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童話もの

命の宅急便

 サイトウ博士は世界一の医学博士です。病気に苦しむ多くの人を救いたいと寝る間も惜しんで勉強し、魔法のように特別なお薬を発明しました。

 博士が調合したお薬は、体の中の悪い物質に作用して、どんな難しい病気でも治してしまうのです。

 世界中の人が、サイトウ博士ありがとうと大喜びしました。

 でも、悪いマフィアは、特別なお薬を創ることの出来る博士を独り占めして、薬を売って大儲けしようと、たくらみます。

 暗い夜に誘拐されそうになった博士は、怖くて研究所から外に出られなくなりました。

 しかし、博士は悪い人に脅されたり殺されたりするのが怖かったのではありません。博士は病気の子供たちのために、お薬が創れなくなるのが怖かったのです。

 そこでよく考えた博士は、お薬を運んでくれる最強の宅急便を探し始めました。


 岩手県の野菜農家のお孫さんに、ジュンちゃんという男の子がいました。

 お爺さんとお婆さんはキュウリを育てていて、それは瑞々しくて漬物にすると、とっても美味しいのです。

 ある日、キュウリが大好きな若い河童が、ジュンちゃんの家を訪ねて来ました。

 河童の川太郎は真面目で優しくて、すぐにみんなと仲良くなりました。

 夏のとっても暑い日に、ジュンちゃんは川太郎と小川で遊びました。川太郎は生き生きと素手でアユや川エビを採ってくれました。

 でもその夜、ジュンちゃんは40度もの高熱が出て病院に運ばれました。

 お医者さんに熱を下げる注射をしてもらいましたが、なかなか良くなりません。このままでは、もしかしたらですが、死んでしまいます。

 最後の手段は、サイトウ博士のお薬しかありません。お医者さんは急いで電話をかけました。

「もしもしサイトウ博士ですか。お薬を下さい。ジュンちゃんの熱が下がらないのです」

「あわてないでドクター、症状を詳しく教えて下さい」

 お医者さんは一生懸命にジュンちゃんの状態をサイトウ博士に説明しました。

「では、病気のウィルスをやっつけるお薬を調合しますので、ジュンちゃんの血液を研究所まで持って来て下さい」

「わかりました。おい誰か、お薬をもらいに行ってくれないか?」

 河童の川太郎は、真剣な顔で手を挙げました。

「僕に責任があります。僕がお薬をもらいに行きます」

 川太郎は、お医者さんがくれた地図を頼りに、研究所まで大急ぎで走りました。


 研究所に到着すると、サイトウ博士が玄関で待っていてくれました。

「君が川太郎君だね。来てくれてありがとう。あなたは大切な命の宅急便だよ」

 そう言って博士は大急ぎでお薬を創ってくれました。

「サイトウ博士ありがとう。では急ぎますので」

 お薬をもらうと川太郎は、ジュンちゃんの待つ病院まで猛ダッシュしました。

「すぐ行くよジュンちゃん。もう少しだけ頑張ってね」


 帰り道で、悪いマフィアがお薬を奪いに来ました。

「大切なお薬だ。悪い人には渡さないぞ」

 川太郎は得意の相撲で戦いました。襲い掛かってくる敵には、素早く動いて強烈な張り手をお見舞いします。

 でも大勢に取り囲まれてしまったので、橋の上から川へと飛び込みました。川太郎は河童なので泳ぎは得意です。

 川太郎はジュンちゃんのために急がなければなりません。全力で戦い、泳いだり走ったりして、服はもうボロボロです。

 夜やっとの思いで病院のお医者さんにお薬を届けました。

「もう大丈夫だよ、ジュンちゃん」

 そして疲れた川太郎は、眠ってしまいました。


 サイトウ博士のお薬で、朝にはジュンちゃんが元気になりました。

「ありがとう、川太郎」

 ジュンちゃんの明るい笑顔に、優しい川太郎はとても嬉しくなりました。お爺さんとお婆さんも、お医者さんとたいへん喜びました。


 その後もサイトウ博士のリクエストで河童の川太郎は、お薬を届ける「命の宅急便」をしています。


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― 新着の感想 ―
河童という非現実でファンタジーな存在と、マフィアというリアリティのある悪が共存する世界観が良いですね。話の内容とも見事にマッチしていると思います。
河童と人の繋がりが『薬』というアイテムで成立しているのが予想外で心地よい物語です。 闇世界が背景に描かれながらも、民話ならではの幻想的な世界が童話の小箱のようでした。
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