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第4話 魔術士団長 アレクシス・アロ

 魔術士団長アレクシス・アロは、年が三十近いと言うのに、乙女の夢を集めたような姿をしていた。

 長身を引き立てる魔術士団の黒いローブ。そのローブの背には銀色の光を集めたような長い髪。顔立ちは端正で、瞳の色は暗い湖の底のような青。


 見目麗しいアレクシス・ロアだけれど、性格は控えめに言って最悪だった。

 私は巻き戻しの中で、アレクシス・ロアに対して何度もムカつく!と思ったし、わりと頻繁に本人に言った。「おまえ、ムカつく」と。

  もちろん一回目の可愛い私は、そんなことを言いもしなければ、思いもしないけれど。


 巻き戻し前の私は、アレクシス・アロの見た目にコロっと騙されて、他の令嬢達と一緒に「なんて美しい方なのかしら」「遠くからお姿をお見かけしただけで胸が高鳴りますわ」なんて事を言っていたのだ。あんな奴に。ムカつく。


 アレクシス・アロが突然、私とお兄様の前に現れたその時も、私はその美しい姿に頬を染めていたのだ。屈辱!

 巻き戻しを三十回ほどした後に、ふと一回目のこの日の事を思い出し、屈辱から矢も盾もたまらず目の前にいたアレクシス・アロを殴りつけた事がある。「何故だ?」と問われて「ムカつく!」と返した。それも全ては思い出だけれど。


 ともかく、この一回目の時には、不意に現れたアレクシス・アロに、私は圧倒されていたのだ。ムカつく!


「久しぶりだな。クリス。隣にいるのが妹君か?」


 この時、アレクシス・アロは、お兄様にそう言うと、私をチラリと見て続けた。「『鑑定』のスキルに目覚めたと?」


「ええ。アレクシス先生。まずは妹を紹介させてください。エデン公爵ニコライの長女、そして我が妹であるクリスティーネです。クリスティーネ、こちらは魔術士団長をされているアレクシス・アロ先生だ。私が学園に通っていた時、アレクシス先生は魔術士団から派遣されて、魔術の講師をされていたんだ。魔法スキルを持ちながら、魔術の(ことわり)まで学ぶ者は少ないし、魔法スキルを持つ友人達は無駄だと授業を選択していなかったが、私にとってアレクシス先生の元で学んだ日々は、人生の宝だと思っているんだ」


「ふん。光栄なことだ」


 私は初めて聞く話に、まあ、そのような事が、と驚きながら、膝を折り挨拶をした。


「初めまして。クリスティーネと申します。突然の事とはいえ、このような姿で申し訳ございません・・」


 何しろずっとベッドで引き篭もっていたのだ。お兄様が手紙を書いている間に、嬉しそうな顔をした侍女のメアリがいくらか身支度を整えてくれたとはいえ、お客様の前に出るような姿でもドレスでもなかった。屈辱。


「ふん。別に構わない。アレクシス・アロだ。もちろん知っているだろうが」


「はい。御高名は常々お聞きしております」


「そうだろうな。妹君は今学園に通っているのだろう。魔術の授業は?」


「・・・選択しておりません」


「ふん。そうだろうな。怠け者の学問ではない」


 この嫌味ったらしい言葉に、一回目の私は、あのアレクシス様が私にお言葉を!などと胸躍らせていたのだ。ムカつく。


 けれど、もちろんその時はムカついていなかった私の隣で、「ところで、アレクシス先生」とお兄様が言った。


「手紙に書いた通り、妹に現れた『鑑定』らしきスキルについて、私達に助言をいただきたいのです。私達は『鑑定』のスキルについて、ほどんど知りません。それにスキルと言うのは、一歳から六歳くらいの小さな子供が、家族からの遺伝や精霊の気まぐれで授かるものだと思っておりました。我が一族に『鑑定』スキル持ちはおりませんし、精霊から授かる年でもない。妹は今、十六歳ですから」


「十六?いいえ、お兄様、私は」


 十七歳です。と私が言うよりも早く、お兄様が、


「違うのか?ああ、誕生日はおまえが引き籠る二日前だったな。おまえはもう十六になっているんだよ。忘れてしまったのかい」と、悲しそうな顔をした。


 そうだ。私の誕生日は卒業パーティの前日だった。その日、十七歳になったお祝いをお兄様もしてくれたのだ。しかし、お兄様の悲しげな顔を見てしまうと何も言えなくなり、口を閉じた。


 でも、その時、ふと思いついたのだ。



 もしかすると、一年巻き戻っているのではないかと。



 私は十七歳のはずなのに、十六歳だと言うお兄様。

 半年前に転校してきたアメリアの話を何度もしたはずなのに、知らないという侍女メアリ。

 しばらくディートヘルム王太子殿下にエスコートなどされていないはずなのに、それも知らないメアリ。

 卒業パーティを終えたはずなのに、卒業は一年後だというメアリ。


「お兄様。私が学園を卒業するのはいつですか?」


 震えながら聞いた私に、お兄様は不思議そうな顔をして「来年だ。違うのかい?」と言った。


 まさか、そんな事が!


 ぐらりと倒れそうに・・・は、ならなかった。


 その前に、クソアレクシス・アロが、


「くだらない話を聞かせるのはやめてくれ。私は忙しいのだ。妹君、『鑑定』をしてもらおうか」と言ったのだ!


 ムカつく!


 巻き戻しに気づくなんて、私の人生で最も重要な時よ。物語だとすれば、山場!絶対に外せないところ!それをくだらないですって、このムカつくガキが!と、かなり後の巻き戻しで一回目のこの時を思い出し、わざわざアレクシス・アロを殴りに行き「何故だ」と聞かれて「ムカつく!」と答えたのは思い出だが、ムカつく!


 しかし、ともかくその時は、混乱してクラクラする頭のまま、お兄様に「大丈夫だよクリスティーネ。私が側でいるからね」と優しく背を押され、クソアレクシス・アロの元に進んだのだ。


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