茜色と薄紅
「君はまるで雲みたいだね」
茜色の夕陽を眩しそうに目を細めながら手をかざす君が言った。
「掴めるようで掴めない。そんな自由な感じがするよ」
そう言って頭だけを少しこちらに向けて細めたままの目で僕を見る。
「僕は自由なんかじゃなくて自分勝手なだけだよ」
思わずそう言い返す。
茜色の夕日に照らされた君があまりにも美しくて。まるで君の為に夕陽が燃えているようにすら感じる。そんな君を黙って見つめ返すことは出来なかった。
「君はそう言うだろうと思ったよ。そういうことを言ったりする所が掴めないんだ」
何がだろう。思っても口にすることはやめておいた。きっと堂々巡りになる気がする。
「君にはありのままの僕を伝えているつもりなんだけどね」
嘘偽りのない本心を述べる。
君には正直で在りたいから。
「なんで私なんかにそうあろうとするのかが一番わからなくなるんだよ。君からすれば私なんてものは取るに足らないようなもんだろう?」
そう言ってこちらを真正面に向き直して君が笑う。
その笑顔から目が離せない。辺りがもう少し眩しくなった。
「君だからだよ」
そう言うと君は少し嬉しそうに、また笑った。
なんだかつられて僕も笑った。
眩しい茜色に照らされた君を僕は忘れないだろう。きっといつまでたっても。
薄紅に染まった雲が流れている。