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刀光剣影タイタンギア  作者: なろうスパーク
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第4話「巨人の闊歩する街」

その日も、竜也は二日前に見つけた、町外れにある無人ビルの中で目を覚ました。

山の中にある為か、木に上手く隠れる事ができるこの場所は、隠れ家にうってつけだった。


窓から差し込む日光が、竜也のうっすら開いた瞼に射し込んでくる。



「………あっ」



むくり。

寝袋を脱ぎ、ゆっくりと身を起こす。


携帯を見ると、時刻は朝の8時だった。

仕事に行く必要が無い分、いつもの日常よりも遅く起きる事もできる。



今自分がデスゲームに参加しているという事実は、初日の街の惨劇で嫌という程思い知った。


しかし、久しく太陽の光を浴びていなかった竜也は、照りつける朝日で身体に浴びながら、その暖かさを心地よく感じていた。



「………お日様って、暖かかったんだな」



暫くぶりの日光浴を楽しみながら、竜也はそんな事を呟いた。

それが、血みどろの殺し合いの中での、竜也の数少ない楽しみだった。


朝日は、このケイオスアイランド全体を照らす。

そして今日も、死のゲームの幕が上がる。





………………





悪夢のゲームが始まってから、5日の時が流れた。

その間、何人もの人が死んだ。

殺したし、殺された。


その中で、竜也のような人間が誰も殺す事もなく生き残れているのは、奇跡に等しいだろう。



「………さて、お腹を満たしますか」



竜也は右手のバルキリーリングのボタンを押し、その上に立体映像のモニターを呼び出した。

そしてモニターを、PATかスマートフォンのタッチパネルのように操作する。


すると、バルキリーリングから光が広がり、彼の足元に映し出すように、物体を呼び出す。


ツナの缶詰めと食パンが、一枚と一つずつ。

これが、今日の竜也の朝食だ。



「………少なくなってきたな、そろそろ調達しないと………」



そう呟き、竜也は街で拾ってきたナイフで、器用にツナの彼のを開ける。

5日もやっていたのだ。手つきも慣れた物だ。



………この5日で、竜也は新しい発見をした。


一つは、このバルキリーリングについて。


ユミからは、ゲームのアカウントのような物と説明を受けていたが、実際はそれ以上の代物だった。


バルキリーリングには、物体をデータ化して内部に収納する、「サイバー化」と呼ばれる機能がついていた。


たしか、アメリカ軍が実用化に向けて実験していると、ニュースで聞いた事がある。

竜也としては、小学生時代に遊んだモンスター育成ゲームを思い出す。


これにより、どれだけ荷物が増えたとしても、容量がある限りは大丈夫だ。


また、「眠っている間の闇討ちは禁止」というルールがあるが、このバルキリーリングのスキャン機能により、相手が起きているかどうか調べる事ができる。

つまり、狸寝入りでやり過ごす、というような事も出来ないという事だ。



一つは、この島について。


バルキリーリングの地図機能で解った事。

このケイオスアイランドは、日本の四国ほどの大きさをしている。


初日に訪れた街以外にも四つの都市があり、その全てが本物のように作り込まれている。

しかも、街の各部には電気が通っており、それが自由に使える。


初日に竜也がやってきたのは、第一都市部というらしい。


店に入れば食料や日用品が置いてあり、この島におけるサバイバル生活に役立つ物が多い。

現に、今携帯に使っている充電器も、街から調達してきた物だ。


ただ、竜也の知る街と違う所もある。

一つは、銃や刀といった凶器が置いてあるという事。

初日に、惨劇の引き金となった拳銃男も、そこから拾ってきたのだろう。


もう一つは、港が無いという事。

ルールで「島の外に出てはいけない」と定められている為だろう。

同じ理由で、船も見当たらない。


島の木材でいかだを作り、脱出を試みた者もいたようだ。

だが、島からある程度離れた所で死亡したらしい。

なんでも、バルキリーリング内に設置されている毒か何かでやられたとか。


そしてバルキリーリング自体も外す方法はなく、破壊しようにも街で手に入る武器では壊せない程頑丈だ。

右腕を切断するという方法もあったが、そこまでするような勇気のある者は、竜也を含めて今のところはいない。


不謹慎ながら「ちゃっかりしてるな」と、竜也は思った。



最後に、今現在のこのゲームの現状。


バルキリーリングには、今現在のこのゲームの参加者の数をカウントする機能もついていた。


それによると、ゲームに参加した人数は2000人。

どうやらこのゲームの運営者はよほどの金持ちらしく、竜也の知るデスゲーム物と比べると、桁違いの規模だ。


そして、今現在の参加者の数は1495人。

初日で、500人近くが死んだ事になる。

今現在は落ち着いているのか、大きな変動はない。


だが、この規模は最早デスゲームというよりは軽い戦争だろうとも思えた。



………………さて、話をこちらに戻そう。



朝食を済ませた竜也だったが、新しい問題が発生していた。

溜め込んでいた食料が、そろそろ底を尽きそうなのである。


食料等の日用品は、街にある店に置いてある物を取ってくるか、山に自生している物を栽培するしかない。


自然の知識も農業の技術も持たない竜也は、街にある店から取ってくるしかない。

他の参加者………すなわち、自分の命を狙ってくる可能性のある者達が多く潜んでいる場所に、赴かねばならないのだ。


殺し合いが禁止されている夜に取りに行こうとも考えた。

が、夜になると、街にある店はシャッターで閉ざされ、中に入れなくなる。


デスゲームだから当たり前なのだが、運営者は何がなんでも殺し合いが見たいのだろう。

食料を得るには、危険な昼間に向かうしかないのだ。



「………仕方ない、行くか」



ツナ缶と食パンという質素な朝食を食べ終わると、竜也は重い腰を上げた。

彼の眼差す先には、朝日に照らされた街が見えていた。


行けば命はないかもしれない。

だが、生きる為には行かねばならない。


かつての古代、マンモスに立ち向かった原始人もこんな気持ちだったのだろうと、竜也は思った。





………………





10月11日。

8時22分。


ケイオスアイランド第一都市部。

ゲーム初日の惨状は、ほとんどそのまま残っていた。


死屍累々と転がる、物言わぬ死体の山。


目を開いたまま転がる人々の骸には、名前も解らぬ虫が集り、カラスや犬が死肉を漁っていた。


そして、街で手に入れたであろう武装を手に、挙動不審になりながらも街をさ迷う人々。

殺し合いこそ起きていないものの、互いに威嚇するか怯えているような空気が流れ、ピリピリしている。

彼等もまた、竜也のように生きる為に街にやってきているのだ。



竜也は、そんなスラムのような街で、ビルの影に身を隠しながら進んでいる。

子供の頃から気配を消すのは忍者並みとからかわれてきたが、まさかそのスキルがこんな所で役に立つとは竜也本人も思わなかった。



「えっと、ショッピングモールの場所は………」



バルキリーリングに表示される地図と、記憶を頼りに、以前食物を手に入れた場所へ向かう竜也。


目立たないように、遠回りする事になりつつも、裏路地を辿って目的地へと近づいてゆく。



………ふと、竜也は背後に視線を感じた。



「………ッ!?」



そこに誰かいるのか?!

竜也は視線の感じる方へ、振り向いた。


だが、そこには誰も居なかった。

………否、一人居たが、それはもう竜也に対して何もできない。


そこに居たのは、死体だった。


おそらく中高生ぐらいだろうか、学ランを着ていた。

胸には三つの穴が空き、打ち捨てられた人形のように、その場に転がっている。



「………こんな子供まで参加してるってのか」



流石に5日も過ぎれば、死体にもなれる。

だが、やはり見て気持ちのいいものではない。

それに、自分と違ってまだ未来も明日もあった子供が、こんな理不尽なゲームに巻き込まれて命を落としているという事態は、竜也の胸を締め付けた。


だが、その理不尽さに対する怒りをこのゲームの黒幕にぶつけるには、今の竜也はあまりにも小さく、弱い。


何も出来ないと解っていた竜也は、目の前の死体に手を合わせ、再び目的地に向けて歩き出そうとした。


その時である。



ズシン!



突如地面が揺れ、街にいた人々や、竜也はバランスを崩し、倒れそうになる。



「じ、地震!?」



地震かと思った。

だが、揺れは数秒もしない内にすぐに収まる。

そして。



ズシン!



また揺れる。

何度も、何度も地面は揺れた。



「………地震じゃないぞ!?」



流石の竜也も気付いた。

これは地震ではない。

しかも、「それ」は徐々にこちらに近づいて来ている、と。



ズシン!



そして次の地響きの後、竜也の頭上に影が落ちた。

見上げる竜也。

そこには。



「………嘘だろ」



そこにあったのは、巨大な人のカタチをした巨影だった。


ここ第一都市部のビルほどの大きさのある「それ」は、屋根のように巨大なシールドを持った左腕と、専用のマシンガン (と言っても戦車砲ほどの大きさ) を持った右腕。

そして、紫色に光る十字のスリット状の目と、天を貫くような一本の角。

それらを覆う、厚い灰色と紫の装甲と、オレンジ色の角。

そして力強い四肢を持っていた。


明らかな人工物。

一言で言い表すなら、巨大ロボット、とでも言うべき存在が、そこにあった。



「銃や刃物はともかく………タイタンギアまで置いてあるのか?!この島は!!」



殺し合いの為の小道具と言うにはいささか巨大すぎる、その一つ目の鉄の巨人を前に、竜也はただ、狼狽えるしかなかった………。



………「タイタンギア」。


二十世紀の終わりに発明されたそれは、平均50メートル前後の巨体を持つ、人類史上最大にして最強の兵器。


特殊合金の皮膚とプラズマ反応炉の心臓を持ち、戦艦の主砲でも傷付かない強固さと、戦車の砲身が回るより早く動ける俊敏性。


単機で戦況を一変させるそれは、それまでの原爆等の核兵器を上回る究極の兵器として、今も世界に君臨している。


保有数はアメリカが15体。ロシアが10体。

その他の国は、基本的に一国につき2~5体ほど。

日本は、憲法上の都合や平和団体の反対もあって持っていない。



そんな、デスゲームの為のアイテムとしては規格外すぎる鉄の巨人が、そこに現れた。

動いている所を見ると、人が乗って動かしているのだろう。


ちなみにあのタイタンギアは、確か図鑑で「マーズトロン」と呼ばれていたと、竜也は思い出していた。

最初期に開発された機体だが、今でも強力な戦力として通用する機体だ。



「ヒャッハァァー!人間狩りだぜぇぇーー!!」



そんなマーズトロンの背後から、凶器を持った者達が飛び出してきた。

モヒカン等の奇抜な髪型に、ヘビメタのような格好。

一目で解る、ならず者の集団だ。



「ヒャハハハ!おら捕まえたぁ!」

「うわっ!離せっ!?」

「逃げんじゃねーよォ!」

「がふっ!?」



ならず者達は、ある者は漁業のように網を投げて、ある者は銃やボウガンで相手を動けなくして、

その場にいた人々を捕らえてはマーズトロンの後ろにあったトラックに無造作に放り込んでゆく。


逃げ惑う人々に対して、ゲーム感覚で追い詰めては、捕らえゆく。

まさしく、人間「狩り」と言うに相応しい行為だ。



「………まずい時に来ちゃったなぁ」



一般的なイメージでは、普通に殺して所有物を奪いそうな彼等が、何故わざわざ人間を生け捕りにしているかは解らない。


だが、この光景を影から見ていた竜也にも、今は街から逃げなければならないという事は解った。


早く、ここから離れようと、息を殺して逃げ去ろうとした、その時。



『そこのお前ェェ~!見えてるぜェ~?キヒヒッ!ビルに隠れていりゃ見つからねぇとでも思ったかァ!!』



マーズトロンが、頭部のメインカメラをギンと光らせながら、竜也の方を見下ろしながら、機体に備え付けられた拡声器から汚い声を飛ばした。


しまった!

上から、マーズトロンの視点から見れば、丸見えであるという事に気付かなかった。



「そこにまだ居んのかァ!?」

「ヒャッハァァー!狩りだ狩りだァ!!」



ボウガンと鎌を持ったならず者二名が、竜也を発見し走ってきた。



「わ、わああ!」



どうにか逃げなければ。

慌て、ほつれる足で駆け出す竜也。


だが、竜也は普段から仕事の為にろくな運動もしていない。

そしてならず者の連中は、ムキムキとまではいかないが体力も筋力もあり、一人は飛び道具まで持っている。


竜也が逃げ切れる要素なんて、どこにもなかった。



「ほらよぉ!」

「わ゛っ………!」



程なくして、竜也の左足に激痛が走る。

見れば、ならず者の一人が放ったと思われるボウガンの矢が、竜也の左足を貫いていた。



「がっ………!」



バランスを崩し、倒れる竜也。

派手に転がった後、制止する。



「ヒャハハハ!一匹ゲット!」



倒れた竜也に、ゲラゲラと笑いながら寄ってくるならず者達。


逃げようにも、足をやられた竜也には何もできない。

今の竜也には、痛みに震えるしか出来ない。



そんな竜也を嘲笑うかのように、マーズトロンがその十字の瞳を、妖しく光らせた。

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