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第7話 《蜃気楼が夢みる砂漠の微笑み》

 人気の店《虹の行方》で一番人気のケーキは、夢と砂漠がどうとか言う浪漫あふれる名前だったけれど、長すぎて覚えられないし、意味もさっぱり分からなかった。


 でも、うっとりするほど美しいケーキなのだ。

 生地に香辛料を混ぜ込み焼いてあるらしく、ほんのり異国の香りがした。


 店員が立ち去るとすぐフォークを手にした私に、お兄様が、


「クリスティーネ。少し待っておくれ。先に話があるのだ。おまえの『鑑定』の事なんだが」と話し出した。


 私はビクッとして、周りに視線を走らせる。


「大丈夫だよ、クリスティーネ。ここは他のテーブルと十分離されているし、ピアノの音が私たちの声を消してくれる。大きな声を出さない限り、誰かに話を聞かれる事はない。安心していいよ。それで、おまえの『鑑定』についてなのだが、今からここで『鑑定』を試してみて欲しいんだ」


「『鑑定』を、ここで、ですか?何故ですの?」


「アレクシス先生に教えて頂こうと思っていたのだが、結局詳しい事を教えては下さらなかったからね。どんなスキルで、何が出来るのか、ある程度把握しておいた方がいいと思うのだよ」


「どうしてですの?」


「言っただろ。スキルには有益なのものと、無益なものがあると。アレクシス先生は、おまえの『鑑定』は、その、ええと、力があまり強くない、と仰っていたが、それでも『鑑定』自体は有益で貴重なスキルなのだ。もし、ある程度、その、ええと、使える、いや違うな、使い勝手のいい、いや、そうではなくて、その、利用価値がある、いや、違う」


「お兄様・・・」


 たぶん、お兄様だって、二ヶ月間引き篭もって弱っている可愛い妹以外になら、もっとサラッと狡猾な言い方で『鑑定』を使わせて、それが公爵家にとって利用価値があるかどうか見極める事が出来たと思うのだ。


 それに私だって、十回目くらいの私なら、お兄様の意図に素早く気づいて「ふふふ。お兄様、皆までおっしゃらないで。分かっておりますわ。では『鑑定』いたしましょうか」とか言っていたし、二十回目くらいの私なら「オホホホ、お兄様、何ですって?利用価値がある?あら、まあ、ふうん、いいのですのよ、お兄様、もう何もおっしゃらないで。私、お兄様のお考えは分かっているつもりですわ。正確にね。あら、嫌だ。そんな顔なさらないで。さあ、私の『鑑定』がどれほどのものか、とくとご覧くださいませ」といった具合に、お兄様を軽く締め上げた後そっと放流する技を使えたはずなのだ。


 けれど、十九歳のお兄様と一回目の私は、ただ気まずい思いで、しばらくモゴモゴ言い合った後、やっと、


「で、では、『鑑定』いたします」と、私が言ったのだ。


「花、花瓶、ケーキ、フォーク、カップ、紅茶、花、人、人。ふふふ、本当に見たままですわね。これが鑑定と言われても困りますわよね」


 目についた物を次々鑑定していき、落ち込んでいると、何かを考え込んでいたお兄様が、


「いや、そうでもない」と言った。「このカップの中の茶色い液体の味を見る事もなく、香りを嗅ぐ事もなく、これが紅茶だと言い切れるのは、『鑑定』のスキルのおかげじゃないか?」


 私は苦笑いして首を振った。

「それなら、この店の中にいる人は皆、『鑑定』を使えるのかもしれませんわね。皆疑いもせずこの茶色い液体を飲んでいるのですから」


「確かに」お兄様は首をすくめて、自分の紅茶を眺め、「これは紅茶だ」と言って紅茶を飲んだ。「うん。確かにこれは紅茶だ。私に鑑定はないが分かったな。ううん、しかしやはりクリスティーネの『鑑定』には何か法則がある気がするんだ。『鑑定』の結果が、人でケーキで紅茶なんて不思議じゃないか?」


「?どういう意味ですの?」


「人とケーキと紅茶は同列にあるものかな。ケーキは菓子の種類じゃないのか?紅茶は飲み物の種類だ。人に対する鑑定より詳しい気がしないか?」


「そうでしょうか?」


「そういえば、アレクシス先生の小箱の石を、クリスティーネは『宝石』と鑑定していたね。アレクシス先生も驚かれていたようだった。今おもえば、あの石を見て『宝石』というのも少し詳しい鑑定のような気がする。クリスティーネの『鑑定』には何か基準があるのだろうか」


 そんな事言われても、一回目の私には、さっぱり分からなかった。


 お兄様は考え込みながらテーブルの上を眺め、花瓶に目を止めると不意に「花は好きかい?」と言った。


「?好きですわ」


「ケーキより好きかい?」


「?考えた事もありませんでしたが・・・花よりはケーキの方が好きかもしれません」


「花よりも紅茶の方が好きなんだね」


「そう、かもしれませんわ」


「宝石も好きなのかな?」


「まあ、それなりに」


「人はどうだい?好きかな」


「・・・分かりませんわ」


 そう答えたけれど、正直なところ、人はそれほど好きじゃなかった。ケーキみたいに私を癒してはくれないし、緊張感を持って対応するべきものだった。私は公爵令嬢で王太子の婚約者なのだ。




ついにうちの猫の起床時間が夜中の2時半になった事をお知らせします。

これって早起きじゃなくて、ただの夜行性?

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