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刀光剣影タイタンギア  作者: なろうスパーク
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第5話「ガオウの王国」

ガタガタ。ゴトゴト。


揺れる荷台に、無造作に放り込まれた人々。

その多くが、縄で拘束される、足を傷つけられる等して、逃げられないようにしてある。


竜也も、その中に居た。


足を射抜かれ、動けないでいた。

矢は引き抜かれていたものの、未だに足はズキズキと痛む。

治療などしてもらえるはずもない。

血は止まったが、傷口は開いたまま。


逃げる所か、立って歩く事がやっとと言った所か。

せめてここが何処か調べようにも、両手を拘束されている為にバルキリーリングを起動する事すら出来ない。


見上げれば、自分を見つけたあのタイタンギア・マーズトロンが、トラックと同じ方向向けて、ズシンズシンと歩いてゆく。


一体、どこに連れて行かれるのだろう。



「おら着いたぞ!」



しばらくした後、ガゴンとトラックが止まり、荷台に放り込まれていた竜也の身体が少し揺れた。


竜也が何事かと思っていると、ならず者の集団が、これまた荒っぽく荷台に入れられていた人々を下ろし始めた。



「オラッ!さっさと降りろ!」



否、下ろしているというよりは、ほぼ地面に投げ出されていると言って良かった。

竜也も同じように、地面に投げ出される。



「オラッ!」

「いでっ!………くうう」



地面に叩きつけられた痛みを感じつつ、竜也は目を開き、今自分が何処に居るのかを見た。

そこは。



「………何ここぉ」



結論から言うと、なんと言っていいか、解らなかった。

僅かな痕跡から何らかの工場で「あった」事はなんとか解ったが、問題なのはその外観である。


おそらく、都市部の方から運搬して来たのであろう、外国のカジノ街を思わせるネオンや看板。

建物の各部に施された、悪趣味な落書き。


………昔、核戦争後の荒廃した世界を舞台にした映画があり、それに出てくる浄水施設を占領して王を気取っている拳法使いがいた。

ここは、その拳法使いが浄水施設=自分の城を中心に築きあげた「王国」にそっくりだと、竜也は見ていて思った。


拳法使いが従えているゴロツキ達も、丁度自分達を連行してきたならず者達にそっくりだ。



「オラッ!とっとと立てやゴラッ!」



そんな事を考えていると、ならず者の一人が竜也の顔を軽く蹴った。

そこまで力は入れていなかったが、足で蹴られた為か、そこそこ痛む。


もたもたして本気の蹴りを食らう訳にもいかないので、竜也は痛む左足に耐えながら、よろよろと立ち上がった。



「オラッ!歩け!」



拳銃を突き付けられ、他の人々と一緒に歩かされる竜也。

まるで、捕虜にでもなった気分だ。


一体ここは何処で、自分達は何処に連れていかれるのだろうか?

そんな事を考えながらも、竜也はならず者達の指示に従い、歩いてゆく。





………………






ならず者に連行されてきた竜也は、倉庫の一つを改修した場所へと連れて来られた。


そこは、箱状の檻がいくつも並ぶ、言ってみれば牢屋だった。

これも、都市部から運んできたのだろうか。



「ここに入ってろオラッ!」

「ぐえっ!」



竜也も、他の連行されてきた人々と同じように、檻の中へと投げ入れられる。



「こ、このぉ………怪我人には優しくしろよッ」



自分を見下ろし、笑って去ってゆくならず者に、竜也は思わず愚痴を漏らす。

聞こえてなかったのか、それとも無視したのかは解らないが、ならず者が振り向く事は無かった。



「ったく………あっ」



上体を起こした竜也の目に入ってきたのは、同じ檻の中に居る、男と女の二人。

どうやら、同じように人間狩りに逢い、自分より先に捕らわれて閉じ込められていたようだ。

二人とも、両手両足を縄で拘束されている。



「………ど、どうも」

「ああ」



竜也の愛想笑いをしながらの挨拶に、男の方が一言だけ答える。

女の方は、顔を上げて少し頷いた。



男の方は、黒い短髪に、表情を隠すかのようにサングラスをかけている。

黒いロングコートを羽織り、ズボンも黒の黒ずくめ。

身体は鍛えているらしく、見た所竜也より背が高く、体型もがっしりしていた。

顔の特徴から日本人と解るが、がっしりした長身にサングラスという組み合わせからか、映画のエージェントを思わせる厳つさを感じる。



女の方は、ウェーブのかかったブロンドの髪に、堀が深い顔に青い瞳と、東洋と西洋の特徴が入り交じった綺麗な顔立ちをしている。

ハーフだろうか?

服装も、見た所タートルネックにデニムパンツ、その上からジャケットと中々に洒落ており、ファッションに疎い竜也からしても中々にセンスがあるように見えた。



女はこの状況に怯えているようだったが、男はサングラスをかけている為、表情が読めない。


また、二人とも動けないように四肢を縄で縛られていた。



「えっと………俺は竜也、木葉竜也、日本人で工場で働いてるよ」



会話が途切れるとまずいと思った竜也は、とりあえず自己紹介をしてみる事にした。

自分でもこの状況でよく出来ると思ったが、それ以外に何をすればいいか解らなかったのだ。



「………俺は蓮、「加納蓮(かのう・れん)」、日本の、特犯課(とくはんか)の刑事だ」



男の方………加納蓮が、表情一つ変える事なく、淡々と自己紹介を済ませた。


特犯課………警視庁特殊犯罪課(けいしちょうとくしゅはんざいか)

竜也は、何度かニュースでその名前を聞いた事があった。

通常では対処できない事件………強盗や武装組織等の危険な犯罪に対応する部署と、印象を持っている。



「………最も、そんな肩書き、今は何の役にも立たんがな」

「は、はあ………」



自嘲気味に、蓮は吐き捨てる。

そこには「今自分は警察として君らを助ける事はできない」という意味も含まれていた。

携帯の電波が通じず、他に外に連絡する手段もないのだ、当たり前である。



「………で、こちらのオネーサンは」



気を取り直して、と言うように、竜也は女の方に顔を向ける。



「あれっ?もしかして………」



女の顔を見た瞬間、竜也は彼女に強い既視感を覚えた。


掘りの深い顔つき。

そのブロンドの髪。


この場所に連れ去られた日、街の大型モニターで見た、今人気のモデルさん。

化粧をする余裕もないのか、街で見た時と比べて印象が違うが、彼女は間違いなく。



「もしかして………あなた、エマニュエル白鳥さん………!?」

「え………ああ、はい」



彼女………エマニュエル白鳥は、若干引いたか驚いたように、竜也の問いに僅かに首を縦に振った。



「うっそ!?本物?!本物のエマニュエル白鳥さん!?」



目の前に、テレビでいつも見ている有名人が居る。

竜也は、思わず舞い上がり、左足の痛さも忘れて興奮する。


テレビで見るよりずっと美人だ。

そんなよくある感想も頭に浮かぶ。



「………舞い上がる気持ちは解るが、今は有名人に興奮してる場合じゃないと思うぞ」

「あ………」



興奮気味の竜也に呆れるように、蓮は静かに竜也を諌める。

たしかに、この状況で有名人に興奮するのは、場違いにも程がある。

それに、エマニュエルも若干困ったような顔をする。


スンマセンと頭を下げ、バツが悪そうに竜也は口を閉じた。



「………それでさ、知ってるなら教えて欲しいんだけど、この状況って、つまりはどういう事なの?」



再び気を取り直して、竜也は今自分………自分達が置かれている状況について、二人に訪ねる事にした。

ゲーム開始からずっと、ほぼ拠点から出なかった竜也にとって、今現在のケイオスアイランドの情勢や、この状況は解らない事だらけだ。



「………解った、俺が話そう」



答えたのは、蓮。

竜也の方を見て、口を開いた。

そして拘束された手を足の後ろで何やらゴソゴソさせている。

痒いのだろうか?



「ここのモヒカン達をまとめ上げているのは、ガオウという男だ」



蓮の話は、こうだ。



………この倉庫エリアを悪趣味な王国に変え、その王として君臨している「ガオウ」と名乗る男。



ガオウ。

本名・田所貴司(たどころ・たかし)



このゲームに参加する前は、暴走族のリーダーをしていたらしい。


ガオウは、ゲームが始まってから一日も経たぬ間に、一つのコミュニティを作り上げた。

元より喧嘩一つで暴走族のリーダーになった男故に、こういう事には慣れているらしい。


それだけでなくガオウは、このケイオスアイランドの各地に隠されている超兵器。

竜也に襲いかかってきたマーズトロンを始めとするタイタンギアを、いち早く見つけていた。


その数は、稼働していない物も含めて5機。

もはや、一つの国とも言えるような戦力である。


ゲーム開始から間もなくして、このような国家並みの戦力を手に入れたガオウは、大いに調子に乗った。


そんな一大戦力となったガオウ達の元には、自然と人が集まってきた。

身を守る為に、強いものの傘下になろうとする者。

単に人殺しを楽しみたいが為に、ガオウに加わる者。


短期間で多くの人員と力を手に入れたガオウは、このケイオスアイランドの王を気取り、今度は「人間狩り」と称し、

自分に従わない、またはガオウの陣営に加わっていない他の参加者を捕まえ始めた。


捕まった者が男の場合は、仲間の楽しみや自分に従わない者への見せしめとして、生きたまま苦しめて殺す。


捕まった者が女の場合は、美女の場合に限り、ガオウの「女」として扱う。

従わない場合は、配下のならず者達に「おもちゃ」として与える。

美女でない場合は、男の場合と同じように殺す。


竜也も、そうした人間狩りの一環として、捕まってしまったのである。





………………





時刻は、朝の9時である。


だが、この暗く締め切った場所は、まるで夜中のクラブのようであった。


赤や青の目に悪そうな光が飛び交い、洋楽と思われるメタル調の激しい音楽に乗って躍り狂う人々。


一昔前のディスコに近いだろうか。

いや、ここはあまりにも「下品」すぎた。

ディスコと例えるには、失礼なほどに。



「イーハァァ!」

「ホゥゥゥ!!」



モヒカンのならず者や、奇抜な格好をした女達が、身体をくねらせて踊っている。

街から集めてきた酒をグビグビと飲む者もいる。



「ぐへへへっ!おねーさん可愛いねぇ!ひひ!」

「うう………」



もう一方では、竜也達と同じように拐って来たであろう女性を、セクハラのように抱き寄せている者もいる。

女性は嫌そうだが、逆らえば命はない。


最早、ディスコと言うよりはサバト………悪魔信仰の集会のように見えた。



そして、そんなサバトの中心に、一人の男が居る。


ジャケットに刺のついた肩当てを着けた物を羽織る、筋骨隆々とした大柄の身体。

耳にいくつものピアスをつけ、染めた金髪の頭は、毬栗かウニのように刺々としている。


デスメタルのミュージシャンのようなその男は、サバトを見下ろす高台に置かれたソファーに座り、見せつけるように水着の美女を侍らせ、モヒカンのならず者に持って来させた酒を浴びるように飲み、躍り狂う他の者達を酒の摘まみとして見ている。


この男が、ここのならず者達のリーダー。

この狂った王国の、帝王たる男。



「ガオウ様、今回の人間狩りの成果です」

「ンン~?」



男が、部下のならず者の持ってきたPADを受け取る。

そこには、人間狩りで捉えた人々のデータが記録されていた。


気だるそうに、画面をスワイプして人々のデータを流し見する男。

その時。



「………ンンッ?」



捉えた人間達の中の一人が、男の気を惹き付けた。

それは、若い女だった。

日本人と白人の特徴を持った、若い女。



「クク………ギャハハハハハハッ!!こいつは驚いた!まさかあのエマニュエルまでこのゲームに参加していたとはなァ!!」



狂喜し、汚い笑い声をあげる男。

PADを持っていた男も、彼に傅く美女達も、嫌な顔一つ見せない。

この「王国」で、この男の機嫌を損ねる事は、死に繋がるからだ。



「よし!今夜の相手はこの女だ!まさか人気モデルとヤれるなんざ!まったくデスゲーム様々だぜ!ギャハハハハハハッ!!」



男………「ガオウ」の、下品な笑い声が響く。

それをかき消すかのように、デスメタル調の音楽が、その爆発するような音楽を響かせていた。

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