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14.青天目さんはサックスを吹かない。

前回のあらすじ。

サックスを吹かない彼女の理由を知りたくて

那月と少し話した。

しとしとと降りつづく雨粒が、窓を濡らす。

じめっとした湿気は、店内でクーラーが効いてるとは思えないほど、暑さを感じさせる。

こんなにどんよりしていると、どこか気持ちも晴れない……なんてことはなく。


「みんな、今日もお疲れ様〜」


「じゃあ、僕たちは先に帰るから。戸締り、よろしくね」


「あ、あの! 少しお時間いいですか?? お話したいことが、ありまして……」


仕事を終え、私服に着替えたすぐ後。僕は、満を辞してその言葉を口にする。

二人は顔を合わせると、帰る寸前だったにもかかわらず、


「手短にね」


と、優しく腰掛けてくれた。

仕事終わりに引き止めることなんて、初めてかもしれない。

同じようにカウンター席に腰掛けた那月さんが、興味深そうにこちらを向いている。

そのカウンター越しには、片付けを終わらせたこうの姿もあって……


「やっぱり、ちゃんと聞きたいって思って。青天目さんが、サックスをやめた理由」


「……またその話?」


「あんなに綺麗なのに、もったいないです。那月さんも言ってました、急にやめたって。どうしてですか、どうして……」


「この前言ったの、覚えてるよね? 飽きたからやめたって。僕はやらないよ、人前で弾かないってきめてるから」


冷たく突き放すような言葉、ふいっと背ける顔。

幾度となく見てきた、彼女の顔だ。

絶対に弾かない、そんな強い意志さえ感じさせる。

サックスに飽きてしまったから。

でも、違う。それだけじゃない。


「それなら、どうして駅で弾いていたんですか?」


「……は?」


「本当に飽きただけなら、一人でこっそり弾いたりしませんよね? 他に、理由があるんじゃないですか? 人前で弾きたくない、本当の理由が」


ずっと見てきた、近くで、そばで。

だからわかってしまった。彼女の拳が、ぐっと固く閉じられたこと。

僕らに語る理由も、彼女なりの建前なんじゃないかって……


「……別に、深い理由なんてないよ。優劣をつけられるのが嫌になった。ただ、それだけ」


「真冬……」


「あのサックスは親からの譲りものでね、趣味で始めたんだ。でも一度だけ、周りに言われてコンクールでたことあって。その時の賞、全部総なめして」


そ、総なめ!? すごい!!


「周りは僕を天才奏者だとかで、勝手に盛り上がってた。次の大会も出ろ、この実力なら世界にもいける。大人たちが次から次に目の色を変えてゆく……別に、そんなもの求めてなかったのに」


「青天目さん……」


「……気がついた時には、演奏することに楽しさを感じなくなった。人前で弾きたくないのは、それが理由」


知らなかった、彼女にそんな理由があったなんて。

青天目さんはいつも完璧だ、それ故弱さを見せようとしない。

彼女の演奏は確かに素晴らしい。賞を取るのだって頷ける。

だから、周囲は勝手に期待しちゃったんだ。この子の演奏なら、きっとって。

そのことは無意識に、楽しんでいただけの彼女の音楽を傷つけてー


あぁ、僕はなんて身勝手なんだろう。

そんなことも知らずに、お願いしていたなんて……


「まあでも、演奏会自体はいいんじゃない? 無難にプロの人でも呼んでさ。売り上げを伸ばすいいきっかけに……」


「なんだ、それだけか」


と、その時だった。

こうが怒ったような口調で、彼女にそう言ったのは。


「頑なに話さなかった割に、しょぼすぎだろ。そんなんでやめられて、正直楽器の方が可哀想だわ」


「ちょ、ちょっとこう君。そんな言い方しなくても……真冬は、真剣に悩んで……」


「悩む理由がわかんねぇっつってんだよ。一位とれ〜とか、すごいね〜とか、んなもん言わせときゃいいだけだろ。俺だったら、自慢しまくるわ」


「……相変わらずだね、君は。話したところで、理解してもらえないだろうとは思ってたけど」


「ああ、わかんねぇな。そもそも好きなことをやるのに、何が悪いんだよ」


すると、彼は立ち上がり、一度、青天目さんを真っ直ぐ見つめた後、急に思い立ったかのようにカウンターの裏へ入った。

途端、無言でガリガリと豆を挽く音が響く。

不器用だった頃の彼とは、似てもつかない。

とても素早く、的確な動作だ。迷いがない。


エスプレッソが抽出されると、彼は普段よりずっと入念にスチームミルクを作り始める。そのきめ細かさは、プロ顔負けだ。

そして、カップを手に取り、静かにスチームミルクを注ぎ、葉っぱのような模様を描く。

ミルクのスチーム具合、注ぎ始める高さ、そしてカップの傾け方。

どの動作もまるで、ショーをみてるようでー


「俺はなぁ、周りに止められるほどとにかく不器用だった。それが今じゃ、こうしてラテアートまで出来るようになった。この店が好きっつー気持ちだけでな」


「……何が言いたいの?」


「好きなんだろ、サックスが。なら、そんな理由で、逃げるんじゃねえ」


こうは、強い。

好きなもののため、自分の弱点を克服できるほどだ。

好きで始めて、それが評価されていった青天目さんとは、明らかに違う。

だから、なのだろうか。

たまに二人が、喧嘩のような軽い言い合いばかりなのはー


「お前がやらねーなら、俺がやる」


………ん??


「俺がギターを弾いて、好きってのはどういうことか証明してやる!」


あ、あれ、ど、どうしよう。

どうやら風向きが、とんでもないことになりました!!


(つづく!!)

おまけの小ネタ

黄河「俺がギターを弾いて、好きってのはどういうことか証明してやる!」バ━━( •̀ω•́ )━━ン


沈黙………


真冬「……君、頭大丈夫? さっきから何いってるか、自分でわかってる?( ・᷄-・᷅ )」


黄河「バカにすんな!! 俺は大真面目だ!!」


真冬「コーヒーしかまともに作れない人に楽器なんて無理でしょ( ・᷄-・᷅ )」


黄河「んなもんやってみねぇとわかんねぇだろーが」


那月「まあまあ、いいじゃない。こう君がやるっていっるんだし」


明音「そ、そうですよ! あんなに不器用だったのに、ラテアートまでできるようになって。こうは本当にすごい。このハート型のラテアートだって、可愛くて……」


黄河「はぁ? なにいってんだ、明音。どこからどうみても葉っぱだろ、これ」


明音「……あ、あー! 葉っぱかあ、ごめん間違えちゃった!(^^;)」


那月「いやぁ、こう君上手になったなぁ。うち、感動しちゃうよ〜!^_−;☆」


全員(これ、葉っぱだったんだ………( ̄▽ ̄;))


不器用すぎる男。


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