表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

13. 突然の旅立ち宣言

※ 4/29 加筆修正済

 ◇ ◇ ◇


 別れは唐突にやってきた──。


 春真っ盛りとなり、丘陵に覆われた白い地表も茶色に輝きだした。

 

 小川の水面も雪解けになると、氷が真っ二つに割れるようにその日はやってきた。


 夕食あと、ジャンは言った。


「コリンヌ、突然ですまないが、俺は急用ができて明日、長期の旅に出ようと思う」


「えっ?」


「聞こえなかったのか? 旅に出るといったんだ。暫くは帰ってはこない。最低でも一年ほど留守にする。ああ、金は心配するな。十分すぎるくらい渡していくから。居場所が落ち着いたら手紙は書くよ」


 コリンヌは体が硬直したのかブルブルと震えが止まらない。

 


──とうとう恐れていたことが現実になった!

 


 コリンヌが今までなんとか保っていた平常心は、あとかたもなく消え失せた。


 「! コリンヌ、俺の話を聞いてるのか?」

 

 ジャンはコリンヌの顔が、みるみるうちに青褪めていくのに気が付いた。


 だがコリンヌにはジャンの声は遠く、何も見えない霧の中で何度となく木霊(こだま)するだけだ。



──ジャンが出ていく?


 あたしから何故?

 何故出ていくの?


『衝撃』『絶望』『疑惑』『憤怒』など──。 

 

 ありとあらゆる負の感情が、彼女の脳裏をどす黒く覆った。


「いやあああ! ジャン、いい加減にして!」

とうとうコリンヌは、堪忍袋の緒が切れたのか叫びだした!


「夫が突然旅に出るといってどこの妻が『はいそうですか、あなたどうか気を付けていってらっしゃい』ていうの?──冗談じゃないわ!」


「コ、コリンヌ……」

 

 ジャンはコリンヌの怒る姿に呆気にとられる。


 コリンヌは泣きながら、ジャンの胸に飛び込んだ。


「ジャンお願い、理由(わけ)を言って! やっぱりあたしのせいなの? あたしが赤ちゃんを殺したから、それとも他に何か、行かなきゃ行けない理由でもあるの?」 


「いや、けっして君のせいではない」

「嫌よ、理由を聞くまでは出ていかせない!」

「理由はすまん、一言でいえば俺のせいだ!」


「ジャンのせい?」


「ああ、全て俺の責任なんだ。俺がもっと早く気付いていたら赤子は……」


「はああ? 俺が、俺がって意味がわからない。赤ちゃんが流れたのが何故あなたのせいなの? あなたのいってる事メチャクチャすぎる!」

 

コリンヌはジャンの胸をドンドンと強く叩いた。


「落ち着け、コリンヌ!」

「嫌よ、嫌だ!」

「訳は言えないって言ってるだろう──いい加減にしろ、妻なら夫に従え!」


 今度はジャンが癇癪を起した。


 コリンヌの体を突き放してジャンは怒った!


「もう、これ以上訊くのは止めてくれ!──俺はこの度のことではっきりと目が醒めたんだ。ずっとこれまで自分の人生から逃げてばかりいた!──君と赤子が犠牲になる前に、俺はもっと早く戦わなくてはならなかったんだ!」


 ジャンは激しい怒りがこみあげたのか、己の拳で机を叩いた。

 

「ジャン、どうしたの。あたしと赤ちゃんが犠牲って……誰と戦うっていうの?──あなたのいってる事、ちっとも理解できない!」


 コリンヌはジャンの言葉に、とてつもない恐怖が感じられた。


「うるさい、うるさい、放っておいてくれ!」


 ジャンは狂ったように何度も何度も机を叩く。

 いつの間にか彼の手は血がにじんでいた。


「おお止めて、ジャン!」


 コリンヌは悲鳴をあげた。


 結婚してからこんな支離滅裂なジャンを見たのは初めてだった。

 

 明らかにジャンは、狂人のように冷静さを失っている。

 

 日頃の爽やかさなど微塵もない!

 

 ジャンのいつもの美しい顔は消え去り、碧眼の瞳は血走しって激しく慟哭していた。



 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ