第31話「目覚めよサヴァイブ」
あれから、どれだけ経っただろうか。
時間にしては、それほど過ぎていない。
けれどもガンドラグーンのコックピットに座る竜也とエマは、もう何時間も走り続けたように、疲弊し、消耗していた。
「はあ………はあ………く、くそっ!」
眼前のモニターに映るのは、こちらを取り囲むように空中に浮くグラスエンダーの部隊。
その数は、10機を越えている。
あれから、ガンドラグーンとグラスエンダー部隊の戦いは続いていた。
グラスエンダーが無敵ではない事は解ったが、それでも、あちらに優位性があるのは変わらなかった。
圧倒的な数も。
常に100%の力を発揮するAIも。
標準装備されたビーム兵器に飛行能力も。
その全てが、竜也とガンドラグーンを圧倒し、追い詰めた。
ガンドラグーンは、決して弱い機体ではない。
むしろタイタンギア全体で見ても、かなりの高性能機に分類される。
だが、疲れず、倒しても倒しても次が沸いてくるグラスエンダーを相手にすれば、話は別だ。
全身の間接が悲鳴をあげ、装甲の多くが破損していた。
バルキリーリングに内臓していた武器は全て使い果たし、ブレストナパームは全弾撃ち尽くした。
エネルギーだって、残り少ない。
それまで竜也とエマを守ってきたガンドラグーンも、限界だった。
「この………こなくそぉっ!」
竜也がガンドラグーンを、敵陣にめがけて突っ込ませる。
だが、決して自暴自棄になった訳ではない。
どうにかエマだけでも逃がそうと、相手の包囲網を突破しようと考えたのだ。
だが、その考えはグラスエンダーのAIに分析されていた。
「がっ………!」
ガンドラグーンが動いた直後、グラスエンダーのビームガンが、ガンドラグーンの背中を撃った。
爆発と共に、ガンドラグーンはバランスを崩し、倒れた。
「く………くそっ!」
倒れたガンドラグーンに、グラスエンダー達が迫ってくる。
助かる手段は、既に無かった。
「竜也くん………」
そっと、エマが竜也の手に自分の手を重ねる。
その表情は、不安さと、死を悟ったような諦めが浮かんでいた。
「………頼むよ、ガンドラグーン」
操縦桿を倒すも、もうガンドラグーンには立ち上がるだけの力はない。
生まれたての小鹿のように、震えるだけだ。
「………頼むよ、立ってくれよ」
竜也は、自分が特別だとは思っていない。
簡単に奇跡を起こせるほど選ばれた存在だとは、思っていない。
「時間と隙を稼ぐだけでいいんだよ………俺は、どうなってもいいからさ………!」
けれども、今だけは竜也も、神に祈った。
せめて、隣にいるエマだけでも助ける為に。
それこそ、自分を犠牲にしてでも。
けれどもガンドラグーンは、立ち上がる事すらできない。
そんな竜也達の恐怖を煽るかのように、グラスエンダー部隊は少しずつ、ガンドラグーンに接近してくる。
「動けよ………動いてくれよ!せめてエマさんは死なせたくないんだよ!頼むよ!今回だけでいいからさ………!」
いくら叫ぶとも、ガンドラグーンは答えない。
けれども、竜也は叫び、操縦桿を乱雑に動かす。
隣でエマが見てみようとも、関係はなかった。
こうしている間にも、グラスエンダー部隊が迫ってくる。
構えたビームガンの銃口に、エネルギーが充填される音が聞こえる。
焦りと混乱で思考に余裕が無かった事もあるが、竜也にはもう、起きる保証も可能性もない奇跡にすがるしか無かった。
「動けよ………動けよ!ガンドラグーンッ!!」
グラスエンダーが、一斉にビームガンを放った。
四方八方から飛んできたそれは、倒れたガンドラグーンのボディを貫く………
………事はなかった。
直後、ガンドラグーンのバイザーが青く輝いたかと思うと、突如ガンドラグーンの周りに、光のような物が広がり、飛来したビームを弾いた。
それ所か、バトル漫画のオーラのように放たれるそれは、ガンドラグーンを押し上げるように、立ち上がらせた。
「な、なんだ?!」
奇跡は起きた。
だが、突然の出来事に竜也は混乱する。
そんな竜也の見つめる前で、正面のモニターに何かが表示された。
それは。
「………エヴォシステム?」
EVO-system。
画面に名前が表示されたそのシステムは、かつてのイベントで戦った、デモンギアにテスト的に搭載されていた物と、同じもの。
搭載された機体に自己進化を与える、ゲームの運営が開発した、新システム。
その発動には、搭載機とパイロットを極限まで追い詰める環境と、応用する戦闘データが必要になる。
そして今、竜也とガンドラグーンは、それを満たした。
「うわっ!?」
オーラ………エヴォシステム発動により放出される余剰エネルギーに包まれながら、ガンドラグーンの姿が変わる。
まるで、爬虫類の脱皮か昆虫の羽化のように、ボディを突き破って。
手も足も、太く逞しく。
ナックルガードが、蛇腹状の腕甲を思わせる形状に。
サイドスカートが、角ばった形から曲線的な形に。
胸が、五角形のパネルを組み合わせたような形状に。
頭には、額から生えた三本目の角。
そして背中にはバックパックと、そこから生えた一対の翼が
余剰エネルギーの放出が止まり、それまでのガンドラグーンの「脱け殻」がグラスエンダー部隊を弾き飛ばすように飛び散り、ガンドラグーンの「変身」が完了した。
「か………変わった………」
常識では考えられない現象に驚きつつも、竜也はその「変化」に目を見張った。
エネルギーが全回復してるだけでなく、倍以上に増大している。
確認できる武装も、以前より豊富だ。
これなら、エマを逃がすだけではない。
眼前のグラスエンダー部隊を、倒す事も。
「行くぞガンドラグーン………いや」
言いかけて、竜也は留まった。
そうだ、こいつは最早ガンドラグーンではない。
名付けるなら。
「………サヴァイブガンドラグーン!」
サヴァイブ………つまり「生き残る」為の機体。
「サヴァイブガンドラグーン」のバイザーが、竜也に答えるように、輝いた。
そんなサヴァイブガンドラグーンに対し、グラスエンダーが再びビームガンを放つ。
だが着弾前に、サヴァイブガンドラグーンが飛び上がった事により、その全てが地面に当たる。
飛び上がったサヴァイブガンドラグーンを追ったグラスエンダーのカメラは、衝撃の光景を捕らえた。
サヴァイブガンドラグーンは着地する事なく、グラスエンダーのビームガンの雨を捌きながら、背中の翼を広げて空を自由自在に飛んでいた。
サヴァイブガンドラグーンは、飛行能力を得ていた。
エヴォシステムが、グラスエンダーとの交戦データから、飛行能力が必要だと判断したからだ。
「すごい………すごいぞ、これは!」
コックピットにて、竜也は半ば興奮状態にあった。
空を飛べるというのもあるが、この機体が何をどうしたらどう動くのかが、手に取るように解るのだ。
これも、エヴォシステムのちょっとした応用。
基本の操縦が解っている所に、バルキリーリングを仲介して操縦方法を脳に送っているのだ。
言うなれば、コンピューター学習の一種だ。
それにより、竜也は初めての空中戦を、なんなくこなしているのだ。
「食らええっ!」
そして、どんな武装が搭載されているのかも、その使い方も解る。
サヴァイブガンドラグーンの両肩のハッチが展開。
そこから、無数のミサイルが発射された。
ガンドラグーンには無かった武装であるが、竜也にはこれの使い方が解った。
放たれたミサイルは、自動的に目標=グラスエンダーをロックオン。
次々に飛来した。
が、AI制御のグラスエンダーにとって、追尾ミサイルへの対処は朝飯前。
あるものは撃墜され、あるものは回避された。
当たったものがあっても、直撃ではなかった。
だが、竜也の狙いは、それとは別にあった。
あるグラスエンダーが、飛来したミサイルをビームガンで撃ち落とした。
その時。
「でりゃあああっ!」
ミサイルの爆発による爆煙の向こうから、サヴァイブガンドラグーンが姿を現した。
そしてグラスエンダーのすぐ近くに接近し、一撃。
そうだ、必要だったのは僅かな隙。
AIがミサイルに対処している間にできる、ほんの一瞬。
「これでも食らえぇっ!」
サヴァイブガンドラグーンが、肩のビームセイバーを引き抜いた。
原型機であるガンドラグーンの武装の中では、最大の威力を誇っていたそれだが、パワーアップした事により増大。
グラスエンダーに振りかざされたそれは、セイバー=剣というよりは、最早バスターソード=大剣と呼んでもいいだろう。
ずばあっ!
当然ながら、威力も以前を遥かに上回る。
グラスエンダーのボディを、まるでバターのように軽々と両断し、破壊する。
「まだまだぁっ!」
サヴァイブガンドラグーンはもう片方のビームセイバーも引き抜き、二刀流の状態でグラスエンダーの群れに飛び込んでゆく。
それに対して放たれる、グラスエンダーのビームガン。
目標は一体なのに、掠りすらしない。
と、いうのも、サヴァイブガンドラグーンの腕のナックルガード部は、不可視のエネルギー・フィールドを展開する機能が加えられており、これによりビーム等の光学兵器をガードする事が出来るのだ。
並んで、グラスエンダーのAIに蓄積されたデータの中で、島のタイタンギアの多くに飛行能力が無かった事もあり、対空中戦のデータが不足していた。
故に、同じ空中での戦いに持ち込んだ事で、こちらが有利に進んだ。
「食らええっ!」
今までのお礼だと言わんばかりに、サヴァイブガンドラグーンは二振りのビームセイバーを振って、次々とグラスエンダーを撃墜してゆく。
その中の一体はビームセイバーをビームソードで受け止めようとしたが、なんとビームソードごと叩き斬られた。
なんという威力だろうか。
「まだだ!こんなモンじゃないぞっ!」
サヴァイブガンドラグーンには、まだまだ武装がある。
空中に留まったまま、サヴァイブガンドラグーンの胸の五角形のパネルが展開。
そこから現れたのは、十字の形状をした赤いクリスタル状のパーツ。
そして十字のクリスタルが、エネルギーの充填と共に、まるで熱した鉄のように赤く染まってゆく。
これぞ、サヴァイブガンドラグーンの新しい切り札。
内蔵した武装の中で、最大の威力と攻撃範囲を持つ、文字通りの必殺武器。
その名は。
「ドラグ………ブラスタァァーーッッ!!」
胸から放たれる、溶岩の噴火がごとき破壊の火線。
破壊の熱線「ドラグブラスター」が、空を覆うグラスエンダーの大群向けて放たれた。
それは、空を覆っていたグラスエンダーの群れを飲み込んだ。
そしてサヴァイブガンドラグーンが向きを変えると共に、次々とグラスエンダーの群れをその灼熱の破壊の奔流に飲み込み、蒸発させる。
あれほど苦戦していたグラスエンダーを、サヴァイブガンドラグーンは単機で、何機も破壊していった。
そして、ドラグブラスターの放射が終わり、サヴァイブガンドラグーンが地面に降り立つ。
その周囲には、破壊され融解した、グラスエンダーの残骸が、いくつも転がっていた。
そして驚くべき事に、これだけやってもエネルギーの殆んどが消費されていなかった。
どうやらエヴォシステムは、燃費もよくしてくれているようだ。
「はあ………はあ………どうだっ!」
眼前に広がる残骸の山に、竜也はまいったかと言うように啖呵を切る。
たしかに凄まじい戦果だが、それで全てのグラスエンダーを倒した訳ではなかった。
「まだ来るのか………!」
センサーには、またも此方に向かってくるグラスエンダーの機影の数々。
一体この島には何体のグラスエンダーが居るのか。
そう思いつつも、迎撃の為に竜也は操縦桿を握り、空から迫るグラスエンダーを睨み付けた。
だが。
「………えっ?」
覚悟していた戦いは、始まらなかった。
グラスエンダーの群れは地面に降り立ち、そのまま眠るように、その水晶のような頭から光を消し、動かなくなった。
「機能停止した………のか?」
一体全体何が起こったのか?
竜也が戸惑っていると、突然バルキリーリングから着信音のような音が鳴った。
見てみると、そこにはユミの姿。
『はいは~い!現在、島の参加者の皆さんの数が、非戦闘員を除いて4人になりました!これよりゲームを、次の段階に進ませまーす!』
聞いて、竜也とエマはゾッとした。
そして慌てて、バルキリーリングで今の参加者の人数を確認する。
表示されたのは、5人。
つまり、エマ以外の参加者の内、非戦闘員は全員死んだ事になる。
1時間もしない間に、それだけの数が散った事にもなる。




