第7話「ガンドラグーン起動」
蓮や竜也の手引きにより、牢屋からの脱出に成功した脱走者達。
ならず者達が銃撃戦に不慣れだった事もあり、脱出は順調に進んでいた。
が、思わぬ暗礁に乗り上げた。
それは。
『てめぇらナメやがってよォ!ブッ潰してブッ殺してやるよォッ!!』
脱走者達の前に現れたのは、タイタンギア・マーズトロン。
暴動制圧の為に、ガオウの陣営はタイタンギアを出してきたのだ。
やりすぎではあるが、軍隊でもなく規律も容赦もないガオウ様ならず者集団としては、当然の対応だ。
「た、タイタンギアだぁっ!?」
「まずい!逃げろォォーッ!」
いくら武器があったとしても、流石にタイタンギア相手にはどうにもならない。
脱走者達は、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出す。
『ヒャッハハハ!潰れろ!潰れろぉ!!』
その脱走者を、見下ろしながら迫るマーズトロン。
わざとらしく足を大きく動かし、スピーカーで恐怖を煽り、ズシンズシンと地面を鳴らしながら。
奴は、脱走者達にわざと恐怖を与えて殺そうと考えていた。
相手をなぶり殺しにする事を、楽しんでいたのだ。
『グチャグチャになりなァ~~!』
「ひいっ!」
まず一人目を踏み潰そうと、右足を大きく上げた。
その時だった。
『ヒヒ………う、おおおおっ?!』
マーズトロンの隣にあった倉庫。
その屋根が、突然爆音を立てて迫ってきた。
何事かと驚く、マーズトロンのパイロット。
次の瞬間、倒れるマーズトロンのメインカメラ越しに彼が見たもの。
それは、屋根を突き破ってその姿を現した、別のタイタンギア。
ガンドラグーンの、赤く雄々しい姿だった。
「助かった………のか?」
腰を抜かした脱走者は、自分を助けるがごとく現れ、マーズトロンを突き飛ばしたガンドラグーンを、まるで救世主かのように見つめていた。
「ぶ………ぶつかっちゃった?」
だが、エマニュエルと共にコックピットで唖然としている竜也からすれば、これは全くの偶然。
屋根が開かなかったので、勢いよく破って立ち上がろうとしたら、偶然そばにいたマーズトロンに当たってしまったのだ。
『てめぇら………こっちのタイタンギアを奪いやがったな?!』
直ぐ様、それが敵によって奪われたタイタンギアだと気付いたマーズトロンのパイロットは、ガンドラグーンに向けて機体を起こす。
ガンドラグーンでの脱出を計画していた彼等にとって、敵に目をつけられてしまったという事は、これは致命的なミスだ。
『この泥棒がああっ!』
「やばっ!?」
マーズトロンが、ガンドラグーン向けてマシンガンを発砲する。
ガンドラグーンが動くより早く放たれたそれは、一発一発が戦車の主砲並みの威力。
それはガンドラグーンに命中し、爆音と破壊を発生させる。
『ヒャッハハハ!ざまーみろォッ!!』
勝利を確信し、高らかに笑うマーズトロンのパイロット。
だが。
『ヒャハハ………は?』
爆煙が晴れた時、そこにはガンドラグーンが立っていた。
しかも、破壊される所か目立ったダメージすら無い。
「た………耐えた?」
ガンドラグーンの思った以上の頑丈さに、驚く竜也。
『ナメんじゃねえぞ!!』
すると今度は、マーズトロンはマシンガンを捨て、腰にマウントしていた肉切り包丁のような実体剣「カーボンチョッパー」を振りかざし、斬りかかってきた。
『この野郎が!』
「うわあっ!」
振り下ろされるカーボンチョッパーを、今度は当世袖を思わせる腰のサイドアーマーに内蔵していたバーニアで飛び、避ける。
マシンガンの攻撃には耐えられたが、より威力の高いであろうカーボンチョッパー相手には、どうなるか解らない。
「くそっ………何か武器は出せないのか?!」
焦る竜也。
作業用ロボットは動かした事はあるが、タイタンギアのような戦闘用の物は無い。
どこを動かせば武器が出るのか、まるで解らない。
その時。
「………ちょっと、失礼します」
「へっ?」
横にいたエマニュエルが、竜也の脇の下を潜って、操縦席のタッチパネルに手を伸ばした。
「ちょっ!?こ、こんな時に何をっ!?」
突拍子もないエマニュエルの行動に、慌てる竜也。
ズボン越しに、ムニッというエマニュエルの胸の柔らかい感触が伝わってきた。
彼女、服の上からは解らなかったが以外と「ある」。
Fカップはあるだろうか?
竜也は、ガンドラグーン向けてブンブンと振り下ろされるカーボンチョッパーを避けさせながら、そんな不埒な感情を必死に振り払う。
そんな竜也を知らぬか、エマニュエルはタッチパネルを操作する。
タイタンギアのコックピット周りが、外部からの衝撃を逃がし易い構造になっていて助かった。
と、エマニュエルは考えながら作業を進める。
そして。
「出ました!」
「へっ?」
操作をし終えたエマニュエルからの報告に、竜也はすっとんきょうな返事を返す。
見れば、タッチパネルの表示が変わっていた。
「武器の名前をタッチすれば、武装が使えます」
機体の部員を表すアイコンと、そこに綴られた武器名。
という形で、リストに並べられたような表示になっていたのだ。
「………こういうの、得意なの?」
「はい、趣味でコンピューターの方を、ちょっと」
エマニュエルの意外な一面を知れた所で、竜也は表示された武装を確認する。
どうやら、 ガンドラグーンに武装が搭載されているのは、二ヶ所。
胸と両肩だ。
胸の部分には、「BREAST NAPALM」と表示されている。
BREAST、ブレストは「胸」。
NAPLAM、これは「ナパーム」。
カタカナで表すと「ブレストナパーム」となる。
ナパーム弾でも撃ち出すのだろうか?
何故コックピットのある場所に誘爆しそうな武装を………と、竜也は脳内でぼやいた。
そしてもう二ヶ所。
両肩を表すアイコンには「BEAM SABER」と表示されていた。
「ビーム、セイバー………剣なのか?」
表示された「ビームセイバー」の文字から、竜也はロボットアニメやSF映画、昔の特撮番組に登場する、光線の剣を想像する。
だが、あれはあくまで現実の技術では不可能な、架空の物。
特殊な実体剣の一種だろうかと考えた。
『ちょこまかと逃げ回りやがってぇ!』
そうこうしていると、マーズトロンがガンドラグーンに向けて、今度こそカーボンチョッパーを斬りつけんと飛びかかってきた。
「き、来たぁっ!」
咄嗟に、竜也は回避行動を取ると同時に、右肩のビームセイバーのアイコンにタッチした。
ぶぅん!と振り下ろされたカーボンチョッパー。
それを、身体を捻らせて避けるガンドラグーン。
そして次の瞬間、ガンドラグーンは右肩から伸びた一本の短い棒を引き抜いた。
棒は宝石のような柄から、ビィンと音をたてて、その赤く輝く光の刀身を展開する。
「そこだあああっ!」
マーズトロンが姿勢を正すより早く、ガンドラグーンは光の刃を、その右腕………カーボンチョッパーを握る腕目掛け、振り下ろした。
ズバアッ!
次の瞬間、マーズトロンの右腕は焼き斬れていた。
吹き飛ばされた右腕が、ガシャンと後ろに落下した。
「ほ、本当にビームの剣………?!」
比喩や例えでなく、本当にビームの剣が出た。
一体どんな技術だ?どういう原理で?
『この野郎がぁ!』
疑問に思う間もなく、マーズトロンは今度は左手のシールドを構え、先端を使い突きを繰り出そうとしてきた。
これも、カーボンチョッパーのように十分な質量武器だ。
「はああっ!」
慣れたのか、今度は竜也の行動も早かった。
すかさず、タッチパネルの左肩の部分をタッチする。
ガンドラグーンはシールドの一撃を屈んで避けると同時に、左肩のもう一本のビームセイバーを引き抜いた。
赤い閃光の剣は、マーズトロンの、その無防備な両足を斬り裂いた。
『ぐ、おお!?』
足を失ったマーズトロンのボディがよろめき、ぐらりと倒れる。
ズシャアアッ、と土煙をあげ、左腕と胴体以外を失ったマーズトロンのボディが、地面に叩きつけられた。
「はあっ………はあっ………どうだッ」
初めての戦闘。初めてのタイタンギアの操縦。
竜也は完全に息があがり、目を見開いて肩で息をしている。
これ以上戦うのは、無理そうだ。
『ひ………ひいいっ!』
だが、マーズトロンのパイロットにはそうは見えなかった。
自分と機体を見下ろし、ビームセイバーを二本も抜いたガンドラグーンが、今にも自分にトドメを刺そうとしているように見えたのだ。
『た、頼む!助けてくれぇっ!』
「は………?」
『命だけは!頼む!命だけはぁっ!』
それは、疑う事なき命乞い。
竜也は、彼等が人間狩りと称してやった事を知っていたし、捕まえた人間に何をしているか蓮から聞かされた。
都合がよすぎると思ったが、今の竜也にこれ以上戦闘を続行する余裕はないし、抵抗できない相手にトドメを刺すのも気が引けた。
「………わかった」
二本のビームセイバーを、元あった肩に収納する。
そして、ここから離れようとガンドラグーンを飛ばせようとした、その時。
『甘ぇんだよぉ!!』
「ッ!?」
突如、ガンドラグーンの頭上が暗くなる。
そこには、こちらに向けて飛び上がり、落下してくる一機の巨体。
「な、何が………?!」
咄嗟に、竜也はガンドラグーンを引かせたが、動けないマーズトロンはその機体に踏みつけられる。
竜也がガンドラグーンの視線越しに見たのは、マーズトロンを踏みつけにする一機のタイタンギア。
スズメバチか建設重機を思わせる、オレンジと黒のカラーリング。
車のヘッドライトのような四つのカメラアイが輝く、昆虫のような顔。
全身に付いたトゲ。
左手には拳の代わりにトゲのついた鉄球がつき、肥大化した右手には巨大な鋏のような物がある。
改造を繰り返し行き着いた異形。
名を「タイラント」。
ガオウが自らの専用機として作らせた機体だ。
『おいテメェ~ッ!何逃げようとしてやがる!?』
『が、ガオウさん………ッ!』
乗っているのは、当然ガオウ。
踏みつけにしていたマーズトロンを、今度は右手の鋏で掴んで持ち上げる。
凄いパワーだ。
『ひいっ!た、助けて!』
『あァ~ん?テメェみてぇな臆病者は、俺様の軍には要らねーんだよォッ!!』
次の瞬間、鋏に備え付けられたボルトらしきパーツが高速回転し、鋏がマーズトロンを締め上げ始めた。
『ひいいっ!お助けぇっ!』
『ヒャハハ!怖がれ怖がれぇ!』
これは、単なる鋏ではない。
「プレスアーム」なのだ。
鉄屑をプレスする為の機械を改造し、右腕に武器として取り付けているのだ。
プレスアームは締め上げる力をどんどん強める。
そして。
めきぃぃっ!
とうとうマーズトロンをねじ切り、胸から真っ二つになったマーズトロンが落下し、爆発する。
「こ、こいつ味方を………?!」
味方であろうと容赦なく殺す、ガオウの残虐性。
元よりあったが、この「ゲーム」により更に磨きのかかったその悪意に、戦慄する竜也。
『次はテメェがこうなる番だぁ!俺様の王国を滅茶苦茶にしたオトシマエは、テメェの命でつけやがれェッ!!』
タイラントがプレスアームを構え、ガンドラグーン向けて突撃する。
「まずっ!?」
『ヒャハハ!死ねぇぇっ!!』
初陣の疲労がまだ回復していなかった竜也は、反応が遅れてしまった。
タイラントが大きく鋏を広げ、ガンドラグーンをマーズトロンのように挟み込もうとする。
その時。
『………ひゃはっ?』
突然、タイラントが逆の方向に吹っ飛んだ。
まるで、見えない壁に当たったか、何者かに蹴飛ばされたかのように。
ズシャア!と倒れるタイラント。
ガオウは勿論、竜也やエマニュエルも、何が起こったのか解らず唖然とする。
『………どうやら、間に合ったようだな』
「刑事さん?!」
聞き覚えのある、蓮の声が響いたと思うと、ガンドラグーンの目の前に「それ」は現れた。
それは、ガンドラグーンと似た姿をしていた。
だが、ガンドラグーンと違い、各部の装甲は曲線を描いたような形で、頭部には鉄仮面を思わせる、スリットの入ったバイザー。
色合いも、赤いガンドラグーンとは相対するかのように、黒を基調として青い装甲を纏っている。
そして背中には、翼を思わせる一対のバインダー。
ガンドラグーンを「武者」とするなら、その機体は「騎士」を思わせる姿をしていた。
『ふざけやがって!ふざけやがってぇぇ!』
自軍で使う予定だったタイタンギアを二機も奪われたガオウは、完全にキレた。
立ち上がったタイラントの胸が開き、内部のミサイルランチャーが顔を出す。
『まとめて死ねやあああっ!!』
そこから放たれる、ミサイルの弾幕。
それは真っ直ぐに、二機のタイタンギアに迫る。
「ま、まずいっ!」
ガンドラグーンは、すかさず後ろに引いた。
だが、蓮の乗る黒いタイタンギアは、なんと自分からミサイルの弾幕の中に飛び込んだ。
「お前の力を見せろ、ジャッジサイヴァー!」
黒いタイタンギア「ジャッジサイヴァー」のバイザーの中に隠されたカメラアイが、赤く輝いた。
『な、何ィッ!?』
その光景を前に、ガオウは驚愕した。
ジャッジサイヴァーは、ミサイルの弾幕の中を、その手にした実体の巨剣・カーボンブレードでミサイルを破壊しながら飛んで来たのだ。
ジャッジサイヴァーが飛行能力を持つのは知っていたが、それをあそこまで使いこなすとは。
ミサイルの弾幕を突破し、ジャッジサイヴァーはタイラントに迫る。
そして。
「………外道」
カーボンブレードを背中に射し、腰の装甲に格納した二丁のビームガンを構え、タイラントに突きつける。
竜也は、命乞いをする相手を助けようとした。
だが、蓮はそこまで甘くない。
「地獄に落ちろ!」
バシュウ!
連続して放たれる、無数の光の弾丸。
それはタイラントの装甲を焼き貫き、破壊し、無数の穴を開ける。
タイラントは数秒間ビームの弾丸を浴び、ガオウは自分の死を理解する間もなく、ビームを浴びて蒸発した。
全てが終わった後、穴だらけの無惨な姿となったタイラントは、ぐらりと崩れ落ち、爆発する。
ガオウの王国は、こうして終わりを告げた。
………………
人間狩りで捕らわれていた人々や、慰みものにされていた女達が、自由の身となって出てくる。
ならず者達は、リーダーのガオウが死んだと知るや否や、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「………やる事って、このタイタンギアを手に入れる事だったんですか」
「そうだ」
竜也の指摘に、蓮は反論すらせず即答する。
彼等の側には、戦いを終えたガンドラグーンとジャッジサイヴァーが立っている。
檻から脱出する際に蓮が言った「やる事」。
それは、このジャッジサイヴァー、またはガンドラグーンを手に入れる事だった。
人間狩りで捕まっていたのも、この基地に潜入する為にわざとやった事だった。
「君達を囮に使うような形になった事には謝罪しよう、すまなかった」
そう言って蓮は、かけていたサングラスを外す。
「………だが、俺にはこの島で、ゲームでやる事がある………その為には、どうしても力が必要なんだ」
脱出時に見た、強い意思の籠った目とは違う。
どこか、憂いを帯びたような顔をしていた。
まるで、深い悲しみを背負っているかのような。
「………そのタイタンギアはやろう、こんな事態だ、力はあって困る物じゃないだろう」
蓮は再びサングラスをかけると、竜也に背を向けて去ってゆく。
その場には、竜也とエマニュエルが残された。
「………あの、エマニュエルさん、さ」
竜也は、エマニュエルに向かって照れながら話しかける。
まるで、片思いの相手に告白する中学生のように。
「………もし、良かったらさ、一緒にこない?ほら、少しでも仲間がいたら、何かと助かるでしょう?」
竜也の言うように、こんな状況では味方が少しでも居た方がいい。
それもあるが、竜也が一人では心細いというのも、理由に含まれている。
「………じゃあ………」
ゆっくりと、エマニュエルが手を出した。
握手を求めていた。
彼女もまた、一人でゆく事を不安に思っていた。
竜也と同じく、心細かったのだ。
「………よろしく、お願いします」
「………こちらこそ」
差し出された手を、竜也は握る。
その手は、女子特有の柔らかさと、肌のきめ細かさを感じさせた。