捕獲
僕達はパーティを抜け出して、罪人を見たという場所にやってきた。最初は反対していた女の人だったが、最終的には着いてきた。
僕と、情報をくれた男の人と、その連れの女の人の3人が今回のメンバーだ。
代理人ギルドからすっかり離れてしまい、夜本来の静かさが僕達を襲う。
「そろそろだ」
男がひとつの路地を指さして言った。
寒さを感じ始めていた僕は真っ先に路地の中に入っていった。
瞬間、体が言うことを聞かなくなる。
どうして、と思っていると、辺りが闇に支配され何も見えなくなる。
反応することさえ許されないまま、僕は気を失った。
・・・・・・
硬い石のひんやりとした感触を感じ、目を覚ました。
そこは牢屋のような場所で、僕は閉じ込められていた。
窓もないので地下だろうか。明かりは1本のロウソクのみで、とてもじゃないが明るいとは言えない。
もしや男と女に騙されたのでは、という考えが脳によぎる。
しかし、真っ先に路地に入ろうとしたのは僕の勝手だし、そもそも行きたいと行ったのは僕だ。
騙された可能性は限りなく低いだろう。つまり、彼らも近くに捕らえられているのではないだろうか。
鉄格子の間から周囲を確認すると、斜め前の牢屋に2人まとめて乱雑に投げ捨てられていた。
そして、彼らの牢屋の前には鍵がある。それを使えば、彼らを助けることも出来、ここから脱出することもできるのか…?
いや、そんなことを罪人がするか?そもそも相手を罪人と考えていいのか?状況的に罪人の可能性が高いだけで代理人が後ろからこっそり着いてきていた可能性もあるな。
だとしたら、殺さずに捕らえる意味が分からないし、まだ罪人がやったと言われる方が余程納得できる。
今は罪人がやったと仮定しよう。
それで、だ。露骨に牢屋の前なんかに鍵を落とすものだろうか。いいや、ない。あれはおそらく罠だろう。
ということは、僕の牢屋の扉は普通に開くだろう。確信の元、扉を押し開ける。
僕の予想通り、扉は簡単に開いた。
僕は、少し賭けに出ることにした。殺さずに捕らえて、罠を仕掛けるということはこちらの様子を伺っているということ。
ならば、対話の余地はあるかもしれない。
「いるんでしょう、名高き実力者よ。私を気絶させたのはあなたですか?」
……。反応無し、か。少し恥ずかしいな。
うぅむ、どうしようか。
「ほう、気付いたのか。その装備は見掛け倒しではなかったのだな」
居たのかよ!微妙に間を持たせるのやめようよ!
「姿を見せてはくれないのですか?私はあなたと話したいです」
「…ふむ、いいだろう。珍妙な詐欺師よ」
突然目の前にナイフが突きつけられたのを見て、僕は何一つ動けなかった。僕にできたのはただ1つ、表情を変えないことだ。
姿を見せてくれた彼女の目を見て話しかける。
「可憐なあなたとはもう少しお話がしたいのですが、時間がないようなので単刀直入に聞かせていただきます。あなたの目的はなんですか?私達に、いえ、私に何をさせたいのですか?」
「お前…いや、話がわかるに越したことはない。そこまで見抜いたお前には話してもいいだろう」
彼女はさっきから出口であろう扉をチラチラ見ている。元々、視線や意識が扉にいっていたが、今はより露骨になっている。動揺しているのだろう。
「お前には、我々のスパイとして代理人を撹乱させて欲しい。報酬は用意しよう。がめついお前らにも報酬程度は与えてやらねばな」
「分かりました、協力しましょう。どんな情報を流せばいいですか?」
「判断が速いな!?もっとこう、敵のスパイになる葛藤とかないのか?そこで転がってる代理人に悪いと思わないのか?」
「本当はそのような喋り方なのですね。砕けた感じで、とてもいいと思いますよ」
「なっ、このっ…!…チッ、資料は渡しておく。10分後に出るからそれまでに読み込むように。もし脱出や我々に対する妨害、敵対行為をした場合、お前の仲間がどうなっても知らないぞ。簡単には殺さない、じっくり痛めつけて殺してやる」
「サディスティックな部分も刺激的でいいと思います。あ、報酬については、あなた様の宗教に入らせて頂ければ嬉しく思います」
罪人の宗教はただ1つ、女神教だ。この世界の創造主である女神を信仰しているのだとか。
ある代理人の一言で罪人と代理人の関係が険悪になって以来、女神教に入ろうとした者はいなかったという。
「は?代理人のお前が?確かにお前は他のやつとは違うようだが……。今回の戦果次第で考えておこう」
「ありがたき幸せ」
彼女が去ったことを確認してそっと息を吐く。
少々予定外のことが起こっているが、目的は達成できそうだ。
僕はずっと考えていた。代理人は段々増えて学習していくのに、何故今まで罪人側が有利に立ち回れているのか。
罪人は数が変わらないどころか、戦いによって減ることもあるだろう。
無尽蔵とも言える代理人と互角以上に戦う罪人は、一体なんなのか。
僕が導き出した結論は、臆病者だ。代理人を殺し続けることが出来る力があるのに、街から出ずに魔物も殺さない臆病者。それが罪人であると考えた。
奇襲をされてから本格的に覚悟を決めた。およそ全てのプレイヤーの敵になろう、と。
すなわち、罪人の味方をしようと。
だが、罪人と代理人の間にはとても高い壁がある。だからこその宗教だ。
宗教でこじれた関係は宗教で直せばいい。
そして、最終的には教祖になって罪人を支配する。
あぁ、ゲームはこんなに楽しかったのか。もっと早くやれば良かったな。
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