第17話 きっぱりと見切りをつけて進もう
駄目だこれ。
アレクシス・アロとの面会の後も、『鑑定』の可能性を探り続けていた私が出した結論がこれだ。
駄目だこれ!
『鑑定』の事だ。
もう全然、話にならないのだ。
何度、えいっ、と『鑑定』をやってみても、人は『人』で、花は『花』だった。
なんの可能性も広がらなかった。
駄目というより、無駄だった。
私の『鑑定』は、なんの役にも立たない駄スキルだった!
だからもう、『鑑定』なんかを試すのはやめようと思ったのだ。
私には駄スキルなんかに費やす時間なんてない。
アメリアちゃんが転校してきてから既に二ヶ月。
巻き戻しが起こってから既に八ヶ月。
卒業パーティまで、あと四ヶ月しか残っていなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして私はまた、キラの木の前に立っていた。
早朝なので、他の生徒はまだいない。
私一人だけだ。
私は深呼吸をして、キラの木に両手をつける。キラの木の枝は、何かの象徴のように、大きく枝を広げていた。
何かが起こるのなら、ここのような気がするのだ。
私は木を見上げ、『鑑定』を発動した。
えいっ!
『木』
・・・・はいっ。これで諦めがついたわ。
私は、きっぱり、キラの木から手を離した。
最後にもう一度だけ試して見て、スキル『鑑定』には見切りをつけようと思ったのだ。
もう『鑑定』なんかに期待しない。
元々、期待なんてしてなかったけれど。
・・いいえ、本当は、最後に突然ものすごい『鑑定』の能力が発現して、私を救う力になってくれればいいなと、少しくらいは思っていた。
すごい『鑑定』じゃなくても、何か私を救ってくれる、奇跡の力が目覚めて全てを解決できればいいのに、と少しだけ思ったのだ。
途轍もない力を秘めた誰かが現れて、私を救ってくれるのでもよかった。
私を救ってくれるのは、物語に書かれているような素敵な男性がいいけれど、女性でもよかった。お年寄りでも、子供でも、私を救ってくれるなら、何だって、誰だってよかった。
頑張ったね、後は任せておくれと言ってくれる人がよかった。
これからどうすればいいのか、何もかも考えてくれる人がよかった。
その人の差し出された手を取るだけで、救われてしまう、そんな物語の主人公に私はなりたかった。
でも、私はそんな素敵な物語の主人公ではなかったのだ。
だから、もうそんな夢を見るのはやめよう。
私にはもう時間がないのだ。
出来る事を自分で考えよう。
そして、乗り越えよう。
奇跡なんてない。だから、もう『鑑定』はお終い。
私はキラの木を見上げ強く決意する。
もう『鑑定』に希望は持たない。
・・・・・。
でも、最後にもう一度スキル『鑑定』を発動してみたら、奇跡が起きないかしら。
ほら、さっきは奇跡が起きる一回前だったのかもしれないし、奇跡が起きるのは、この時かもしれない。えいっ。
『木』
ね。分かってる。分かってる。少し期待したけれど、そんなには期待してなかった。
あ、それなら全然期待をしないで発動してみたら、もしかして、えいっ。
『木』
もちろん、そうよね。分かってるわ。でも、試すのは良い事よ。全てはそうやって進化していくのだし、だから、ね、最後に一回だけ、えいっ。
『木』
えいっ『木』えいっ『木』えいっ『木』えいっ!『木』
こうして私はキッパリと、スキル『鑑定」を諦めた。
えいっ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
えいっ。・・・・。
・・・やっとキラの木から離れ、私は教室に向かって歩き出す。
『鑑定』なんかに使う時間はもうないのだ。
・・・えいっ。・・・・。
・・・。
まず、巻き戻し前、ちょうどこの時期に何が起こったか思い返してみましょう。
そう。この頃になると、もうとっくにディートヘルム王太子殿下の心は私から離れていた。
殿下の二人の側近、ベルンハルト様もエクムント様も、とっくに私に冷たくなっていた。
アメリアちゃんは、時々私の側で転び、涙目で私を見上げていた。
でも、私は突き飛ばしてないし、ディートヘルム王太子殿下達も、私がやったと確信は持っていないようだった。
「まさか」とか「やったのか?」と聞かれはしたけれど、やってないのだから、毎回否定していた。
今と同じ状況だ。
では、巻き戻し前、これから何が起こったのかしら。
巻き戻し前の、これから。
そう、まずアメリアちゃんの教科書がなくなったのだ。
あの時、教室で突然アメリアちゃんが走ってきて、
「お願いします!私の教科書を返してください!」とビンクの瞳に涙を潤ませながら叫んだのだ。
そしてディートヘルム王太子殿下がやってきて、念の為と開かれた私の机の引き出しに、切り刻まれたアメリアちゃんの教科書が入っていた。
もちろん、私はやっていない。
他には何があったかしら。
そう。アメリアちゃんがディートヘルム王太子殿下達と廊下を歩いていると、泥が飛んできて、アメリアちゃんの白い制服にベッタリと泥がついたのだ。
殿下達が泥が飛んできた方へ走っていくと、そこには私がいた。
もちろん、私はやっていない!
後は何?
そう。私とアメリアちゃんが学園の噴水の前に立っていると、突然アメリアちゃんが噴水に飛び込んで、私に突き落とされたと言ったのだ。
もちろん、やってない!
それから?
アメリアちゃんに呼び出されて旧校舎に言ったのだ。
見事な外階段の上にアメリアちゃんがいて、私はそこまで登って行った。そうしたら、何か訳の分からない事を言われたのだったわ。
その時、階段の下にベルンハルト様が現れて、アメリアちゃんがよろけて階段から落ちた。
ベルンハルト様が受け止めて、アメリアちゃんに怪我はなかったけれど、アメリアちゃんは私に突き落とされたと言われて!
もちろん、私はやっていない!
きっと今からまた全部起こるのだ。
私は全部それを回避しなければいけない。
必ず回避してみせる!
誰もいない教室に着いた私は、アメリアちゃんの席を睨みつけた。
絶対にやり遂げてみせるから!
・・・・えいっ。
『机』
・・・・き、奇跡なんかなくても、私は回避してみせますわ!
私は強く誓ったのだ。
・・・えいっ・・・・。