第39話「ゲーム・セット」
幸い、スタジアムを吹き飛ばすまでにこそ至らなかったが、
メガゼウスから放たれたビーム砲は、スタジアムの壁の一部を融解させ、赤く光らせていた。
「エマさんは無事………だよな」
エマの安否を心配する竜也だが、自分達にその余裕が無い事も、知っていた。
ギギギ。
鉄が擦れる音と共に立ち上がる、サヴァイブガンドラグーンと、ジャッジサイヴァーネメシス。
対するメガゼウスは、傷はおろか、そこから殆んど動いてすらいない。
………二機のタイタンギアは、確かにこのケイオスアイランドにおいては、最強の機体の筈だった。
共にエヴォシステムを搭載し、これまでの戦闘データを元に、文字通り進化した。
だが、それはあくまで「タイタンギア」に限った話。
メガゼウスは、その上を行っていた。
二機の武装を軽くいなし、その上で反撃までしてみせた。
同じデウスギアのグラスエンダーを倒せたから、ほんの少しだけ、「勝てるのでないか?」と希望を抱いた竜也と蓮。
だが、メガゼウスは、その希望を簡単に打ち砕いてみせた。
まさに、巨人の名を冠するタイタンギアの時代を終わらせる、神の機械・デウスギアの頂点。
最高神ゼウスの名を冠する、究極のデウスギア。
勝ち目はない。
そう、思われた。
『なあ、ちょっといいか?』
竜也の心に諦めが過ったその時、ジャッジサイヴァーネメシスの蓮から、通信が入った。
「何です、刑事さん」
『ヤツがビームを出す時、背中の羽根みたいなやつが光っただろ』
確かに、ビームを出す直前、メガゼウスは背中の羽根のような機関を広げ、光らせていた。
だが、それが何だというのだろうか。
『これは推測だが、ありゃ多分エネルギーを受信する機関だ』
「エネルギーを?」
『これを見てくれ』
すると、ジャッジサイヴァーネメシスから、サヴァイブガンドラグーンのコンピューターに、解析図が送られてきた。
『さっきの、ビーム砲を撃つ直前のヤツを解析してみたんだ、羽根を広げた瞬間、ヤツの周りのプラズマが増大している』
解析図には、蓮の言う通り、メガゼウスが羽根を広げた瞬間の場面が記録されており、同時に、その周りのプラズマの濃度が増大していた。
まるで、何処かからかエネルギーを吸っているかのように。
『プラズマを追ってゆくと、ここの上空に続いている………多分、ヤツの「電源」はこの上だ』
蓮の言った通り、解析図は、プラズマがメガゼウスの頭上から降り注いでいるかのような状態になっている事が記されていた。
そういえば、アメリカ軍が「離れた場所からエネルギーを「受信」させる事で、戦車や戦闘機の動力を充電させる装置」を開発中だという話を、竜也は噂で聞いていた。
このゲームの運営の事だ、それぐらい用意しているだろう。
「………じゃあ、こういうのはどうでしょう」
それを聞き、竜也も覚悟を決めた。
メガゼウスに勝つルートが、ようやく見えたのだ。
「俺とガンドラグーンで、奴を押さえます、蓮さんは、奴の「電源」を」
竜也の提案を前にして、蓮も断る理由は無かった。
「………乗った!」
「よし!!」
覚悟を決めた二人の男と共に、二体のタイタンギアが立ち上がる。
眼前に立ち塞がる、神の名を冠する最強の敵を倒し、生きて帰る為に。
「行くぞガンドラグーンッ!」
サヴァイブガンドラグーンが、背中の翼を広げ、二本のビームセイバーを引き抜いてメガゼウスへと迫る。
対するメガゼウスは、右手を手刀のように構える。
すると、どうだろう。
右手からビームの剣が展開した。
メガゼウスにも、ビームセイバーは搭載されていたのだ。
「はああっ!!」
サヴァイブガンドラグーンが、二本のビームセイバーを叩きつける。
メガゼウスは、渾身の力で振り下ろされたそれを、右手のビームセイバーのみで受け止めてみせた。
メガゼウスはビームセイバーは、ガンドラグーンのビームセイバーと同じ技術による物だが、威力は桁違い。
サヴァイブガンドラグーンの両方のビームセイバーを受け止めるなど、造作もない。
「ジャッジサイヴァーッ!」
蓮もまた、行動を開始する。
ジャッジサイヴァーネメシスが、翼を広げ、光波を撒き散らしながら駆ける。
メガゼウスは、ビームセイバーを受け止めながら、左手を迫るジャッジサイヴァーネメシスに向ける。
そして、バリアを応用した衝撃波を、ジャッジサイヴァーネメシスに向けて放った。
だが。
「ぐうっ!」
衝撃波が当たる直前、ジャッジサイヴァーネメシスは急上昇。
衝撃波を避け、天高く舞い上がった。
空へと向かうジャッジサイヴァーネメシスを前に、メガゼウスのAIは、ようやく彼等が何をしようとしているかを理解した。
慌てるように、空に向けて衝撃波を放とうとする。
だが。
「やらせるか!」
だが、それは竜也が許さない。
左手に向け、肩のミサイルを放った。
運良く、メガゼウスは衝撃波とバリアを同時には発動できないらしく、ミサイルはメガゼウスの左手に命中。
衝撃波発射を阻止した。
………………
竜也が切り開いてくれた道を、蓮は全力をもって駆け抜ける。
「1キロ………10キロ………100………!」
ジャッジサイヴァーネメシスが、高く、高く上昇してゆく。
雲を越え、空を越え、そして………。
「………見つけたッ!」
成層圏が目に見えた所で、蓮は見つけた。
上空、45キロ。
ケイオスアイランド向けて、圧縮された電力をマイクロウェーブとして放ち、メガゼウスにエネルギーを供給し続けている、裏方を。
下部にエネルギー送信用のアンテナと、光波推進システムによる浮遊機関を備えた、宇宙ステーションを思わせる空の要塞。
名を「デウスエクスマキナ」。
メガゼウスを最強の存在に仕立てる、この殺人ゲームの最後の舞台装置。
そしてこれも、デウスギア。
AIによって制御される、無慈悲な天使。
「ぐうっ!」
デウスエクスマキナのAIが、至る所に備え付けられた自衛用の砲台を起動。
やられまいと、弾幕を張る。
だが、ジャッジサイヴァーネメシスはその全てを回避する。
いくつもの修羅場を潜り抜け、ゲームを勝ち抜き、一度は圧倒されたアリアさえ倒した蓮に、もはや敵はない。
弾幕を越え、デウスエクスマキナのアンテナに張り付く。
そして。
「ボーナスタイムはおしまいだッ!」
構えたソードガンを、撃つ、撃つ、何発も。
その全てが、デウスエクスマキナを貫き、破壊し、誘爆させる。
確かに、デウスエクスマキナはデウスギア。
だが、戦闘用としての機能は最低限しかない。
轟音を立て、鋼鉄の舞台装置は虚空に散るのであった。
………………
夜空に、光が散った。
星と比べると、かなり目映い光。
そして、メガゼウスが一瞬慌てたような素振りを見せたのを見て、竜也は確信した。
「刑事さんがやったんだ………!」
もう、このメガゼウスに後ろ楯はない。
ならば
「うおおっ!!」
ビームセイバーによりつばぜり合っていた状態から、サヴァイブガンドラグーンが勢い良く、メガゼウスの腕を蹴りあげる。
「まだあっ!!」
腕をかち上げられがら空きになった胴体に、今度は、ビームセイバーを放り投げて、ナックルガードを展開したサヴァイブガンドラグーンの拳が叩き込まれる。
よろけるメガゼウス。
そこに。
「だあああっ!!」
上空から、ビームの弾丸を降らせながら、迫る一刃。
デウスエクスマキナを撃墜し、急降下してきたジャッジサイヴァーネメシスだ。
そしてメガゼウスの背後に回り込み、一撃。
ずばあっ!
バリアが張られるより早く、メガゼウスの背中の翼を、切り裂いてみせた。
そして再び舞い上がった所を、今度はサヴァイブガンドラグーンが、一撃。
「だりゃあっ!!」
強烈な蹴りを浴びせてみせた。
メガゼウスは、大きく後退り、よろける。
サヴァイブガンドラグーンの隣に、ジャッジサイヴァーネメシスが降り立つ。
にらみ会う、タイタンギアと、デウスギア。
「ならば」。
そう言うかのように、メガゼウスの胸部が展開した。
あのビームをもう一度放つつもりだ。
残りのエネルギーを全て使って、最後の攻撃を仕掛けるつもりだ。
「………上等じゃないか」
「ああ!」
対するサヴァイブガンドラグーンとジャッジサイヴァーネメシスも、胸部を展開。
ドラグブラスターと、ヘルブレスの準備に入った。
そして。
「いっけえええーーーッ!!」
ズワオォッ!
スタジアムを壊すような勢いで、両者の胸部より放たれた、目映い破壊の光。
方や、目標を破壊し、殺す為だけの光。
方や、理不尽に抗い、生き残ろうとする者達の光。
光の奔流がぶつかり合い、飛び散る。
2対1にも関わらず、メガゼウスのビームは、二体のタイタンギアを押していた。
流石は、デウスギアと言うべきか。
………がごんっ。
だが、それも長くは続かなかった。
とうとうエネルギーを使い果たし、メガゼウスのビーム砲の出力が下がった。
もう、デウスエクスマキナからエネルギーを供給してもらう事もできない。
「今だぁっ!!」
好機だ。
一気にとどめを刺さんと、竜也と蓮は、サヴァイブガンドラグーンとジャッジサイヴァーネメシスのパワーを最大にする。
最大出力の二大タイタンギアのビームは、メガゼウスのそれを、徐々に押し返してゆく。
そして。
ズオッ!!
エネルギーを使い果たし、出力の弱ったビームごと、二大タイタンギアのビームはメガゼウスを貫いた。
「そんなバカな」。そう言うかのように、メガゼウスの目がチカチカと点灯する。
そして、ゆっくりと仰向けに倒れて、
ズワオォッ!!
爆発した。
無慈悲な機械の神に、巨人達の代表が、一矢報いた瞬間であった。
「………勝った、のか?」
激闘を制した竜也は、眼前で砕け散り、爆煙をあげるメガゼウスを前にしても、まだ勝利を自覚せずにいた。
信じられなかったのだ。
だがメガゼウスは、復活して起き上がる事も、第二形態に進化する事もなかった。
「竜也くん!」
聞き覚えのある声が、集音マイクから聞こえてきた。
自分に聞こえるように、馴れない大声で発したであろう声が。
サヴァイブガンドラグーンを振り向かせると、入場ゲートから、こちらに駆け寄ってくる小さな人影。
そこに居たのは、エマだった。
走ってきたのか、息切れを起こしながらも、笑顔でこちらを見つめていた。
「………エマさん」
勝ったよ。
エマの笑顔を前に、ようやく竜也は、自分達が「勝った」のだと受け入れる事ができた。
勝ったのだ。
この、狂った死のゲームに。
………………
戦いを終えた三人のバルキリーリングが、ピピピと鳴った。
何事かと開くと、そこに表示されたのは、島の片隅にある港へ向かう地図。
何事かと思い、そこに向かうと………。
「………船だ」
そこにあったのは、一隻のクルーザー船。
自動運転機能がつき、船の免許を持たない竜也達でも、動かせそうだ。
それまで、島の港に船は無かったのに。
きっと「運営」側が持ってきたのだろう。
「これに乗って脱出しろ、って事だろ」
「だろうな………」
複雑な面持ちのまま、竜也がクルーザー船に足をかけようとした、その時。
「待て竜也!アレを見ろ!!」
蓮が叫んだ。
何事かと振り向く竜也とエマ。
そこには。
「………嘘でしょ」
その光景を前にして、エマは絶句した。
そこに見えたのは、空を埋め尽くすかのような、デウスギア・グラスエンダーの大群。
破壊されなかった機体が再起動し、群れを成してこちらに向かっていたのだ。
「三人共脱出させてくれるんじゃなかったの………!?」
「あの運営の考える事だ、最後まで殺し合いをさせたいらしい………!」
蓮の言った通り、運営は自分達を無事に島から出すつもりはないようだ。
グラスエンダーの大群を前に恐怖を感じていた竜也だったが、しばらくして、覚悟を決めたようにその表情は落ち着く。
「………エマさん、刑事さんと一緒に先に船に乗って、先に脱出するんだ」
「えっ!?」
「あいつらは、俺とガンドラグーンで抑える」
竜也が買って出たのは、自分がここでグラスエンダーの大群を迎え撃つという、「しんがり」の役。
いくら、サヴァイブガンドラグーンが強力な機体でも、グラスエンダーの数からして、無事に済むとは思えない。
それでも、竜也は言い切った。
「そういう話なら、俺も残ろう」
「刑事さん!」
そして、蓮もまたその話に乗る事にした。
刑事のプライドが、一般人である竜也を犠牲にしての脱出を許さなかった事と、
サヴァイブガンドラグーン一体よりも、ジャッジサイヴァーネメシスも戦力に加えた方がいいと、判断したからだ。
「大丈夫だよエマさん、あいつらを片付けたら、すぐにガンドラグーンで追い付くよ」
エマを安心させようと微笑みかける竜也だったが、エマには、竜也達が無事に帰ってくるという保証があまりにも無い事は解っていた。
出来るなら、引き留めたかった。
出来るなら、共に戦いたかった。
けれども、エマには竜也達を引き留めるだけの力も、共に戦うだけの戦力もない。
出来る事は、ただ信じて待つ事だけだ。
ブルンッ!
クルーザー船のエンジンに火が入り、エマを乗せて港から離れてゆく。
港には、竜也と蓮が残された。
「………いいのか?」
「何がです?刑事さん」
「好きなんだろ、彼女の事」
流石は刑事、勘がいい。
照れ笑いを浮かべながら、竜也は答えた。
「彼女の隣にいるには、俺は人を殺し過ぎました、今さら元の日常に戻れるとは思ってません」
「そう、か………」
蓮はそれ以上、何も聞かなかった。
聞かなくとも、竜也の決意も覚悟も、全て理解できたからだ。
聞く必要がなかったのだ。
二人の眼前には、こちらに向かってくるグラスエンダーの大群。
二人共、覚悟は既に出来ている。
「刑事さん」
「何だ」
「………生き残りましょう!」
「ああ!」
そして現れる、二体のタイタンギア。
深紅の鎧武者、サヴァイブガンドラグーン。
漆黒の死神、ジャッジサイヴァーネメシス。
対するは、タイタンギアを上回る存在たるデウスギア・グラスエンダー。
二体のタイタンギアには、弾薬もエネルギーも、ほとんど残っていないと言っていい。
けれども、二体のタイタンギアと、それを操る二人の男に、退却も逃走もない。
ズオッ!!
轟音を立てて、50m級の巨体が空に飛び上がった。
そして………。
………………
GAME SET.
生存者………エマニュエル白鳥
人数………1名
願い………父親の殺害
………………




