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最後の夜は甘いキスで貴方とさようなら〜コリンヌ〜少女編  作者: 星野 満


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1. ジャンとコリンヌ

※すれ違う夫婦の可笑しくも悲しい愛の物語です。

※異世界転生・転移シリーズに入ってるのは、ヒロインの未来の話です。

※この作品は元々番外編なのです。2026年に本編を投稿予定です)


※ 2025/12/10 修正済


 ◇ ◇ ◇


 王国から北の辺境地ライブレッド村にも、遅い春がやって来た。

 桜の花が満開となり、木立には春をつげる春鳴き鳥がさえずり始めた──。

 赤く染まった夕暮れの丘。カラマツの木立が濡羽色のシルエットが風に揺れている。


 村のとある家──。

静寂な丘とは対照的に、若い夫婦が激しく口論する声が聞こえてきた。


「ジャン、どうして行ってしまうの!」


「許せコリンヌ、既に決めたことだ。約束する、俺は必ず帰ってくる」


「嫌よ、なぜ旅に出るなんて、それも明日なんて突然過ぎるわ。あたしたちまだ結婚して一年半しかたってないのよ。確かにお腹の赤ちゃんのことは言いすぎたわ、元はといえばあたしの落ち度で赤ちゃんを失ってしまったのに⋯⋯」


「いや、コリンヌそれは違うんだ……俺の……」


「何が違うっていうの! 赤ちゃんを失って辛くて、ついあなたに酷い言葉を吐いた。でもそれは本心じゃないのわかるでしょう、後生だから出て行かないで!」


 コリンヌは泣きながら、必死にジャンを家に留まらせようとした。


 ◇ ◇


 時を少し巻き戻す──。

 

 ライブレッド村に若い夫婦がいた。

 夫の名はジャン、妻の名はコリンヌ。

 二人はお互い一目惚れして結婚した。

 最初の一年はとても仲睦まじく暮らしていた。


 妻のお腹に待望の新しい命を授かったが、まもなく赤子は女神の降した『死の聖地』に召されてしまう。


 原因はコリンヌの過失だった──。

 

 雪がとけ始めた頃、陽光が輝く白樺小路をコリンヌが散歩した時、坂の傾斜の泥濘(ぬかるみ)に滑って転倒してしまった。


 幸いにも通りかかった村人たちが、コリンヌを助けたが医師が診察したが既に赤子は流れていた。

 

 夕方、夫のジャンが仕事から帰宅すると、家の門前に隣家のスミス婆さんが立っていた。


「あ、旦那、よう帰ってきた。大変だよ、奥さんが転倒しちまって赤子が天に召されたよ!」と凄い剣幕でいってきた。

 

 ジャンは真っ青な顔になった。

 

「あ、旦那気を確かにしんせい! 今、先生が診てくださってる。奥さんはきっと助かるよ!」


「スミス婆さんコリンヌは生きてる⋯⋯のか?」


「そうだよ旦那、早とちりしてねえで、早く奥さんの所へ行ってやんな」


 ジャンは、慌てて家に飛び込んでいった。


「コリンヌ!」

 

 寝室に入ると青白い顔の妻が眠っていた。

 

 ジャンは、息を止めて近付く。

 彼女の細い手を固く握りしめた。


「コリンヌ⋯⋯なんてことだ、せめて君だけは助かってくれ、善なる女神よ、どうか我が妻をお助けください!」


 ジャンはその夜、ずっと祈り続けた。

 医師やスミス婆さんたちが寝ても、ジャンは一睡もせずにコリンヌに付き添っていた。


 やがて空が白み始めた頃、医師がコリンヌの状態を診ていった。


「大丈夫だ、奥さんは峠を越えたよ」

 

 部屋にいた看護婦やスミス婆さんは、大喜びで善なる女神に感謝した。


「あれ? ジャンは何処へいったんだえ?」

 

 スミス婆さんはキョロキョロと見回した。

 

 せっかく奥さんが助かったのに──。


 誰も気づかなかったが、いつの間にかジャンは家から消えていた。


 

◇ ◇


「え、ジャンがいない?」


 目覚めたコリンヌは、ジャンが家にいないと聞かされた。


「おかしいね、旦那はあんたの身を案じて徹夜で祈ってたみたいだよ。ちらっと用足しで目が醒めた時も祈ってた、そりゃあ必死にさ。だけど朝起きたら家のどこにもいなかったんだ」

 

 スミス婆さんは眠そうな目をこすりながら言った。


 コリンヌは目の前が真っ暗になった。

 

 先ほど目覚めたばかりに、医師から赤子が流産したと聞かされた。

 今度は夫まで居なくなったと聞いて、最悪な現実が一気に押し寄せてきた。


 そうこうしてるうちに、村長夫人まで慌ててやってきた。


「コリンヌ、あんただけでも助かって良かったわ──赤ちゃんはとても残念だけど、母親さえ無事なら赤子はまた出来る。村の主婦たちは何人かあなたと同じ経験してるさね。どうか気を落とさずにしっかり養生するのよ。きっとまた子供は授かるんだから!」


 村長夫人はコリンヌの手をしかと固く握った。


「ありがとうございます、村長の奥様⋯⋯」


「それでねコリンヌ、落ち着いて聞いて──さっきうちの主人が、隣り街の酒場でジャンを見かけたっていうの」


「え、ジャンが!」

 

「そう主人がいうには、ジャンは酷く酔っぱらって気が狂ったようだったって。よほど赤子を失くして落ち込んでたのかしら⋯⋯」


 村長夫人の言葉でコリンヌは酷くがっかりした。


 

 ──あのジャンが昼から酒場なんて⋯⋯。


 夫のジャンは酒は飲んでも呑まれない人だった。


「それで主人があなたの容体を知ってたから、ジャンに早く奥さんの元へ帰るように言ったら、ジャンは『うるさい、放っておいてくれ!』と主人を追い返したというのよ……」


 村長夫人はトーンを潜めていった。


「ああ⋯⋯なんてこと⋯⋯」

 

 コリンヌは思わず両手で顔を覆ったが、溢れる涙を抑えきれなかった。


「ちょ、コリンヌ別にあなたのせいでは⋯⋯あ、私ったら余計なこといったのかしら」

 

 隣にいたスミス婆さんは、村長夫人に冷たく一瞥した。


「村長の奥さん、気持ちはわかるが病人を興奮させたら駄目さね。とりあえず旦那が見つかって良かったじゃないか。コリンヌ、あんたもまだ体が悪いんだ、とにかく何も考えずに眠らんとあかんよ。奥さん、あたしらは隣の部屋に行こう」


「あ、そうねスミスさん、そうしましょう。コリンヌ、私もお昼までいるから、何か困ったら鈴を鳴らして呼び出しておくれ」

 と、村長夫人とスミス婆さんは、おもむろに出ていった。


 

 コリンヌは一人、寝室でボロボロと泣いた。

 


──ジャンが独りぼっちで酒で紛らわせているなんて⋯⋯

 

 コリンヌは罪悪感で押しつぶされそうになる。


 二人の赤ちゃんを、自分の不注意で亡くしてしまった。

 

 コリンヌは赤児を亡くした後悔と、泥酔するほど嘆いてる夫に顔向けできないと思った。

 

 ジャンにいくら謝っても、許しを請えるものではない。


 コリンヌはこのまま死んじまいたいと思った──。


 ◇


 その夜、村長夫人のいう通り、ジャンは泥酔して帰宅する。


 だいぶ飲んだらしく、ぐでんぐでんに酔っぱらってとても話せる状態ではなかった。


 ジャンはそのまま寝室に上がらず、居間の青緑のカウチソファに仰向けになり、高イビキをかいて寝てしまった。


 コリンヌは自分の看病のために、寝泊まりしてくれたスミス婆さんがコリンヌの部屋に入ってきた。


「コリンヌ、ジャンが戻ってきたよ、安心押し、相当酔っ払っるが元気だがね」


「ああ、良かった、どうもありがとう、スミスさん⋯⋯」



 コリンヌはほっと胸を撫で下ろした。

とりあえず、ジャンが戻ってきてくれただけで女神に感謝した。







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