28.君の横顔は帷に消える
前回のあらすじ
閉店騒動の打ち上げ的なイベントで
夏祭りにみんなで行った。
花火大会が始まるー
みんな、どこか浮ついていた。
まだかな、いつ始まるかなとはやる気持ちが抑えられない。
じゃんけんで場所決めした結果、僕は念願の真冬さんの隣になった。
香水の匂いかな。すごく、いい匂いがする。
浴衣も、横顔も、何もかも綺麗にみえてー
「……最悪、酒切れた。ちょっと行ってくるわ」
「ついでに、みんなの分買ってきてよ。荷物見とくから」
「相変わらず人使い荒いな、お前は」
「それなら、うちも行くよ。4人分持ってくるの大変でしょ? 真冬一人じゃ危ないし、明音君もここで待ってて〜」
那月さんが、ばちっとウインクしてみせる。
荷物番ってことは……僕真冬さんと2人きり!!?
あわわ、どうしよう!!
瞬間、大きな音が鳴る。
空には赤や青、様々な色の花火が打ち上げられていた。
いつのまに、時間になっていたのだろう。
次から次に上がっていく中、僕の目はー
「始まっちゃったね。まったく、二人していなくなるなんて、ついてないね」
夜の星でも、花火でもない。
彼女に、釘付けになっていた。
少し編み込んである横髪も、長いまつ毛もどれも綺麗で、美しいー……
「真冬さん、好きです」
気がつけば、言葉に出ていた。
何度も何度も口にした、素直な気持ち。
そんな僕に、彼女はフッと笑う。
「……また言うんだ」
「すみません。真冬さんが綺麗すぎて、つい」
「君らしいね」
心臓が、うるさい。
緊張、しているのだろうか。告白なんて、初めてじゃないのに。
シートに置かれた右手、肩が触れ合うほど近い距離。
少し、少しだけでいい、彼女を近くに感じられたらー
「……明音、君はすごいね。いつもまっすぐ、その気持ちを伝えてくれる。僕には、それがどうしようもなく羨ましくて、眩しい」
「そんな、滅相もないですよ」
「まだ、言ってなかったよね、君への答え。……ごめん、君の気持ちには、答えられない」
大きな花火が弾け、そして消える。
まるで世界から音が、消えたように。
「答えられない」、か。振られたんだ、僕。
正直、ショックじゃないと言えば嘘になる。
今日まで僕なりに、必死にアピールもしてきたんだ。
買い出しで距離が縮まって、演奏会で名前まで呼んでもらえて。とにかく幸せだった。
閉店騒動が終わった今、ようやくチャンスが巡ってきたと思ってたけど。
彼女が引いた一線は、僕が思っていたよりもずっと深かったのかな……
「僕、好きな人がいるんだ。片思い、なんだけどね。この気持ちを言う気も、その人と恋人になるつもりはない……だから、君が好きって言ってくれて、嬉しかった。けどこれ以上、君の時間を無駄にするわけにはいかないから……遅くなって、ごめんね」
好きな人がいる。
それならそう、早く言ってくれればよかったのに。
……なんて、とてもじゃないが言えなかった。
彼女なりに僕へ向き合おうとしてくれたのがわかって、嬉しかったから。
けれど同時に、わからなくなる。
どうしてその気持ちを、言うつもりはないのだろう。
告白をしたのは僕なのに、どうして君の方が苦しそうなのだろうー
「君は、僕の分までちゃんと幸せになってほしい。僕を好きになってくれて、ありがとう。明音」
儚く、今にも消えてしまいそうな微笑み。かすかに震える唇。
その一つ一つから、目が離せない。
思えば、一度でもあっただろうか。彼女が心の底から、子供みたいに笑う顔を見たことが。
……僕には、何ができるのだろう。
彼女の中にある見えない壁をこえるには、どうしたらいいのかーそうして夏の夜は、花火とともに静かにすぎていったー
§
花火の音がする。
飲み物を手に取った那月は、思わずあちゃーと声が漏れた。
まだ時間に余裕があると思っていたのに、思ったより混んでしまった。
考えることはみんな、同じなのだろうか。
「こうく〜ん、そろそろ行かないと2人待ちくたびれちゃうよ〜?」
「んー……右の銘柄にするべきか、左の銘柄にするべきか……決め切らん……」
隣にいた黄河は、両手に酒を取りながらうんうん唸る。
彼は相変わらずだ。好きなものでも、容赦がない。
閉店騒動も解決し、店長も戻ってきた。いいことづくしで気が楽になったのだろう。
でも、よかったかもしれない。時間をかけた方が、2人も話せる時間が増えるから。
「ねえねえ!! あそこに金魚すくいあるよ! いこういこう!」
「まってよ、あいちゃん! そんな引っ張らないで!」
女の子2人が、自分の横を通りすがる。
2人は手を引いていて、楽しそうに笑っていた。
その光景がまるで昔の自分を思い出して、少し笑ってしまう。
懐かしいな、あの頃は確か真冬と金魚すくいもやったっけ。
あの時も真冬は、欲しいと言った自分のために頑張ってくれて、それでー
「……ねえこう君、2人っていい感じだよね」
「あ? あー、そうなんじゃね。知らんけど」
「あの二人みてると微笑ましいんだよねぇ。近づいていくのが、自分のことみたいに嬉しくて。もしかしたら、すぐに二人が結ばれる日が来るかも、なぁんて」
そう言った瞬間、胸の奥がちりっと痛む。
静電気、だろうか。
最近、自分がよくわからない。真冬が明音といるのをみると、モヤモヤする。
真冬が幸せならそれでいい、ずっとそう思ってきた。
彼女がサックスを辞めてしまった時も、心を開かずに孤立していた時も、ただ彼女のそばにいることしか、自分にはできなかったから。
その彼女の心の檻を、彼が開けてくれた。
自分にはできなかったことを、彼にはできる。
きっと、彼な真冬を幸せにしてくれる。
そう願って、ずっと二人の背中を押してきた。今も、変わらない。
それなのにー……
「……ったく、今日の花火は煙たいな。俺まで目が痛くなってくるわ」
酒の冷たい瓶が、顔にあたる。
振り向くと、黄河がいた。
その冷たさに、ようやく自分が泣いてることにきづいてー
「ほら、行くぞ。モタモタしてると終わっちまう」
「……うん、そうだね。いこっか」
この涙は、一体なんなのだろうか。
その理由を見ないように、彼女は拭う。
そして、2人がいる方向へと足を向けたー
(つづく……)
おまけの小ネタ
那月「ごめーん、遅くなっちゃった!(。・ω・)ノ あれ、花火終わっちゃった?!∑(O_O;)」
真冬「遅いよ。どんだけ買ったのε-(´-`*)」
那月「こう君がお酒選び出してさぁ〜(^^;)」
黄河「俺のせいかよ。仕方ねぇ、今日は帰……」
明音「ぼーーーーーーー( ゜ ρ ゜ )ボー」
黄河「……おい。お前、こいつに何をした? まさか手を上げてねぇだろうなぁ?( ・᷄-・᷅ )」
真冬「まさか。君こそ那月に何かした? 目、赤くなってる気がするんだけど( ≖_≖)」
黄河「んだとこら」
那月「ふ、二人ともこんなとこで喧嘩しないで〜! うちのはゴミが入っただけだから!\(; ºωº \ Ξ / ºωº ;)/」
なんだかんだで一緒に帰りました。
*次回のみ31のお昼に更新します*




