16.夜カフェ、はじめました!!
前回のあらすじ。
黄河がギターを弾くことになり、
ついに演奏会兼夜カフェ当日を迎えた。
コーヒーとお酒の、匂いが混ざり合う。
グラスに注がれる色はどれも綺麗で、次から次にお盆に乗せてゆく。
BGMがわりの素敵な音楽が、舞台で奏でられてゆくー
「お届けした曲は、オリジナル曲、『明日に』でした。ありがとうございました!」
マイクを持った女の人が、ぺこりとお辞儀する。
メニューやコップを両手に持っていた僕は、全員の拍手に遅れて、片手で手を叩いた。
7月の初め。早いもので、今日は夜カフェ営業日である。
いつもと違って、19時から22時までの夜営業。お昼は閉めていたとはいえ、準備ばかりで店員側は大忙しだ。
初めての試みだし、正直なところどこまで人が集まるか、不安なところはあったんだけど。
「お待たせしました、コーヒーです。城さん、きてくれたんですね。嬉しいです」
「夜カフェが再開すると聞いて、思わず懐かしくてきてしまったよ。ここでは昔、バーも行っていたんだよ」
「へぇ、そうなんですね! それならもっと頑張らないと!」
普段よくくる常連客をはじめ、演奏会を目的にやってきた近所のお爺さんやお婆さん。
そして、夜カフェを懐かしむ昔のお客さんまで見えている。
どうやら昔にもやっていたらしいけど、まさかこんなにも効果があるなんて。
接客の那月さんも、厨房にいる青天目さんも、どこか忙しい。
そしてバリスタであるこうの周りには、普段は見かけないような人がたくさんいてー
「いやぁ! それにしても、ひっさしぶりだなぁ、こう!」
「連絡来た時は本物か疑っちまったわ! 乾杯しようぜ乾杯!」
「仕事中に酒飲めるかっつーの。酒ばっか飲んで、準備はいいのか?」
彼らは、こうが呼んだ演奏会の面子らしい。
金髪、赤髪、さらには青髪。多種多様な髪色が、遠くからでも目立つ。
しっとりとした吹奏楽だけでなく、ギラギラなバンドまで呼んだのか、カウンターは若い人ばかりだ。
お酒があることも相まって、なんだか賑わいすぎてるような……あそこだけ世界観が違うなぁ……
「……で? どっちがあかねちゃんなわけ?」
「……あ?」
「とぼけんなって! 店に入ったって言ってたろ? 紹介しろって」
「……だってさ、一応自己紹介しとけば?」
こうの無愛想な発言に、3人の男子の顔が向く。
それが自分に向けられていることに気づいた僕は、目をぱちぱちさせながら
「は、初めまして。聖明音、です」
と、軽く会釈をした。
「お、男!!? 君あかねっていうの!?」
「一応……すみません、紛らわしくて」
「こうがすげー話すから、てっきり女の子だと……それならそれでいえよ〜」
驚いたような、がっかりしたような声が飛び交う。
あまりにもしつこかったからなのか、うんざりしたように、
「はいはい、文句なら後で聞くから。さっさと行けよ、もう直ぐ出番だろ?」
と、あしらってしまった。
こうってば、一体僕の何を話していたんだろう。き、気になる……
というか、彼らにはお店で働いてたこと、話してたんだなぁ。この差はなんなんだろう……
ってそんなこと考えてる場合じゃないんだった、仕事仕事……
「いらっしゃいま……」
「あらあら、思ったより盛況なのね」
聞き覚えのある声に、思わず顔を上げる。
二つのお団子ヘアが、やんわり揺れる。
彼女はこちらにきづくと、花びらが開くように、フリルのワンピースをふわりと広げてみせてー
「こぉんにちはぁ❤︎ イベントがあるっていうんで、蜜柑ちゃん来ちゃいました❤︎」
なんともあろうことか、そこには財前さんがいた。
まるでアイドルのように、お客さん相手に手をひらひらさせている。
そんな彼女に、こうはいち早く反応しー
「てめっ、なんでここに!」
「経営者の娘として、店の様子を見にくるのは当然じゃないですかぁ。あ、アイスティーくぅださい♪」
「てめぇにだす茶なんかねぇ!! 帰れ! どーせ冷やかしにきただけだろ」
「あらあら。誰のおかげでこのイベントが開催できたか、お忘れではないですかぁ??」
その言葉に、ぐっとこうは詰まる。
こんなにあっさりイベントが決まった時はびっくりしたけど、やっぱり彼女が関わっていたんだ。
閉店を強いるのに、僕たちの催しには賛成的なのだろうか……相変わらず、わからない人だなぁ。
「そういえば、演奏会に特別なサプライズがぁって書いてましたけど。誰なんですかぁ? もしかして、世界クラスのアーティストさんだったり?」
財前さんが、くつくつ笑う。
その言葉をうけたこうは、さっきの怒りはどこへやらとばかりににやりと笑ってみせてー
「ああ、そうだな……お前を黙らすのにはちょーどいいわ……聞かせてやるよ。この俺、天宮黄河の演奏を!!」
(つづく!!)
おまけの小ネタ
アルカンシエル営業前ー
明音「えーっと、こっちがリキュールで、こっちがカクテル……で、こっちが……( ・᷄〜・᷅ )」
真冬「そろそろ開店だけど、準備できてる?」
明音「は、はい!! 大丈夫です! 多分!!」
那月「明音君、あんまりお酒飲まないんだっけ? こんなに種類あると、難しいよね〜」
真冬「それにしても、よくこんなお酒手に入ったね。そんなにやらないって話じゃなかった?」
明音「あ、これ、こうの自前らしくて。バーをやるなら、酒は必須と言われて……」
真冬「自前って……本当、君お酒好きだよね。喫茶店の店長って自覚ある?」
黄河「あ? お前らだって普通に飲むだろ( ・᷄-・᷅ )」
那月「飲みはするけど、流石に仕事中までは飲まないよね〜この前、休憩中にこっそり飲んでたの、知ってるんだぞ〜?( -∀-)」
明音「そういえば、倉庫にもたくさんあるのみかけたような……( ˙ω˙ )」
真冬「今日がバーだからって、仕事中に飲まないでよ? 君、目を離すとすぐ飲もうとするから( ・᷄-・᷅ )」
黄河「わ、わかってるって! 俺をなんだと思ってんだ!!ヽ(`Д´)ノ」
那月「コーヒーよりお酒好きな店長?」
真冬「お酒に走りがちな飲んだくれのおっさん」
黄河「てめぇらあとで覚えてろよ!!(ꐦ°᷄д°᷅)」
信用性ゼロ。




