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刀光剣影タイタンギア  作者: なろうスパーク
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第3話「血に染まる島」

気がついた時、竜也が次に見たのは、灰色の曇った空だった。

次に、立ち上がろうとして手に砂の感覚を感じた。



「………どこだぁ?ここ」



寝起きの時のように、間抜けな声が出た。

二度も意識を奪われたというのに、緊張感にかけるようにも見える。


眼前には海。

背後には遠くに街が見える。


竜也は、今砂浜にいた。

もしそらが青く、季節が夏なら底々トロピカルな気持ちになれたのだろうが、吹く風の寒さがそうでない事を物語る。



「………寒っ」



寒さに凍えながら、ゆっくりと立ち上がり、身体についた砂を払う竜也。

ザーン、ザーンと、海は波を揺らしている。


立ち上がった竜也は、頭の中でそれまでにあった事を思い出していた。


仕事の帰りに変な女に眠らされて、それから………。



「もしかして………ここが、ケイオスアイランドなのか?」



辺りを見回し、竜也はつぶやく。

そうだ、自分は今このケイオスアイランドを舞台とした、死のゲームに参加させられていたのだ。


あの時、ふざけて5000兆円欲しいと言ってしまったが為に。



見た所、どうやらこの砂浜に居るのは自分だけのようだ。

他の参加者が居たなら殺されていたかも知れないと思うと、ある意味ラッキーである。



「………そういや、今日何日だ?」



ポケットから携帯を取りだし、開く。

液晶に表示された電子カレンダーには、10月06日と表示されている。

左上の時刻表には、15:15と表示されていた。


最後に携帯を見たのが、5日の18時ほど。

単純計算で、連中に拐われてから約一日が経過した事になる。


右上には、電波が圏外である事を示す×の字が表示されている。

外部に助けを求めるのは、無理そうだ。


………それ以前に、デスゲームに巻き込まれたという話が信用されるかという話もあるが。



「………どうしよう」



人気のない海岸に一人で居た為か、次第に不安になってきた。

そして少し考えた後、竜也は街の方を見た。



「………行ってみるか」



何があるという保証もない。

だが、竜也は街の方へと向かってみる事にした。


心細かったというのもあるのだろう。

人間としての本能が、群れがいる場所に向かえと命じたのだ。


………この時、竜也がまだデスゲームに参加しているという自覚を持っていなかった、というのも少なからずあるのだろう。





………………





そこは、おおよその文明人の知る「街」と、大差のない場所だった。

ビルが並び、道路が走り、店が立ち並ぶ。


まるで、街の繁華街から人間以外をコピーして、ここにペーストしたようだった。

一部は、昔見た世界から人間だけが消えてしまう映画も思い出していた。



その「街」にて、連れて来られた人々は目を覚ました。

海岸に一人置かれた竜也と違い、彼等が目を覚ました時、そこには同じように街で目を覚ました人が多く居た。



「おい、何なんだここ………」

「うう、やっぱり携帯繋がらないし」

「帰りたいよぉ………」



老人は不安がり、若者は困惑し、子供は泣きべそをかいていた。


目が覚めたら見知らぬ場所にいた事。

そして「これから殺し合いをしてもらう」と言われた事。


その二つが、この場にいる人々の心を不安の渦に落としていた。



その時。



ズドォン!!



突如、耳をつん割くような音が響いた。


この場にいた多くの人々は、それまで平和な生活を過ごしていた為に馴染みのない音。

テレビドラマか映画でぐらいしか聞いた事のないその音は、「銃声」である。



そして、その銃声に驚いた人々は、一斉にその音のする方を振り向く。

そこには。



「あ………が………?」



人々の視線の先に居たのは、どこにでもいる普通の女だった。

彼女が「撃たれた」と認識したのは、自分に集中する人々の視線と、胸に広がる赤いシミに気付いてからだった。



「うそ………そん………な………ッ」



まさか自分が。

死にたくない。

まだ生きていたい。


そんな彼女の願いも虚しく、彼女は地面に倒れ、物言わぬ肉の塊となってしまった。



彼女が倒れ、その背後に立っていた者。

そこには、女と同じように、どこにでもいる普通の男だった。


ただ彼女と違っていたのは、血走った目で前を睨み、ゼエゼエと息をしていた事。

そして、銃口から煙を立てているピストルを構えていた事。


一目で解った。

女を殺したのは、この男だ。



「ひ、人殺しだぁぁーーー!!」

「キャアアー!!」



途端に悲鳴があがり、凍りついていた人々が、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。



「殺してやる………俺は生き残ってやる!」



男はピストルを構えたまま、血眼になり人々を追い回す。

その間何度も発砲し、その度に人々は凶弾に倒れてゆく。



………この男も、別に凶悪殺人犯でも精神異常者という訳でもない。

我々と同じように、どこにでもいる一般市民の一人である。


しかし、彼に与えられた状況が、この場で人道を守る事を許さなかった。


彼の勤めていた会社は、何の前触れもなく突然倒産した。

更に、両親は病に倒れ、介護の為に仕事を探す事もできない。


何もかもが八方塞がりになった彼は、偶然このゲームに参加する事となった。

そしてユミに言われた「生き残った者の願いを叶える」という言葉を聞き、奮い立った。


この八方塞がりの状況を変えるには、戦うしかないと。



とはいえ、他人からすれば彼は殺人者でしかない。

見境なくピストルを乱射する彼から逃げようと、街は騒然となった。



「は、早く逃げないと!」



別の男が、ピストルの男から逃げようと走っている。

すると。



「何言ってやがる?」

「………へっ?」

「お前も死ぬんだよ!」



逃げていた男の頭に、衝撃が走った。

ブロックを持った男が、それで逃げていた男を殴り付けたのだ。



「ひゃははは!死ね!死ね!死ねぇ!」



何度も何度も、男はブロックを叩きつけ続ける。

まるで、狂っているかのように。



見れば、凶行に走ったのは二人の男だけではなかった。



「やめろ!やめてくれぇ!」

「うるさい!俺の為に死ねぇ!」



相手に覆い被さり、首を絞める者。

馬乗りになり、ひたすら殴りつける者。

ピストルの男のように、凶器を拾ってくる者。


誘拐され、外界と遮断された見知らぬ場所に置き去りにされるという極限状況に置かれた人々の不安は、

ピストル男の凶行を引き金とし、一気に爆発した。


生きて帰りたい。

その為には他人を殺すしかない。


そんな狂気とも言える感情が、そこにいた人々に感染し、広がっていた………。





………………





一人でいる不安から街の方に来た竜也は、自分の甘い考えを死ぬほど後悔していた。


街に行けば、同じような境遇の人達と協力出来るのではないかとばかり思っていた。


だが、実際は。



「な………なんだよこれ………ッ」



ビルの影間に身を隠す竜也が見たのは、この世の地獄だった。


凶器を手に、笑いながら人を殺す者。

逃げる女を捕まえ、服を破り取る者。


人が人を傷つけ、殺す。


竜也の住んでいた街でも、希にそんな事件が起こらない事もない。

だが、こんな地獄は、紛争地域等の外国の話だった。


それが、目の前で起こっている。

その事実に、竜也は震えあがった。



………ごろん。



ふと、竜也の足に何かが転がってきた。

サッカーボールほどの大きさをしていたそれを、何かと竜也は見下ろす。


そこに、あったのは。



「………うわあっ!?」



それを見て、竜也は飛び上がった。

そこにあったのは、人間の生首だった。


切り取られてからあまり時間も経っていないようで、赤い血が滴り落ちていた。



「あ、あ、あああああっ!!」



たまらず、竜也はその場から逃げ出した。

こんな地獄、一秒だって居たくないと。



「これは夢だ………悪い夢だ!覚めてくれ!覚めてくれぇっ!!」



心の底から願った。

この悪夢が終わる事を。


だが、竜也がいくら逃げようと、この地獄は変えようのない「現実」として、竜也の前に立ち塞がっていた………。





………………





凶行に走った者達の中には、は徒党を組み、集団で他の参加者を襲おうとした者もいた。

互いに面識はなかったが、集団で一人を傷つける事に、興奮を感じていたのだろう。


常識的に考えて、数の多い方に一人が勝てる訳がない。

そう思っていた。


だが。



「あ………あが………」



………その男は、たった一人で襲いかかってきた集団を迎え撃った。

迎え撃ちきった。


集団で襲いかかった物の達は、完膚なきまでに叩きのめさた。

全員が倒れ、痛みに震え、痙攣している。



「………安心しな、俺は外道以外は殺さない」



聞いているかは解らなかったが、男はサングラスの位置を正しながら、突っ伏している集団に吐き捨てた。


現に、全員は叩きのめされてはいるものの、命を奪われた者はいない。



男はその黒いコートの下から、小さな箱を取り出し、そこから更に小さな棒状の物を取り出した。


タバコである。

禁煙の進む今では珍しくなった、過去の男の象徴。



「………ふう」



ライターで火をつけ、タバコを吸う。

男は白い煙を吐きながら、殺し合いを続ける人々を、苦い顔をして見つめていた。





………………





別の場所では、凶器を手に襲いかかった男が、緑のスーツを着た男に叩きのめされていた。


スーツの男は細身であったが、まるで格闘のプロか凄腕のボディーガードのように、襲いかかってきた男を地面に押さえつけていた。



「ふふ、やっぱりカオル君がいると助かるよ」



そのスーツの男の後ろで、白いスーツを着た女が笑っていた。

男物のスーツを着こなす、スラリとしたスタイルのいい女だった。


男装の麗人というのだろうか、ある意味男よりも男らしい。



「………どうしましょうか、先生」

「うーん、そうだねぇ」



男装の女は、スーツの男からの質問に演技がかった態度で考える仕草を取る。


地面に押さえつけている男からすれば、ふざけているようにも見えた。

だが、今現在自分の生殺与奪の権利は、自分を押さえつけているこのスーツの男と、それに命令を下せる男装の女に握られている。


男は、黙っているしか出来なかった。

そして、男装の女が出した答えは。



「………服が汚れるのは嫌だからね、放っておいていいよ」



男装の女は、男を殺さないと選択した。

スーツの男はその指示に従い、男を解放した。



「かはっ!………はあ………はあ………」



解放された男を背に、男装の女はスーツの男を連れて、何処かへと歩いてゆく。


二人は、男に背を向けていた。

よろよろと立ち上がった男は、懐に忍ばせておいた拳銃を取り出す。


拾った物を、隠し持っていたのだ。



「バカが、敵に背を向けるやつがあるかよ………!」



聞こえないように呟き、男は拳銃を男装の女に向け、構える。

気づいていないのか、二人は振り向かない。


そして男は、拳銃の引き金に指をかけた。



ダァンッ!



火薬の爆発する音が、銃声が響いた。



「………あ?」



倒れたのは、男の方だった。

どさりと倒れた男の方を、スーツの男が見ていた。

その手には、煙の上がる拳銃が握られ、構えられていた。


同じように拳銃を忍ばせていたが、引き金を引くのは、スーツの男の方が早かったのだ。



「………じゃ、行こっか」

「はい、先生」



今度こそ、男装の女とスーツの男は、殺し合いの舞台となった街を離れ、何処かへと消えていった………。





………………





しばらくの時間が経ち、空を覆っていた雲が晴れてきた。

その時既に、太陽は海の向こうへと沈みかけ、空を赤く染めていた。



「えっへへへ、ここをこうして、っと」



ぐちゃ、ぐちょ。

不愉快な水音と共に、一人の少女が既に動かなくなった女の腹を、コンバットナイフで開いていた。


食肉の仕事をする者が家畜の内蔵を取り出すように、彼女は人体から内蔵を引きずり出していた。


女は、目を開いたまま息絶えていた。

よほど苦しんで死んだのか、その表情は恐怖を示していた。



「………よし!出来た!」



黒い、ゴスロリと呼ばれる服を血で染めて、女は自らの「作品」を完成させた。


冒涜的な芸術だった。

引きずり出された臓物を釘で止め、花弁を開いた花に見立てていた。



「ふふ、やっぱり中々ね、さっすが私!」



返り血を浴びた顔で笑う彼女は、悪魔とも死神とも取れる、狂気の顔を浮かべていた。


血のように赤い夕日に染められ、彼女は次の「素材」に手をかける。


もうすぐ日が沈む。

だが「素材」は、以前のように調達せずともいくらでもある。


彼女の、その冒涜的な創作活動は、まだ始まったばかりだ。





………………





かくして木場竜也の、辛くつまらないが平和な日常は、終わりを告げた。

そして始まったのが、血飛沫が飛び、臓物をぶちまける非日常。


生死をかけた、デスゲームの始まりだった。

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