11. 叔母の恐ろしい予言
※ 誤字脱字ご丁寧にありがとうございます。
※ 4/29 加筆修正済
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コリンヌとジャンが結婚したニュースは、ライブレッドの村中に瞬く間に拡がっていった。小さい集落ではないものの、それでも数百人ていどの村である。
二人が挙式してから、ひと月は村中あちこちで結婚した噂話をひそひそとしていた。
とりわけ、村の独身娘たちは、蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。
今日も数名の十八~二十三歳ぐらいの娘たちが、手芸教室で井戸端会議をしている。
「信じられないわ。いつの間にコリンヌがアンダーソンさんとできてたのよ?」
「まさかあんな地味なガキのコリンヌとなんて、あんた知ってた?」
「とんでもない、あたしが知ってる訳ないでしょう!」
「すんごいショックよ。まさか、まだ成人したての海鞘娘が、あたしたちを差し置いて、アンダーソンさんの嫁になるなんて狂ってるわよ!」
「コリンヌと彼なら、年の差があるんじゃない?」
「馬鹿ね、彼はまだ二十三歳よ。コリンヌが十六だからそれほどでもないわ」
「本当、あんな孤児のお針子、いつも地味な服着ててどうやってアンダーソンさんに取り入ったのよ──髪だって茶色のダサい三つ編みよ。あたしの金褐色の髪の方が断然イケてるのに」
と自慢の赤毛を手で、悔しげにいじくり回す娘もいた。
「ねえ、もしかしてアンダーソンさんて、少女趣味なんじゃないの?」
「それは有りえるわ、コリンヌはまだ子供だしガリガリのチビだもん」
「でもね以前、あたしのお爺さんが雑木林の先にある小川で、二人を何度か見かけたって言ってたの。そん時はお爺さんも、耄碌したかと、家族で大笑いして気にもとめてなかったのに……お爺さんの話は本当だったのね」
「はあ〜何で早く気が付かなかったのかしら!」
「ああ、悔しい!──何よりもアンダーソンさんと、恋人になる夢を妄想できなくなるのが一番悲しいのよ!」
「「「あああ、麗しのあたしのジャン様~!?」」」
と村の独身の娘は、全員でジャンへの募る想いを嘆いた。
村の大人たちは、ジャンを“余所者”といって煙たがっていたが、若い娘たちは“余所者”など関係なく、ただジャンのハートを射止めたコリンヌが羨ましくてならなかったのだ。
※ ※
村の中で唯一、二人の味方をしたのはコリンヌの叔父と村長夫妻。
そしてジャンの家の隣に住むスミス婆さんだけだった。
コリンヌが叔母にジャンと結婚の話を伝えたのは、二人が挙式した後だった。実はこのことを提案したのは叔父だった。
「コリンヌや、家内はお前たちの結婚を良しとしないよ。私は思うんだが家内には話さない前に、籍を入れた方がいいと思う」
「そうなの叔父さん、そんなことして叔母さん怒らないかしら?」
「いや、そりゃあ家内のことだ、物凄い癇癪を起こすに決まってるさ。だがな多分、家内はお前たちの結婚を絶対に阻止して妨害するかもしれん。下手したら家内と同じくらい“余所者”嫌いの男を数人雇って、アンダーソンを追いだすくらい算段するかもしれんぞ!」
「叔母さんの余所者嫌いは知ってたけど、まさかそこまで嫌うなんて……」
コリンヌはゾッと身震いした。
「いや、あの家内のことならやりかねん。だからなコリンヌ、本気でアンダーソンと添い遂げたいなら、家内に伝える前に式だけでも挙げた方がいい。教会の『聖なる女神』の祭壇で宣誓すれば、誰も手をだせないだろうよ」
「なるほど──『聖なる女神』様に誓った夫婦なら、いくら叔母さんでも妨害はできないのね」
「そうだ、村の者たちは信心深い。『聖なる女神』像の前で宣誓をした夫婦に危害を加えることはないだろう」
「わかったわ。叔父さんありがとう!」
コリンヌは初めて叔父の優しさに触れた気がした。
叔父は気が弱くて叔母に頭が上がらない人間だったが、心ではコリンヌが良い伴侶を見つけて、幸せになって欲しいと心から願っていた。
コリンヌは叔父の忠告通り、密かにジャンと二人きりの結婚式を挙げた。
挙式の前に叔母に隠れて、自分の部屋の不必要な物を処分したり、貴重品や服などはジャンの家に運んでいた。おかげで、叔母に結婚したことを伝えた時は、そのまま着の身着のままで家を後にした。
叔父の予想通り、ジャンと結婚したことを知った叔母の癇癪は凄まじかったが、コリンヌは想定内だったので、ちっとも恐くはなかった。
叔母はコリンヌに物こそ投げつけはしなかったものの、怒りで興奮したせいか鼻の穴を大きく開け、目をギラつかせて魔物のような形相だった。
そしてコリンヌに有りとあらゆる罵詈雑言を吐いた。
最後には叔母は預言者の如く、コリンヌに向かって言い放つ。
「コリンヌあんたは、あたしに逆らって余所者と結婚した売女だ──いくら『善なる女神』の前で宣誓した夫婦だろうが意味はないよ。ふん、見ててごらん、必ずあんたは不幸になる。そして何年も経たない内にあんたはきっと、あの余所者に捨てられるさね。いいかい、その時後悔してあたしに泣きついてきても、家には入れないよ!』
叔母の怒りは頂点に徹していた。
『──金輪際、あんたはあたしの姪ではない。これで身内の縁は切ったんだ。二度と敷居をまたぐんじゃないよ!」
「⋯⋯分かりました。叔母さん、今まで長い間お世話になりました」
とコリンヌは冷静に叔母にお辞儀をしたが、内心はケロッとしていた。
──叔父さんの言ったとおりだったわ。
急いで結婚式挙げて本当に良かった!
この叔母の剣幕なら挙式妨害したかもしれない。
だけどあたしは叔母さんの言う、脅し文句などこれっぽっちもへっちゃらよ。
だって、今のあたしは人生最高の喜びが出来たんですもの!
愛するジャンとの結婚生活が、待っているんですもの。
コリンヌは醜い形相した叔母の方こそ哀れに思えて、彼女の暴言を右から左へと軽く受け流したのだった。
彼女はこれから始まるジャンとのバラ色の新婚生活を夢見て、意気揚々と叔母の元を去っていった。
だが、今のジャンとの関係はどうであろうか?
叔母の予言はコリンヌにとって現実めいたものとななり、徐々に重く圧しかかっていった。
ポイント、ブクマ等入れてくださった方々、ここ迄読んでくださった方々、ありがとうございます。
嬉しかったです!
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