乙女ゲームの世界だと分かった時期が、本編時間軸じゃなくてホラーなファンディスクの方だった
前世の記憶がよみがえって、現代日本で生きていた知識があふれてくる。
しかし、目の前にあるのはキラキラした西洋的な町の光景。
私はその瞬間分かった。
乙女ゲームの世界転生したのだと。
すぐに分かった。
前世でやっていたゲームの光景とそっくりだったからだ。
これで、好きな攻略対象とイチャイチャできる!
と思ったら、前世の記憶がよみがえったタイミングが最悪だった。
原作終了後だった。
しかも、ファンディスクスタートの時期だったからだ。
ジャンルは恋愛?
違います。
ホラーです。
「さあ、いこうか。肝試しに」
「えぇぇぇ」
という瞬間が今まさにここ。
たどり着いたのは廃墟。
めっちゃ草生い茂ってるし、ドン引くほど古いたてものだった。
確か他の攻略対象とゲームしてて、それに負けた罰ゲームだったか。
内容は、攻略対象と一緒に恐怖の屋敷に入って、そこで閉じ込められるという、トチ狂った内容です。
吊り橋効果を狙って、ドキドキ!
そんなの期待してる余裕なんて、ないってば。
ほら、さっそくでたぁ。
ガイコツがバターン。ガシャーン。
「きゃああああ!」
誰もいないのに、怨霊の声が。
「ひぃぃぃぃ!」
壁とか床とかから亡者の手がずらずらっ。
「いやぁぁぁ!」
やってる事といったら、ほぼ私が悲鳴上げてるだけですって。
転生キャンセルしたい。
ほらもう、攻略対象が笑い転げてるし、幻滅してそう。
絶対これ捕まえた攻略対象が幻滅して逃げる流れだし。
記憶を思い出してすぐだから、この世界の私のようにふるまえないんだって。お淑やかで綺麗で可愛い主人公みたいにできないんだって。
幸せの絶頂に打ち上げてから、あえて落とすって、そりゃないでしょっ!
私は必死の思いで、シナリオにそって行動していった。
恐怖の屋敷の仕掛けをクリアして、どんどん進んでいったよ!
心臓がいくつあってもたりない!
恐怖の屋敷から脱出した私は、息も絶え絶えになっていた。
横で笑い転げる攻略対象!
ああ、だめだ。
婚約破棄される!
悪役令嬢でもないのに、婚約破棄に怯えなくちゃいけなくなるなんて。
息を整えた私は、「さあ、帰ろうか」と攻略対象にさしだされた手をあっけにとられた。
あれ、幻滅してない?
すると「何を今さら」と昔話が始まる。
攻略対象と食堂のパンを取り合って、攻略対象を足蹴にする話。
その時スカートがめくれてパンツが丸見えだった話。
木に登って降りられなくなったネコを助けようとして、私も降りられなくなった話。
攻略対象の上に落ちて、下敷きにした話。
喧嘩していた攻略対象達の間に割り込んで、あおりをくらって殴られたのを根に持った私が、逆に殴りかかっていった話。
攻略対象をいじめていると、教師から勘違いされた話。
うんぬん。
あれ、そんなに私、主人公っぽくない?
前世の記憶を思い出した衝撃で、あやふやだた今の私の記憶が一気によみがえってくる。
じゃじゃ馬シーンばっかりだ。
うん、そんなにまともじゃなかった。
可愛げもなかったし、きれいなシーンがそんなにないね。
つまり攻略対象はありのままの私に惚れてるから、別に変なとこ取り繕わなくていいってことよね?
なーんだ。
自分で言っててなんか恥ずかしくなってきた。
「まあ、あの恐怖の屋敷を作ったのは俺なん」
私は般若の顔を作って即座に横にいる男をぼこぼこにした。
やーい、顔面お化け。
そのままイケメン台無しにしてろ!
さて君、プロレスごっこは好きかな?
次のデートはリングの上にしようか。
乙女ゲームの世界に転生した…と思ったらファンディスクの(×ホラー)(〇バイオレンス)ゲームの方だった。