは歯を食いしばるほど悔しがった。
「だーー! いない頃のことを出すのは反則だろ!! つうかそれ、メニューっつーメニューじゃねぇし!!」
「あの頃のメニューは今よりもっとシンプルでしたから。これでも私、あなたよりもぉぉっと前からこの店に通ってるんですっ。こんな問題お茶ののこさいさいですよ♪」
「こ、こいつ……!!!」
「というわけで、蜜柑ちゃんが可愛いあだ名をつけてあげちゃいます! いいですよね、こ〜うちゃん❤︎」
こ、こう、ちゃん……?
気のせいかな、なんか今、可愛らしい名前が聞こえたような……
「お前、今なんつった……こうちゃん、だと……?」
「そっちはあーちゃんで、あなたはなっちゃん。で、あなたはふゆにゃん! どう? 可愛いでしょぉ?」
「……え、僕あーちゃんですか?」
「黄河はともかく、なんで僕達までつけられてるの?」
「あはは、いいじゃん。みんなかわいくて!」
「かわいくねぇよ! 却下だ却下!!」
「はーい、では次の問題でーす。この店の設立日は、何月何日でしょーか?」
「はーい、7月16日ー」
ピンポンピンポンと、正解音のBGMが鳴る。
そう答えたのは誰であろう、食べ物を食べている緑野君だった。
「み、緑野君すごい! なんで知ってるの!?」
「ママが言ってた、自分の誕生日と同じ日なんだって」
「そもそもあなた参加してたんですねー。まあいいけどー。正解したんですから、あだ名つけてくださーい」
「……んー……面倒だし、あかねはあかね、とーこはとーこでいいと思う」
瞬間、空気が凍りついた気がする。
とうこ、といえば、出会っていた時から呼んでいたような……
すると財前さんが、怒ったように彼に近づいていってー
「純ちゃぁん? とーこって誰ですぅ? そんな人、ここにはいませんよぉ?」
「とーこはとーこ、財前橙子」
「とうこって……ああ! もしかしてあのアカウントの子じゃない!? ほら、れびゅれびゅのさ! 蜜柑って、あだ名だったんだ……」
那月さんの言葉に、ようやく点と点がつながる。
ひょっとして彼女は、最初からこうなるつもりで……
「なぁるほど? じゃあ、これで呼び方はきまりだなぁ? 橙子さんよぉ」
「み・か・ん・で・すぅ! もう最悪! せっかく可愛い名前で通してたのに……」
「あ、そろそろ閉店ですねー。お遊びはこの辺にして、仕事しましょっか」
さっきまでクイズをしていたとは思えないほどの切り替えの早さで、御料原さんが部屋を後にする
その去り際を見ながら、こうやみんなはやれやれと肩をすくめた。
なんだか、濃い一日だったな。
そう思いながら、ロッカーの鍵を閉める。
夕方になっても、お客さんがいないことをいいことに、二人の口論はまだ続いていた。
一見仲が悪いようにみえるけど、意外とそうでもないのは彼女の人柄が分かってきたからだろうか。
あの三人が来てより一層店が賑やかになってくれたおかげで、少し気がまぎれたような……
それでも、やっぱりどこかで思い出す。あの時の彼女の表情。
どうして彼女は、あんなに辛そうだろう。
振られたのにこんなことを考えてしまうのは、まだ彼女をあきらめきれていないのだろうか。
そんなこと、あるはずないのに。
「……あれ、こう?」
控え室から出ると、そこにはこうがいた。
今日は御領原さんがいるから、先に帰ったと思っていたのに。
声をかけようとすると、彼はそんな僕にぴしゃりと一言。
「お前、なんかあったろ」
どきっとする。
やっぱり、気づかれていた。
どうしよう、話した方がいいのかな。迷っていると、彼は深いため息をついてー
「はぁぁ、ったく。相変わらず、分かりやすいやつだな」
といいながら半ば強引に、背中を押される。
店に戻ると、カウンター内には御領原さんがいた。
手を振る向かいには、純君が突っ伏して寝ている。
「先帰るわ。師匠、あとは頼みます」
「人使い荒いなぁー、黄河さんはー。ま、いいですけどー」
「え、御領原さん、なんで……」
「黄河さんから聞いたとおり、見事までの曇り顔ですねー。おおかた、恋愛面で何かあった、ってとこですか」
「うぇ!? な、なんでわかるんですか!!?」
「長年の勘、ってやつですかねー」
すると、彼は棚に置いてあった手回しのミルとマグカップを取り出す。
何をしてるんだろう、不思議に思っている中、店のドリッパーに電源を入れた。
「コーヒー、飲みませんか?」
「え?」
「黄河さんがねー、戻って来いってうるさいんですよ。だから最近、リハビリで補習してるんです。どうです? 一杯。話くらいは聞いてあげますよ?」
彼が、とんとんと机を叩く。
まるで、どうぞと言わんばかりに。
そのまっすぐな瞳と、謎の説得力に僕は思わず頷いていて……
「よろしく、お願いします」
三人きりのアルカンシエル。
僕の止まっていた時間が、ようやく動き出したような気がした。
おまけの小ネタ
橙子「はぁぁ、憂鬱〜。せぇっかく可愛い制服でバイトデビューだってのに……( ˘• ₃ • )」
黄河「おい橙子、サボってねぇで皿運べ」
橙子「橙子じゃないので嫌でーす( >⩌<)ベ-」
那月「あ、橙子ちゃん。SNS用の写真選んでくれないかな? アドバイス、聞きたくて」
橙子「えー、橙子って誰ー? 蜜柑ちゃんなら大歓迎ですけど?( *´꒳`*)」
純「あ、とーこだ。今日もかわいいね」
橙子「み! か!! ん!!ヽ(`Д´)ノ なんなんですか、揃いも揃って橙子呼びなんて! 嫌がらせですか!?」
明音「そ、そこまで怒らなくても……とうこって名前、十分かわいいと思うよ?」
橙子「あーちゃんは黙っててください!( ✧Д✧) 」
真冬「何喧嘩してるの?」
橙子「あっ、ふゆにゃぁん。聞いてくださいよぉ、みんな蜜柑をいじめるんですぅ〜優しくて頼もしぃふゆにゃんは、蜜柑って呼んでくれますよねっ?(´。✪ω✪。 ` )」
真冬「んー……じゃあ間を取って財前で( '-' )」
橙子「なんでよ!!!( `-´ )」
意地でも『蜜柑』と呼ばないメンツ。




