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Bear The Future アナザー・ハーツ  作者: スタジオヒガシ
4/15

友達

 自分が何者で、どこから来たのか。それを知るためにあたしは、この街__フランシスタシティを歩いた。


 近くのベンチとかでちょくちょく休憩を挟みつつ、頭の中で声が聞こえるのを期待して散策した。そして……気がつけば、時は夕暮れ。


 結果を言うと、収穫はなかった。そりゃそうだ。この広い街で、あたしを知っているヤツと偶然出くわすなんて、そんな可能性は限りなく低いだろうから。


 夕焼けに影を伸ばして、とぼとぼと帰路を行く途中。


「なんだ……?」


 目に映ったもの、建物の隙間に存在するその入口を見た途端、不思議な感情が湧き出してきた。……形容するなら「懐かしさ」に近いと思う。


 あたしは、ここに来たことがあるのか? とてつもなく気になった。同時に、緩やかな風が確かに吹く。それは追い風となり、あたしの背を押してくれる。語りかけ、導くように。優しく手を引いて、過去へ誘うように。


 この景色は、この懐かしさは……。


 思いがけず、足は前方へと進み出す。少し遅れてわかった。ここに大切なものがある、今こそ取り戻す時だと、直感がそう言っていた。理由はわからないが。


 あたしは、臆することなくその中へと赴いた。建物に囲まれているせいか、予想通りの薄暗さだ。そして結構広かった。なにもないというわけではなく、あったのは複数のテントと、積み重ねられた三本の土管。ただ、人影は見当たらなかった。


 立ち尽くしていると、なにやら薄ら笑いのような声が耳に入った。最初は空耳かと思った。一人や二人ではなく、大勢いるのがわかる。


「くくく……」


「フフフ……」


 何人いるのかわからないけど、たくさんの視線を感じる。なんだよ、気味悪いな。


「お前たち、やるぞ!」


 かけ声がした。ん? この声……。


「とうっ!」


 突然、あたしを囲むように十数人が現れ、地面に着地した。どっから出てきたんだお前ら。


 あたしと同じくらいの背丈のヤツから、オグぐらいの高身長なヤツまで色々いた。それぞれパーカーとかジャケットとか服装は様々だったが、集団の服の色は黒で統一されている。コイツらは、みんながみんなフードを深く被るなりして顔を隠していて、一人たりともその素顔を晒してはいなかった。そして……全員、胸元にバッジをつけていた。


 目の前に着地したヤツが、ゆっくりと近づいてくる。そしてあたしの顔を覗くなり、驚くような素振りをした。


「あれ? お前……」


 この声はさっき聞いた。あの路地裏で話しかけてきた、なんとか団のリーダーって名乗ってたヤツだ。


「あんたは、今朝の?」


 あたしが尋ねると、集団のうちの一人が声を発する。


「リーダー、面識あるの?」


「この女とはさっき会った。アイツを探してる時にな」


 アイツ……? ああ、そういえば友達を探してるとか言ってたな。新しい仲間をってことじゃなかったのか。


「さて、さっそくだが尋問の時間だ」


「尋問?」


 聞き返すと、集団のリーダーの男はあたしを指さして大声を出した。


「ずばり! お前はなにをしに来た? 俺たちAZ団のアジトに!」


 思い出した、AZ団だ。素行の悪いヤツらの集まりって言われてる……。


 なにをされるかわからない。ここは、コイツらの気に触れないように穏やかな言葉でいこう。えーっと……。


「あたしは……なんて言えばいいかな。このアジトとやらの入口を見た時に、懐かしい感じがしたというか……」


 集団は、不思議がって首を傾げている。


「なに言ってんだコイツ?」


「こんな女、メンバーになったことあったっけか?」


「静かに」


 リーダーの男は、手の動きでメンバーを制した。


「どうやら、団解散の直談判をしに来たわけじゃなさそうだ。おもしれぇ。話を聞いてやるよ。お前の名前は?」


 名前、教えていいのか? コイツらに覚えられたらなんか面倒なことになりそう。


 ……そうだ! この場所に懐かしさを感じたってことは、ここにいるヤツと会ったことがあるかもしれねぇってことだし、コイツらがあたしの過去を知っているかもしれねぇってことだよな。コイツらの顔を見たら、もしかしたら……ロッカの時みたいに、頭ん中で声が聞こえるかも。


 コイツら、顔が見えないようにしてやがるが……ちょっとばかし交渉してみるか。


「顔も見せねぇ怪しいヤツに簡単に名前は教えられないな。まずはあんたがその面晒して名乗るべきじゃねぇか?」


 あたしの煽りを受けて、リーダーの男は高らかに笑った。


「ますますおもしれぇ女。俺たちに囲まれてそんなこと言ったのは、お前が初めてだ。……いいだろう。カメラは持ってねぇようだしな」


 リーダーの男が一歩進み出て、右手でフードを払った。その顔があらわになる。目が合った瞬間にあたしは、まるで脳が叩かれるかのような感覚に襲われた。






 __俺はAZ団のエイミー。一緒に青春を取り戻そうぜ!






「……エイミー?」


 一瞬だけ飛んだ意識が戻る中、呟いてしまったのがわかる。気がつけば、AZ団のメンバーは皆、驚愕していた。


「アイツ……今、リーダーの団ネームを……」


 メンバーのうち、一人が声をあげる。反応からするに、どうやら目の前の髪を赤く染めた男がエイミーというヤツらしい。


 また声が聞こえた。青春を取り戻すって……どういう意味だ? エイミー……お前は、あたしと会ったことがあるのか? でも、今までのやり取りからして、コイツは今日初めてあたしと出逢ったような素振りをしていた。ロッカと同じだ。本当にどういうことなんだ? まるで意味が……。


「クランベリーを知っているのか!?」


 考えていると、AZ団のリーダー__エイミーがあたしに近づき、肩に掴みかかった。


「クランベリー? なんだそれ?」


「俺たちの友達だ。俺の団ネームを知っているのは、今ここにいるヤツ以外ではアイツしかいない。俺の団ネームを、アイツから……クランベリーから聞いたんだろ?」


 クランベリー……。そう名乗るヤツに会ったことなんてない。果物の名前ってことは、恐らく偽名なのか。それだけじゃ、ソイツが男か女かすらわからない。


「知らないな。クランベリーって誰だよ? 名前?」


「クランベリーってのは、俺たちの友達の団ネーム……所謂偽名だ。そうか、アイツは俺たち以外には別の名を名乗っているかもしれないのか」


 やっぱり偽名なんだな。


「クランベリーは、俺たちと同い歳の女だ。長い黒髪をしていた」


 長い黒髪の、同い歳の女……。


「アイツは三年と少し前に、突然なにも言わずにいなくなった。それから俺たちは、アイツを探し続けた。この街だけじゃなく、隣街でも、その隣の街でも……。だが、手がかりは一切得られなかった。まるで、アイツそのものが消えてしまったような……。そんな気もした」


 三年と少し前。あたしが……あの実験室みたいなところで目覚めるよりも前のことだ。


「が、ここに来て、まだ名乗ってもいない俺の団ネームを知るお前が現れた。……お前は、いつどこでクランベリーと会った? そして何故、俺の団ネームを教えられた?」


 エイミーがあたしの顔を覗いてくる。やべぇ、なんか言わなくちゃ。


「いや、そんなヤツは知らない」


 団のメンバーは全員、あたしを真剣な眼差しで見つめていた。疑われてるっぽい。


「信じられないわね」


 そのうち一人が、腕を組んだまま一歩進み出て発言した。


「リーダー。丁重にもてなす必要があると思うわ」


「そうだな。お前たち!」


 その呼び声に頷き、団のヤツらが近づいてきた。そして、あたしの腕を掴んで連れていこうとする。


「なっ……なにすんだよ!」


「尋問の時間は延長だ。おとなしく話を聞かせてもらう」


 数人に腕を引っ張られ、あたしは抵抗することもできないまま連行された。あのテントの中に入れられるのか。これから一体どうなるんだ。そう不安に襲われた。






「さっき買ってきたジュースだ。少しぬるいが、まだ開けてないから安心して飲んでいいぞ」


「え? あ、ああ……。どうも」


 ペットボトル飲料を渡された。蓋の締まり具合から、確かに開封されていないのがわかる。


 あたしは、テントの中の椅子に座らされた。エイミー曰く、この席は客をもてなす専用席らしい。


「尋問は、俺とローズだけで行う。お前たちには見張りを頼んだ」


「了解」


 言われてメンバーが出ていく。テントには、エイミーと、ローズと呼ばれた女だけが残り、二人は対面の椅子に腰かけた。


「二人だけでやっていいのか?」


「大勢いると話しにくいだろうからな」


 あたしに配慮してくれたってわけか。てっきり縛り付けられると思ったが、そんなことはないみたいだ。このジュースといい、案外気が利くじゃねぇか。


「これは友達に関わる大事な尋問。リーダーである俺が立ち会うべきだ。そして横のコイツ、ローズは……クランベリーとちょっとした因縁があるからな」


「言わなくていいわよ。そんなこと」


 ローズは、エイミーを睨んでムスッとする。


「……さて、色々と聞かせてもらおうか。まず、お前の名前は?」


「……ジェナ」


 あたしは、素直に名前を言った。


「ジェナ。お前は、クランベリーと会ったことがあるんだろう?」


「ない……と思う」


「じゃあ何故エイミーという名を知っていた?」


「それは……」


 口ごもってしまった。顔を見た瞬間に頭ん中で声が聞こえた、なんて言って信じてもらえるだろうか。


「団ネームは、クランベリー含むAZ団の人間しか知らないはずだ」


「どうして隠す必要があるのかしら?」


 今度はローズが詰め寄ってくる。違う。あたしには過去がないんだ。記憶喪失なんだ。それを言って、お前らは信じてくれるのか?


 しばらくの沈黙。


 ……そうだ。過去。そもそも、あたしはそれを知るためにここに来たんだ。そしてこの男、エイミーの顔を見て声を聞いた。


 過去を知るためには……そういう不可解な現象も、ちゃんとした言葉で伝える必要があるよな。


 ……話してみるか。


「隠してるわけじゃない」


 はっきりとした声で言った。二人は不思議そうな顔をした。


「もしかしたらあたしは、そのクランベリーってヤツと関わってるのかもしれないな」


「関わってるかもしれない?」


「どういうことなのよ?」


「話してやるよ。あんたたちが信じてくれるならな」


 エイミーとローズは互いに顔を見合わせて、再びあたしへと視線を戻す。


「……お前にも事情がありそうだな。話してみてくれ」

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