26.虹の架け橋をもう一度
前回のあらすじ。
行方知らずの店長と息子の純が再会し、
何とか和解した。
「それじゃ、行こっか」
波が打ち寄せる中、彼ー緑野君が腰を上げる。
遠くの方に手をひらひらさせたかと思うと、乗っていた車がこっちに向かってくるのがわかる。
「行くって、どこにですか?」
「お店。みんなで待ってるって、とーこから連絡きてた」
「えっ、みんなってこう達のこと? 財前さんと一緒にいるんですか?」
「早く行こ、パパも乗って」
「えー今ー? 正直全く気が向かないんですけどー」
「ダメ、いくの」
僕の質問に答える気は全くない緑野君は、ほぼ強引に御領原さんを車に乗せる。
その後の車内は、とにかく静かだった。
隣に座っていた緑野君は「疲れた」とか言ってたすぐ寝ちゃったし、助手席にいる御領原さんも特に話すことなく終始無言。
まるで、嵐が過ぎ去ったかのように穏やかな時間だ。
車を走らせること数分、だんだんと見慣れた景色に変わってゆく。
気がつけば、お店ーアルカンシエルについていた。
そんなに時間が経っていないというのに、なんだか随分久しぶりに感じてしまう。
みんな、どうしているんだろう。
何も連絡なしにいなくなったから、きっと怒ってることに違いない。
そんな僕が起こすべき行動は、一つ。
「こ、この度はすみませんでした!!!」
開口一番に、謝るだけ!!!
「……よかったね黄河、明音生きてたよ」
「てめぇこら馬鹿明音!! 今の今までどこほっつき歩いてたんだ! 心配させやがって!!」
「ひぃぃ! す、すみませんでしたぁ!!」
「まあまあ、よかったじゃん無事で! でも、よくここにいるってわかったね? うちら、連絡取れなかったのに」
「ああ……それは、緑野君がここにいるって教えてくれて」
そう言いながら、後ろを振り向く。
緑野君はあくびを噛み締めながら、のそのそ歩いてくる。
僕以外初対面のはずなのに、彼は
「おは」
と軽々しく挨拶して見せた。
「おまっ! 店長んとこのクソガキ!!?」
「クソガキじゃないもん、緑野純だもん」
「二人とも、知り合いなの?」
「俺が新人だった頃にきたことあんだよ。まさか財前が探してたのって、こいつか?」
「だからいったでしょ? 店で待ってるだけでいいって。かかってきた番号は彼のでしたし、一緒に行動してるはずだって」
「あ、とーこ。おまたせ〜」
「相変わらず呑気な人ね。ま、心配はしてませんでしたけど」
くすくす笑いながら、財前さんがいう。
どうやら、彼女がこう達と合流し、先にお店にきていたらしい。
彼が滅多に連絡を見ないから、一方的に送ってたんだろうけど……
でもよかった、無事に会えて。
「で? そのガキとお前が、なんで一緒にいるんだよ。連絡なしにどこ行ってたんだ?」
あ、そうだった!!
「それがね聞いてよこう!! 僕、みつけたんだよ!! 店長!!」
「店長をだぁ?? どこにいんだよ」
「ほら、ここに……ってあれ?」
玄関の先、そこには御領原さんの姿があるはずだった。
それなのに彼はいない。
おかしいな、車から降りる時はいたはずなのに……
「お呼びですかー?」
間延びした声が、聞こえる。
気がつくと、彼ー御領原さんがカウンターの中にいてー
「師匠!!!!!!!!!!!!!!」
……ん? シショウ??
聞き慣れない呼び名が、大きな声が響く。
その次の瞬間、声を発した者が彼の肩を揺さぶった。
「師匠師匠師匠師匠!! よくぞご無事で……!」
「その前に力弱めてくださーい、痛いですー」
「痛いですー、じゃねぇだろこんの無責任野郎! 二年間もよくも……!」
「こ、こう君落ち着いて〜情緒不安定になってるよ〜?」
「あ、あのぉ、師匠って……?」
「前にみたことあるでしょ。彼、あの人のこと、崇拝レベルで尊敬してるんだよね」
そ、そういえば彼の魅力を雄弁に語ってたな……
改めて思い出しても、こうの言っていた内容と彼の性格は、あんまり一致しないんだよなぁ。
「それにしても、随分と頑張ったんですねー。新メニューに夜バー復活とは」
「当たり前だろ!! 師匠がいない間に閉店させるわけにはいかねぇからな!」
「まあ別にここまでしなくても、閉店はしないんですけどねー。そうでしょー、財前さん」
瞬間、みんなの驚く声が重なる。
今、なんていった?? 閉店しない??
だって売り上げは赤字で、8月末に伸ばさないと閉店は確実で……
「……流石は店長さん、お見通しですね。閉店するって言えば、売り上げをあげようとするでしょ? そのためには、元店長である彼が必要不可欠……」
「つまり、閉店はこの人を連れ戻すための口実だった……そういうこと?」
「ピンポーン、正解でーす❤︎」
「てんめぇ、騙したのか……!!」
するとこうは、財前さんの方に詰め寄る。
慌てて那月さん達が止めるも、財前さんはべーと舌を出す。
そういえば、妙に店のことに詳しかったり、悪口のように見えたアドバイスを送ってくれたのも、全部このためだったってこと!?
「どのみち経営が赤字なのは事実なんです。憧れの店長が帰ってきたんですし、何も言えないと思いますけど??」
「それってつまり、閉店しないってこと? ずっとここにいていいってことですよね!? や、やったあ! やったよ、こう!!」
「わ、わかったから、少しは落ち着け!」
「ほんと、よかったね~。これも、店長を連れてきた、明音君のおかげかな」
「そ、そんな。僕はただ、お手伝いをしただけで……皆さんに比べたら全然……」
「……いや、そもそも君が彼と会ってくれたから。この二人と会ったのも君だったから、きっと今があると思う。……ありがと、明音」
真冬さんが、くすりと笑う。
まさか、彼女から礼を言われることになるなんて!
こんな僕でも、何かできたんだ……
「さて、これで蜜柑の目的は達成。純ちゃんとの協力関係も、今日でおしまいですねっ」
すると、財前さんがウインク混じりに突き放す。
表情は笑顔でも、言葉は相変わらず刺々しい。
しかし、言われた本人でもある緑野君は、きょとんと首を傾げてみせた。
「?? なんで??」
「あなただって、店長を連れ出すための道具に過ぎないんです。それがもう叶ったんなら、私と一緒にいる理由なんてないですよねっ?」
「ボクはあるよ? とーこと一緒にいるの、楽しいもん」
その言葉に、彼女のまゆがぴくりと動いた気がする。
一瞬、間があったのも束の間、彼女はすぐにはぁぁ? とため息まじりの声を上げた。
「何訳のわからないこと言ってるんですっ? 気持ちわるぅい」
「とーこ、顔赤いよ? お熱??」
「暑いだけですぅ〜」
「なんかすみませんねー、息子ともども色々ご迷惑をおかけしまして。お詫びと言っては何ですが、今週末この辺で夏祭りがあるんですー。息抜きがてら、みんなで行ってきたら?」
澄み切った星空が、店を囲む。
こうしてアルカンシエルの閉店問題は、幕を閉じたのです!
(つづく!!)
おまけの小ネタ
黄河「閉店もしない、師匠も無事帰ってきた……これでアルカンシエルは安泰だな!( • ̀ω•́ )✧」
蜜柑「本当におめでたい人ですね。まんまと乗せられたっていうのに(*`艸´)」
那月「それでも、嬉しいものは嬉しいよ! ね、真冬」
真冬「……まあ側から見たら、ただの不審者にしかみえないけどねε-(´-`*)」
藍「あのー、水を差すようで悪いんですけどー( '-' )ミーは戻りませんよー、お店。そもそもミー、コーヒーつくれなry」
蜜柑「え? 何ですか?? 蜜柑ちゃんがこぉんなに頑張ったのに、逃げるおつもり??(^^)」
黄河「やっと尻尾掴んだんだ。今度はぜってぇに逃がさねぇ! 覚悟しろ、師匠!!(◦`꒳´◦)」
明音「……い、いいのかな。御領原さんがいなくなった本当の理由言わなくて(^^;)」
純「あーなったらとーこ、話聞かないんだよねー。ってことでパパ、がんば|•'-'•)و✧」
藍「見てないで助けてくださーい」
しばらく解放してもらえなかった店長であった。




