episode3:天才の一つ覚え
「えーと、端鞘 凝人さんをお呼びしてもらえませんか?」
「ああ、いいよ。おーい端鞘、お客さんが来たぞ」
そう言って、ライブが話しかけた男は間延びした声で教室内に居るであろう凝人を呼ぶ。
「あーい…」
少し経って、凝人の疲れ果てた声が聞こえてきた。
今ライブは凝人の所属するクラスの教室前にいる。
凝人に話があるため、凝人と同じクラスの人に呼び出しを頼んだのだ。
呼ばれた凝人はおぼつかない様子で教室前に出てくる。
「あ、ライブちゃん。おはよう…」
「おはようございます、凝人さん。その…大丈夫ですか?」
ライブは心配しながら凝人に尋ねる。
「うん、ただの筋肉痛だから大丈夫。あ、いたた…」
凝人は右肩のあたりを押さえながら顔をしかめる。
凝人が首輪をはずされた、正式な初怪盗仕事をしたのはつい昨日の事。
もともと運動はそれ程得意じゃなかった凝人が約二週間ほどずっと部屋に居て、急に怪盗仕事というハードな運動をしたのだ。
筋肉痛になるのも当然である。
「端鞘…まさかお前…」
「なんだよ?」
凝人の男友達は凝人とライブを見て、一歩後ずさる。
その後すぐに凝人に言い寄る男友達。
「まさかお前、この可愛い女の子と『夜の運動』で張り切りまくっちゃたりしたのか?」
「なっ…」
「え?」
凝人の顔が一気に赤くなる。ライブもその会話が聞こえていたらしく凍りつく。
「いやー、二週間も休んで何してるかと思えば、堅物の端鞘がこんな事になるとはなあ。まあ俺も友人として忠告しておくが、お前が筋肉痛になるぐらい張り切ったのはいいんだ。が、女の子の方がピンピンしてるのを見る限り、女の子を満足させたかどうか疑わしいぞ。まあお前はあんまり運動しなさそうだから筋肉痛になったのかもしれんが」
「だーっ、違うっつうの!!!俺とライブちゃんはそんな仲じゃなくって…」
「なにぃ、お前高校生の分際で深い仲でもないのにそういう事したのか?!この女泣かせめ、成敗してくれるわ!」
言い合いを始める二人を見かねたのか、ライブがあわてて仲裁に入る。
「ええっと、落ち着いて下さい!凝人さんは何も悪くないんです…!」
そのライブの言葉に凝人の男友達は肩を震わせ感動したように反応する。
「なんて健気な子なんだ、君は!感動した!この女泣かせをかばうとは!ええい、今すぐこんな奴とは縁を切って…」
「だーかーらー!!!してないっつうの、んな事!だよね、ライブちゃん?!」
「あ、は、はい!してません、しませんから!」
必死に弁解する凝人と、慌ててうなずくライブ。
この時、こっそりと凝人がそよぎが居なくて本当に良かったと安堵した事はライブには知る由もなかった。
ピンポーン。
「はーい。…うん、うん。じゃあ入って。今ドア開けるね」
ライブはインターホンでの受け答えを済ませると、ドアを開けようと玄関へ小走りする。
そしてライブは訪問者を部屋に迎え入れた。
その訪問者とは、御洒落に念が一段とこもった格好のそよぎだった。
「いらっしゃい、そーちゃん。今お茶淹れるから、座って待ってて」
「うん、お邪魔します。あ、壁紙変えた?それから電球も」
リビングに入ったそよぎは以前にライブの家に来た時とは雰囲気が違っている事に気付く。
「うん。三日前にそーちゃんの家に泊まらなかった時に変えてみたの。電球は今までの白系とオレンジ系の淡い電球を二種類使えるようにしてね。オリーヴちゃんが作ってくれたんだ」
ライブはそよぎの家に頻繁に泊まりに行っている。
その泊まり回数は、自宅に帰る日の方がどちらかと言えば少ないぐらいだ。
「今はオレンジ系のライトを点けているって事ね。暖色はいいわね、やっぱり。オリーヴは本当、発明が天才レベルだから…」
「うん、このぐらいなら一時間もいらないってあっという間に作ってもらっちゃってね。実質三十分くらいかな?凄いよね、相変わらず」
――まだライブとそよぎがコンビ怪盗をしていたような過去の時に、ライブはオリーヴに問いかけた事があった。
それはオリーヴが数々の発明品を作りだす中で、オリーヴがかなり凝った乗り物を作っていた時だ。
その乗り物は大きめのバイクくらいの大きさで、人が一人丁度中に入れるスペースがあり少し浮く事によって移動する。
さらに両側にはロボットアームが付いており、力仕事もこなせる便利な乗り物だ。
ライブはそよぎの家の地下ガレージで、工具を片手にそれの整備をしているオリーヴを見つけて話しかけた。
「この子、すごいねオリーヴちゃん。もしかしてこの両側のアームの先、換装式?」
「あ、わかりますかライブさん。そうです、この子はアームの先を換装する事でいろんなツールを使えるようにしてあるんです。さらにこのアーム自体を取って別のパーツに組み替える事も可能です。例えば飛行用にウイングとブースターを付けたり、建設レベルの大掛かりな力仕事用にクレーンとキャタピラを付けるとか。まあそのパーツはまだ暫く出来そうに無いですけど…。でもメインは地上で走る事ですから地上スピード特化型が基本形態です」
「成程…。これなら怪盗仕事とかもできるね」
「え?でもオリーヴじゃお姉様とライブさんの足手まといになります。この子はお姉様かライブさんの移動用にと作ったんです」
「そんな、足手まといだなんて。私もそーちゃんもオリーヴちゃんの発明品のお陰で助かってるんだよ?こういうマシンに乗れば扱いも心得てそうだし、オリーヴちゃんだって直接的に怪盗仕事出来ると思うんだけどな。まあ私もこの子に乗ってみたいと思うけど。
…それにしてもオリーヴちゃんは色んな分野に精通してるよね。勉強は大変?」
「ええ、まあ。でもオリーヴはお姉様のご実家のメイド長に色々教えてもらった事でわかったんです。普通の人だと色んな分野に手を出すのには才能が足りないとか世間は言うけど」
オリーヴはそう言うと、額の汗を拭いながら言葉を続けた。
「『才能』って言葉には『やる気の本質的なもの』と『出来ない人の言い訳』が存在する。それに気付いた時から色んな事を学ぼうって決めたんです」
「ほんと、凄いよね…オリーヴちゃんは」
「ええ。あの子も昔よりよく笑えるようになってなによりだわ。で、どうするのライブ?今日のメインの用事は」
「あ、そうだね。それじゃあ――」
ライブは顎に手を当てて、少し考える。
そしてライブの頭にひとつの考えが閃く。
「あ、いいよ、そこ気持ちいい…」
「ライブ…」
「…っ!」
ライブがぴくりと細かく反応する。
「ご、ごめんライブ。痛かった?」
「…ううん、ちょっとびっくりしただけ。続けて、そーちゃん…」
「…うん」
「はっ、ううん…」
小刻みにぷるぷるっと震えるライブ。
「綺麗…すごく綺麗よ、ライブ…」
「え…?ほんとに…?」
「うん、綺麗…」
「………」
「………………掃除する必要ないぐらいに」
――ライブの家の和室。
そこで今、ライブはそよぎに『膝枕で耳掃除』をしてもらっていた。
今日のメインの用事。
それはライブとそよぎの勝負での罰ゲームのようなルールの実行だ。
ライブが昨日の勝負で勝ったため、今度は勝負に負けたそよぎに『膝枕で耳掃除』を提案したのだ。
以前ライブがそよぎにしたから今度はそよぎにしてもらいたいというライブの希望である。
「でも本当綺麗。よく掃除してあるのね」
「そう?でも私はこうしてるだけで嬉しいな。そーちゃんの太もも柔らかくて気持ちいいもん♪それに、良い匂いするし…」
ライブはそれだけ言うとハッとした。
(これじゃまるで変態さんじゃない…。…凝人さんとその友達の話を聞いたから意識しちゃってる?それとも…もしかしたら私、素でエッチないけない子なの?!…でもそーちゃんに嫌われたくないし、どうにかしないと…)
「そ、そーちゃん!」
そよぎは声をいきなり大きく出したライブに驚く。
「な、何?どうしたの?」
「ええっと、今のはつい言っちゃったっていうか…変な事言っちゃったね、ごめん…」
「…ううん、ライブは謝る必要ないのよ?変な事何も言ってないじゃない」
「え、あ…。うん、そっか…」
流石そーちゃん、とライブは思った。
(そーちゃんは純粋だなあ…やましい事一切ないように見えるし。恥ずかしがり屋な所はあるけど。…うん、見習わなくっちゃ)
そう思った直後、ライブは視線を下に何気なく落としてみる。
するとそよぎのスカートが少しめくれている場所からちらりとそよぎの下着が見える。
(……)
ライブはそよぎの下着を視界にいれたまま、しばらく黙ってしまっていた。
それから一夜が明けた。
時刻は午後四時半。
ライブと凝人、そよぎとオリーヴの四人はそれぞれ発信機の位置が特定できる端末装置を持ち、発信機が付けられているターゲットを囲んでいた。
ターゲットはライブ達とは住む所が離れた街の、駅前に位置する喫茶店にある屋外スペースにいるらしい。
通信機で会話を交わす四人。
そうしながら少しずつターゲットとの距離を縮めていく。
そして四人が四方から喫茶店の屋外スペースに入りターゲットを確認する。
パラソルがついている丸テーブルに一人で座り、パフェを食べている一人の少女。
幸せそうにパフェを頬張るその姿にはあどけなさすら覚える程だ。
前に凝人がターゲットの特徴として証言した特徴は、長い髪を横に束ねているスリムな女。
――四人が確認したターゲットはその証言通りの女だった。
そよぎがその女に近づき、さりげなく話しかける。
「すみません。向かいの席、いいですか?」
「ふにゃ?」
普通、余程店が混まない限り一人でパフェを食べている少女にこんな事を言う人がいるのはあまり有り得る光景ではないだろう。
今の店はそれ程混んでいないため、その異常さに気付いた少女は素頓狂な声を発した。
そよぎはその反応を予想していたかのように余裕の態度でその少女に耳打ちする。
「しっ。今あまり騒ぎを起こすと厄介でしょ?ついてきて、怪盗の血筋の格闘少女さん」
そよぎはそう言うとその少女の肩に手の平を置く。
外からは見えないが、そよぎの手の中には小さいナイフがあった。そのナイフに直に触れている少女はこのそよぎの発言が脅しだと言う事に気付き、黙ってこくこくと頷く。
――ターゲットの確保はあっさりと終了した。
そのケーキ屋の近くのカラオケボックスの一室に入る五人。
ライブとそよぎが監視カメラに細工を施し、部屋に盗聴器が無い事を確認する。
そして四人は連れてこられた少女に向けて尋問を開始した。
「さて…まず名前と、住所と、誰かバックにいるとしたならその人物、しようとしていた『取引』の内容を全て言ってもらうわよ。素直に言えば命を奪ったりはしないと誓うわ」
連れてきた少女の手首をつかんでいるそよぎが言った。
そよぎの手の中にはもちろんナイフが仕込んであるので当然、脅しながらだ。
「…えーっと、まず名前?それから何話せばいいの?アタシ馬鹿だから一辺に言われても覚えられないんだけど」
そよぎはその少女の余裕な態度に内心驚いた。
ここでこの少女が今置かれている状況を自覚させるために、そよぎはさらなる脅しをかけようと口を開く。
「随分余裕な態度ね。でも今貴方が例え能力痕…怪盗の血筋の印の事をそう言っているのだけれど、その力でこの場を切り抜けようとしても無駄よ。下手に動けば強制的にリストカットしかねない上に、騒ぎを起こせば警察も来る。乱暴されたのが貴方ならともかく、私達が乱暴されたんじゃ警察にどう弁解するつもり?」
「ええと…本当に一辺に言われたんじゃわかんないんだけど。別に余裕ってわけじゃなくてさ。あ、私の名前は庭苗 在希 (にわなえ あるま)。高校一年生」
その台詞に他の四人が驚く。
アルマと名乗ったその少女はどうやら本当にわからないようだったのだ。
四人が驚く程のマイペースさと記憶力のなさだ。
「えーと、アルマさん?とりあえず前に怪盗と取引しようとしてた事について話してくれないかな?」
驚きから硬直しているそよぎに代わって、ライブが話しかける。
その質問に仕方ないといったしゅん、とした様子でアルマが喋り出す。
「…しょうがないっか。アタシ、本当はパパに怪盗するの反対されててさ。でもある条件をクリアしたら名をあげた状態で怪盗にしてくれるって言われてね。『今活躍してる怪盗と同じくらいの事を怪盗以外の方法でやってみせろ』って条件。だから怪盗の仲間でもいいから捕まえれば良いかにゃーって。ただ、そんだけ」
「…えらくシンプルかつ分かり易い理由ね」
そよぎは感心と呆れが入り混じった様子で言葉を返す。
(でもそれじゃアルマさんだけじゃ話にならないんじゃない?いっその事、アルマさんのお父さんに事情を説明した方が…)
ライブはぼそぼそと小声でそよぎに言う。
(この子の話を信じるなら、確かにね。まあ私としてもあまり乱暴な事はしたくないから…そうね。とりあえずこの子の父親に会って話を聞いてみようかしらね)
そよぎも小声でライブに返事する。
その後ライブとそよぎはアルマに電話をさせて、父親を今居る場所に呼んでもらう事にした。
カラオケボックスの部屋の扉がノックの後に開く。
部屋に入ってきたのはオールバックの髪型をして口の周りに整った髭を生やした、黒いスーツに灰色のコートを纏っている中年の男だった。厳格な雰囲気を持ちながらもどこか穏やかさを感じさせる佇まいだ。
その男は部屋の状況を一目でわかったようで、娘であるアルマを見ると少しため息を漏らす。
「…状況は大方わかった。君らの要求はなんだね?」
男がそう言った瞬間、そよぎはその男に見覚えがある事に気付く。
「まさか貴方は…『変容の魔術師』ウァルスタンド?!なんで貴方が…」
「…む。君とは初対面のはずだが何故その名前を?」
その男とそよぎの会話を聞いて、アルマは怪訝な顔をする。
何故なら自分の父親を初めて聞く名前で呼ばれたのだから。
だが『変容の魔術師』の異名を持つ男の話を写真を見せられながら父に聞かされてきたそよぎには見覚えがあったのだ。
「ちょっと待って。パパの名前は庭苗 暦治 (にわなえ れきじ)じゃないの?なにその、なんとかかんとかって。アタシ、初耳だよ?」
「…言い忘れておったな。まあその事は今は置いておきなさい、アルマ。さて、その名前を知っているという事ぐらいは言っても今の君達に損害はないと思うのだが?」
「ええ、その通りですね。…貴方は私の父、鼓芽 海弩 (つづみめ かいど)をご存知でしょう?…それだけ言えばわかるんじゃないかしら?」
そのそよぎの言葉に一旦驚き、すぐ平静を保ち直す中年の男。
そしてその男は話し出した。
「ふむ…君はあのカイドの娘か。…うむ、よく知っておる。あの男は私が日本に来てから随分世話になった日本人でな。怪盗の血筋同士、よく酒を飲み交わした仲だ。今でも手紙のやり取りを時々している。
…で、だ。要求の内容を聞かせてもらおうかな?」
あくまで平静を保ち続けるその男の様子を見て、ライブはそよぎに目配りをする。
するとそよぎはこくりと頷く。それを確認したライブは、口を開く。
「怪盗の血筋同士の争いは秘密の漏洩、その他多くの危険を招く恐れがあるため原則として禁止されています。そしてアルマさんはそれを破り、私達の仲間に危害を加えた。
――これはアルマさんを暫く私達の監視下に置き、変容の魔術師の異名を持つ貴方の名に泥を塗らなくするのが得策だと思います。原則破りの事実を私達が黙秘すればいいだけの話ですから」
それを聞いたアルマの父は、ライブとそよぎに向かって頭を下げて言う。
「…寛大な処置、痛み入る。元はと言えば娘の憶えの悪さを侮っていた私の責任だ。私の名に泥がつくのは構わないが、娘に何かあれば私自身もどうなったか判らないのだ」
「……パパ」
アルマは複雑な表情で父を見つめる。
「…ねえ、アルマさん」
突然ここでライブがアルマの俯いている顔を覗き込むように話しかける。
「怪盗にどうしてもなりたい?」
そのライブの質問にアルマははっとした。そしてライブと目を合わせ、ちらりと父の顔を一瞬見た後、こくりと小さく頷いた。
ライブはそれを確認した後、そよぎを見つめる。それに気付いたそよぎはライブとアイコンタクトを軽く交わすと、納得したように微笑む。
「じゃあ、私達の手伝いしてみない?アルマさん」
そのライブの言葉にそよぎ以外の一同は目を丸くした。
「いや、君…何を言って」
暦治はライブに問いかけようとするが、ライブは平然とした様子で穏やかに暦治に話しかける。
「理由としては二つあります。一つは手伝いさせるなら監視も同時に出来る事。もう一つは…有り体に言えば、危なっかしいアルマさんを鍛える事。…今のアルマさんを見ていると正直危なっかしいと思います。確かに能力痕のおかげでアルマさんは力押しが出来る。けど実際能力痕も持っていない上、運動があまり得意ではないと言っていた凝人さんにアルマさんは出し抜かれました。これではまだ裏社会に通じるとは思えません。
そして暦治さんが恐らく望んでいるのであろう、怪盗を諦める事をアルマさんに強要しようとしても恐らく何らかの手段でアルマさんは反発するでしょう。
まあこれはアルマさんもそうだと思うんですけど、頭で考えるより体で考えるタイプである私の感覚ですが。どうですか、アルマさん?」
「えーと…とりあえず、体で考えるってのはその通り!あとはえっと…」
「怪盗の夢を諦めるのもどうしても無理だよね?」
「うん…パパには悪いけど、アタシはどうしても諦め切れない」
アルマは遠慮がちに、しかしはっきりと言った。
それをみた暦治はライブの顔をみた後、そよぎの顔も見る。そよぎは自慢気に暦治に微笑する。『ライブはすごいでしょう?』と言わんばかりに。
「わかりました、お嬢さん。君の言う事がどうやら一番良いらしい。娘を頼みます、しっかりしごいてやって下さい」
暦治は深々とお辞儀をする。
「え…じゃあ、パパ」
「ああ、アルマ。お前の怪盗のための修行を認める。このお嬢さん達の足を引っ張らんようにやるんだぞ」
「ありがとう、パパ!…あ、でも」
「どうしたのだ?アルマ」
「あの子に何にも言わずにこういうの始めたらどうしようって事、今思い出した」
そのアルマの言葉に暦治は苦笑する。
「あの子?」
事情が読めないアルマと暦治以外の一同は口々に問いかける。
「うむ、私にはもう一人娘がいてな。アルマの妹なのだがそいつはどうにもアルマを気にかけすぎて行き過ぎてしまう事があってな。…仕方ない、事情を説明する為にここに呼び出 すとしよう。よろしいか?」
そう言って暦治は携帯電話を取り出す。
ばん!とカラオケボックスの扉が開かれた。
現れたのはアルマの青い髪とは色の違う金髪の、しかし髪形はアルマと似て豊かな髪を横で束ねた黙っていれば穏やかに見えるであろう少女。
しかし今、その少女の表情は焦燥に駆られ険しくなっている。
そして少女は姉の姿を確認するなり急いで駆け寄り姉に抱きつく。
「お姉様!わたくしとってもとっても心配しましたのよ!?お姉様は勇ましくなんでも挑もうとする方なのはわかっています!しかし心配する妹…いえ、日本で同性結婚が認められた暁には妻となりうるこのわたくしをどうか捨てるのだけはおやめ下さいまし!ああ〜ん、お姉様あ…」
「はいはい、よしよし、アルム。そんなに泣くと美人が台無しでしょー?」
アルマはそう言うと、ハンカチをアルムの鼻にあてがう。そのままアルムはちーん、と鼻をかんだ。
(なんか似てるな、アルム…ちゃん。誰かさんに)
凝人はそよぎを横目で見ながら内心そう思った。
「まあ見ての通り、アルムはあの通りでな。片時もアルマの傍から離れたくないらしいのだ」
「お父様!」
アルムはアルマを抱きしめながらいきなり父に話しかける。
「説明は後でする、とおっしゃっていましたがこれはどういう事ですの!?お姉様は今後どのような処遇を!?島流しをしたいとおっしゃるのならわたくしもお姉様と共にお流し下さいませ!お姉様のいない世界など、わたくしは生きられませんわ!」
「まあまあ、落ち着きなさい。大丈夫だ、アルマとは離れないからな。ライブ嬢、そよぎ嬢のお二方」
暦治は耳打ちするようにライブとそよぎに話しかける。
「アルマの面倒を見るついでにアルムの面倒を頼めないか?必要経費なら請求さえしてくれればちゃんと支払う。アルマから離すとあの子は私ではおさえきれん」
そよぎが小声で答える。
「おさえきれない、ですか。するとやはりアルムさんもアルマさんと同じく格闘が得意とか?」
その言葉を聞いた暦治ははっとする。そして口を開く。
「…細かい事情の説明がまだだった。すまない、お二方。別室で私の話を聞いてくれないだろうか?少し娘の前では話しずらい事なのだが」
その暦治の言葉に頷くライブとそよぎ。
喧嘩をしたから別室に変えて欲しいとの嘘をカラオケボックスの店員に説明し、さっきまでいた部屋とは別室の部屋を借りそこの監視カメラに細工を施し、部屋に盗聴器が無い事を確認する。
そして暦治とライブとそよぎの三人がテーブルを囲んだ。そして暦治は話し始める。
「実を言うとアルマとアルムは本当の姉妹ではないのだ」
「…じゃあ、アルムさんには能力痕がないと?」
そよぎは問いかける。
「いや、違う。私とアルマは実の親子で、『怪盗ヘルムホルツ』の血を受け継いでいるがアルムは『怪盗ツェルナー』の血を受け継いでいるのだ」
「『怪盗ヘルムホルツ』…確か対象物の変形する振れ幅の限界を限界以上に引き出す現象系の能力…つまり物質を柔らかくする能力。あと『怪盗ツェルナー』は…対象物に自分の意識を残し、離れていながら対象物を操れる感覚延長系の能力…ですよね?」
ライブは暦治に問いかける。
「うむ、その通りだライブ嬢。アルムの実の両親は私の友人であったのでな、両親の死後私が預かる事になったのだ。その時、アルムは名前すら付けられていない赤子だった。
だから同じくまだ赤子だった実の娘のアルマ…由来は『希望』が『在る』と書いて『在希』と読むのだが、そこからとって、『夢』が『在る』と書いて『在夢』と名付けた。そして二人は実の姉妹のように育っていった」
暦治はそこまで語ると、少しさびしそうな表情をして話を続ける。
「ところがある日、アルムは私と妻がアルムが実の娘でないという内緒話をしている所を盗み聞きしてしまってな。能力痕の存在を明かさない為に外に出させないようになっていたストレスなのか、家を飛び出してしまって…その時に家に帰ってくるように説得したのがアルマだった。
それ以来、アルムはアルマにべったりでな。今では義理の姉妹である事を利用して、日本で同性結婚が認められたら本当に結婚しかねないぐらいに元気になった。
親としては娘が幸せであればこれ以上嬉しい事はないと思い、見守っているのだが」
「そんな事が…」
ライブは呟く。そのライブの横でそよぎは考え込んでいた事を聞く事にした。
「『変容の魔術師』である貴方が物質を柔らかくする能力なのは納得だけれど…まさか、アルマさんは…」
そこまでそよぎが言いかけた所で暦治がさらに話し始める。
「うむ、アルマは自分の筋肉を自分の能力で操り、筋肉の伸縮の幅を極端にし、伸縮させる事であの超人的なパワーを得ている」
「でも!確か現象を操る能力は対象物の構造の把握と動きの脳内シュミレートが必要なはず。それも対象が筋組織なんて細かくて複雑で多くの組織が絡みあっているものを、コンピュータのシュミレーターですら完全に再現する事は難しいのに!?彼女はそれだけ学問に長けているという事なんですか!?」
そよぎは驚きを隠せない。暦治は落ち着いて話を続ける。
「いや、断じてない。アルマは学問がもっとも不得意だ。興味が無いからな。だがアルマは運動する事には興味がある。それゆえか、筋肉の動きを完全に手に取るように把握する事を体で覚え、自然と脳で制御出来ているのだよ」
「『勉強が出来るとは別の意味の天才』の頭脳を持ちながらそれを一部だけしか使わないで、一つ憶えた事を徹底的に極める…ですか…」
そよぎは呟いた。
そして暦治は立ち上がり、メモ用紙を懐から出して何かを書き始めた。
「私からの話はもうない。あとはこのメモ用紙に私と娘達の家の地図と機密通信の番号を書いておく。なにかあったなら連絡を頼む。ああ、それとそよぎ嬢。頼み事ばかりですまないのだが」
「何でしょう?」
「近い内、また酒を飲み交わしたいとカイドに伝えてもらえないかな?」
「…ええ、わかりました。父も喜ぶと思います。多忙な父ですが、そろそろ日本の実家に少しの間帰ってくると言っていましたので」
そよぎの父、鼓芽 海弩は世界中を飛び回って貿易商の仕事をしている。暦治と最近会わないのもそれが原因だとそよぎは父から聞かされていたのだ。
そよぎは現在実家からは離れて暮らしているためか父と話す機会はあまりなかったが、日本に父が戻ってくる時は実家から連絡がくるのでいつ父が帰ってくるかは把握している。
そして、ライブとそよぎ、凝人とオリーヴ、アルマとアルムはそよぎの家の防音部屋で話をする事にし、カラオケボックスを後にした。
昼休みの私立清寺学院。その図書室。
ライブにとっては日課である図書室での美術品に関する古い文献漁り。
ライブは紙の臭いや木の臭いが好きで、本に囲まれる時とたまにそよぎの家の地下室でするビリヤードをする時が落ち着くのだ。
そして、何より…
「ラ・イ・ブ♪」
「そーちゃん」
本棚に背を向けて本に読みふけっているライブにそよぎが話しかけてくる。
そして何より、ライブはそよぎといる時が一番落ち着く時なのだ。
「そーちゃん。今日は生徒会の仕事、休みなの?珍しいね、昼休みに会えるなんて」
そよぎは学校では眼鏡をかけ、運動は不得手な生徒会副会長として行動している。
学校では大体一緒に登校し、同じクラスで授業を受け、放課後にはライブが生徒会から開放されたそよぎと待ち合わせをして一緒に帰るぐらい一緒にいる時間が長い二人ではあるが、そよぎは生徒会の仕事が集中する昼時には生徒会室で昼食をとりながら仕事をこなすため昼休みに会う事は珍しい。
「うん、速攻で終わらせてきたのよ。今日はどうしてもしたい事があったから」
「したい事?あ、まさか…」
「うん、教室じゃできないア・レ。ここなら本棚が入り組んで設置されてるから、他の人の目にはつかないわ。…じゃあライブ、目を閉じて…」
「ん…」
ライブは目を閉じ、読みかけの本を下ろす。
そよぎの綺麗な手がライブの前髪の横のあたりを撫でた。
ライブは顔を赤らめ、ぴくんと反応する。
そしてそよぎは懐から白い封筒を取り出し、ライブの制服のベストとワイシャツの間の胸の辺りに封筒を差し込む。
ライブは行為が終わった事を確信すると、ゆっくりと目を開く。
そしてそよぎから渡された封筒を確認すると、そよぎを真っ直ぐに見て口を開いた。
「…負けないよ、そーちゃん」
「うん、私こそ。お互い、頑張りましょう」
「うん!」
ライブとそよぎが作った規則。
『第一規則。勝負をしかける時は事前に怪盗役が予告状を探偵役に渡す。』
今ライブが受け取った封筒の中身はそよぎの書いた犯行予告状。
つまり今度の勝負はそよぎが『怪盗クロイエンス』として、ライブが探偵局所属S級ライセンス取得探偵として行うというわけだ。
次の勝負のターゲットは『天国と地獄の砂時計』。純金製のフレームに宝石が装飾され、使われている砂は全てが砂金。さらにこの砂時計には正位置と逆位置が存在する。正位置なら上半分が地獄を象徴する形、下半分が天国を象徴する形となり、地獄から天国に砂金が落ちる様子がうかがえる。だが逆位置なら天国から地獄に砂金が落ちるという不吉な様子になる。この事から囚人などの批判されるような者に対して逆位置に使用し、王族など高位の者には正位置で使用されてきたという。
その砂時計には怨念と高貴な念が同居していると言われているいわゆる『いわく付き』なお宝である。
現在日本のある大富豪が買い取り、大切に保管されている。
日時は三週間後の午後十時、場所はその大富豪の屋敷にて行われる事になった。
そしてついに怪盗クロイエンスの犯行日が訪れた。
現在午後九時ちょうどぐらい。場所は富豪として名高い屋敷とその周り一帯。
この辺りは住宅地として一般の住宅が並び立つ。
それゆえ普段の夜なら建物の窓からの明かりぐらいしかない所だが今夜に限っては違っていた。
警察と探偵局が持ってきた明かりの数々が当たりをまんべんなく照らす。
衛星写真でも撮ったら明かりが大きな円を描く事であろう程であった。
多くの人がその屋敷を見つめる中、ライブと凝人とアルムは人だかりの端の方で作戦会議をしていた。
このライブとそよぎの勝負にアルマどころかアルムまで手伝う事になったのだ。
アルム自身もなかなかの体術の持ち主で、いざとなったら能力痕の力を使える事から手伝う分には申し分ないためだ。
そしてライブとそよぎの提案でアルマはそよぎチーム、アルムはライブチームに入る事に決まった。
人数の数合わせの理由もあるが、なにより元はコンビであったライブとそよぎが対決する事が効果的であるように、よく知っている姉妹同士を対決させる事により姉妹同士で技量を高めあう事が狙いだ。
だがアルマはその理由で納得したものの、アルムはいまだに腑に落ちない感情を僅かに抱いていた。
姉と共に勝負をしたい感情が残っているためだ。
「じゃあこれがこのお屋敷の概略図面だから。図面の見方は研修でやった通りだよ」
ライブはそう言うと図面を凝人とアルムに渡す。
凝人とアルムは一週間程の探偵助手研修を受けて現在ライブの助手として探偵局に登録されている。
正式な探偵局所属探偵とは違い、探偵助手にはランクなどがないが助手に手伝ってもらう探偵局所属探偵の責任の下、任務時間内にだけ探偵の助手をする許可を得る。
「うん、読める読める。これならわかるよ」
「…そうですわね」
アルムは少し元気がなさそうに返事する。
「アルムさん。貴方の心配している人は本気でやってるって事、わかるよね?それにはこっちも全力で答えてあげなきゃ、ね?」
「はい…」
ライブの言葉にアルムは力なく答える。
そして午後十時が訪れる十数秒前。遠くから何かが近づいてくるような、段々と大きく聞こえてくる音が聞こえてきた。
その音は車などのエンジン並に大きな音ではないが確実に何かがしっかりと回っているような音だった。
その音に反応する人達。そして――。
その音を発する近づいてきたもの。それはバイクよりも一回り大きい、後ろにアームのついた乗り物だった。
それはオリーヴが作った小さく浮きながらバイクや車よりも速く動ける、移動手段兼作業用機械。名前は『韋駄天 (いだてん)』。
現在、外から見えないようになっているが韋駄天にはオリーヴ自身が乗っている。
そして韋駄天の上部にシルクハットにタキシード姿の、顔に仮面をかぶっている男性が乗っていた。いや、正確には男性に見える人と言うべきか。
このタキシード姿の者こそ、『怪盗クロイエンス』なのだ。
そよぎは男装をして、性別を偽って怪盗をしている。
長い髪は後ろで縛り、靴は身長を少しでも高くみせるため高さのある靴を。そして胸囲を男性にみせるため服の下にはサラシを巻いている。
そして韋駄天はクロイエンスを乗せたまま大勢の人の上を跳躍し、屋敷の中庭へとたどり着く。
そこを逮捕しようと警察やら探偵やらがクロイエンスに近づく。
クロイエンス――そよぎは、仮面の下でふっと顔をほころばせる。
近づいた者がつかみかかろうかという瞬間――
近づいた者は、見えない糸に縛られているかのような不自然な体の曲がり方をして、誰一人としてクロイエンスに触れる者はいなかった。
これがそよぎの能力痕の力。『端に触れている紐状の物体を意のままに操る力』。
縛られているかのような、と言うより実際に見えずらい釣り糸のような透明なワイヤーで縛られているのだ。
そしてそよぎは持っていたワイヤーの端を地面に杭を使って一瞬で固定し、韋駄天で走り去る。
そして屋敷の正面玄関のドアを前方に展開した韋駄天のアームで破壊し、屋敷への侵入を成功させる。
クロイエンスが屋敷の内部に侵入するのと時を同じくして、屋敷の大広間のステンドグラスを突き破り、侵入する者がいた。
その者は警備員や警察官、はては探偵までも格闘術で次々と気絶させていった。
黒いレディスーツに手垢などの証拠が残らないように黒い革製の手袋を着け、顔にはクロイエンスと似たような仮面を、髪は束ねずに長髪をそのまま晒している。
その者のコードネームは『スラスト』。その正体はアルマだ。
そよぎやライブからいい加減ではないしっかりとした格闘術を教えてもらったためその動きに無駄は少なく、必要以上に息を切らさない様は熟練の格闘家を思わせる。
その雰囲気を察した警備員達はアルマに迂闊に近づけられなくなってしまう。
アルマはその一瞬の隙を突き警備員達の間をすり抜け、手刀を後頭部のあたりに直撃させ気絶させる。
今大広間には気を失っている者以外はアルマだけとなった。
そしてアルマは仮面の下で呼吸を整え、屋敷の奥へと視線を向ける。
すると奥の方から見覚えのある少女がこちらにゆっくりと近づいてくるのが確認できた。
(――ライブさん!?)
ライブは探偵局の制服を纏い、頭には水兵帽のような茶色の帽子を被っている。
そして突然ライブは拍手をする。アルマを褒めるように。
「お見事だね、襲撃者さん。でも私も格闘術はそこそこ出来るんだよ?」
そういうとライブは少し体を斜めに向け、腕を構える。
アルマは少し恐怖する。なにせ相手は格闘術を教えてもらった一人だ。
だがアルマには能力痕により体力を増強させる事が出来る。
(テクニックで劣っていたとしても…パワーなら勝てるっ!)
そう思ったアルマも構え、ライブに向けて格闘術を放った。
ライブは直撃をずらすようにしてアルマの攻撃を受け流す。そして少しずつ後退する。
アルマはどうにか上手く攻撃をヒットさせる事に集中する事にした。今のまま押し切れば、必ずチャンスがある。そう確信したからだ。
――それが、アルマの判断ミスといっても過言ではなかった。
ライブは足元のスイッチを僅かな隙を見つけて足で押す。
その瞬間アルマの足元の床がバカッと開き、アルマは開いた穴に落ちる。落ちた穴の床にはマットがあったため、落下の衝撃は緩和された。
ただ落ちた穴の深さが恐ろしく深く、マンション四〜五階分はある。だが普通の落とし穴というわけではなく、上に上れるように階段がある。
しかしその階段は円を描いて上に延びている。その全てを上りきり穴から抜け出すにはかなりの時間を必要とする。
「それはこの屋敷の昔宝物庫だった場所へと降りる階段だよ。ちょっと改造してもらって落とし穴から落ちれるようにしたんだ、家主の許可を得てね。閉じ込められはしないけどかなりの足止めにはなるでしょ?」
ライブはアルマに向けて言う。
――ライブは初めからアルマの足止めが目的だった。攻撃を受け流しながら後ろに下がったのもアルマを落とし穴に誘うのが狙いだったのだ。
「くっ…」
アルマは悔しさを隠し切れない。
その時、アルムがライブに走りよってくる。
「ライブさま、わたくしの仕込みは終了しましたわ。次はどうすればいいんですの?あら、凝人さま」
その言葉にライブの視線は屋敷の奥に向けられる。
その一瞬。アルムはライブの隙をつくように白い紙のような物をアルマのいる穴の中に投げ入れる。
アルムの言っている事は嘘ではなかった。凝人が屋敷の奥からライブとアルムに走り寄ってくる。
――だがライブはアルムが一瞬で何をしたのか決して見逃がさなかった。
「どういうつもり?アルムさん」
「え?」
ライブが穏やかに、声のトーンを低くして問いかける。その問いにアルムは身が凍ったような思いがした。
アルムのした事。それはこの落とし穴の階段は隠されたボタンを押す事で階段の一部がショートカットできる仕組みになっている事と隠されたボタンの場所をアルマに伝えるため、ライブの隙をついてそれらの事実が書かれた紙をアルマに渡すつもりだったのだ。
アルマはアルムから投げ入れられた紙を見ると少し考え込む。そしてなにかを決心した。
「自分で走るんだったら…制限速度も法定速度もないんだっ!」
アルマはそう叫んで、その紙を投げ階段をすごい勢いでスイッチを押さずに走り出す。
アルムの施しを受けずにアルマは自力で走る事を決めた。
それを見たアルムは呆然とする。アルムとしては姉を助けたい一心でやったからだ。
その直後――。
ぱっしーんという音が響く。
ライブはアルムの頬を平手打ちした。
それを見たまだ事情を飲み込めない凝人はただ怯えるだけ。
ライブはアルムに向かって強く叫ぶ。
「貴方は…人がどれだけ本気なのかを感じる事が出来ないの!?」
アルムはその言葉にただ呆然とするだけだった。